異世界召喚戦記

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第11章 聖ギイス領と魔物の島

第7話 魔物の島 2 (司祭:サフルティア・ルスタリ)

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異世界召喚 219日目

城塞都市ロムニア(旧グリナ)・占領103日目
ロムニア国建国宣言より102日目
スタンツァ・ガリア占領95日目
鉄門砦陥落58日目
協定会議・敵討ちより36日目

スタンツア・ガリアを出発し、19日目

魔物の島2日目




「大きい…これは鳥か?」

「まぁ、飛べないが一応鳥だな。ドルモルモアという、体高3m、重さは500Kg以上だと言われている。
下級魔物だが性格はおとなしい。隷属の首輪をつければ、このように馬の代わりとなる。
まぁ、魔物の島では、馬は使えない。下級魔物のエリアでは、馬の速さであれば、魔物から逃げる事は出来るが、野営などすれば、上等な肉を連れているようなものだからな」

ドルモルモアの体をポンポンと叩きながら、ドレアは博影に説明した。
別行動をしていたスキピオ将軍が、城塞都市ハイブルトへ向かう手筈を整えていてくれていた。そしてスキピオの待つ、港町リゼの裏門へ向かった博影達を待っていたのは、見たこともないような大きな魔物の鳥だった。

「そして、今から城塞都市ハイブルトへ向かう荷馬車隊に、我々もご一緒すると言う事です。他にもハイブルトへ向かう冒険者達もいますからな。
我々だけで行くより安全ですぞ」

そう言うとスキピオ将軍は、屋根のない乗合馬車にさっさと乗り込んだ。博影達も続く。乗合馬車には、護衛を兼ねた冒険者の3つのグループと、数人の女たちが乗っていた。
30分後、荷馬車5台。乗合馬車2台の7台からからなる隊は、城塞都市ハイブルトへ向け出発した。

城塞都市ハイブルトと港町リゼは、馬車3台が余裕で離合できるほどの幅のある石畳の街道がある。これも前世界の遺物で、魔物の島の都市や村々は、この遺物の街道で繋がっているとの事だった。


「兄ちゃんも冒険者かい? 得物はなんだい?」

スキピオと話していた同じ乗合馬車にのる冒険者から、博影は話しかけられた。

「射手ですよ。これを使います」

博影は、黒い術袋からアーチェリーを取り出して見せた。

「ほう? こりゃ、見たこともない大きい弓だな。それに、兄ちゃん、それは術袋かい?」

「えぇ、そうですよ」

「こりゃまた、術袋を持っているなんて、強い聖力を持ち、そして随分と金も持っているようだなぁ。そんな高価なものを持っているなんて。ウーヌスナイト(上級騎士)らは皆持つが、中級騎士で持つ者は少ないだろう。
いいなぁ、荷物が少なくなるのがいいな。旅は、いかに荷物を減らせるかだしなぁ」

傍らに大剣を立てかけているその冒険者は、心底博影の術袋をうらやましがっているようだ。

「だが、術袋を使えるほど聖力がありながら、獲物が剣や槍じゃない…兄ちゃん、騎士崩れじゃなくて、聖術師崩れか?」

「まぁ、そんなところです。どこか、体の悪いところでもありますか?」

「えっ? 治療してくれるのかい? 安くしてくれるか?」

「もう、兄さんやめてくれ」

隣に座る弟と思われる冒険者が、兄と呼ぶ者の服を引っ張る。

「いや、そうはいっても、もし治してもらえるならなぁ」

「聖術師崩れ…つまり治癒師でしょ。治療代高いよ。俺たちは、金を稼ぎに来たのであって、金を使いに来たのではないから」

「治療代はいいですよ。乗合馬車のご縁として無料でしますよ」

「えぇ? ほんとかい。じゃぁ遠慮なく…すまねえが、右の脇腹の傷跡が疼くんだ、治るか?」

博影は、右手首に巻いてあった聖石の飾りを、男の右わき腹にかざすと…ヒール…とつぶやいた。

「うっ? おぉ~、いい、いい感じだ」

男は、立つと体を左右に大きく捻り状態を確かめた。

「いや、こりゃぁすげえな。治癒師は、かなり力の差があるとは聞いていたが、本当に治るなんて。
教会で司祭様にお布施を払ってお願いした時は、少し痛みが和らいだだけだったもんなぁ~」

男は、右の脇腹の裾をめくり確認すると…

「おぉー、うそだろ傷跡がねぇ。兄ちゃんの治癒術は、あんな大きな傷跡まで治せるのか!」

その様子を見ていた冒険者たちは、次々と博影に治療を頼む。

「おい、兄ちゃん。俺も頼めるか?」

「私も…」

乗合馬車の他の冒険者も、他の乗客たちも博影に治療を頼んだ。


………


陽が山間に沈む前…街道横で野営する事となった。荷馬車隊の者達は、荷馬車、乗合馬車を引いていたドルモルモアに、2時間後、帰ってくるように命じ放った。
ドルモルモアは、草原へ駆けていき、それぞれ草や木の実を食べだす。こういうところも、魔物の島では重宝されている。
自ら餌を探して食べるので、餌を運ぶ必要がないのだ。
又、体格も大きく、逃げ足も速く、いざとなればくちばしの一撃も強力…下級魔物にやられる心配はない。

荷馬車隊の者達、冒険者や乗客たちも荷馬車を中心に野営の準備をする。それぞれ、グループごとに火を起こしお湯を沸かし、スープや紅茶などをつくり、肉を焼く。
食事が終わると、野営地を囲むように荷馬車隊の者達が何か撒いている。
博影が見ていると…

「あれは、魔物除けですな。とはいっても、あの匂いで、野営地の中に入ることを躊躇する程度の事ですがな。
まぁ、これだけ火を焚いていれば、野営地の中には入ってきますまい」

そういうと、スキピオは寝酒を少々入れると横になった。

「博影様、私たちも寝ましょう。疲れもありますが、我々冒険者グループは、見張り番も回ってきますから、少しでも休んでおかないと」

そう言うと、ルーナは少しだけ藁を敷き詰めたシーツの上をポンポンと叩く。

「あぁ、わかってるよ」

博影が横になると、右隣をルーナが…左隣をチェルとスコイが横になり、博影を挟むように寝る。


………


翌朝…

…ふぁぁ…

乗合馬車に揺られながら、博影はあくびをする。他の冒険者たちを無料で治療したことで、見張り番は、明け方のわずかな時間だけすればよかったのだが、やはり夜中にゴブリン数匹に野営地の周りをうろつかれたりすれば、なかなか熟睡など出来なかった。
それに、冒険者達から博影の治療の話を聞いた荷馬車隊の者達も、早朝から博影に治療を頼んできた。その事も寝不足の原因だった。


「キタ…」

そういうと、チェルは馬車から飛び降り、スコイを伴い前方へ駆けだした。荷馬車隊も乗合馬車も馬の駆け足より速いスピードで進んでいるが、チェルはあっという間に右前方の丘の上へ駆け上がっていく。


…ガァァ、ゴグァァァ…

僅かに魔物の叫び声がするが…その後は、何も聞こえない。しばらく進むと街道沿にチェルとスコイが待っていた。

「いやぁ、なんかわりいなぁ~。チェルばっかりに働かせて」

そう言うと冒険者の男は、チェルへリンゴを渡した。チェルは、僅かに頭を下げ受け取るとかじりだす。
昨日も今日も、ゴブリンやホブゴブリンなどが出現しているのだが、チェルが早めに気づき、片づけている。
その為、護衛もかねて乗っている冒険者たちは、楽が出来ている。

そして、夕日が落ちる前に、問題なく城塞都市ハイブルトへ着いた。荷馬車隊の者達や冒険者たち、乗客たちと名残惜しみながら別れ、博影達は、ハイブルトの聖ギイス教会へ向かう。


「そうですか、夫が…」

司祭ショタ・ルスタリの手紙を、ショタの妻である司祭サフルティア・ルスタリは読み終え顔を上げた。

「生死不明の我が息子…カリ・ルスタリの捜索を手伝っていただけるとの事、感謝いたします」

ベッドに腰かけている司祭サフルティアは、博影達へ深々と頭を下げた。
博影は、チェル、ルーナ、ドレア、スキピオと簡単に紹介した。

司祭サフルティアの話を聞く。

街道で繋がっている都市や村々は、直接訪れしらみつぶしに様々な人々に聞いて回ったらしい。すると、どうやらカリも5人のグループで動いており、殆どハイブルトを拠点にしていた。
ギルドへ持ち込まれた狩った魔物などの種類を見ると、どうやら中級エリアに頻繁に入っていたらしいが、日帰りが多かった。
そして、1年前のある日を境に、ぷっつりと情報がなくなった。その日、宿を引き払っている事から考えると、上級エリアを目指していったのではないかと…

一通り、司祭サフルティアから話を聞き、博影とスキピオがいくつか質問する。そして、博影は、サフルティア自身について尋ねた。

「左腕と左足を痛めていますか?」

「はい。中級エリアに何度か入り魔物と戦った際、左腕を掴まれ振り回されて、木に叩きつけられました。
魔物はなんとか皆で撃退したのですが、その際に左腕が動かなくなり、左膝を骨折し、その後感染して左足を地面につけて歩くことが出来なくなりました。
その為、ここ2ヶ月程は、外に出る事もままならない状態になっています」

司祭サフルティアは、深くため息をつくと…

「私、昔は中級騎士で又、冒険者をしていた時もありました。夫と出会ってから聖ギイス教に入信し司祭となったのですが…それなのに、下級エリア、中級エリアでカリを捜索する際、多くの魔物と戦い殺しました。
司祭でありながら、そのような事をした罰なのかもしれません」

「司祭サフルティア。その治療、私にもさせていただけませんか?」

「それはありがたいですけど、難しいと思います。何度も、このハイブルトの司祭に治療してもらったのですが、変わりありませんでしたから…」


「まぁ、させてください」

そう言うと博影は、サフルティアに目隠しをする旨を伝えた。サフルティアは、やや怪訝な表情を浮かべたが、夫ショタが依頼した者達である。博影に任せた。

博影は、魔法陣を出現させた。サフルティアの頭から足先まで魔法陣でスキャンする。


…左腕は、魔物に振り回されたときに腕の神経が引き抜き損傷を起こしているな…それも、全型か…
膝は、解放骨折をして感染し腫れている。サフルティアの聖力で抑え込んではいるが、かなりひどいな…


博影はまず、腕の神経損傷の治療を行う。
背骨の中を通る脊髄といわれる神経から、木の枝のごとく手足へ神経が伸びている。サフルティアは、魔物に左腕を掴まれ振り回された際に、その左腕に枝のように伸びている末梢神経の根元がまるで引き抜かれたようにして切れたことで、腕が動かなくなっていた。

…脊髄の損傷は厄介だが、枝の様な末梢神経なら…

根元近くの切れた神経の両端の先端を活性化させ、まるでそこから芽が伸びて繋がるようなイメージを与える…10分ほどかけ、5本の中心的な神経を繋げた。

次に、感染し腫れている左膝に集中する。膝の関節内全体を洗浄するようなイメージで、菌を消滅させていく。
そして、組織を活性化させ損傷した部分を修復する。

最後に、全身の細胞を活性化させて治療を終えた。始めてから30分ほど経っていた。
博影は、サフルティアの目隠しを外す。


「左指を動かしてみてください」

…そんな簡単に動くなら、苦労はしないのよ…と、サフルティアは苦笑いしながら左指を…

「動いた…うそ、力が入りにくいけど動く」

「次に立ってみてください」

サフルティアは、博影に左脇を支えられながらゆっくりと立つ。そして、左足一歩前に動かして歩いてみた。

「痛くない…力は入りにくいけど…うそ、どうして…」

「良さそうですね。2ヶ月ベッド上の生活だったのですから、左腕、左足の筋力が弱っています。無理しないように、慣らしていきましょう」

ゆっくりと、サフルティアを椅子へ腰かけさせた。

「博影殿…なんと言えばいいのでしょうか…その、本当にありがとうございます。これで又、カリを探しに行けます」

「いや、まずは体を慣らさないと。すぐに魔物のエリアに入ることは出来ませんよ。私達が入り調べてみますから、サフルティアは、まずは自分の体をはやく元に戻せるように努力してください」

司祭サフルティアは、渋々と少しだけ頷いた。

「しかし、先ほどの話では、人を使い調べ…そして、各都市にある聖ギイス教にも情報を提供してもらっている。
これは、少々我々が動いたとしても、新しい情報が得られることはないでしょうな。
我らは司祭が、情報収集していない場所へ行ってみましょう!」

「スキピオ。サフルティアが、情報収集していない場所とは?」

「サフルティア殿が情報収集していない場所…娼婦街に行ってみますかな」

「息子カリ・ルスタリは、娼婦遊びなどは致しません」

スキピオの提案を、サフルティアは、憮然とした表情できっぱりと否定した。

「サフルティア殿。別に娼婦遊びをしていたと言っているわけではないのですぞ。娼婦には、中級エリアに近い、下級魔物のエリアの村出身の亜人の女たちもおるのです。
そこから、魔物の島について情報収集を行ったかもしれぬ…という事ですぞ。
調べてみる価値があると思いませんかな?」

「それは…その、つまり女を買っても…話だけを聞いたと言う事ですか?」

「そうです! 皆が皆、事をいたすわけではありませんぞ。目的によって異なるのです!」

ルーナは、その自信満々なスキピオの顔を見ると…なにか胡散臭く感じた。

…あなた自身が、事をいたしたいだけではないのか?…このエロオヤジ!…

「よし、そうと決まれば、博影殿、ドレア殿参りましょう」

「えっ?」

「はっ?」

「俺たちも行くのか?」

思わず博影とドレアの言葉が合わさった。

「もちろんです。娼婦街の館がどれだけあるとお思いですか? それこそ、様々な趣味趣向によっても分かれているのですぞ!」

「えっ? 様々な趣味嗜好って…」

博影が思わず苦笑いしていると…その顔を正面からジッとルーナが見つめた。

「博影様は、行く必要はないでしょう! スキピオとドレアに任せてください」

「博影殿、我々二人だけでは身が持ちませんぞ」

「いや、そうは言っても…」

「ダメです。博影様は、行かせません。どうしても、娼館で情報収集のお手伝いをされたいのなら、事をする必要はないでしょう。私もついて行きます」

「いや、そうですな。ルーナ嬢の言われることは、もっともです。では、各々方、いざ戦場へ…いや違った、娼婦街に参りましょう」

スキピオは、楽しんでいた。ドレアは…関わらないようにしていた。



カラーン…ドアの鐘がなる

「いらっしゃーい。まぁ、これは昼間から、若いお客さん。いいねぇ、サービスしとくよ。んんっ? 後ろのお嬢ちゃんは?
なにかい、もしかしてお嬢ちゃんを入れて3人で事をいたそうと考えているのかい? う~ん、いいけど、追加料金を貰わないとね~」

娼館の女主人は、矢継ぎ早に口を開いた。

「いや、マダム。女を買いに来たのではないのです」

「娼館に女を買いに来なくて、何を買おうって言うんだい」

途端に、女主人の目つきは変わっていく。


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