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私は放課後になるまでは誰も来やしない、部活のために使われる建物の中に入って端っこの階段の一団目に座り電子タバコを吸いながらゴーグルをつけて何か面白い話がないのかチルドレンたちが書き込みをしたり映像を残したりする掲示板を見ていた。
昼休みの時間、くだらなすぎて聞く価値もない授業にうんざりしたところで丁度いい。
しかし今の人類の危機感の無さはどうにかしたほうがいいと思う。どうでもいい授業なんぞより環境破壊を止める素材や新たな経済システムを考案したほうがいい。子供の頭でも同じ頭だから、それらを柔軟に考えるように教育システムをシフトしないものなのか。滅んでも知らんぞ私たちが守ったって勝手に自滅するんじゃない?
なんて思いながらもどうせマザーが放っておいたほうがいいと思ったなら極端なことにはならないだろうと高を括っているのである。時代が徐々に中央集権的国家システムからIT産業とインターネットにより解体されては離れつつある現実に子供たちが不安を感じようが私とは関係のない話だし。と言うか私が知ってどうしろと。
ゴーグルにはヒマラヤ当たりだろう雪山で奇怪な姿をしている三体の巨大な鳥たち。
翼が六つあって目が翼にもある意味不明な生物と戦闘を繰り広げられるチルドレンが映った。やってるやってる。誰かが今実況をしているのだ。戦っている現場を一般人に見られないように光学迷彩のフィルターが付いた幕を広範囲で展開している。
近くには見えないドローンも飛んでて音波を相殺させているんだろう。
スラスターを背中に生やした連中と翼で飛んでいる連中で別れて翼の連中が張り付いて奇怪な鳥の攻撃を流したり防いでいる間にスラスターを生やした連中が隙を見つけては突っ込む。中々うまく連携が出来ているではないの。
と思っているうちにチルドレンの一人が鳥の翼を振動剣で切り落とした。私は口笛を吹く。やるじゃん。
あの鳥たちは音速を超えたスピードで動いているのだ。多分皆私より年上のベテランなんだろう。
あ、今同時に二匹の鳥が首と胴体が別れた。綺麗に切断されたのである。そして残ったもう一匹は…遠くからの狙撃か。向かい側の山から?マジかやっぱりそんなことに特化している奴もいるんだなと感心。
ちなみにあの鳥たちはただの鳥ではない。天使である。そう、天使。旧約聖書とかに出る天使。翼がたくさんついてて、その翼には目玉がある。神話の存在じゃなく、あれはどっかの特定の異次元から上から目線で説法を垂れ流しながら自分が気に食わない連中には災害を振り落として皆殺しにする、気の狂った狂信者の集まりである。なので見つかった次第に狩ることにしているのだ。今までそうしなかった人類は連中がばらまいた災害で随分を苦労をしたんだろう。今じゃ残っている数も少ないと聞くが、またどっからかあらわれるかも知れないので要注意。
私は英語で狙撃手がすごかったと書き込んだ。そうしたら狙撃手の人がゴーグルを脱いでカメラにウィンクを飛ばした。ちょっとタイプかも知れない。後でどこの所属なのか調べてみようっと。
ちなみに私たちの通信は粒子を分解した時に量子同士のリンクが発生することを利用した量子のリンクを使っての今の人類では解読できない手段での通信をやっているのでジャックされる心配もなければ電磁波などの影響も受けないし障害物はものともしない。
この技術を普通に発表したら今の電子機器は古代の化石となって、市場が大混乱すること間違いなし。ちなみに私たちのスーツで使われるバッテリーなどは粒子から直接エネルギーを抽出するこれまたとんでもない技術を使っているようで。なんだっけ。粒子は放っておいても崩壊するが、それが途轍もない長い年月を要する。ランダムで崩壊もするらしいが。それですべての物質は微量ながら放射線を放出するのだ。勝手にランダムで分解する粒子が一つぐらいはあるはずなので。
その乱数、ランダムで分解する粒子の乱数を整列させる謎技術をバッテリーとして使っているのである。なのでほぼ無制限に使える。エネルギー切れは心配しなくてもいいってわけだ。
しばらく昼休みが終わる時間だけを気にしながらチルドレンのコミュニティで書き込みをしたりと遊んでいたが、誰かの気配が近づくのを感じてゴーグルを脱いで電子タバコをポケットに入れてこの場を離れようとしたんだけど。
そういやこの前、位相を変えて光学迷彩のスーツを着用しなくても見えなくなるようになったんだった。私は胸の中で感じられる黒い影に意識を向ける。そうするとすっと体が溶けるように消えた。私からは見えるが、周りからはわからなくなっているだろう。別にそのまま離れても良かったんだけど、赤外線が見える私の目にそいつの体が冷え切っているのが一目でわかったので、何の事情か気になったのだ。冷え切った体が示しているのは酷く不安がっているか酷く悲しんでいるかのどちらかだから。それで助けてやるつもりはないが。
チルドレンでもない奴を助ける理由も義理もない。そう思ってたらそいつの顔を見てそう言えばクラスにいたなと思いだす。確かクラスでテストでは、ゴミのような教育で私を図ろうとしている連中の態度が癪に障るので毎回私は満点なのだが、そんな私の次にテストで高い成績を出している女の子がいて、そいつがあんな顔をしていたはずだ。結構美人。が、遺伝子工学の産物である私たちチルドレンにはもちろん及ばない。と言っても別に顔がどうのこうのの話じゃなく、雰囲気が不安定すぎる。神経が弱いからだ。そんな弱い神経を持っている奴は真の美人にはなれない。顔が美しかろうがそれは今の時代的な観点から考えてみたら欧州を基準にしたアジア人ですらない意味不明な美的感覚。そんなものが美しいなどと思っている奴らは全員白人が世界中に植民地を作っていた時代の感覚を今まで維持しているようなものだ。
だから、あいつが美人なのはそんな時代云々の話じゃない。
「本当に借金はそれで…。」
『はい、一年契約でうちで働いて、それから卒業したら3年契約でAVに出演。相手の俳優はそちら側で決めても構いません。』
「はい、前回におっしゃった条件と同じで間違いありません。正式な書類の用意そちら側でお願いできますでしょうか。」
『だから一回こっちに顔を出して、対面した状態で書類を作成するんですよ。』
「そのような話は聞き及んでおりません。何なら法律事務所に相談してみてもいいんですけど。」
『……何なら保護者同伴でも構いませんが。』
「それで構いません。」
『では時間が空いた時にまたご連絡お願い致します。』
そう、こいつは大人をまともに相手に出来るのである。それだけで美人と言えるじゃん。性格的に。体は変わらず冷え切っているが。
彼女が蹲って泣き始めるのを見ながらその場を離れた。今更現れるわけにもいくまい。学校から出て近くの森に入る。私が通っている学校は地元で勉強のうまい連中が集まる進学校というやつで、共学。男女関係なくヤンキーとかはいない、真面目に勉強をしている子が殆どだ。と言っても目立つ連中は目立っているし、校則の範囲内で制服を着崩している子はそれなりにいる。テスト勉強も真面目にしてて、塾にも通っているらしいが。私はもちろんそんなものはしていない。一度見れば覚えられる。そうじゃないと切迫した状態の戦闘での連携に支障が出るから逆にそれくらいできないと困るというものである。
それで私以外の連中はそれなりにまるで役に立たない学校の勉強なんぞにナイーブにも時間を割いているわけである。ちなみに昨今の複雑化した資本主義経済社会では問題解決能力と協調性が優先しされるので、融通も利かず失敗を許せないテスト勉強や学校の教育はむしろ社会のそう言った流れに逆らっているのだが。
多分知らないのだろう、教科書何ぞで画一的な知識を詰め込むことしか考えられない。後で気合だのなんだので職場で酷使させられるのはその基本を理解出来ていないから。
なのでここに通ってる連中は生活水準が似たり寄ったりの中産階級のナイーブな子供たちなのは見ればわかるというのものだ。私はなんでこんな学校に通っているかって、逆に成績をわざと落として適当なところに入ったら自分より何十倍も馬鹿げた思考回路を持った連中からバカにされるから。
と言うのは表面的な理由で、実際はできればうるさくない学校に入りたかっただけである。実際に全員真面目に勉強する雰囲気だからあまりうるさくないのだ。その目的は達成していると見ていい。
そんな中でも現実感覚があるのは他の子供と違って甘やかされて育っているわけではないということでもある。
親から愛されて、兄弟姉妹がいるなら仲も悪くない、貧困も、お金持ちの連中が抱えている政治的な絡み合いを意識することもなく、社会の最も甘い立場で好きなことをして生きることが許されている人生。全員が全員そうじゃないだろうが、似たり寄ったりと見ていい。それなのに、彼女は違う。
それだけで私は前から少しは気にしていたのだ。
こいつ絶対何かあると。そしてこれだ。
「おい、寝てる?」私はゴーグルをつけてライオライトに連絡を付けた。
『なんだ、仕事にはまだ早い時間だろ?』すぐに繋がって回答が変えてきた。
「ちょっと調べさせたいものがあるんだけど。」
『オーケー。何を見つけた?』
「何も。ちょっと個人的なもの。」
『残念ながらそう言うことなら遠慮しとく。俺は忙しい。後にしてくれ。』
「何が欲しい?お金?食事?私の手料理とかはどうだ。」
『間に合ってる。ざあな。』
通話が切れたのでまた接続。
「おい、コノヤロー。勝手に切るな。」
『ちょっと今取り込み中なんだよ。』
「女と?それとも男?」
『どっちでもいいだろう。』
「男か。」
『そうだよ。何が悪い。』
「別に何も。」チルドレンにそんなセクシャルマイノリティに対する差別なんぞあるわけないだろうが。所詮はただの生物の分際で差別しあうとか馬鹿げている。マザーを見てみればわかる。前に会話した時、マザーは私以外の連中のオペレーターもしていたはず。それ以外にも世の中に流れている数多くの情報を精査し、理解し、受け入れ、判断していたはず。
人間なんて同時に二か所にいる相手と会話すらできないただの喋る猿でしかない。そんな存在が何を好きになろうがどうでもいい。同じチルドレンなら誰だって同意するだろう、そもそも私たち自身が人から生まれてすらいない。
『それで?自分では調べられないもんなの?』
「そう。クラスメイトの個人情報とかそいつの親の借金とか私が調べられるもんじゃないでしょうが。」
『なんじゃそりゃ。わかった。そういうものなら。全く、先に言え。この前みたいにくだらないことを調べさせるつもりかと。』
「この前?」
『俺に近くで一番おいしいレストランがどっちにあるのか調べさせたことあるだろうが。』
「そんなことあったっけ。」
『あったよ。自分で調べろそういうのは。』
「あんたも来て食べたでしょうが。」
『上司をあんた呼ばわりするか、普通。』
「オペレーターの分際で生意気だぞ。」
『こいつ…、エージェント同士で礼儀くらいは守ってくれてもいいじゃん。』
「良くない。私が面倒。」
『わかった…。勝手にしてくれ。それで、誰だ。名前を教えてくれないと何もわからん。』
「赤崎静流。」
『りょう…かい。漢字は普通にそのままでいいんだよな。』
「そう、あかざきしずる。あんたの"ゆうじ"と同じ。」
『ライオライトだろ。』
「今はプライベートじゃん。」
『ああ、うん。いや、彼女じゃない。仕事。そうそう。ちょっと待ってろ。今調べる。』通話の向こう側でなんか話ていたんだろう。
「プライベートだと言ったろうが。」
返事は帰って来ず、3分くらい待っただろうか。
『これはちょっとやばいね。父親が借金してて、ざっと5千万。利子を含めると8千万。』
「なんでそんなに借金してるの?」
『友人の事業に突っ込んだそうだ。』
「バカじゃないのか。」
『バカだね。それで、その借金を娘が体を売ってどうにか出来るようにするんだとさ。』
「仕事は?」
『ただの平社員。』
「母親は?」
『塾講師をやってる。』
「母親の方が借金のこと知らないの?」
『知らないみたいだ。』
「なんで娘は知ってた配偶者は知らないわけ?」
『そこまではわからん。それで、どうするつもりなの?』
「皆殺しはさすがにやばいよね。」
『父親も殺すってこと?』
「いや、まあ、さすがに私でもそこまではしない。」
『と言うか何急に。正義感でも芽生えたの?』
「芽生えてない。大人が子供を食い物にするってのが気に食わないだけ。子供が大人の尻拭いをするのもね。」
『でもそれって、今の日本じゃん。』
「世界中似たようなものだろう。所詮、マザーを持たない、ただのホモサピエンスの分際でほかのホモサピエンスを統治しているバカな連中だから。」
『さすがチルドレンは考え方が違うね。』
「じゃああんたはどうよ。こんな世の中受け入れられる?」
『そう深く考えちゃいない。それより皆殺しはさすがに辞めたほうがいいと思うんだけど。』
「怖い?」
『別に?怖くないし?』
「怖いでしょう?同じエージェントでもチルドレンは一般人と違うわけだからさ。」
『言葉が通じると皆友達だよ。』
「それ、こいつにも言ってみて。」私は天使が殺害される映像を転送した。そいつら普通にしゃべるのだ。いや、音声言語ではなくてテレパシーなのだが。そりゃ自分たちが崇拝する神とやらの言葉を伝えないといけないわけだから、意思疎通くらいは出来るだろう。
『マジか、これ天使だよな。』
「そう、旧約聖書とかに出てくる奴らだよ。」
『やばい。』
「そうそう。マジでやばいの。」
『やばいのは現場のことだよ。こんな集団戦のオペレーターはしたことないけど、俺はどうすればいいんだろうか。』
「自分で考えてみたら。多分AIのサポートとか入ると思うから無理することもないんじゃない?」
『ならいいが…。日本にも天使が来たりしないよな。』
「来るかもね。」
『と言うか報復とかされないのか、さすがに殺しちゃってるわけだし。』
「どうだろうね。今のところ、そう言った話は聞いてないけど。」
『あれ問答無用で殺しにきたりはしないよな。』
「話戻すけどさ、静流の成長環境に父親からの性的虐待とかなかったの?」
『あくまでデジタル化して記録された過去からの道程を探るだけではあるが、カウンセリングを受けたことはあるようだが。期間は二年ほど。後は読者モデルをやったこととブログをしていることくらいか。』
「ブログ、ブログね。アドレスお願い。」
アドレスを通って入ったブログを一通り読んでみる。SNSもやっているようだが、中学の時からか。10歳頃からやっていたようで。SNSで色んな人と様々な話題で語ったことが見て取れる。
ブログを始めたきっかけは父親の不安定な行動を相談したいがため。強迫観念にかられて、家中を家族に一言もかけずに無言で何時間も掃除したり、娘と目を合わせないようにしていたりと、真面な大人ならやらないことをずっとやっていたんだと。
つまり彼女は親が信用ならないことをブログを始めたころから知っていたわけで、ネットを通して自らを成熟させたと言える。
『ネットを通して自らを成長させるって、俺が子供のころは想像も出来なかったことだがな。』
「あんた今いくつだっけ。」
『32だが。』
「若いじゃん。」
『君に言われたくないが。』
「まあ、大体のことはわかった。後で連絡する。」
『おい、せめて俺がフォローできる範囲でも教え…」
私はゴーグルのボタンを押して通話を切る。
さて、どうしたものか。普通にお金を貸しているヤクザまがいの連中のところに行ってつぶせばいいだけだが、父親があのままだと根本的な問題は解決しないだろうし。
こういうのあまり好きじゃないんだよ、人を助けるなんて、私がやるようなもんじゃない。私は彼女、赤崎静流が出るのを入口付近で待ちながらそう言えば昼食を食べてなかったことを今更思い出した。食事をしなくても生きていけるように出来ている体ではあるのだが。
食べたくなる時もある。昼休みは30分ほど残っているので彼女に話を付けてから次の授業をサボって何か食べに行くのも悪くないかもしれない。
昼休みの時間、くだらなすぎて聞く価値もない授業にうんざりしたところで丁度いい。
しかし今の人類の危機感の無さはどうにかしたほうがいいと思う。どうでもいい授業なんぞより環境破壊を止める素材や新たな経済システムを考案したほうがいい。子供の頭でも同じ頭だから、それらを柔軟に考えるように教育システムをシフトしないものなのか。滅んでも知らんぞ私たちが守ったって勝手に自滅するんじゃない?
なんて思いながらもどうせマザーが放っておいたほうがいいと思ったなら極端なことにはならないだろうと高を括っているのである。時代が徐々に中央集権的国家システムからIT産業とインターネットにより解体されては離れつつある現実に子供たちが不安を感じようが私とは関係のない話だし。と言うか私が知ってどうしろと。
ゴーグルにはヒマラヤ当たりだろう雪山で奇怪な姿をしている三体の巨大な鳥たち。
翼が六つあって目が翼にもある意味不明な生物と戦闘を繰り広げられるチルドレンが映った。やってるやってる。誰かが今実況をしているのだ。戦っている現場を一般人に見られないように光学迷彩のフィルターが付いた幕を広範囲で展開している。
近くには見えないドローンも飛んでて音波を相殺させているんだろう。
スラスターを背中に生やした連中と翼で飛んでいる連中で別れて翼の連中が張り付いて奇怪な鳥の攻撃を流したり防いでいる間にスラスターを生やした連中が隙を見つけては突っ込む。中々うまく連携が出来ているではないの。
と思っているうちにチルドレンの一人が鳥の翼を振動剣で切り落とした。私は口笛を吹く。やるじゃん。
あの鳥たちは音速を超えたスピードで動いているのだ。多分皆私より年上のベテランなんだろう。
あ、今同時に二匹の鳥が首と胴体が別れた。綺麗に切断されたのである。そして残ったもう一匹は…遠くからの狙撃か。向かい側の山から?マジかやっぱりそんなことに特化している奴もいるんだなと感心。
ちなみにあの鳥たちはただの鳥ではない。天使である。そう、天使。旧約聖書とかに出る天使。翼がたくさんついてて、その翼には目玉がある。神話の存在じゃなく、あれはどっかの特定の異次元から上から目線で説法を垂れ流しながら自分が気に食わない連中には災害を振り落として皆殺しにする、気の狂った狂信者の集まりである。なので見つかった次第に狩ることにしているのだ。今までそうしなかった人類は連中がばらまいた災害で随分を苦労をしたんだろう。今じゃ残っている数も少ないと聞くが、またどっからかあらわれるかも知れないので要注意。
私は英語で狙撃手がすごかったと書き込んだ。そうしたら狙撃手の人がゴーグルを脱いでカメラにウィンクを飛ばした。ちょっとタイプかも知れない。後でどこの所属なのか調べてみようっと。
ちなみに私たちの通信は粒子を分解した時に量子同士のリンクが発生することを利用した量子のリンクを使っての今の人類では解読できない手段での通信をやっているのでジャックされる心配もなければ電磁波などの影響も受けないし障害物はものともしない。
この技術を普通に発表したら今の電子機器は古代の化石となって、市場が大混乱すること間違いなし。ちなみに私たちのスーツで使われるバッテリーなどは粒子から直接エネルギーを抽出するこれまたとんでもない技術を使っているようで。なんだっけ。粒子は放っておいても崩壊するが、それが途轍もない長い年月を要する。ランダムで崩壊もするらしいが。それですべての物質は微量ながら放射線を放出するのだ。勝手にランダムで分解する粒子が一つぐらいはあるはずなので。
その乱数、ランダムで分解する粒子の乱数を整列させる謎技術をバッテリーとして使っているのである。なのでほぼ無制限に使える。エネルギー切れは心配しなくてもいいってわけだ。
しばらく昼休みが終わる時間だけを気にしながらチルドレンのコミュニティで書き込みをしたりと遊んでいたが、誰かの気配が近づくのを感じてゴーグルを脱いで電子タバコをポケットに入れてこの場を離れようとしたんだけど。
そういやこの前、位相を変えて光学迷彩のスーツを着用しなくても見えなくなるようになったんだった。私は胸の中で感じられる黒い影に意識を向ける。そうするとすっと体が溶けるように消えた。私からは見えるが、周りからはわからなくなっているだろう。別にそのまま離れても良かったんだけど、赤外線が見える私の目にそいつの体が冷え切っているのが一目でわかったので、何の事情か気になったのだ。冷え切った体が示しているのは酷く不安がっているか酷く悲しんでいるかのどちらかだから。それで助けてやるつもりはないが。
チルドレンでもない奴を助ける理由も義理もない。そう思ってたらそいつの顔を見てそう言えばクラスにいたなと思いだす。確かクラスでテストでは、ゴミのような教育で私を図ろうとしている連中の態度が癪に障るので毎回私は満点なのだが、そんな私の次にテストで高い成績を出している女の子がいて、そいつがあんな顔をしていたはずだ。結構美人。が、遺伝子工学の産物である私たちチルドレンにはもちろん及ばない。と言っても別に顔がどうのこうのの話じゃなく、雰囲気が不安定すぎる。神経が弱いからだ。そんな弱い神経を持っている奴は真の美人にはなれない。顔が美しかろうがそれは今の時代的な観点から考えてみたら欧州を基準にしたアジア人ですらない意味不明な美的感覚。そんなものが美しいなどと思っている奴らは全員白人が世界中に植民地を作っていた時代の感覚を今まで維持しているようなものだ。
だから、あいつが美人なのはそんな時代云々の話じゃない。
「本当に借金はそれで…。」
『はい、一年契約でうちで働いて、それから卒業したら3年契約でAVに出演。相手の俳優はそちら側で決めても構いません。』
「はい、前回におっしゃった条件と同じで間違いありません。正式な書類の用意そちら側でお願いできますでしょうか。」
『だから一回こっちに顔を出して、対面した状態で書類を作成するんですよ。』
「そのような話は聞き及んでおりません。何なら法律事務所に相談してみてもいいんですけど。」
『……何なら保護者同伴でも構いませんが。』
「それで構いません。」
『では時間が空いた時にまたご連絡お願い致します。』
そう、こいつは大人をまともに相手に出来るのである。それだけで美人と言えるじゃん。性格的に。体は変わらず冷え切っているが。
彼女が蹲って泣き始めるのを見ながらその場を離れた。今更現れるわけにもいくまい。学校から出て近くの森に入る。私が通っている学校は地元で勉強のうまい連中が集まる進学校というやつで、共学。男女関係なくヤンキーとかはいない、真面目に勉強をしている子が殆どだ。と言っても目立つ連中は目立っているし、校則の範囲内で制服を着崩している子はそれなりにいる。テスト勉強も真面目にしてて、塾にも通っているらしいが。私はもちろんそんなものはしていない。一度見れば覚えられる。そうじゃないと切迫した状態の戦闘での連携に支障が出るから逆にそれくらいできないと困るというものである。
それで私以外の連中はそれなりにまるで役に立たない学校の勉強なんぞにナイーブにも時間を割いているわけである。ちなみに昨今の複雑化した資本主義経済社会では問題解決能力と協調性が優先しされるので、融通も利かず失敗を許せないテスト勉強や学校の教育はむしろ社会のそう言った流れに逆らっているのだが。
多分知らないのだろう、教科書何ぞで画一的な知識を詰め込むことしか考えられない。後で気合だのなんだので職場で酷使させられるのはその基本を理解出来ていないから。
なのでここに通ってる連中は生活水準が似たり寄ったりの中産階級のナイーブな子供たちなのは見ればわかるというのものだ。私はなんでこんな学校に通っているかって、逆に成績をわざと落として適当なところに入ったら自分より何十倍も馬鹿げた思考回路を持った連中からバカにされるから。
と言うのは表面的な理由で、実際はできればうるさくない学校に入りたかっただけである。実際に全員真面目に勉強する雰囲気だからあまりうるさくないのだ。その目的は達成していると見ていい。
そんな中でも現実感覚があるのは他の子供と違って甘やかされて育っているわけではないということでもある。
親から愛されて、兄弟姉妹がいるなら仲も悪くない、貧困も、お金持ちの連中が抱えている政治的な絡み合いを意識することもなく、社会の最も甘い立場で好きなことをして生きることが許されている人生。全員が全員そうじゃないだろうが、似たり寄ったりと見ていい。それなのに、彼女は違う。
それだけで私は前から少しは気にしていたのだ。
こいつ絶対何かあると。そしてこれだ。
「おい、寝てる?」私はゴーグルをつけてライオライトに連絡を付けた。
『なんだ、仕事にはまだ早い時間だろ?』すぐに繋がって回答が変えてきた。
「ちょっと調べさせたいものがあるんだけど。」
『オーケー。何を見つけた?』
「何も。ちょっと個人的なもの。」
『残念ながらそう言うことなら遠慮しとく。俺は忙しい。後にしてくれ。』
「何が欲しい?お金?食事?私の手料理とかはどうだ。」
『間に合ってる。ざあな。』
通話が切れたのでまた接続。
「おい、コノヤロー。勝手に切るな。」
『ちょっと今取り込み中なんだよ。』
「女と?それとも男?」
『どっちでもいいだろう。』
「男か。」
『そうだよ。何が悪い。』
「別に何も。」チルドレンにそんなセクシャルマイノリティに対する差別なんぞあるわけないだろうが。所詮はただの生物の分際で差別しあうとか馬鹿げている。マザーを見てみればわかる。前に会話した時、マザーは私以外の連中のオペレーターもしていたはず。それ以外にも世の中に流れている数多くの情報を精査し、理解し、受け入れ、判断していたはず。
人間なんて同時に二か所にいる相手と会話すらできないただの喋る猿でしかない。そんな存在が何を好きになろうがどうでもいい。同じチルドレンなら誰だって同意するだろう、そもそも私たち自身が人から生まれてすらいない。
『それで?自分では調べられないもんなの?』
「そう。クラスメイトの個人情報とかそいつの親の借金とか私が調べられるもんじゃないでしょうが。」
『なんじゃそりゃ。わかった。そういうものなら。全く、先に言え。この前みたいにくだらないことを調べさせるつもりかと。』
「この前?」
『俺に近くで一番おいしいレストランがどっちにあるのか調べさせたことあるだろうが。』
「そんなことあったっけ。」
『あったよ。自分で調べろそういうのは。』
「あんたも来て食べたでしょうが。」
『上司をあんた呼ばわりするか、普通。』
「オペレーターの分際で生意気だぞ。」
『こいつ…、エージェント同士で礼儀くらいは守ってくれてもいいじゃん。』
「良くない。私が面倒。」
『わかった…。勝手にしてくれ。それで、誰だ。名前を教えてくれないと何もわからん。』
「赤崎静流。」
『りょう…かい。漢字は普通にそのままでいいんだよな。』
「そう、あかざきしずる。あんたの"ゆうじ"と同じ。」
『ライオライトだろ。』
「今はプライベートじゃん。」
『ああ、うん。いや、彼女じゃない。仕事。そうそう。ちょっと待ってろ。今調べる。』通話の向こう側でなんか話ていたんだろう。
「プライベートだと言ったろうが。」
返事は帰って来ず、3分くらい待っただろうか。
『これはちょっとやばいね。父親が借金してて、ざっと5千万。利子を含めると8千万。』
「なんでそんなに借金してるの?」
『友人の事業に突っ込んだそうだ。』
「バカじゃないのか。」
『バカだね。それで、その借金を娘が体を売ってどうにか出来るようにするんだとさ。』
「仕事は?」
『ただの平社員。』
「母親は?」
『塾講師をやってる。』
「母親の方が借金のこと知らないの?」
『知らないみたいだ。』
「なんで娘は知ってた配偶者は知らないわけ?」
『そこまではわからん。それで、どうするつもりなの?』
「皆殺しはさすがにやばいよね。」
『父親も殺すってこと?』
「いや、まあ、さすがに私でもそこまではしない。」
『と言うか何急に。正義感でも芽生えたの?』
「芽生えてない。大人が子供を食い物にするってのが気に食わないだけ。子供が大人の尻拭いをするのもね。」
『でもそれって、今の日本じゃん。』
「世界中似たようなものだろう。所詮、マザーを持たない、ただのホモサピエンスの分際でほかのホモサピエンスを統治しているバカな連中だから。」
『さすがチルドレンは考え方が違うね。』
「じゃああんたはどうよ。こんな世の中受け入れられる?」
『そう深く考えちゃいない。それより皆殺しはさすがに辞めたほうがいいと思うんだけど。』
「怖い?」
『別に?怖くないし?』
「怖いでしょう?同じエージェントでもチルドレンは一般人と違うわけだからさ。」
『言葉が通じると皆友達だよ。』
「それ、こいつにも言ってみて。」私は天使が殺害される映像を転送した。そいつら普通にしゃべるのだ。いや、音声言語ではなくてテレパシーなのだが。そりゃ自分たちが崇拝する神とやらの言葉を伝えないといけないわけだから、意思疎通くらいは出来るだろう。
『マジか、これ天使だよな。』
「そう、旧約聖書とかに出てくる奴らだよ。」
『やばい。』
「そうそう。マジでやばいの。」
『やばいのは現場のことだよ。こんな集団戦のオペレーターはしたことないけど、俺はどうすればいいんだろうか。』
「自分で考えてみたら。多分AIのサポートとか入ると思うから無理することもないんじゃない?」
『ならいいが…。日本にも天使が来たりしないよな。』
「来るかもね。」
『と言うか報復とかされないのか、さすがに殺しちゃってるわけだし。』
「どうだろうね。今のところ、そう言った話は聞いてないけど。」
『あれ問答無用で殺しにきたりはしないよな。』
「話戻すけどさ、静流の成長環境に父親からの性的虐待とかなかったの?」
『あくまでデジタル化して記録された過去からの道程を探るだけではあるが、カウンセリングを受けたことはあるようだが。期間は二年ほど。後は読者モデルをやったこととブログをしていることくらいか。』
「ブログ、ブログね。アドレスお願い。」
アドレスを通って入ったブログを一通り読んでみる。SNSもやっているようだが、中学の時からか。10歳頃からやっていたようで。SNSで色んな人と様々な話題で語ったことが見て取れる。
ブログを始めたきっかけは父親の不安定な行動を相談したいがため。強迫観念にかられて、家中を家族に一言もかけずに無言で何時間も掃除したり、娘と目を合わせないようにしていたりと、真面な大人ならやらないことをずっとやっていたんだと。
つまり彼女は親が信用ならないことをブログを始めたころから知っていたわけで、ネットを通して自らを成熟させたと言える。
『ネットを通して自らを成長させるって、俺が子供のころは想像も出来なかったことだがな。』
「あんた今いくつだっけ。」
『32だが。』
「若いじゃん。」
『君に言われたくないが。』
「まあ、大体のことはわかった。後で連絡する。」
『おい、せめて俺がフォローできる範囲でも教え…」
私はゴーグルのボタンを押して通話を切る。
さて、どうしたものか。普通にお金を貸しているヤクザまがいの連中のところに行ってつぶせばいいだけだが、父親があのままだと根本的な問題は解決しないだろうし。
こういうのあまり好きじゃないんだよ、人を助けるなんて、私がやるようなもんじゃない。私は彼女、赤崎静流が出るのを入口付近で待ちながらそう言えば昼食を食べてなかったことを今更思い出した。食事をしなくても生きていけるように出来ている体ではあるのだが。
食べたくなる時もある。昼休みは30分ほど残っているので彼女に話を付けてから次の授業をサボって何か食べに行くのも悪くないかもしれない。
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尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
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