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alone with you
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しおりを挟む己と似た花を育てるあいつの顔が脳裏をよぎる。白い細腕が重たそうにじょうろを持って、懸命に水をやっていた。きっとあやつは水をやりすぎて、仕舞には枯らしてしまうだろう。偽善者の愚弟から愛をもらっていては、きっと愛し方なぞ知らんだろうからな。
「……ロ様……アロ様、聞いておられますか」
「なんだ」
体中に贅肉を付けた豚のような奴隷商。何度見てもいかにもという感じだな。
「本日は、いい奴隷を仕入れたので伺ったのですが、いかがでしょう」
「ふん。そう言うからには、さぞいいモノが入ったんだろうな」
「へい。こちらなんですが」
出された奴隷共はどれも俺の目を見もせず怯え切っている。つまらんな。あの白い細腕は、あの澄んだ恐れぬ瞳は、あの黄みがかった細い髪は、あいつしかいないのだろう。
なぜ俺があいつを目で追ってしまうかなんて知ったことではない。おそらく胸に刺さった見えぬやっかいな棘のせいだ。
シャラン―――。部屋を仕切ったカーテンの裏で何かが音をたてた。
「おい、誰かいるのか」
「ああ、すみません。おい、ほら出てこい。こちら私の奴隷でして。まあ奴隷というより娼婦ですな。」
奴隷商は見苦しく下品に笑っているが、そんなもの気にならないほどの衝撃。出てきたそいつに声を奪われた。先ほどまで頭を占めていたそれによく似ている。いや、雰囲気や顔などはそんなに似ていないのだが、髪色や意思を持った瞳なんかはあいつと全く同じだ。
「おい、お前……」
「初めてお目にかかります。樹と申します」
「……樹な……。おい、奴隷商、こいつをもらおう」
「え、ああ、いや、でも、樹は売り物では……」
「なんだ、俺に逆らうのか」
先ほどよりも冷たい視線で奴隷商を見る。お前の許可など貰わなくとも、こいつは貰うがな。
「ヒッ……そ、そんな滅相もない‼申し訳ありません。こいつ置いていきますので、なにとぞ……」
賢明じゃないか。ぺこぺこと腰を曲げて俺の機嫌を下げぬよう必死だ。いい様だな。自分の立場をよくわかっている。
「じゃあ、さっさとここから出ていけ」
「は、はい」
俺に売りつけようとしていた汚らしい奴隷を引きづるように連れて、そそくさと部屋を出て行った。残された樹という陽の光に透けそうな男は、こちらを見て目を細めて微笑んだ。
「アロ様、どうかなされましたか?」
「いや……。お前、兄弟はいるのか?」
脳裏から離れないあいつと同じ髪と瞳を持つこの男が、もしあいつの兄弟ならば納得がいく。
「あ、えっと、僕等のような奴隷は自身の血を分けた存在を知りません」
「ああ、そうだったな」
忘れていた。こいつらは肉親を知らないのか。
地球人は、この星においてほとんど人権がない。あいつがあまりにもずけずけとこの城にいるから忘れていた。実際俺も地球人が嫌いだ。例外なく。
「アロ様、僕は何をすればよろしいでしょう?」
「何もせんでよいわ。精々目障りでないよう努めることだな」
「……そうですか。わかりました」
随分図々しいというか、馴れ馴れしいな、こいつは。自ら俺に口を利くとは。
やはり、あいつの影がちらつく気がする。気のせい、だろうか。
今日も庭に水をやりに行っているらしい。花壇が見える廊下に行って見てみれば、花のような笑みを浮かべながら水や肥料なんかを与えていた。水を与えられた花は太陽の光を乱反射して方々に光を放っている。
俺は眩しくて思わず顔をそむけたが、実際はなにが眩しかったのだろうか。
自分が阿保らしく思えて、自室に戻り仕事をすることにした。
愚弟ほど俺の方には仕事が回ってこないにしても、この星の皇帝の長男として務めは少なからずある。面倒くさいが、そこまで嫌でないことが不思議だ。おそらく、仕事はひと時他の事を忘れられる一つの手段だから、嫌いではないのだろう。
脳をよぎるあいつと愚弟の姿も、胸に違和感を残す棘のことも、この時は忘れられる。
この棘は思ったよりも、面倒くさく、深刻なのかもしない。
この城の医者に聞いても、特に異常はないというが。やぶ医者なのかもしれん。はっきりとした違和感があるのに、なにも原因がないなんてことはあり得ないのだからな。
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