22 / 68
21 依頼2
しおりを挟む
「すまん真岡、待たせたか?」
チャイムと同時にやって来たのは紺のキャップをかぶった、肩幅が広く上背のある青年だった。
「そうでもない。みんな、この男は香山。俺の高校時代の同級生。香山、こっちが後輩の西山、壬司、……黎サン、嶋田」
梓玥を呼ぶのに躊躇した理由はよくわかるだけに笑いそうになったが、腹筋に仕事をしてもらった。自分が彼を紹介する時も同じような感じになるだろう。
互いに挨拶を済ませると、真岡が口火を切る。
「で、俺らに頼みたいことってなんだよ」
「真岡は俺が水泳部っていうのは知ってたよな」
「知ってる。エースだろ。ヒトの大会じゃ全国大会常連じゃん?」
「まあ、そう。相談したいことっていうのは、その部活のほうのことなんだけど」
「水泳は門外漢だぞ」
「泳ぎのことってわけじゃないんだ。プールで最近、おかしなことが立て続いてて。オカ研なら何かわかるんじゃないかって思ってさ」
「おかしなこと?」
「どんなことなんすか?」
西山と嶋田の前のめりな問いに、よくぞ訊いてくれたとばかりに香山が頷く。
「夕方、水泳部員が練習してたら、脚を引っ張られたってことがちょくちょくあって」
「いつから?」
「この二ヶ月くらいかな……脚攣ったの勘違いしたんじゃないかって思うだろ? でもこの二ヶ月で水泳部三十人のうち全員が体験してるんだよ。二回も三回もやられたやつもいるんだ」
「……溺れたやつは?」
「溺れかけたやつはいるけど、大丈夫。ただ、水に入るのが怖くなったって言って辞めるやつも出てきてさ……今は活動自体を休んでる。大会が終わったところで良かったけど……」
「あー……そいつは切実だ……」
オカ研なら、この前の件で嶋田や西山が辞めると言い出すようなものだろう。幸いなことに、ふたりとも懲りることを知らない男たちだから今のところは心配無用だ。
「もしかしたら何かいるんじゃないかって言いだしたやつがいて……でもほら、俺ら単なるヒトじゃん? どうしようもできなくない? って思った時におまえのこと思い出してさ。もう藁にも縋る気持ちなわけ、今」
「藁かよ」
「丈夫な藁」
「どのみち藁じゃん!」
笑い合う真岡と香山は、高校時代もこんな風に仲が良かったのだろうと窺える。
「オカルトは研究してるけど、だからといって何かできるかはわかんねえぞ? 俺らだってただの人間なんだから」
「最悪、最終的には部員全員カンパして近所の神社の神主にでも土下座して頼る」
「そこまで……」
嶋田が思わず呟いたようだったが、それほど切羽詰まっているということだろう。何しろ部員が何人か逃げている。下手をすれば今後の大会出場に関わってくるのではないか。
「そうなんだよ。次の大会もあるし……だから急いでてさ。今日の夕方空いてる? よかったら、よかったらでいいんだけど、プールのほうに来てくれよ」
「現場検証だ……!」
西山の目が光る。彼がオカ研で一番フィールドワーク好きだ。下手をすると人命に関わるということがわかっているから、あからさまに浮かれた反応はしないだけの常識はあるが。
「あ、でも水着ないぞ」
足を引っ張られるのがプールの中だけに限られるなら、水の中に入らねばならない。夏になる時季だが、授業に水泳があるわけではないから水着の持ち合わせなどあるわけがなかった。
だが香山は自分の胸を叩く。
「任せろ、部室に予備がある」
「全員分あるか?」
「問題ない」
真岡と香山のやりとりに、つい瀧が呟く。
「全員入るんですか……」
「そりゃ、被検体は多いほうがいいだろ」
「被検体……」
化学か何かの実験か? と思わないでもないが、言っている意味はわかる。水泳はあまり得意ではないが、点数を付けられるわけではないのだから、と自分を慰めておく。
そうして、真岡がハッとした顔で梓玥を振り返った。つられて瀧も彼を見る。
真岡が何かを言うより早く、梓玥は浅く頷いてくれる。訊こうとしたことに対する了承の意味だ。
(かっこいいな……)
何も言わないうちから言いたいことがわかるなんて、以心伝心、のようなものを感じた。
(卒業して就職するなら、お互いのことわかってるとかいいよな)
まだ先の話、とも言えない。陰陽師の適性がないからそちらには進めないが「では何をするのか」は考えなければならない。今思いついたのは「誰かと何かできればいいな」というぼんやりとした思いつきだ。
(企業に就職……とかは合わない気がするし……)
何より、陰陽師家に生まれながらそちらのほうへ進まなかったことを突かれるのは面倒だ。それなら個人でできることでも挑戦したほうがいい。
(どういうことをしたいか、とかは、まだ全然わからないけど)
追々思いつくかもしれないし、何かきっかけができるかもしれない。まだ時間はある、と焦らないでおくことを決めた。
「じゃあ、五限が終わったらプールに集合な。香山、よろしく」
「それはこっちの台詞だろ。頼むよ、丈夫な藁」
「藁言うなっつーの」
真岡と香山が笑い、その場は解散になった。
チャイムと同時にやって来たのは紺のキャップをかぶった、肩幅が広く上背のある青年だった。
「そうでもない。みんな、この男は香山。俺の高校時代の同級生。香山、こっちが後輩の西山、壬司、……黎サン、嶋田」
梓玥を呼ぶのに躊躇した理由はよくわかるだけに笑いそうになったが、腹筋に仕事をしてもらった。自分が彼を紹介する時も同じような感じになるだろう。
互いに挨拶を済ませると、真岡が口火を切る。
「で、俺らに頼みたいことってなんだよ」
「真岡は俺が水泳部っていうのは知ってたよな」
「知ってる。エースだろ。ヒトの大会じゃ全国大会常連じゃん?」
「まあ、そう。相談したいことっていうのは、その部活のほうのことなんだけど」
「水泳は門外漢だぞ」
「泳ぎのことってわけじゃないんだ。プールで最近、おかしなことが立て続いてて。オカ研なら何かわかるんじゃないかって思ってさ」
「おかしなこと?」
「どんなことなんすか?」
西山と嶋田の前のめりな問いに、よくぞ訊いてくれたとばかりに香山が頷く。
「夕方、水泳部員が練習してたら、脚を引っ張られたってことがちょくちょくあって」
「いつから?」
「この二ヶ月くらいかな……脚攣ったの勘違いしたんじゃないかって思うだろ? でもこの二ヶ月で水泳部三十人のうち全員が体験してるんだよ。二回も三回もやられたやつもいるんだ」
「……溺れたやつは?」
「溺れかけたやつはいるけど、大丈夫。ただ、水に入るのが怖くなったって言って辞めるやつも出てきてさ……今は活動自体を休んでる。大会が終わったところで良かったけど……」
「あー……そいつは切実だ……」
オカ研なら、この前の件で嶋田や西山が辞めると言い出すようなものだろう。幸いなことに、ふたりとも懲りることを知らない男たちだから今のところは心配無用だ。
「もしかしたら何かいるんじゃないかって言いだしたやつがいて……でもほら、俺ら単なるヒトじゃん? どうしようもできなくない? って思った時におまえのこと思い出してさ。もう藁にも縋る気持ちなわけ、今」
「藁かよ」
「丈夫な藁」
「どのみち藁じゃん!」
笑い合う真岡と香山は、高校時代もこんな風に仲が良かったのだろうと窺える。
「オカルトは研究してるけど、だからといって何かできるかはわかんねえぞ? 俺らだってただの人間なんだから」
「最悪、最終的には部員全員カンパして近所の神社の神主にでも土下座して頼る」
「そこまで……」
嶋田が思わず呟いたようだったが、それほど切羽詰まっているということだろう。何しろ部員が何人か逃げている。下手をすれば今後の大会出場に関わってくるのではないか。
「そうなんだよ。次の大会もあるし……だから急いでてさ。今日の夕方空いてる? よかったら、よかったらでいいんだけど、プールのほうに来てくれよ」
「現場検証だ……!」
西山の目が光る。彼がオカ研で一番フィールドワーク好きだ。下手をすると人命に関わるということがわかっているから、あからさまに浮かれた反応はしないだけの常識はあるが。
「あ、でも水着ないぞ」
足を引っ張られるのがプールの中だけに限られるなら、水の中に入らねばならない。夏になる時季だが、授業に水泳があるわけではないから水着の持ち合わせなどあるわけがなかった。
だが香山は自分の胸を叩く。
「任せろ、部室に予備がある」
「全員分あるか?」
「問題ない」
真岡と香山のやりとりに、つい瀧が呟く。
「全員入るんですか……」
「そりゃ、被検体は多いほうがいいだろ」
「被検体……」
化学か何かの実験か? と思わないでもないが、言っている意味はわかる。水泳はあまり得意ではないが、点数を付けられるわけではないのだから、と自分を慰めておく。
そうして、真岡がハッとした顔で梓玥を振り返った。つられて瀧も彼を見る。
真岡が何かを言うより早く、梓玥は浅く頷いてくれる。訊こうとしたことに対する了承の意味だ。
(かっこいいな……)
何も言わないうちから言いたいことがわかるなんて、以心伝心、のようなものを感じた。
(卒業して就職するなら、お互いのことわかってるとかいいよな)
まだ先の話、とも言えない。陰陽師の適性がないからそちらには進めないが「では何をするのか」は考えなければならない。今思いついたのは「誰かと何かできればいいな」というぼんやりとした思いつきだ。
(企業に就職……とかは合わない気がするし……)
何より、陰陽師家に生まれながらそちらのほうへ進まなかったことを突かれるのは面倒だ。それなら個人でできることでも挑戦したほうがいい。
(どういうことをしたいか、とかは、まだ全然わからないけど)
追々思いつくかもしれないし、何かきっかけができるかもしれない。まだ時間はある、と焦らないでおくことを決めた。
「じゃあ、五限が終わったらプールに集合な。香山、よろしく」
「それはこっちの台詞だろ。頼むよ、丈夫な藁」
「藁言うなっつーの」
真岡と香山が笑い、その場は解散になった。
1
あなたにおすすめの小説
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました
ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。
落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。
“番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、
やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。
喋れぬΩと、血を信じない宰相。
ただの契約だったはずの絆が、
互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。
だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、
彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。
沈黙が祈りに変わるとき、
血の支配が終わりを告げ、
“番”の意味が書き換えられる。
冷血宰相×沈黙のΩ、
偽りの契約から始まる救済と革命の物語。
仮面の王子と優雅な従者
emanon
BL
国土は小さいながらも豊かな国、ライデン王国。
平和なこの国の第一王子は、人前に出る時は必ず仮面を付けている。
おまけに病弱で無能、醜男と専らの噂だ。
しかしそれは世を忍ぶ仮の姿だった──。
これは仮面の王子とその従者が暗躍する物語。
白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
冷徹勇猛な竜将アルファは純粋無垢な王子オメガに甘えたいのだ! ~だけど殿下は僕に、癒ししか求めてくれないのかな……~
大波小波
BL
フェリックス・エディン・ラヴィゲールは、ネイトステフ王国の第三王子だ。
端正だが、どこか猛禽類の鋭さを思わせる面立ち。
鋭い長剣を振るう、引き締まった体。
第二性がアルファだからというだけではない、自らを鍛え抜いた武人だった。
彼は『竜将』と呼ばれる称号と共に、内戦に苦しむ隣国へと派遣されていた。
軍閥のクーデターにより内戦の起きた、テミスアーリン王国。
そこでは、国王の第二夫人が亡命の準備を急いでいた。
王は戦闘で命を落とし、彼の正妻である王妃は早々と我が子を連れて逃げている。
仮王として指揮をとる第二夫人の長男は、近隣諸国へ支援を求めて欲しいと、彼女に亡命を勧めた。
仮王の弟である、アルネ・エドゥアルド・クラルは、兄の力になれない歯がゆさを感じていた。
瑞々しい、均整の取れた体。
絹のような栗色の髪に、白い肌。
美しい面立ちだが、茶目っ気も覗くつぶらな瞳。
第二性はオメガだが、彼は利発で優しい少年だった。
そんなアルネは兄から聞いた、隣国の支援部隊を指揮する『竜将』の名を呟く。
「フェリックス・エディン・ラヴィゲール殿下……」
不思議と、勇気が湧いてくる。
「長い、お名前。まるで、呪文みたい」
その名が、恋の呪文となる日が近いことを、アルネはまだ知らなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる