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5巻
5-3
しおりを挟む「では、ユースケ殿がわざと特別討伐隊に粗悪品の魔笛を用意したと、貴殿等はそう主張なさるのか?」
「そういう噂を耳にした、という話だ。事実、大損害を被ったのは魔笛が効果を発揮しなかったからだと聞いている」
「相当数の魔笛を、随分と短い期間に用意したという事ですからなぁ、ちゃんと品質を確かめたのか疑問が残りますな」
「確か低民区で事業を行う為に別の作業を行っていたとか。用意された魔笛が真面目に作られたモノなのか、些か……」
エスヴォブス王の御前で開かれる対策会議にて、集まった各方面の関係者達が今回の事態にどう対処すべきかと議論を交わす。その中で、ヴォルダート侯爵の派閥に属するイヴォール派の宮殿官僚や衛士隊関係者から、闇神隊長の仕事に対する疑念が示された。
優秀な衛士を多数失った事は、フォンクランクにとって小さくない痛手だ。責任の所在が問われるこの会議で、殊更に闇神隊長を糾弾しようとする彼等の論調には、ヴォルダート侯爵の思惑が透けて見える。だが敢えてそこを指摘できる者は居ない。
当の侯爵は腕組みをして目を閉じ、黙して議論に耳を傾けているが、この場にいる誰もが彼の意図を感じていた。
そこへ、急遽自宅から宮殿に呼び戻された悠介が、クレイヴォル炎神隊長から事情の説明を受けながら、会議の場へと現れた。何故かくっ付いて来ているヴォレットの姿に、居並ぶ会議の参加者達から戸惑いのざわめきが上がる。
闇神隊長がヴォレット姫のお気に入りである事は周知の事実。その姫様の前で率先して闇神隊長を糾弾すれば、自分達に対する覚えが悪くなってしまうという不安から、イヴォール派の面々も先程までの論調で糾弾する事に躊躇する。
領袖の判断を仰ぐかのように向けられた彼等の視線に応えてか、今まで黙って会議の進行を窺っていたヴォルダート侯爵が、徐に口を開いた。
「姫様、今は重要な会議中ですぞ。クレイヴォル炎神隊長殿は姫様をしっかり補佐して頂きたいですな」
ちゃんと行動を管理して教育係の義務を果たせと、暗にヴォレットを退出させるよう促すヴォルダート侯爵。返答に窮するクレイヴォルが言葉を選んでいる隙に、ヴォレットは自身も会議に参加する旨を告げる。
「闇神隊とユースケはわらわの管轄にある衛士じゃからな、闇神隊の活動についての議論なら、わらわも聞く必要があるのじゃ」
「遊戯の話ではありませんぞ、姫様」
「特別討伐隊の事じゃろう? 魔笛が通じなかったそうじゃな。安心せい、公私は弁えておる」
条理もなく庇護するつもりで来た訳ではないと、ヴォレットは壁際の適当な椅子に腰かけた。ちょっと変わった嗜好を持つ我侭御転婆姫という普段のイメージとは、少々纏う雰囲気が違っている。この場に集う一同は、それに戸惑いの表情を強める。
ヴォルダート侯爵は無駄かと思いつつもエスヴォブス王に抗議の視線を送ってみるが、やはり王はスッと手を翳して『かまわぬ』と合図を返した。軽く嘆息してから気を取り直した侯爵は、先程までの議論の内容を、今度は自らの言葉で直接当人に問い質した。
「さて、もう聞いていると思うが……貴殿の作った魔笛が調整魔獣に効果をもたらさなかった。どういう事か説明して貰えるかね?」
他の作業にかまけて手を抜き、粗悪品を寄越したのではないかという問いを、悠介はハッキリと否定する。
「魔笛が粗悪品って事は絶対にないと言えます。どうして効果がなかったのかは分かりませんが」
そういう魔獣が居るらしいという噂はあったので、特別討伐隊は運悪くその魔獣に出くわしてしまったのではないかと悠介は推論を立てる。そこでヴォルダート侯爵は、魔笛の品質を問題にした方が攻め易いと判断した。
「絶対にないと言い切れる根拠を示したまえ」
「そうですね……ちょっと失礼」
悠介は会議のテーブル上に置かれている陶磁器のカップを幾つか集めて、カスタマイズを施す。
通常、土技を使って磁器のような焼き物の再調整を行うにしても、表面の装飾部分を削ったり、少しサイズを変える程度で、カップを皿にするような大幅な形の変更はかなり難しい。
しかし悠介のカスタマイズ・クリエートは、その物体が元からそういう形状をしていたかのように『存在』を書き換えてしまう能力である。光の粒が舞い消えると、陶磁器のカップは真四角な立方体に姿を変えていた。
初めて闇神隊長の神技を間近で目にした者達が、思わず目を瞠る。ヴォルダート侯爵も少し驚いた様子を見せた。
「俺――自分の神技は寸分違わず複製する事が出来るので、意図的に違うモノを作ろうとしない限り、絶対に同じモノが作れます」
そう言って悠介が立方体を積み上げていく、それらはまるで初めから長方形の物体として存在していたかのようにぴったりと重なり、その表面も非常に滑らかな艶を出している。
もちろん中身も同じ精度で再現できるので、魔笛の複製に不備はないと悠介は言い切った。
「……」
重ねられたキューブを手に取り、唸る侯爵。ただの立方体なのだが、刃物でスパッと切り取ったような表面を持つそれは、芸術品にすら思えた。ヴォルダート侯爵の掌で玩ばれるキューブに、宮殿官僚の一人が物欲しそうな視線を向けている。
視線に気付いた侯爵がその宮殿官僚の前にキューブを置くと、彼はいそいそと手にとって眺め始めた。侯爵にとってこの官僚は、時折珍しい美術品や工芸品の類を都合してやれば、指示にも従うし資金も出す扱い易い男だが、少々日和見なところに問題が残る輩だった。
キューブになった陶磁器のカップは宮殿の備品なのだが、自分の口添えでこれは彼に与えようと侯爵は画策する。新しい美術品の取り寄せが一つ浮いた事を頭のメモに書き記しつつ、闇神隊長に対する追及の次の手を考える。
「魔笛については一応それで納得しよう。では魔笛の通じない魔獣の噂についてだが、何故事前にその情報を伝えなかったのかね?」
「笛渡す時に伝えましたよ?」
「それについてはわらわが証人になるぞ、ユースケは確かに気を付けるようにと強く念を押しておった。そうであろう?」
あの日訓練場で魔笛を受け取った官僚は、侯爵からの目配せにも気付いたが、闇神隊長とヴォレット姫の証言に対する真偽を問われて惚ける事が出来ず、それを認めた。一瞬、侯爵からの射抜くような視線に、ビクリと肩を揺らす。
「つまり……事前に警告を受けておきながら何の対策もしていなかったと、そういう事で良いのか?」
じっと会議の様子に耳を傾けていたエスヴォブス王が、壇上の玉座からそう訊ねるが、受け取り担当だった宮殿官僚は顔も上げられない。すかさずヴォルダート侯爵がフォローに入った。
「王よ、今回の事態は移動中の不意を突かれた事に起因します。確かに油断と怠慢による失態の誹りは免れませぬが――」
魔笛が通じない調整魔獣の存在については、正確な情報が必要でしょうと今後の対策に議題を変えた。ついては魔笛と調整魔獣に関する調査を行う為、参考人として『風の刃』の元魔獣使い達をトレントリエッタから呼び寄せるよう提案した。
この提案は即刻承認され、後日トレントリエッタからヴォーレイエを始めとする元『風の刃』の構成員が呼ばれる事となった。闇神隊長の糾弾に失敗したヴォルダート侯爵は、早々に対策会議を切り上げる。
「わざわざご足労を掛けてしまったが、会議はこれにて終了だ。また後日にでも『風の刃』構成員の取調べに協力して頂ければ助かる」
「そうですね、ヴォーレイエ達とは面識もありますし、協力出来ますよ。今日は皆さんお疲れ様でした」
宮殿に呼びつけられ、殆どイチャモンとも言える不躾な質疑をかけられただけで終わってしまった事にも不満げな表情一つ浮かべず、出席者達に労いの声さえ掛ける悠介。その姿に余裕を感じたヴォルダート侯爵一派の面々は、内心苦々しい思いを懐いた。
闇神隊長がヴォレット姫を伴って現れた時点で先手を潰され、姫の存在で糾弾ネタの幾つかを封じられた挙句、最後には自分達の非が明るみになるという結果に愕然とする。
(この男……やはり計略の類に長けているのか。油断ならん)
会議の同席者達に闇神隊長に対する不信を懐かせる事には失敗したが、当面の目的は闇神隊長の周囲を切り崩していく事である。まだまだ先は長い。闇神隊長の失脚を狙う活動は始まったばかりなのだ。
闇神隊長の身辺を探らせている子飼いの諜報員が有益な情報を掴んで戻る事を、ヴォルダート侯爵はじっくり待つ事にした。
一方の悠介は、『心証アップで敵意回避!』などと目論んでいたのだが、こちらも成果は上がらなかったようだ。
5
フォンクランクの要請に従い、トレントリエッタからヴォーレイエをはじめとする元『風の刃』の関係者がサンクアディエットの街に護送されて来たのは、対策会議の日から五日目の事であった。ヴォーレイエと共に呼ばれたのは、ベネフョスト元軍務官とその部下の魔獣使いである。
ベネフョストに関しては、悠介がヴォレット及びエスヴォブス王を通じてトレントリエッタ側に助命を嘆願し、受け入れられていた。
元『風の刃』構成員の中での彼女のカリスマ性は高く、生かしておいた方が良いと判断されたらしい。現在、彼等はルディア鉱山で強制労働に服しており、ベネフョストはその纏め役を担っている。
ヴォーレイエはリーンヴァールに残っていたエルフョドラス邸で、付き人二人に奴隷の青年と共にほぼ軟禁生活。これはつまり、ベネフョストに対する人質のような意味合いを持つ。律儀な彼女には無用の牽制なのだが、何事にも慎重なクリフザッハ王の備えであった。
ちなみに、フョートレス総務官は戦死、アイルザッハ財務官は行方不明となっていた。
「よう、久し振り」
闇神隊長との再会に緊張した面持ちで臨んだヴォーレイエとベネフョストだったが、本国に居ても全く態度の変わらない様子の悠介に脱力しつつ、安堵の気持ちを懐く。
内と外とでがらりと性格を変える人間は珍しくない。表の輝かしい功績の裏に、冷徹で、時に残忍な面を併せ持つような者もいる。フォンクランクの英雄を取巻く噂の中に、そういった面を窺わせるような内容を二人は聞いていたので、少なからず不安があったのだ。
「ちゃんと生きてて感心感心」
「ふふ、貴殿も元気そうで何よりだ」
気を楽にしたベネフョストが、元軍務官らしい貫禄ある口調でそう返す。美しさの中に勇猛さを感じさせる外見は相変わらずだ。
「アンタ、気さくなところは変わらないんだね」
肩の力を抜いたヴォーレイエも苦笑交じりに言った。
「まあな。つか堅苦しいのが苦手なだけだけど」
友達のような挨拶を交わす闇神隊長と参考人達に、取調官や警備の衛士達は戸惑った様子で顔を見合わせていた。が、それも束の間、『まあ闇神隊長だしなぁ』と納得する。悠介のあり方も、衛士達の間でだいぶ認知されてきているようだ。
◇◇◇
ヴォーアス家と宮殿を挟んだ逆側に位置するヴォルダート侯爵の屋敷に、闇神隊長の身辺を探っていた諜報員が、奇妙な噂を持ち帰った。それは、闇神隊長の正体についてだった。
ガゼッタに潜り込んでいる密偵経由の情報で、ガゼッタでは邪神という存在が現人神として実在しているとまことしやかに囁かれており、その特徴が闇神隊長の姿に合致するのだという。
それだけならば下らない大衆酒場の噂で済まされるところだ。しかし闇神隊長と邪神を繋ぐ逸話が自国フォンクランクやブルガーデン、更にはトレントリエッタや滅亡したノスセンテスにもあったとなれば、さすがに只の戯言と切り捨てられない。
「災厄の邪神伝説……か」
ノスセンテス神議会の邪神に関わる情報は、かなり詳しく纏められていた。今まで表に出てこなかったのは、エスヴォブス王が隠蔽したのだろうと侯爵は結論付けた。内容が内容だけに、王の判断は正しいとも認める。
「しかし、これはまだ使えんな」
もっと詳細が明らかになるまで迂闊に触れない方が良いと判断した侯爵は、引き続き邪神に関する情報を集めるよう指示を出した。
◇◇◇
悠介がヴォーレイエ達から調整魔獣について詳しい説明を受け、トレントリエッタ側の調査内容も参照した結果、魔笛が通用しない調整魔獣の実態が明らかになった。
それは実に単純な理由で、神技阻害の能力を与える調整はされているが、調教は受けていない魔獣だったのだ。
魔獣施設で調整処置を受けた『調整魔獣』は、その後魔笛で指示に従うよう調教され、『魔獣兵』として完成する。魔獣施設で事故が起きた際、逃げ出した魔獣の中には、まだ調教が施されていない調整魔獣が多数交じっていた。
更に神技阻害能力を持つ調整魔獣と、繁殖行動の訓練も受けている魔獣兵の子が産まれ、ある程度の能力を引き継いだ第二世代型の魔獣が増えている――これが、トレントリエッタ側の調査内容にフォンクランクが集めた情報を加味して出された答えであった。
偶発的に出現していた通常の魔獣と違って、第二世代型は最初から魔獣として生まれ、魔獣として育てられる。つまり、頻発する魔獣被害は、調整魔獣達の繁殖・子育てに必要な食料の確保が目的ではないかという見解に至ったのだった。
「魔獣兵連れて逃げたアイルザッハって人は絡んでないのかな?」
「財務官は行方不明扱いとはなっているが、今まで魔獣の群れの中に魔獣使いの姿は目撃されていない。恐らく繋がりはないだろう」
悠介の問いに、ベネフョストが答える。
アイルザッハ財務官がリーンヴァール脱出の際に持ち出した魔獣兵は十数体、魔獣使いは一人か二人程しか連れていない事が分かっている。現在確認されている魔獣の群れを操れるだけの人員が居ないし、そもそも操ろうにも魔笛が通じないのだ。
「それって……もしかして永遠に行方不明?」
「トレントリエッタ側はそう見ている」
財務官達が向かっていたのは組織の集落と思われ、そこへ行くには魔獣施設の近くを通る事になる。
魔獣の潜む森で魔笛を吹けば、その魔獣達を呼び寄せてしまう。幾ら十数体の魔獣兵を従えていても、森で魔獣の群れに襲われたならば、生きのびるのは難しい。実際には森に辿り着く前に魔獣兵の餌となってしまっていたのだが、それを知る者はいなかった。
いずれにせよ、これで魔獣の群れの討伐はかなり難しいという事が分かった。更なる対策を考えなければならない。
「やっぱ武具の製作も考えないと駄目かなぁ」
ヴォルダート侯爵一派に睨まれている現状を思えば、正式な要請があるまでは勝手に動かず、アイデアを練るだけに止めておくのが無難だ。囚人収容施設から宮殿に戻る間、悠介はそんな事をつらつらと考えていた。
翌日、悠介は自分特製の甘味ララの実と、まだトレントリエッタ方面には出回っていないであろうこれまた自分特製の魚のフライでも差し入れてやろうと、再び囚人収容施設を訪れた。
入り口の扉を潜ると、建物の奥から何やら歓声のようなざわめきが響いてくる。
「ん? 何か騒がしいな」
「あ、ユースケ殿」
門番の衛士に何事かと訊ねてみると、施設内にある囚人用の訓練場で決闘が行われているのだという。
「決闘って……そんなの許可されてたっけ?」
「あ、いえ、決闘と言っても、実際はただの手合わせでして」
本人達の私情による手合わせなので、名目上決闘と呼んでいるが、健康な囚人生活を送らせる為に設けられた鍛錬メニューの範囲内であるとの事だ。神技の使用は禁止で、徒手格闘のみ。投げ技や極め技主体で、急所打ちは禁止というルールで戦う。
「まあ、一種の娯楽のようなものですよ」
「ふーん」
なるほどねと納得する悠介。自分にはあまり縁の無い娯楽だなと流し見しつつ、ヴォーレイエ達のいる要人独房へと足を向ける。そこで、門番の衛士が悠介の今日の訪問について訊ねた。
「あの、もしかしてエルフョドラス家の者とお会いに?」
「まあね、ちょっと差し入れでもと思って。何か問題あった?」
「いえ、それでしたら――」
今は二人ともあちらに居られますよと門番が指差した先は、罵声に近い野次と歓声が響き渡る囚人用訓練場の出入り口だった。そこには、大勢の見物人達の背中が見え隠れしている。
「そう言えば、戦い大好き人間と喧嘩っ早いお嬢様の組み合わせだったな……」
こういう催しは二人とも嬉々として見物していそうだと納得して苦笑を浮かべた悠介は、衛士に礼を言って訓練場に向かう事にした。門番の衛士はまだ何か言いたそうだったが、黙って敬礼で見送った。
十数人が同時に組み手を行える程度の広さを持つ囚人用の訓練場には、バーベルや鉄アレイのような形をした筋力トレーニング用の器具なども設置されている。今それらは全て壁際に片付けられ、中央の一段高くなった手合わせ用の舞台を大勢の野次馬が囲んでいた。
(さて、ヴォーレイエ達はどこかな?)
決闘に沸く人垣を見渡していた悠介は、最前列にヴォーレイエの姿を確認。次いで、べネフョストが土技の囚人と戦っているのを見つけた。
「……うぉい、戦い大好き人間」
思わず突っ込み気味に呟いた悠介の視線の先では、べネフョストが決闘相手である巨漢の腕を絡め取って寝技に持ち込み、締め上げているところだった。
「おーい、ヴォーレイエ」
「あ、あんた」
人垣を掻き分けて彼女の隣にやって来た悠介は、これは一体何事かと訊ねる。
「いやその、実は……」
彼女の話によると、囚人の男がヴォーレイエとべネフョストの仲をからかったのが原因らしい。どこへ行くにも常に二人で行動し、散歩も食事も湯浴みも一緒なので、実はデキているんじゃないのかと野次られたのだ。
それだけなら、べネフョストも『戯言を』と流して、決闘などとは言い出さなかったのだが――
◇◇◇
「そんな小僧相手じゃ満足できねーだろ」
「ああ見えて実はウブなのかもよ」
「大人の男ってーのを教えてやるぜー?」
囚人の男達の低俗なからかいの言葉に、ヴォーレイエが即座に噛み付く。
「おいっ、あたいが小僧ってのはどう言う了見だい!」
「うん? 女みてぇな喋り方すんなよ、気色悪ぃな」
「あたしゃ女だーー!」
てめぇ等どこに目えつけてやがんだ! とヴォーレイエは男気溢れる怒りを炸裂させたが、囚人の男達はニヤニヤしながら言い返した。
「ほっほう? んじゃあ証拠見してみ?」
「しょ、証拠……?」
「だよなぁ、モノが付いてねえなら信じてやってもいいけどよぅ」
「まあ、あっても無くてもツルツルだろうぜ、わははははは」
カアァッと赤面したヴォーレイエが更になにか言おうとするも、彼女を庇うように男達の前に立ったべネフョストが、厳しい表情で言う。
「お嬢様を侮辱するのは止めて頂こう」
軸足に重心を置いて少し斜めに構えつつ、片手を腰に当ててすらりと立つべネフョスト。鍛え抜かれた身体ながら、成熟した女性特有の曲線が艶かしい見事なプロポーション。そのつま先から頭の天辺まで舐めるように視線を這わせた男達は、思わずごくりと喉を鳴らす。
「こりゃあ小僧にゃ勿体ねーや」
「まだ言うかっ!」
べネフョストを凝視しながらそんな事をのたまう彼等に、ヴォーレイエが再び吠える。だが、彼等は魅惑のボディラインに釘付けで、勝気なお嬢様の事など、既に意識の外だ。
「なあアンタ、こんな所まで来て忠義なんぞに拘っても意味ねーぜ」
「エルフョなんとかいうジジイの事なんぞ忘れちまえよー。もう死んでんだろ?」
「そうそう、子守なんか放っておいてさ、俺達と遊ぼうぜ」
『本物の男ってーの教えてやんぜー?』と粉をかけ始める囚人の男達三人組。
ここが収容施設である事を忘れてしまいそうなナンパっぷりに、ヴォーレイエはスルーされた事に対する怒りも忘れて唖然とした。
父エルフョドラス伯爵については、ヴォーレイエ自身もジジィ呼ばわりしていたので、特に思う事は無い。だが、武人に対して主を侮辱するのは御法度である。
「お嬢様と亡き当主様に対する一連の暴言、聞き捨てならぬ」
ベネフョストが、静かに言い放った。
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