26 / 106
かっとうの章
第二十五話:聖女の開拓支援
「今は畑を新しく開拓しておるところなんですわ」
「へぇ~そうだったんですかー」
案内の農場長の説明に相槌を打つ呼葉。魔族軍との戦況により、近年オーヴィスの人口が急激に増えた事もあって、食糧供給の要所にもなっているベセスホードは農場の拡張も急ピッチで進められていた。
平原を開拓しての農地拡大。既に元の二倍近くまで広がった畑の周辺には、結構大きな岩がゴロゴロしていたり、ぽつぽつと木が生えていたりするので、整地はなかなか難航しているようだ。
「この辺りまでは穏やかな平原が続いていたので、割と楽に開墾出来てたんですがね」
もう少し先辺りからは荒れ地になっており、徐々に地面も硬くなって、大きな岩が増えて来たそうな。水路を引く工事も考えると、この一帯を畑にして耕せるようになるまで、まだ後100日以上は掛かるだろうとの事だった。
「ふーむ」
呼葉は額に手を翳して作業中の土地を見渡す。ざっと眺めて三十人くらいの労働者が、六つの班に分かれて作業しているようだ。
「アレクトールさん、今日は午後の予定は?」
「今日は特に予定を入れておりませんが……」
「じゃあちょっとここを手伝おうかな」
そう言って呼葉は、農場長に作業中の労働者達を一旦集めて貰った。
作業に駆り出されていた労働者は、半数が日雇いの開拓作業未経験者。残りの半数は農場経営者と土木作業員で、彼等が各班の指揮を執って作業を行っていたようだ。
その中でも、労働者達のリーダーとして全体を纏めている元傭兵作業員が、彼等を代表して挨拶をする。
「あ~。神殿の偉いさん達がわざわざご足労して下さったみてぇですが、工期が遅れてるんで、お有り難いお話ならまた今度にしてくれませんかねぇ」
「パークス! 失礼だぞっ 申し訳ありません聖女様、彼は何分学のない傭兵上がりでして」
農場長が慌てながら『パークス』と呼んだ元傭兵作業員を叱責しつつ、呼葉達に謝罪する。が、パークスも彼に率いられた労働者達も軒並み不満そうだった。
「それはいいけど、視察の連絡来てなかったの?」
呼葉が訊ねると、パークスは「事前連絡は来ていたが、作業の様子を見るだけという話だった」と答える。
「こんな風に集められるとは聞いてない」
「なるほど、仕事の邪魔しちゃってごめんなさいね。じゃあ作業効率上げる為に祝福を与えるね」
呼葉は軽く頭を下げて農場長をさらに慌てさせると、労働者達に聖女の祝福を与えるべく手を翳す。祝福を与えるのに別に特別な動作は必要無いのだが、分かり易くする為のそれっぽい演出だ。
回復でもしてくれるのかと思っていたパークス達は、特に変化も見られない事を訝しむ。本当にただ祈るだけの『祝福』なのだろうかと戸惑いを浮かべる彼等に、呼葉は作業に戻るよう促した。
「しばらく道具も込みで祝福し続けるから、この辺りの開墾ぱーっと済ませちゃって」
そんな言葉に小首を傾げながら作業に戻る労働者達。二、三歩いたところで、身体の変化の機微に敏いパークスが気付いた。
「なんだ? 身体が軽い……?」
先程まで全身に燻っていた軽い疲労感も無く、すこぶる調子が良い。体力を回復させる術は受けた経験もあるが、ここまで力が漲るような劇的な効果は無かったはずだ。
聖女の祝福というものは、一般的な回復魔術とは違うのだろうか等と考えていたパークスは、ふと先程の呼葉の言葉を思い出す。『道具も込みで祝福し続ける』。彼女はそう言った。
パークスは、解体途中の岩の塊の前に立つと、右手に握った岩を砕く為のハンマーを見詰める。そうしておもむろに振り上げ、叩きつけた。
「――っ!?」
予想以上に軽く、鋭く、力強く振り下ろされた鉄槌が岩の塊にめり込む。ガコッという重い音が響いて、火花を散らしながら岩の塊が粉砕された。
「な、なんだこりゃあっ すげぇ!」
処理にはあと半日は掛かりそうだった岩の塊が、一撃で粉々になったのだ。それを成し得た腕力も然ることながら、それだけの威力の負荷にビクともしない『ただのハンマー』にも驚く。
他の労働者達も、同様に強化された身体能力と作業道具の威力に驚いている。
「これが、『聖女』の力か……」
そこからは怒涛の勢いで開拓予定地が開墾されていった。何せ身体が疲れない、道具が壊れない上に、普段の数倍の力が出せるのだ。
道具は『普通の作業用ハンマー』が『最高級の戦闘用ハンマー』並に強化されているだけなので、あまり無茶をすれば破損する恐れはあると呼葉からも忠告を受けたが、土木作業の専門家も付いているだけに、下手な扱いはしない。
通常、五人掛かりで処理していた大岩の撤去を一人でこなし、砕いた岩の欠片を運ぶのも一回で済ませられる。あっという間に整地作業が終わって、水路を掘る段階にまで至った。
祝福タイムは小一時間ほどで終了。その間に開拓予定地は大幅に作業が進み、遅れていた工期も取り戻した。むしろ予定より早く完遂しそうであった。
「いやあ~、スゲーな嬢ちゃん。いや、聖女様だったか」
これなら開拓後の広大な畑仕事も一日で全部やれそうだと、聖女の祝福の恩恵を称えるパークス。彼の言動に頭を抱えている農場長はさておき、呼葉は「お役に立てたなら幸いです」と謙虚に纏めて農場視察を切り上げた。
「さあ、帰りはザナムさんとネス君とクラインさんに魔族の事を説明しないとね」
帰りの馬車に向かって歩き出す呼葉に、付き従うアレクトールとソルブライト、ルーベリットは、あの話を聞かされた彼等がどう反応するのかと考えながら、件の同輩三人に視線を向けた。
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜
月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。
※この作品は、カクヨムでも掲載しています。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。