文字の大きさ
大
中
小
37 / 106
かっとうの章
第三十六話:『縁合』
すっかり陽も昇りきり、騒ぎのあったベセスホード神殿前に野次馬が集まり始めた頃。ワグナー邸に乗り込んでいる呼葉達は、グリント支配人の私室で不正の証拠集めを終えていた。
「これだけあれば十分かな?」
「そうですね。告発する内容と相手は、吟味する必要がありますが」
押さえた証拠をもって全ての不正取引相手を告発・糾弾するのは問題があるので、叩くべき相手と目溢しする相手を選ぶところから始めなければならないと説くアレクトール。
呼葉は特に『悪は絶対裁く』というスタンスをとっている訳ではないので、その辺りの判断はプロに任せる事にしている。
ここぞという要所で自分の方針に沿うよう意見を差し込めれば問題無い。
「それじゃあ一旦宿に戻って、それから――」
「失礼します。聖女様に御目通りを願いたいと言う方々がお見えですが」
そろそろ引き揚げようかという時、屋敷の使用人がやって来て、呼葉達に面会を求める者が訊ねて来ていると告げた。是非お話したい事があるという。顔を見合わせる呼葉とアレクトール達。
「さっきの尾行組かな?」
「どうでしょう……? お会いになりますか?」
「一応、警戒はしとくか」
この期に及んでイスカル神官長やグリント支配人派の刺客は無いと思うが、念の為に護衛騎士も同室させると言うソルブライトの意見を参考に、呼葉達は屋敷の応接間で訪問者と会う事にした。
案内されて応接間に入って来たのは、商人風の恰好をした三人の男だった。そこそこ整った服装は質の良い仕立てをしており、少なくとも一般庶民ではない事を窺わせる。
「この度は聖女様に御目通りいただき、感謝いたします」
三人組の代表で普通の中年おじさんっぽい人がそう言って頭を下げる。彼等をソファーに座らせた呼葉は、対面に腰掛けた。
呼葉の両隣にアレクトールとソルブライトが座り、三人組の後方に護衛の騎士が陣取る。
「それで、お話したい事とは?」
アレクトールが訊ねると、三人組の真ん中に座る代表の男は、左右の仲間に目配せして軽く頷き、決意を感じさせる口調でおもむろに言った。
「サラから聖女様の事を伺いました。我々はレジスタンス組織『縁合』に所属する者です」
「レジスタンス……?」
「えんあい……?」
ソルブライトとアレクトールは小首を傾げたが、呼葉はサラの名前が出た事で直ぐにピンと来た。
「魔族の穏健派の人達って事でいい?」
「はい」
「っ……!」
「!? マジか」
護衛の騎士を始め、アレクトール達は目を瞠って驚いているが、呼葉は穏健派魔族からの接触の可能性も考えていたので、そこまで驚きは無い。
「サラから話を聞いて会いに来たって事は、協力してくれると考えて良いんですね?」
終始落ち着いた雰囲気でそう訊ねる呼葉に、若干緊張していた『縁合』の三人は少しほっとした様子を見せる。そうして自分達について話し始めた。
彼等は、魔族領に栄える唯一の国『ヒルキエラ国』で、魔族を統べる『魔王ヴァイルガリン』に対抗するべく活動している、レジスタンス組織の一つだという。
ヴァイルガリン一族の暴挙を止め、ヒルキエラを平和で豊かな国にしたいというのが、彼等の願いであり組織の目標であるのだが、正直なところ彼等の活動は手詰まりの状態らしい。
「魔族領では弾圧と取り締まりが厳しく、平和を訴える我々に居場所はありません」
彼等『縁合』は、レジスタンス組織の中でもとりわけ穏健派で武力に頼らない方針を掲げる集団であった。その為か、他の組織とも今ひとつ共闘が上手く行かず徐々に孤立。
魔族軍の支配域には拠点を置く事も出来ず撤退を続け、遂には人類最後の砦と謳われる南の大国オーヴィスの更に後方にある、辺境の街であるここベセスホードにまで落ち延びて来た。
どうにか自分達の活動に突破口をと模索していたところに、『聖女コノハ』が現れた。
実は、呼葉達が宿泊している高級宿にも『縁合』と繋がりのある諜報役の者がおり、呼葉が考える『戦争の落としどころ』について、六神官が話し合っている内容を把握していたという。
サラ親子とウィル院長からも呼葉の人となりを聞き、協力すべき相手と判断した彼等は、今回の騒ぎに乗じて接触に踏み切ったとの事だった。
「貴方達が武力に頼らない組織って事は、武闘派の穏健派魔族組織とかもあるんだ?」
「寧ろ他は殆どが闘争志向で、対話と交渉を軸にする我々は少数派ですね」
ふむと、呼葉は腕組みをして考える。護衛の騎士やソルブライトは、覇権目的で軍事侵攻を続ける魔族軍相手に、武力を用いぬ組織など何の役に立つのかと懐疑的な様子だった。
呼葉も『縁合』が魔族軍との戦闘で役立つとは思わない。しかし――
「なるほど、お話は分かりました。私はオーヴィスの聖女として、穏健派魔族のレジスタンス組織『縁合』との協力体制を結ぶ事を宣言します」
「ぉお!」
パッと表情を輝かせる『縁合』の代表者達。彼等とは対照的に、アレクトールは憂いた表情を浮かべる。
「コノハ殿、よろしいのですか?」
「流石に本国とも相談無しで、向こうの組織と手を組むのはマズくねぇか?」
苦言を呈するソルブライトに呼葉はさらりと言った。
「別に同盟組もうって訳じゃないんだから問題無いでしょ」
「え?」
「え?」
ソルブライトと『縁合』の代表者の疑問形がハモる。
「魔族と人類の戦争を終わらせる為に、穏健派魔族のレジスタンス組織『縁合』の皆さんと私は力を合わせて頑張りましょうって事だよ。そこに国家云々はあんまり関係無いわ」
「え……いえ、しかしそれは……」
聖女による『協力体制を結ぶ宣言』でオーヴィス国という後ろ盾が出来たと思っていた『縁合』の代表者は、あくまで呼葉が個人的に協力し合うだけだと告げられて狼狽える。
「とりあえず、『縁合』の皆さんには他の武闘派組織との繋ぎを付けに動いてもらうつもりよ」
「え、えぇ~……」
一応、オーヴィス国内で大手を振って歩ける程度には身柄の安全を保証するよう、本国に伝えておくという呼葉に、『縁合』の代表者は不安気に顔を見合わせる。
そんな彼等と呼葉を、アレクトール達は複雑な表情で見つめるのだった。
感想 16
あなたにおすすめの小説
「子を産めない妻はいらない」と離縁されたので、七人の孤児がいる辺境伯家に嫁ぎます~なぜか全員に懐かれました
ゆぷしろん「子を産めない妻はいらない」
七年尽くした夫にそう告げられ、伯爵夫人アメリアは若い愛人にすべてを奪われた。
手元に残ったのは、わずかな生活費と母の形見だけ。居場所を失った彼女のもとへ届いたのは、北の辺境伯グレンからの求婚状だった。
そこに記されていたのは、前夫が一度も見ようとしなかったアメリアの功績。求められたのは跡継ぎを産む妻ではなく、戦争で荒れた領地と屋敷を共に守る伴侶だった。
だが、嫁ぎ先で待っていたのは、親を失い心に傷を抱えた七人の孤児たち。
反発する少年、言葉を閉ざした幼子、飢えを恐れる少女。アメリアは叱るのではなく、一人ずつ寄り添っていく。
やがて子どもたちは彼女を「かあさま」と呼び始める。
そんな幸せを取り戻しかけたある日、彼女を捨てた前夫が再び現れて――。
娘を毒殺された日、夫は愛人と踊っていた――聖女と呼ばれた私は、王家を静かに崩壊させる
唯崎りいち異世界に転移し、“聖女”として王太子ジークフリートに嫁がされたフェリシア。
愛のない結婚の中で、唯一の救いは娘シャルロットだった。
しかし五歳の娘は、父から贈られたネックレスによって毒殺される。
娘が死んだ日。
王宮では祝賀会が開かれ、夫は愛人と踊っていた。
誰も娘の死を悲しまない世界で、ただ一人涙を流したのは、第八王子リュカだけだった。
やがてフェリシアは知る。
“聖女は子を産んではならない”という王家の禁忌と、娘の死の裏にある政治的思惑を。
――これは、娘を奪われた聖女が、王家を静かに崩壊へ導いていく物語。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
【引き下げ予定】このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
澤谷弥(さわたに わたる)マーベル子爵とサブル侯爵の手から逃げていたイリヤは、なぜか悪女とか毒婦とか呼ばれるようになっていた。そのため、なかなか仕事も決まらない。運よく見つけた求人は家庭教師であるが、仕事先は王城である。
嬉々として王城を訪れると、本当の仕事は聖女の母親役とのこと。一か月前に聖女召喚の儀で召喚された聖女は、生後半年の赤ん坊であり、宰相クライブの養女となっていた。
イリヤは聖女マリアンヌの母親になるためクライブと(契約)結婚をしたが、結婚したその日の夜、彼はイリヤの身体を求めてきて――。
娘の聖女マリアンヌを立派な淑女に育てあげる使命に燃えている契約母イリヤと、そんな彼女が気になっている毒舌宰相クライブのちょっとずれている(契約)結婚、そして聖女マリアンヌの成長の物語。
※本作品は2026年6月いっぱいで引き下げ予定です。
義家族に虐げられた令嬢は家から逃げ出し人生を謳歌する
ハラペコWASABI【完結】
義母と義姉から酷い虐げを受け、いつ殺されるか分からない日々を送っていた伯爵令嬢のマリー。
だがある満月の夜、彼女の中に「4つの前世の記憶」と、母から受け継いだ強大な『エルフの魔力』が覚醒する。
「まるで運命が逃げなさいって言ってるみたい」
前世の知識のひとつ、特殊メイクを駆使して家から逃げ出し
圧倒的な魔力で魔獣を狩り
無事に到着した王都で目立たずひっそり生きるつもりだったのに……
気付かぬうちに溺愛されていたせいで貴族街の立派なお屋敷に住むことに。
更には学園に通わないといけなくなったりと予定外の出来事だらけ。
本人は気づいていないが、前世からの縁に助けられ、チート魔力で無双する。
虐げられ令嬢の華麗なる逆転劇が今はじまる!