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かいほうの章
第六十七話:街道上の戦い・中編
中央街道の両脇、王都アガーシャまで聖女の祝福込みで後一日という地点に整列する軍部隊。
野営明けで出発準備を整えていたクレアデス解放軍と聖女部隊に、偵察部隊より街道の先から大部隊が迫っているとの情報がもたらされた。
列を成しての行軍ではなく、横陣形を維持しながらの移動。即時交戦を想定しているかのようなその部隊はしかし、クレアデス解放軍と聖女部隊の兵力1200とほぼ同数の規模だという。
聖女部隊の力を正しく理解していればあり得ない少なさに、魔族軍側の意図を測り兼ねた呼葉達はロイエン達の意見も聞いて対応を話し合う事にした。
「何らかの罠があるとして、無視するわけにも行きますまい」
「相手の動きから考えられるのは、向こうは僕達と確実に交戦したいって事ですね」
グラドフ将軍のもっともな意見に、ロイエン総指揮も無難な推察を挙げる。呼葉は、まさにそこが引っ掛かっている部分だと指摘した。
「今は魔族軍全体に聖女部隊と遭遇しても戦うなって指示が出てる筈なのよね」
クレアデス解放軍との交戦は、共に行動している聖女部隊とも戦う事になる。方針を変えたのか、聖女に対抗する目途が立ったのか。
「戦争は……相手の嫌がる事を徹底してやる事」
「聖女様?」
呼葉の唐突な呟きに、ロイエンが小首を傾げる。少なくとも、今向かって来ている部隊は戦う事を目的にしている。
「なので、ここは交戦せずに強行突破しようと思います」
そう宣言した呼葉は、ロイエン達クレアデス解放軍にもその方針で進軍するよう交渉を纏めると、聖女部隊の馬車隊に戻って皆にその旨を説明した。
それから間もなく、クレアデス解放軍と聖女部隊は足並みを揃えて野営地を出発した。祝福有りの爆走行軍にも慣れたもので、十歩も進む頃には全軍がいつもの全力疾走状態になっていた。
ズドドドドと地響きを立てて街道を突き進む事しばらく、前方に横長の陣形で移動して来る魔族軍部隊が見えて来る。
「このまま前進! 騎兵は前へ! 盾兵は両脇を固めよ!」
グラドフ将軍の指揮のもと、クレアデス解放軍は正面突破に適した隊列を形成しながら突き進む。聖女部隊は変わらず全軍の中央に位置している。
街道を塞ぐように展開している魔族軍部隊は、クレアデス解放軍が一塊になりながら突撃して来るのを受けて、包囲するべく鶴翼陣形を取り始める。
が、重武装の歩兵が馬よりも速く走る『聖女の祝福』付きクレアデス解放軍と聖女部隊は、敵部隊の中央をあっさり蹴散らして穿ち、突破して見せた。
その際、呼葉は敵兵の様子を見て異常さに気付く。
「ねえ、今の部隊おかしくなかった?」
「確かに、武装が貧弱というか……」
「違和感はありましたね」
アレクトールやザナムは、遠目ながら敵兵の剣や盾はボロボロで、甲冑も革鎧だったり鉄の胸当てだったりと不揃い。動きも緩慢で、魔族軍らしくなかったと同意する。
そこへ、パークスが馬車を寄せて来て言った。
「おいっ! さっきの奴等、隷属の呪印がついてたみてぇだぞ!」
「それは……奴隷兵、という事ですか?」
「なぜこんな場所でそんな部隊を単体で……」
アレクトール達が魔族側の目論見を推し測ろうとしている。呼葉は馬車から身を乗り出すと、後続の馬車を呼び寄せてクラード元将軍にも意見を求めた。
用兵は駄目駄目でも、そういった方面の知識は神官のアレクトール達より詳しいのではないかと期待して訊ねてみたのだが――
「恐らく、足止め目的の部隊なのでは?」
損害を度外視してぶつけられる使い捨ての兵士ではないかというクラード元将軍の推測。
クレアデス解放軍を少しでも長く、この場に留まらせるのが目的とするならば、それに対応する何らかの動きがあるはずだと分析する。
「じゃあやっぱり陽動の類なのかな? パークスさん! ロイエン君達にも警戒するよう言って来て!」
「おぅ!」
ロイエン総指揮とグラドフ将軍の指揮部隊は隊列の少し前の方を走っているので、パークス達を伝令代わりに向かわせた。
周囲は見通しの良い平原で、伏兵が隠れられそうな場所も見当たらない。例え穴を掘って地面に潜んでいたとしても、大爆走中のクレアデス解放軍と聖女部隊を奇襲するのは至難の業だ。
あっという間に通り過ぎるので、至近距離まで引き付けていては間に合わない。かといって早く出過ぎれば、普通に対処されて奇襲の優位性も消える。
(魔族軍側は、奴隷部隊で私達の足止めをして何をしたかったのか……)
呼葉が彼等の狙いを推察している間も、怒涛の勢いで前進を続けるクレアデス解放軍と聖女部隊。先程の奴隷部隊は既に、遥か後方の豆粒となっている。
やがて前方、街道の先から、かなり大きな魔力の光が立ち昇っているのが見えた。
中央街道に関を据えるように、一帯を整地して陣を構える魔族軍の大部隊。魔族軍第四師団から全体のおよそ三分の一、約2000の兵力が、クレアデス解放軍の迎撃に出向いていた。
第四師団はその大半が魔術士で構成されており、味方の支援の他、複数人の魔術士が協力して放つ範囲殲滅魔法や、数十人から数百人以上が協力して発動する広域殲滅魔法などを扱う。
範囲殲滅魔法は直径約十数メートルから五十メートルほどの範囲に影響を及ぼす事が出来る。広域殲滅魔法はその十倍ほどの効果範囲と威力を誇った。
戦略儀式魔法などとも呼ばれている。
ただし、使用には熟練の魔術士が最低でも三十人から必要で、術の開始から発動まで一時間近く掛かる上に、攻撃場所を定める為の『贄』を用意しなければならない。
『贄』にはこの魔法と対になる呪印が施される。『贄』を指定の場所に向かわせて配置する事で、そこを魔法の起点に周囲一帯を激しい炎で焼き尽くすという、移動式焼夷弾のような攻撃魔法。
十人の『贄』を用意すれば、一度の発動で同時に十ヵ所を火の海に沈める事が出来るが、『贄』の数を増やすと術を構築する魔術士の数も増やさなければ威力が下がる。
使い勝手も扱いも難しい術だが、戦場より遥か後方で安全に長い儀式を経て生み出した強力な攻撃魔術を、相手に大魔法の予兆を感じさせずピンポイントで炸裂させる事が出来る。
中々に凶悪でえげつないモノであった。
そして現在、彼等は使役している奴隷部隊に『贄』を潜ませ、クレアデス解放軍にぶつけて殲滅対象の足止めに使いつつ、広域殲滅魔法の準備を進めていた。
1200人の奴隷部隊の中に50人の『贄』を仕込み、1500人の魔術士が術を構築する。まさに大規模な戦略儀式魔法。
「そろそろ『贄』部隊が目標と接触する頃だな。儀式魔法の進捗はどうだ?」
「はっ、間もなく発動可能状態に達します」
地面に描かれた巨大な魔法陣。その周りをぐるりと囲む魔族の熟練魔術士達が、それぞれ担当する箇所の術を構築していく。
術を構築する役の周りには、彼等に魔力を注ぐ補佐役が付き、さらにその周りを術の維持役に補助係りが囲む。
やがて魔法陣から魔力の柱が帯状に立ち昇り始め、発動可能状態に達した。
「よし、予定通りだ――交戦の合図はまだか?」
「それが……目標発見の合図以降、連絡が来ません」
『贄』入り奴隷部隊は当然、奴隷兵だけで運用している訳ではなく、第四師団の少数の正規兵が指揮部隊として就き、全体を管理している。
彼等は奴隷部隊が交戦状態に入れば、本隊に合図を送って即座に離脱する手筈になっているのだが、その指揮部隊からの連絡が無い。
標的であるクレアデス解放軍の、斥候と思しき部隊を確認したという報告が入ったのは明け方で、本隊の接近を捉えたという連絡はつい半刻ほど前だ。
「もうそろそろ戦闘が始まっても良い頃だが……」
その時、陣地周辺の見張りから、街道を北上して来る一団が見えるとの警告が上がった。
「オーヴィスとクレアデスの旗印確認! あれは――クレアデス解放軍と聖女部隊です!」
「なんだとっ!?」
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