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おわりの章
第七十二話:王都アガーシャへ
しおりを挟む奴隷部隊が発見された河原で、彼等を縛る呪印から解放した呼葉達。
ラダナサを始めとする50人の元『贄』だった魔族集団と、奴隷部隊にされていた1200人の難民集団を連れて関所陣地跡に戻って来た聖女部隊は、難民集団を天幕に加えて一休みさせた。
そしてラダナサ達魔族集団には、多くの捕虜を抱える仮設収容所に同行してもらい、捕虜達に使っている魔封じの枷のチェックを頼んだ。
何せ捕虜自身に作らせた急造品なので、性能の信頼性は低い。
故意に作られた不良品なのか、単に制作者の技量が足りていなかったのか、幾つか性能不足や効果に不具合のあるものを見つけて修正してもらった。
収容所の捕虜達は、生け贄部隊として送り出したラダナサ達が、聖女の手先となって自分達の拘束をより強固な物へと補修していく作業を、複雑な思いで見詰めていた。
流石に『同胞を裏切って人間側に付いた』等と悪態を吐ける者は居なかったようだ。
ラダナサ達のチェック作業は、夜明け頃には一段落した。
「これで一先ず問題無いだろう」
「お疲れ様。向こうに天幕を用意してあるから、皆さんゆっくり休んでね」
呼葉は枷の補修に協力してくれたラダナサ達を労うと、難民集団を保護している一画に増設した天幕で休むよう勧めた。
クレアデス解放軍の天幕群との間には聖女部隊の馬車隊が陣取り、さり気なく境界線の役割を果たしている。
第四師団に差し向けられた奴隷部隊を、丸ごと解放して味方に引き込んだ形だが、ラダナサ達魔族の集団には未だ警戒の目が向けられている。
バルダームからの応援を待つ間に、解放軍の兵士達と余計なトラブルが起きないよう配慮した。
クレアデス解放軍と聖女部隊が、魔族軍の関所陣地跡で野営を始めて四日目、バルダームからの応援の第一陣が到着した。
水や食糧などの補給物資と人材を沢山の荷車に満載してやって来ると、荷物と人材を下ろして空になった荷車に、移送する捕虜達を乗せて戻っていく。
最初の一便は通常運行でやって来た輸送隊だが、以降は聖女の祝福が付くので、帰りの移動速度は来る時とは比べ物にならない。
三日掛けてやって来た道程を一日で走破してしまう為、第五陣まで予定されていた応援部隊は三隊編制で往復する輸送体制が確立された。
六日目辺りからは往復する輸送隊が毎日やって来るようになり、1000人を超える捕虜は瞬く間に三つの街へと移送されていった。
保護した難民集団とラダナサ達も、このピストン輸送の最終便で送り出してある。
ここ数日の間、王都アガーシャ方面から魔族軍の斥候らしき部隊が何度か、様子を探りに近くまで来ていたようだが、これといった大きな動きは見せていない。
クレアデス解放軍と聖女部隊は、十分な補給と休息を取る事が出来た。
「明日はいよいよ王都奪還に向けて再出発だね」
「ええ、結局十日近くここで足止めになってしまいましたが」
仮収容所の捕虜達も居なくなり、クレアデス解放軍と聖女部隊の天幕が残る関所陣地跡は少し閑散とした雰囲気になっている。
呼葉と六神官は、中央のひときわ大きな天幕でロイエン総指揮にグラドフ将軍も交えて明日からの進軍行程について話し合っていた。
「第四師団の動向が分かりませんが、まだこの先も広域殲滅魔法のような脅威があると思いますか?」
ロイエンの問いに、呼葉は無いとは言い切れないと答える。
「ラダナサさん達に聞いた限りだと、『贄』の呪印って刻むのにもそれなりに時間と手間が掛かるらしいけどね。今回解放した人達で全部とは限らないんじゃないかな」
魔族軍で禁呪を扱う技術を持っているのは、概ね第四師団に限られるらしい。その第四師団の魔術士達は、ここで呼葉達に大ダメージを負わされた。
数だけ見れば、まだ4000の兵力を有しているとは言え、前線で戦略儀式魔法を扱える熟練の魔術士達をごっそり減らしたのは、かなりの痛手だったのではないかと思われる。
が、それで第四師団が迎撃の手を緩めるような事はないだろう。
「まあ今後も私達に近付いて来る相手は、軍民問わず注意を向けるべきでしょうね」
「そう、なりますか……」
一人の『贄』でも直径500メートルの範囲を焼き尽くすという禁呪・広域殲滅魔法の脅威には、常に周囲の警戒を怠らないようにする等の方法で対処するしかない。
味方を巻き込むので近接戦や乱戦では使えないという欠点もあるが、味方を犠牲にしてでも討ちに来る可能性が無いわけではないのだ。
王都までの進軍とその後の攻略に向けてロイエン達と方針を定めた呼葉は、明日の出発に備えて早目に身体を休めた。
相変わらずの馬車泊ではあるが、今は寝袋で座席にごろ寝では無く、簡単な寝台を用意している。この関所陣地跡での野営中、呼葉が瓦礫から材料を集めて作ったものであった。
アレクトール達は、『聖女様を廃材のベッドに寝かせるのはどうなのか』と微妙な反応だったが、呼葉は『我ながら良い出来だ』と密かに自作ベッドに満足していた。
こっそり隣に眠りに来ているシドにも好評であった。
翌朝。野営の天幕も片付けられて、いよいよ閑散とした関所陣地跡に、出発の号令が響き渡る。クレアデス解放軍と聖女部隊は、王都アガーシャに向けて進軍を再開するのだった。
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