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おわりの章
第八十話:ルーシェント国に向けて
若きアルスバルト王子を国王に戴いた、新生クレアデス王国。王都の正門前に続く中央通りには今、多くの人々が集まっていた。
魔族軍に占領されていた間も王都内で何とか生き延びていた一般民や、疎開先から帰って来た住人達である彼等は、正門から入って来た豪奢な馬車隊に不思議そうな目を向けている。
数日前に、アルスバルト王子の戴冠式が行われるとの報を聞いて、急遽オーヴィス国を出発した旧クレアデス国の軍閥や元重鎮貴族達が乗る馬車隊。
「これは……我々を歓迎している訳ではないようだが……」
「もしや、戴冠式のパレードでも予定していたのでは?」
今日ようやく王都アガーシャに到着した彼等も、まだ復興が始まったばかりである筈の王都で、通りを埋め尽くす程に集まった民衆の群れに、困惑気味であった。
その時、通りの向こうから歓声が上がり始めた。
「聖女様がいらっしゃったぞ!」
「聖女様万歳!」
「コノハ様ーー!」
前方からやって来る馬車隊に、街の人々が手を振って声援を送っている。
救世主一行が来ているのならば道を譲らねばなるまいと、元重鎮貴族達を乗せた車列が脇道に逸れる。
割と面の皮は厚い方である彼等だが、流石にこの状況で中央通りを進む気にはなれなかった。
あまり装飾の無い、質実剛健な雰囲気の馬車が十台ほど、列をなして通り過ぎる。それを尻目に、中央通りから逸れた元重鎮貴族達の馬車隊は、王城を目指して脇道を行く。
相手が救世主だとはいえ、到着して早々余所者に道を譲る羽目になるなど、幸先の悪い帰国となったが、ようやく王都に帰ってこられたかと高揚を隠し切れない元重鎮貴族達。
「ふふふ、後は聖女殿達が何とかしてくれる。我々も優雅で甘美な栄光の日々を取り戻す時だ」
「屋敷も長く空けていたからな。略奪などされていなければ良いのだが」
「まあ、まずは登城して仕事の割り振りをせねばなるまい」
「復興と、ルーシェント国の動向も見定める必要がある。これから忙しくなるぞ」
馬車の中でそんな話を交わしている元重鎮貴族達は、帰国後も以前と同じ役職を担い、引き続き国家の運営に携わっていく事を当然のように考えていた。
アルスバルト王が統べる新生クレアデス王国に、彼等の席など既に無い事を知る由もなかった。
特に布告を出した訳でも無く、自主的に集まった大勢の王都の民達に見送られてアガーシャを出発した聖女部隊は、いつもの爆走モードで中央街道を北上していた。
呼葉は、正門を出る前にちらっと見えた、クレアデス貴族の馬車隊の事を話題に呟く。
「お城についたら揉めるんだろうなぁ」
「アルスバルト王子――いえ、アルスバルト王は、宮廷周りの官僚を全て入れ替える御つもりのようですからね」
呼葉の馬車に同乗しているザナムが、アルスバルト王の大胆な改革に触れる。旧世代の重鎮達を根こそぎ宮廷から追放するという思い切った政策。
これには、王都アガーシャと国境の街パルマムの間にある三つの街で明るみになった、魔族派貴族達の問題が影響している可能性があるとザナムは指摘する。
カルマール、バルダーム、メルオースの街を統治する有力者と幹部達が軒並み魔族派であった事が、王都から落ち延びた王族がパルマムで全員捕らえられた大きな要因になっていた。
軍閥貴族達が見つけて来た王家の血を引く庶子ロイエンを除いて、旧クレアデス王国の最後の王族となったアルスバルト王。
彼は、魔族派貴族に唆されて傀儡王朝を作ろうとしていた旧軍閥派と関係する重鎮勢力を、全て排除する心積もりのようだと。
「アルスバルト王は、自ら険しき道を選びましたね」
王が権威と責任だけ有して君臨するお飾りの傀儡であっても、悪い事ばかりではない。
何しろ海千山千の老獪な貴族達が、内政から外交、軍事に産業、国家運営の絡むあれやこれやを全て考えてくれるのだ。
舵取りと駆け引きに注力して後は王族然としていれば、協調を謡いながら蹴落とし合い、誰よりも富と権力を求めて策を巡らせる、忠実なる臣下達の働きで国は富む。
そんなベテラン勢を排除して、若いアルスバルト王と側近達で国政に臨む事になる。当然ながら、排除された重鎮達も黙って隅に追いやられてはいないだろう。
あの手この手で元の立場に返り咲こうと画策する事は目に見えている。王の暗殺という強硬手段に出る可能性も無いとは言い切れない。
「粛清の嵐とかまで行くかな?」
「軍閥、重鎮貴族派の抵抗次第でしょう」
これから向かうルーシェント国の復興には、クレアデス国の安定が欠かせない。
万が一、内戦に至るような事態になっても大丈夫なように、アルスバルト王とその陣営に属する味方勢力は祝福対象に指定してある。
「まあ、復興支援に人材は期待してないし、物資だけちゃんと送ってくれれば問題無いかな」
道幅も広く整えられた中央街道。魔族勢力との戦いの最前線となるこの地域には、道を行く旅人や商人の姿も無く、通行を妨げる障害物もない。
時折、街道から遠く離れた平野に魔族軍の斥候らしき姿が見え隠れしているが。
聖女部隊の馬車隊は、誰もいない何もない静かな中央街道を、順調に駆け抜けていった。
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