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おわりの章
第八十五話:統治者の選定
聖女部隊と魔族軍によるルナタスの街を巡る攻防は、街を管理していた魔族の統治者達と魔族軍第三師団の撤退、及び第一師団精鋭支援中隊の自滅で一先ずの決着をみた。
この戦いによる街への被害は少なく、防壁の一部が削れたり、中心部の建物が幾つか倒壊した程度に抑えられた。
「お見事でした、コノハ殿」
「上手くいったけど、ちょっと威力があり過ぎたわね」
念の為、暴発を促すべく宝珠の魔弓の準備もしていた呼葉だったが、狙い通り魔族側は聖女の祝福のちょっかいで巨大化した魔力の塊を制御できなかった。
大広場に面した建物は、精鋭支援中隊の自滅というか自爆に巻き込まれてほぼ屋根が吹き飛んでいる。
特に正面の大きな建物は、中隊の指揮官だったフラーグ達が中ほどのバルコニーで自爆した為、横壁に大穴が空いている。
魔族軍側の作戦に使われた建物なので、街の住民達が居なかったのは幸いした。
現在、聖女部隊は領主の館を仮の拠点にして、クレイウッド参謀と兵士隊が解放の報せを告げて回りながら、街の掌握に乗り出している。
パークス達傭兵部隊は館の警備だ。
領主の館にはここで働いていた使用人達が大部屋に避難しており、そのまま残っていたので
彼等から色々と話を聞く事が出来た。
ルナタスの街は、魔族の支配下で普通に統治されていたらしい。魔族の統治者をトップに据え、街の運営には住民から人族が起用されていた。
その辺りのノウハウはやはり人類側が長けているので、細かい業務を任されていたようだ。
街中に解放が周知されると、住民の代表者達が領主の館に集められた。まずはルーシェント国の復興に向けた起点とするべく、ルナタスの街に新たな為政者を立てて安定させる。
「コノハ殿、会談の準備が整いました」
「はーい、今行きまーす」
夕刻過ぎ。応接室のような小部屋で寛いでいた呼葉は、アレクトールの案内で会場に向かった。この館は一階に広いホールがあり、そこに椅子とテーブルを並べて即席の会場にしてある。
集まった代表者達は何れも、魔族の支配下で街の運営を担っていた者達だった。
「皆さん初めまして。私はオーヴィスの聖女で呼葉といいます。魔族の人類侵攻に対抗するべく、ルーシェント国の解放に向けて進軍して来ました」
聖女部隊の名で解放宣言をしていたので、まずは自分達がオーヴィス国から来た者である事と、進軍の目的を明確に告げる。
「聖女……? こいつが?」
「古の救世主伝説にあるというあの?」
「まさか、本当にそんな存在が……」
「建前は分かった。我々を集めた理由の説明を」
ざわざわとしたざわめきの中に聞こえる彼等の呟きから、ルーシェント国にも『聖女伝説』はある程度知られているようではあったが、反応は様々ながら薄い。
不躾な態度を取る者には、クレイウッド参謀やクラード元将軍が睨みを効かせる。
(まあ、よほど酷い統治でもされてたならともかく、いきなり諸手で歓迎とはならないわよね)
召喚した当事国のオーヴィスにさえ懐疑的な者が少なくなかった事を鑑みれば、訝しむのも当然だと理解する呼葉は、あからさまに向けられる胡散臭げな視線は無視して話を進めた。
「私達の目的は現魔王ヴァイルガリンを下して人類の領域を取り戻す事。魔族の侵攻を挫く為にルーシェント国には再び大国として復興して頂きたい」
既に隣国クレアデスは、アルスバルト新王の国政下で復興中である事も伝えると、魔族の統治者周りから漏れ伝わる情報として掴んでいた者達が色めき立つ。
「これは……本当に我らの国が戻るのか」
「だ、大至急、王家の血筋を探さねばっ」
「まて! まずは条件の確認だ。オーヴィスやクレアデスからどれだけ入る?」
魔族の下でながらルナタスの運営に携わっていた者達だけに、為政には聡い。
オーヴィス国から来た聖女が復興の中心となる以上、ルーシェント国の中枢にオーヴィスの影響を強く受ける事になる。
クレアデス国も聖女の活動に深く協力しているなら、王家との繋がりを濃くしている筈だ。同時に、その恩恵も与えられる。
すなわち、ルーシェント国は傀儡化とまでは行かずとも、両国から従属に近い立場に置かれるのではないか。
そう考えたらしい。
「オーヴィスとクレアデスには物資の支援をお願いしてますが、人材の派遣は考えてません」
呼葉は、彼等が危惧する従属国化をきっぱり否定。ルーシェント国にはその国の人々が中心になって復興する事を望んでいると告げた。
「聖女の名において、ルーシェント国の政治に他国の介入を許さない事を保証しますので、そこは大丈夫ですよ」
クレアデス国の新体制にもオーヴィスの思惑は関わっていないと明言する。
(まあ、フォヴィス様が暗躍してそうな気はするけど……)
今後ルーシェント国領内で聖女部隊が活動する上で、王都シェルニアの奪還を進める足掛かりとして、ルナタスの街には早期安定を望むのだと呼葉は語る。
「差し当たって、ここでルナタスの統治者を決めたいと思います」
統治者の選定に言及すると、代表者の一人が疑問を呈した。
「まて、我々の為政にオーヴィスは口出ししないという話ではなかったのか?」
「基本的にはお任せしますけど、信用に足る人が指導者になってくれないと困るので」
魔族派とか、現魔王の勢力と裏で繋がっているような人を立てては、背中から撃たれる危険性があるので具合が悪い。
ルーシェント国の足場が覚束ないとヒルキエラ国を攻め難くなる。故に、統治者には信頼に足る人を選びたい。
少なくとも、ヴァイルガリンを退けて魔族国との関係が安定するまでは、盤石の統治体制でやって貰いたいと説明する。
「誰を統治者に推すかはそちらで候補を挙げてください。その中から私が選びます」
「なぜ俺達の指導者をあんたが選ぶ?」
「私は救世主として各国の王権に匹敵する権威を与えられています」
聖女の名を後ろ盾とするので、オーヴィス国もクレアデス国も無条件でルーシェント国の臨時政府である事を公式に認めてくれる。
それを聞いてざわめく代表者達。
「な、ならばやはり王族の血筋の者を――」
「いやまて、この戦時下で経験の浅い者を立てても仕方あるまい」
「王家の血筋は大事だが、それは王都を取り返してからだ。今は権威の象徴より実務能力を重視すべきだ」
民を束ねる為の象徴役は聖女が担ってくれる。ルーシェント国内の各派閥勢力も、オーヴィスとクレアデスという二大国が認める臨時政府を立てれば結束する筈。
ならば、その役割を誰にあてがうのか。代表者達の間でかなり突っ込んだ話し合いが必要となり、彼等の意見が纏まるまで、呼葉達は暫し休憩をとる事になった。
「はぁ~……」
応接室のような小部屋に戻って来た呼葉は、ソファーに深く身を沈めつつ盛大に息を吐いた。
「大丈夫ですか? コノハ殿」
「けっこうしんどい」
付き添いのアレクトールが心配そうに声を掛けるが、呼葉が素直に『反動がきつい』と吐露すると、少し狼狽え気味に「ネスとルーベリットを呼んで来ます」と言って退室した。
ネスは抱き枕要員。ルーベリットは精神操作系の術で鎮静効果を期待できる。
(そこで自分が癒し要員になるって選択が出ない辺りは、アレク爺さんっぽいなぁ)
と、『付け焼き刃の悟りの境地』の反動で廃都生活の頃の感傷を引き摺っている事を再確認した呼葉は、何とか気持ちの立て直しを図る。
さておき、先程の代表者達のやり取りを見て、改めてどの国もそう変わらないなぁと呼葉は呻く。
どんな時でも、権力に関わる組織には派閥がセットになっており、互いに牽制し合うように出来ているようだ。
「まあ常に先を見据えた行動を取ろうって意味も分かるけどさー」
今は協力し合う事を優先して欲しいと思う呼葉はしかし、彼等の話し合いが纏まっても選定時にまた揉めるんだろうなぁと予感していた。
ルナタスの統治者を決める会談が再開されたのは、夜の帳が下りる頃だった。
住民の代表者達にとっても急な事だった故に、皆着の身着のまま、取る物も取り敢えず集まっていた為、少なからず疲労の色も見える。
ひとまず簡単な食事も用意され、会場のホールは立食パーティーのような雰囲気になっていた。
「候補は決まりましたか?」
「おお、聖女殿」
「ご配慮、感謝いたしますぞ」
ネスとルーベリットを伴い会場に下りて来た呼葉が声を掛けると、代表者達の中でも特に王族を重視していた年配者の多いグループが謝辞を述べて出迎える。
そして彼等とは別に、それぞれ一塊になっている若者の多いグループや、精悍な雰囲気の熟年者ばかりが揃っているグループも集まって来た。
「即日宴の席を開くとは、救世主ってのは貴族の作法にも手慣れてるんだな」
「……」
感心する素振りを装うでもなく、皮肉とも悪態とも取れる言葉を呟く若者グループの代表者に、熟年者グループのおじさん達が困った様子で窘めるような表情を向けている。
そうして各派閥の代表者達が集まると、挨拶もそこそこに若者グループの代表者が口を開いた。
「一応、候補は絞れた。そっちの選定条件を決めてくれ」
「おいっ、お前達は先程から聖女殿に失礼であろう!」
「貴殿等はもう少し礼儀というものをだな……」
年配者グループと熟年者グループの代表者が苦言を呈するも、若者グループの代表者は彼等を一瞥して鼻で笑った。
「悪いが、こうして茶番に付き合ってる時点でこちらは十分譲歩している。必要なのは交渉を纏める事だろう」
そして悪びれもせずそう言い放つ。そんな若者グループの代表者の不遜な態度には、六神官の皆も眉を顰めたが、呼葉は淡々と対処する。
「茶番の意味は分かりませんが、選ぶ基準は決めてあります」
魔族の手先にならず、本気でルーシェント国を復興し、民を救いたいと願っている者。そういう人を指導者として立てるべく、『聖女の祝福』を選定に使うと語った。
「聖女の祝福ねぇ……」
またぞろ胡乱気な目を向けて来る若者グループの代表者は捨て置き、呼葉は『聖女の祝福』の特性について皆に説明する。
「今言った条件に見合う人には祝福が掛かります。私の祝福が掛かると身体能力が何倍にも増すので簡単に見分けが付きますし、その人達の活動を永続的に助ける事が出来ます」
また、この選定法を使う事で、オーヴィスの聖都では王宮や神殿の中枢から魔族派を燻り出して排除する事も出来たと付け加える。
「そ、そのような力が……」
「少数の部隊であの魔族軍を退けられたのも、その力の恩恵という訳ですな?」
「……」
聖女の祝福がもたらせる効果の説明に、驚く年配者グループと、関心を示す熟年者グループのおじさん達。
若者グループの代表者は、『魔族派を燻り出して排除した』の下りにピクリと反応した。
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