遅れた救世主【聖女版】

ヘロー天気

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おわりの章

第八十九話:王都シェルニアの魔族軍事情



 ルナタスの街を出発した聖女部隊が王都シェルニアを目指して街道を爆走していた頃。
 シェルニアに駐留している魔族軍第一師団の各部隊長や指揮官達が、現在司令部として使っている王城の会議室に集まり、本国ヒルキエラからの帰投命令について論じあっていた。

「むざむざここ王都を明け渡せと言うのか!」
「ヴァイルガリン様には何かお考えがあるのだろう」

 『聖女との交戦を避け、全軍は直ちにヒルキエラへ帰投せよ』。
 この命令を不服とする好戦派の指揮官は少なくなかったが、聖女と二度も交戦した第三師団からの報告を鑑みても、妥当な判断であると冷静に考えられる指揮官も多かった。

「現状、聖女の強化魔法に対抗する術が確立していない。このまま無策に戦うのは愚の骨頂」
「『伝説の聖女』の力が我々を上回っている事を認めよう」

「しかし、一戦も交えずというのは……」
「間接的になら既に一戦交えているじゃないか」

 第一師団の体裁を気にする指揮官には、ルナタスに派遣された精鋭支援中隊の件を出して説く。
 強化魔獣部隊の運用試験を担う第三師団の補佐役として抜擢された精鋭支援中隊は、聖女との戦闘は最低限の牽制に留めて戻るよう指示されていたのにも関わらず正面から挑み、壊滅した。
 顛末を目撃した斥候の話によると、聖女の強化魔法で自爆させられたらしいとの事。

「強敵を相手に万全を期すのは至極当然の道理である」
「聖女さえ討ち取ってしまえば、何処からでも巻き返せよう」
「ヴァイルガリン様の深慮を理解せず、闇雲に挑んで破れる事こそ恥と心得るべきだ」

 そんな調子で帰投命令に理解を示す指揮官が多数を占めた第一師団は、その後大きな混乱も起こさず、聖女部隊が現れる前にシェルニアからの全軍撤退を始めるのだった。


 第一師団と第三師団がシェルニアを放棄してヒルキエラに引き揚げる準備を整え終えた頃。
 街道の先から土煙を上げながら爆走して来る聖女部隊の馬車隊が、シェルニアの防壁上にある見張り台から確認された。

「報告! 聖女部隊と思しき少数の馬車隊が接近中!」
「なにっ!?」
「幾らなんでも早すぎるだろう!」

 ルナタスから聖女部隊が出たという報せが届いてまだ二日程しか経っていない。
 足止めの迎撃部隊を出した方が良いか、とにかく撤退を急ぐべきかと少しバタバタする司令部。すると、全面撤退に難色を示していた好戦派の指揮官達が足止めに名乗りを上げた。

「我々が打って出ている間に、本隊の撤退を」

 身体強化術による近接戦闘と機動力に特化した精鋭遊撃部隊を運用する指揮官達が、師団長に出撃の許可を求める。

「いや、別に打って出ずとも、今なら直ぐに全軍で撤退すれば十分間に合うと思うが……」
「それでも殿は必要でしょう。なあに、強化魔法なら我々に一日の長がありますよ」

 第一師団長は迷う。これまでの報告通りなら、聖女部隊は制圧目標を確保すれば追撃をして来ない事がほぼ確定している。

 魔王ヴァイルガリンから全軍に『直ちに戻れ』と指示が出ている以上、本国ヒルキエラでそれを踏まえた何かしらの任務がある筈だ。
 ここで徒に兵を減らすような失態は許されない。

 第一師団長達のやり取りを部屋の隅で眺めている第三師団の指揮官達は、つい最近ルナタスで見たようなやり取りだなと、既視感など覚えていた。



 ルーシェント国の属領ルナタスの街を出発して快調に街道を飛ばして来た聖女部隊の馬車隊は、王都シェルニアの街影が見えるギリギリの場所で速度を落とし始め、街道脇の休憩場で停車した。

 シェルニアに潜伏している『縁合』から、魔族軍はヒルキエラに撤退する準備をしているという情報を得ていたので、戦闘を回避出来るなら無理に戦う必要は無いと様子を見る事にしたのだ。

「シェルニアの『縁合』とは連絡付きそう?」
「どうでしょう? こちらの位置は確認出来ていると思いますが」

 呼葉の問いに、現在のシェルニアの状況次第では厳しいかもしれないと、クレイウッド参謀やザナム達が答える。
 情報通り撤退するなら、夕刻前から明日の朝頃くらいには動きがある筈だと、聖女部隊は防御陣を敷いて警戒態勢のまま待機に入った。

 呼葉の乗る馬車に横付けされている使用人達の馬車回りでは簡単な料理等が作られ、陣を護る兵士隊や傭兵部隊に振る舞われている。

 その時、見張り役から警告が上がった。

「魔族軍部隊接近中! 数――凡そ八十! 騎兵及び魔物・魔獣は見当たらず!」

 全て歩兵だけの部隊だと言う。

「少ないね? 何か交渉に来たのかな?」
「ルイニエナ嬢に確認して貰いましょう」

 使用人に交じって給仕をしていたルイニエナが呼ばれると、呼葉と一緒に見張り役が陣取っている馬車の屋根に上がる。

「あの部隊なんだけど、目的とか分かる?」
「うわ……」

 街道の先からやって来る魔族軍の歩兵部隊とその軍旗を認めたルイニエナが、思わず声を漏らしてげんなりとした表情を見せた。
 もうそれだけで『悪い予感しかしない』と察する呼葉。

「あれは、第一師団の精鋭遊撃歩兵小隊です。強化系魔術による近接戦闘に特化した斥候部隊ですが……あまりの素行の悪さから街などの拠点制圧任務からは毎回外されているそうです」

「ふーむ? 素行の悪さって、略奪とか着服とか?」
「それもありますが無闇矢鱈と暴力を振るうので不必要に犠牲が出過ぎるんですよ」

 ルイニエナに言わせれば、不相応な力を持ったチンピラ集団と変わりないらしい。
 それなりに功績も上げて第一師団に所属していられるだけの実力はあるので、余計に性質が悪いとの酷評だった。

「そっかー。じゃあ話し合いに来た訳じゃ無さそうだね」

 近付いて来る魔族軍部隊を横目に、呼葉は聖女部隊の皆に迎撃準備を促すのだった。


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