遅れた救世主【聖女版】

ヘロー天気

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おわりの章

第九十話:遊撃歩兵小隊との戦い




 王都シェルニアの街影を視界に捉えられるギリギリの距離にある街道脇の休憩場にて。
 近付いて来る魔族軍部隊に対し、聖女部隊からは傭兵部隊のパークス達が防護陣を出て迎撃の構えを見せた。
 兵士隊は陣内で待機させ、臨機応変に動いてもらう。

 接近中の部隊は第一師団に所属する精鋭の斥候部隊で、近接戦に特化した『遊撃歩兵小隊』。ルイニエナの話では、素行にかなり問題がある性質の悪い実力者集団との事だった。

「近接戦闘に特化してるんなら、パークスさん達だけで大丈夫かな?」
「そうですな。コノハ殿の祝福とあの大剣込みで十分対処可能かと」

 呼葉がクレイウッドと戦力の見積もりをしていると、ルイニエナから「そんなに甘い相手ではない」と忠告された。

「彼等のやり方はとにかく悪辣なんです。まともな戦いにはならないと考えて下さい。恐らく、初手は先陣の傭兵部隊を無視してこちらの非戦闘員を狙って来ますよ」

 馬車で円陣を組んでしっかり防備を固めてはいるが、陣内に飛び込んで来られると確かに厄介である。

「じゃあクラードさんにも警戒を促しておこう」

 非戦闘員や六神官の皆は馬車に乗せて戸締まりをした上で兵士隊を護りにつかせた。
 馬車自体も祝福効果で砦並みに丈夫なので、破壊される心配はない。これで一先ず安心かと考える呼葉だったが、敵部隊の様子を観察していたルイニエナが更なる警告を発した。

「あの装備は……まずいですコノハさん」
「え? なになに? 装備がどうしたの?」

 遊撃歩兵小隊の性質の悪さ。目的の為に一切の手段を選ばないという手合いは珍しくもないが、問題は彼等の使う戦術内容の酷さにあった。

 ルイニエナの情報によると、普段の遊撃歩兵小隊は得意の近接戦と機動力の妨げにならないよう軽装備で活動しているらしい。それが、現在は顔全体を覆う兜を装備している。

「あれを装備している時は、火を放ったり毒の煙を撒いたりするんです」

 周囲への影響を全く考慮しない為、戦闘と関係のないところにかなりの被害が出るらしい。この休憩場一帯は草木に囲まれているので、広範囲に火を放つくらいはやりそうとの事。

「じゃあ接近させないように宝珠の魔弓で――」

 呼葉は、圧縮火炎弾は威力が高過ぎる上に少数の素早い敵には不向きと判断。
 命中率の高い追尾機能付き魔法の矢による遠距離攻撃に切り替えようとしたその時、敵小隊が盾を掲げた。

 使い手の身長くらいはありそうな縦長の大きなその盾には、子供が括り付けられていた。それを見たパークスが思わず叫ぶ。

「はぁ!? 何してやがるんだアイツ等!」

 文字通り子供を盾にして向かって来る遊撃歩兵小隊に、ざわめく聖女部隊。
 確実に接近する為の策なのであろうが、先程のルイニエナの情報通りなら、肉薄してから火や毒が使われる事になる。

「なるほど、これは悪辣だわ」

 魔獣達の純粋な殺意よりも、人の悪意の方が何倍も性質が悪い。呼葉はそんな風に思いながら、盾に括り付けられている子供達に聖女の祝福を贈る。
 同時に、盾持ちの脳天を狙って魔弓を放った。

 緑色の軌跡を引きながら飛んで行った魔法の矢が遊撃歩兵小隊の頭上に迫ると、人質付きの盾が当然のように真上に翳される。

 呼葉はその瞬間を狙って、素早く圧縮火炎球を発現させた。少し威力控えめになった圧縮火炎光線が遊撃歩兵小隊の足元を薙ぎ払う。

 この攻撃は予想外だったらしく、先頭付近の隊列が軒並み倒れた。まだ三分の二ほどの後続が残っている。
 呼葉としては、今の一撃で一網打尽にしたかったのだが、距離と角度の問題で難しかった。

 遊撃歩兵小隊はこのまま真っ直ぐ進むのは危険と判断したらしく、散開して街道脇の森の中に飛び込んだ。その際、移動の邪魔になる人質付きの盾も放棄された。

 足を薙ぎ払われて街道に置き去りにされた兵達は、子供が括り付けられている盾で身を護ろうとしている。が、呼葉が放った魔法の矢は拘束の縄を撃ち抜いていた。

 祝福効果で強化された子供達は緩んだ拘束から自力で脱出すると、助けを求めて聖女部隊の方に駆け寄って来る。

「無いとは思うけど、あの子達の中に『贄』の反応は?」
「反応無し。問題無し。保護されたし」

 馬車の中から呪印の気配を調べていたルーベリットが、呼葉の問いにそう答えた。
 どうやら大丈夫っぽいという事で、聖女部隊の馬車隊防護陣の前まで来た子供達を保護するべく、馬車を動かして陣の一部を開く。
 そのタイミングで、街道脇の森の中から毒々しい色の煙を吐く筒状の何かが飛んで来た。

「やると思った」

 ルイニエナからの情報と、ここまでの遊撃歩兵小隊のやり方から次の行動を読んでいた呼葉は、風壁を発現させて毒ガスと思われる煙と筒を遮断。
 人質だった子供達全員の保護を確認後、パークス達も防護陣の中に戻して風壁の威力を上げ、風の魔術による物理的な防壁を築いた。

 保護した子供達の中には怪我を負っている子も多く、六神官と神殿から出向している神官達に治療を任せる。

 事情を聞いてみると、子供達は王都シェルニアに住む一般民の子供に孤児達も交じっており、今日の朝方に突然攫われて来たという。
 街の通りで遊んでいた子達や、適当に押し入った家から問答無用で連れ去ったらしい。

「何それ、ほんっとに性質悪いわね」

 戦い方だけでなく行動全般が悪辣だと眉を顰める呼葉。風壁の外では盛大に煙が上がっている。どうやら森に火を放ったようだ。
 周囲一帯を焼け野原にする事を厭わない所業に、聖女部隊の面々は目を瞠る。

「コノハ殿、このままでは――」
「森が焼けたら復興にも影響が出るよね」

 熱と煙に巻かれて危険だと訴えようとしたクレイウッドにそう答えた呼葉は、宝杖フェルティリティを掲げて風壁を強化した。竜巻のように渦巻かせた暴風壁の範囲を徐々に広げていく。

「あの部隊は、ここで叩き潰す」

 そうして遊撃歩兵小隊の殲滅を宣言したのだった。


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