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しょうかんの章
第九十五話:魔族国の首都
聖女部隊の本隊を囮に、魔族の義勇兵部隊と抜け道を通って国境を越えた呼葉達は、ヒルキエラ国の山岳地帯にある『縁合』の隠れ里に到着した。
ここからヒルキエラ国の首都までは、およそ一日の距離。『縁合』の商隊に交じって、村の収入源である魔鉱石を運ぶ荷駄隊と共に首都を目指す。
昼頃に出発して山道の途中で一泊し、翌日の昼前に到着する予定だ。
「あまり移動が早いと不審に思われるので、道中の祝福は軽めか無しでお願いします」
「そうだね。首都に入る前にバレたら面倒だし」
案内役である荷駄隊のリーダーから説明を受ける呼葉は、自分達が乗っていく荷運び用の地竜を見上げながら了承した。
呼葉達と共に『縁合』の隠れ里まで一緒にやって来た魔族の義勇兵部隊は二十八人。この内、首都に同行するのは義勇兵部隊長のツェルオのみ。
残りはツェルオの側近である元第三師団副長の二人が臨時の指揮官となり、状況に応じて動けるよう村で待機する。
首都に潜伏している『縁合』同志からの情報によると、魔族軍側はルーシェント国から撤退した第一師団と第三師団が聖女の追撃を受けて、かなりの損害が出た事を重く受け止めているそうだ。
特に、第三師団は師団長とその周りの側近達が軒並み行方不明。事実上、第三師団は壊滅した事になっている。
帰還した第一師団の報告内容を確認したり、軍の再編を検討したりと、首都の軍部は大分混乱しているらしい。
それに加えて中央街道からは聖女部隊が迫っているので、そちらの対処にも気を取られている。今なら十分に隙を突けるだろうとの事。
「情勢が落ち着くまでに速やかに首都に潜入して、カラセオスさんとの交渉を済ませましょう」
呼葉の言葉に、今回の交渉の要にもなるルイニエナは静かに頷いた。
出発の時間まで、村長の家の客間を借りて仮眠を取る呼葉。傍には隠密中のシドが付いている。夜を通して抜け道を進んで来たが、祝福の効果もあって身体にあまり疲労はない。
しかし、精神面ではそれなりに疲れていた。
(もう直ぐ、この旅も終わる……。私、ちゃんと元の世界に還れるのかな?)
全てが手遅れな世界に召喚され、そこから始まりの時間軸まで遡り、ここまでやって来た。後は元凶でもあるヴァイルガリンを下し、人間と共存可能な魔王を立てる。
(召還の儀は、オーヴィスまで戻らなくてもその場でやって貰えばいいかな)
祝福で十分に強化されていれば、消費する寿命もかなり抑えられる筈と考える。
廃都生活の頃にアレクトール爺さん達から聞いた話では、元の世界から呼び戻される事になる召還の儀には、特別な魔法陣などは必要ないらしい。
召喚と召還はセットになっており、呼び出された当人の意志が還る事を望む限り、元の世界に分け置かれた魂の欠片が道しるべとなって、還る場所を示し維持し続けるのだそうだ。
(まずはカラセオスさんの説得。上手く行ったら、義勇兵部隊を呼んで魔王城に奇襲――それから。アレクトールさん達とも合流して――……)
呼葉は、今後の計画と段取りを思い浮かべながら、暫しの仮眠に入るのだった。
太陽が真上に来る頃。『縁合』の隠れ里から呼葉達を乗せた荷駄隊が出発した。魔鉱石を積んだ大型の荷車を引く三頭の地竜が、のっしのっしと灰色の山道を歩き出す。
呼葉と姿の見えないシド、ルイニエナにツェルオ達は、目立たないようフードを被って二番目の地竜に乗っている。
里村の住人は全員『縁合』の関係者だが、組織の活動とは無縁の生活を送っている者達も多い。
荷駄隊のメンバーは長くこの里村と首都を往復しての取り引きを行っているので、首都の門番とは長年の顔見知りになっているそうな。
「普段通りの行程で首都に入りますので、聖女様方はもし声を掛けられても人見知りの新顔で通して下さい」
「りょーかいです。よろしくお願いしますね」
下手に会話してボロを出さないよう、全て荷駄隊のリーダー達に任せる。イザという場合の行動方針も軽く話し合ってあるので、後は無事首都に入れるよう祈るだけだ。
岩山に囲まれた山道脇で一泊の野営を挟み、呼葉達を乗せた荷駄隊は山の麓まで下りて来た。ここから少し平地が続いた先に、魔族国ヒルキエラの首都ソーマが聳えている。
「え、あの山が首都?」
「そうです。ソーマは岩山を丸ごとくり抜いて造られた都なんですよ」
切り立った崖のような防壁が巨大過ぎて、外からは街の様子を窺う事は出来ない。巨大防壁を見上げながら道なりに進んでいくと、トンネルの入り口のような門の前に辿り着いた。
ソーマには複数の門があり、ここより西の方には軍隊など一度に大勢の出入りが可能な大正門が立っているらしい。
そちらは中央街道と合流する大きな道に繋がっている。裏門に近いこちらは、ソーマ周辺の村落から来る交易商人向けの、搬入口のような門であった。
「お、魔鉱石か。今回も何時も通りだな」
「ええ、安定して採掘できるので村の生命線ですよ」
門番と気軽な言葉を交わした荷駄隊のリーダーは、身分証を呈示して首都に入る許可書を貰う。既に何十年と通う顔なじみとの何時ものやり取りで、荷物の検査もそこそこに都の門を通過した。
荷駄隊に今まで見た事が無い新顔が交じっていても、門番は不審に思わなかったようだ。
首都を囲う天然の防壁の巨大さは、その高さだけでなく厚みにも及ぶ。門を潜った荷駄隊がトンネル状の通路に入って暫く進むも、まだ出口に辿り着かない。
壁には光る鉱石を使った魔導具らしき照明が広い間隔で埋め込まれており、少し薄暗い通路が長く続いている。
途中で二度ほど角を曲がって、ようやく出口の光が見えて来る。
トンネルを抜けると、そこには無数の建物がひしめき合って乱立する、灰色の街並みが広がっていた。
「わぁ」
「ようこそ、魔族の都ソーマへ。我々は聖女様の来訪を歓迎します」
荷駄隊のリーダーは、遥々南の大国オーヴィスから遂にここまでやって来た聖女コノハを称えて、こっそり歓迎の言葉を送るのだった。
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