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しょうかんの章
第百一話:謎の光
ヴァイルガリンが編み出した禁忌の術『闘争の蟲毒』により造られた異形化兵は強力で、聖女の祝福で強化された魔族戦士とも互角の戦いを見せた。
カラセオスと精鋭戦士達もヴァイルガリンまで近付けないでいる。ツェルオ達義勇兵部隊が何とか斬り開こうと奮闘しているが、異形化兵の護りは硬く、突破は容易ではない。
呼葉から宝珠の大剣と盾を託されているパークスやクレイウッドは、そもそもこの戦いの最前線には入って行けそうにないので、呼葉と六神官の護衛を優先している。
はぐれ異形化兵が流れて来ても、足止めくいらいなら出来ると踏んでいた。ともあれ、乱戦気味ながら膠着している状況に唸る呼葉。
「うーん、あんまり長期戦になったらマズいわね」
「そうでしょうか? 今は拮抗していますが、コノハ殿の祝福は期間に制限もありませんし、いずれ向こうが力尽きるのでは?」
アレクトール曰く、本人が眠っていても効果が続く聖女の祝福に対して、ヴァイルガリンの禁忌の術は限られた空間にのみ作用するもので、且つ維持にも相当な魔力が必要とされるように見える。
長引けばそれだけこちらが有利になるのでは? と考えているらしい。
「そうとも言い切れないのよね。このヤバい結界の感覚、多分私が最初に召喚された時代にあったものだと思うのよ」
呼葉がソーマ城のエントランスからここに来るまでに感じていた、覚えのある重苦しい空気。
五十年後の別の未来で、世界を覆っていた気配。悪意で縫われた薄いヴェールが掛かったような、ざらついた感覚に似ているのだと呼葉は言う。
あの時代に徘徊していた魔獣や魔物は、魔王の力で強化されていた。ヴァイルガリンの『闘争の蟲毒』は、いずれ世界を覆うような規模にまで至る可能性がある。
「さっきの話しぶりだと、私に対抗する為に召喚魔法陣を解析して作ったって事になってるけど、解析自体は召喚の儀式がされる前からやってたんだと思うの」
最初の召喚魔法陣が一文字間違っていたのは、魔族派の工作による故意説がほぼ確定しているが、案外そこにヴァイルガリンが深く係わっていたのかもしれないと呼葉は推察していた。
そんな召喚魔法陣を解析して作り出したという『次元門』。
ヴァイルガリンは、玉座の上に浮かぶ亀裂を通じて並行世界の自身から力を得たと言っていた。
その力はどのくらい続くのか。既にヴァイルガリンに定着した力なのか、はたまた次元門が開いている間だけ有効なのか。
「もし『闘争の蟲毒』が首都全体まで広がったら、首都中の魔族の人がああなっちゃう?」
「それは……確かにマズいですね」
「もはや地獄のような光景になりそうです」
住人が全て異形になって、魔界と化した首都ソーマの様子を想像したアレクトールとザナムが、思わず顔を顰める。
「あの次元門を壊す事はできないんでしょうか?」
「やってみるね」
ネスの素朴な疑問に、試してみる価値はあると思った呼葉は即座に圧縮火炎球を発現させると、次元門に向かって圧縮火炎光線を放った。
しかし、次元門を直撃した圧縮火炎光線は、そのまま黒い亀裂の中へ消えてしまった。
「駄目っぽい」
光線が射貫いた手応えも無く、次元門にも変化は見られない。ヴァイルガリンが自慢げに語っていた次元門に関しては、カラセオス達も調べようとしているようだが、流石に護りが硬い。
「召喚魔法陣を元にした魔法陣らしいから、破壊するには物理的に削る必要があるのかも?」
「それ以前に玉座まで近付けそうにねーみてーだぜ」
呼葉がアレクトール達六神官にパークスやクレイウッドも交えながら、現状の打開策を話し合っている間も戦いは続く。
拮抗しているが故に後方から大きい一発を放つ事も難しく、呼葉は祝福を維持しながら魔弓で援護も行いつつ、カラセオスやツェルオ達の戦いを見守るのみ。
聖女部隊の面々はその呼葉を警護するにとどまっている。
一応、六神官達は治癒術を扱えるので、負傷して下がって来た魔族戦士の治癒も引き受けていた。精鋭の戦士達なので自前で治癒も行えるが、専門家の方が回復効果も高い。
そんな一進一退の攻防が続く玉座の間。戦闘開始から体感で結構な時間が経った頃、戦線の一部が崩れ始めた。
呼葉が祝福を与えた相手には度々告げている注意事項。
装備品も含めて数倍の能力を得られるとて、決して不死や無敵になったりする訳ではない。通常の数倍の力を発揮して数倍の時間動けるようになるだけで、体力も魔力も無尽蔵ではないのだ。
回復力を上回る力を以て全力で戦っていれば、おのずと限界は訪れる。
一方で、異形化兵の動きに鈍りは見られない。
恐らくはこの『闘争の蟲毒』の影響か、力の供給源が外部にある形なので、個々の体力や魔力は供給が維持される限り無尽蔵なのだろう。
「やっぱり長期戦は不利っぽい。けど立て直しの切っ掛けが掴めない」
「こちらも最大戦力で動いていますからね」
味方の援軍は、城の外や道中の露払いを受け持っていた部隊を集めれば、まだ少しは増やせるかもしれない。
しかし、カラセオス率いる精鋭の魔族戦士達が祝福込みでも押し切れない異形化兵が相手では、半端な援軍など焼け石に水。無駄に犠牲を増やすだけだ。
ヴァイルガリンを目前にしながらも、並行世界のヴァイルガリン自身という予想外の伏兵によって手詰まりの状態。
このまま戦いを続けてもこちらがジリ貧なのは確実で、一度撤退する事も視野に入れ始めるも、しかしそうするとヴァイルガリンの戦力が際限なく膨れ上がる。
「一旦退いて異形化兵の対策も考えて攻めれば行けそうな気はするけど……多分首都が壊滅するわね」
恐らくヴァイルガリンは、軍民問わず首都の住人を異形化兵に仕立て上げて来るだろう。聖女の介入はあれど魔族同士の戦いになる上に、途方もない犠牲を出す事になる。
生き残った魔族達の間にも深い遺恨を残し、その後の統治にも悪影響が及びそうだ。
「人類との共存っていう最終的な落としどころが難しくなりそうな展開は避けたいし、今夜中に決着付けたいけど……」
「カラセオス殿達もヴァイルガリンの息切れを狙っているようですが、一向に尽きる様子が見られませんね」
玉座に陣取るヴァイルガリンは、周囲を防御に特化した異形化兵に護らせながら、時折前衛に援護の魔法など放ちつつ元気に指揮を執っている。
損傷が嵩んで欠損が増えたり、討たれた異形化兵はすぐさま下がらせ、二個一で再融合させて前衛に戻すというサイクルを続けているが、その勢いに全く衰える気配がない。
異形化兵の素材にも後どのくらいストックがあるのか、未だに玉座後方の部屋から魔族の兵士や使用人がふらふらと歩み出ては、足りなくなった異形化兵の足しにされている。
「く……っ スマンが限界のようだ!」
カラセオスと並んで前衛を務めていた精鋭戦士、首都ソーマ内で『地区』の一つを治める族長の一人が大きく後退した。
すぐさまその穴を埋めるべく魔族戦士やツェルオの義勇兵達が詰めるも、全体的にじりじりと押され始めている。
玉座の間の中央付近で対峙していた前線は、三分の一程まで後方に下がっていた。
それに勢い付くヴァイルガリンと異形化兵。これはいよいよ危険かと、カラセオス達が呼葉に撤退の準備を促そうとした時、それは起こった。
「な、なんだっ」
「次元門から光が……!」
突如、次元門から迸った白い光が玉座の周辺を薙いだ。その瞬間、ヴァイルガリンの周りに配備されていた異形化兵が数体、真っ二つに斬り裂かれる。
「グガああアアアアア!」
そしてヴァイルガリンの絶叫。謎の光は玉座も掠めており、ヴァイルガリンの右肩から先が消えて血が噴き出していた。
直ぐに止血したようだが、かなりの深手を負ったらしく、一瞬異形化兵の動きが止まった。
反撃の好機と言いたいところだが、あまりに突然の出来事でカラセオスや呼葉達も固まっている。
「い、一体何が――」
双方の誰もが事態の把握に努めようとする中、ヴァイルガリンの狼狽したような怒声が玉座の間に響き渡った。
「「な、なニをヤって――何故ちゃんト防がナ――今のハ我のせいデハ……! ソもソも敵に手ノ内を喋ルなど! 目を離スなど油断ガ過ぎル!」」
奇妙に重なって聞こえるそれは、まるで自分自身と言い争いをしているように感じた。
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