異界の魔術士

ヘロー天気

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三界巡行編

第四章:カルツィオ四大国事情

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 カルツィオ聖堂で四大国会談の『酒盛り』に飛び入り参加した朔耶は、そこで各国の立場や状況を掻い摘んで聞いたり、予定通りブルガーデンとトレントリエッタの代表達に挨拶したりしていた。

「貴女がサクヤ殿か。活躍は聞いている。是非、貴女の戦略指針について伺いたいな」

 トレントリエッタの代表でグラマラスな緑髪の女性ベネフョストには、国家戦略について助言を求められた。
 何せ国政のほとんどが行き当たりばったりな国柄なので、何か一本強力な基礎となる指針が欲しいという。
 ベネフョスト自身は、あくまで用兵に特化した戦術レベルまでしか思議が及ばないのだそうな。

「いやー、あたしも素人だから流石に国家の指針とかはちょっと……」

 ブルガーデンの代表で双子の女官サーシャとマーシャには、ストレートに来訪を促された。

「どうか我が国の女王、リシャレウス様にお会いして頂きたい」
「私達だけじゃ力不足で……貴方のような人にリシャ様の支えになって欲しいんだ」

 現在のブルガーデンは、非常に強い権威と国民の支持に支えられる女王リシャレウスが、政務のほとんど全てを一人で取り仕切っているという。
 国内で女王の権威が強過ぎて同格の存在が居ない為、政務に忙殺される日々の中で、プライベートな僅かな間にしか心を休められる時間が無い。
 朔耶のように色々超越している存在なら、公務中の女王とも官僚達の目を憚る事なく交流を図り、リシャレウスの心労の負担も軽減出来るはずだと。

「それ絶対変な噂の温床になるよね」

 カルツィオでは第三者的な立場に身を置くつもりが、ガッツリ政治的なアプローチを受けて困惑する朔耶。そこへアユウカスが割って入る。

「これこれお前さん達、サクヤ嬢が困っておるじゃろ」

 自重せいと諫められてアピールを控える両国代表。若干静かになった会場で、朔耶を晩餐の席に誘ったアユウカスは、おもむろに訊ねた。

「ところで、ガゼッタに来る予定はないかの?」
「絶対言うと思った」

 はいはいお約束お約束と流しつつ料理にありつく朔耶に、アユウカスもカッカと笑いながら食事に戻る。
 割と深刻な勧誘合戦を、軽い余興にして収めて見せるアユウカスであった。


 翌日。
 朝からアルシアの自室を訪れた朔耶は、そんなカルツィオ聖堂の『会談』の様子を話していた。

「なんかもーあからさまに自国に呼び込もうとするしさー」
「ははは、それは仕方あるまい」

 味方に付けておいてこれほど心強い存在は他に居ないと、朔耶の価値を評したアルシアは、朔耶が持って来たお土産のクッキーを一緒に齧りながら、件の二国の代表の動きに理解を示した。
 そして話は四大国会談での朔耶の愚痴から、そこで話し合われた対ポルヴァーティア政策に及ぶ。ガゼッタの里巫女が、大神官を籠絡する方向で進めるつもりらしい、という内容。

 それを聞いたアルシアは、微妙な表情を浮かべた。彼女の大神官に対する認識は、古の勇者パルサに色々暴露されたおかげで、もう以前のような依存的な気持ちは無い。
 が、やはり一度は父のように慕い、信頼して気持ちを委ねた相手なので、それなりに情は残っている。年も年なので、身を持ち崩さないかと心配しているようであった。

「まあその辺りはアユウカスさんが上手い事やると思うよ?」

 男の操縦法には相当長けていそうだしと、朔耶がアユウカスについて言及すると、アルシアは声を潜めながら『籠絡』の内容について話題にする。

「や、やはり身体を使ったりするのだろうか」
「そりゃあ誘惑する気満々だって悠介君も言ってたくらいだから、色々するんでしょ」
「ゆ、誘惑っ!?」

 マンションの一室のような自室にて、朝のティータイムがてらヒソヒソと政治的な乙女の密談をする朔耶とアルシアであった。


 アルシアの自室を後にした朔耶は、次に自宅庭を経由し、悠介の近くを目指して転移。カルツィオ聖堂に出るかと思いきや、昨晩帰国していたらしく、いつものヴォルアンス宮殿の部屋に居た。

「やほー悠介君、もうこっちに戻ってたんだ? あ、ヴォレットちゃんもやほー」
「ちゃーす、晩餐会終わってから直ぐ帰国しましたからね」
「おおう、サクヤか」

 いつものガラクタ漁りに来ているヴォレットは、赤い浮遊ソファに乗っていた。
 今日は特に緊急の用事があった訳でもなく、顔見せに訪れたダケの朔耶だったが、悠介の方から朔耶に伝えたい事があったようだ。

「丁度良かった、レクティマの事なんですけど」
「ティマちゃん? 何か動きあった?」
「ちょっと記憶が戻り掛けてるみたいっす」
「え、ホント?」

 昨晩遅くに帰国した悠介は、彼の屋敷の同居人達からレクティマの状態について報告を受けたという。

 収穫祭というお祭りで、スンの故郷の村に数日滞在していた同居人達の中にレクティマも居たのだが、大勢の人に応対した影響なのか、リゾート観光施設で接客していた頃の記憶が戻ったらしいのだ。
 今は待機用の椅子に座ってスリープモード状態になっており、記憶の整理中との事。

 近々フォンクランクの代表がガゼッタの代表と共にポルヴァーティアに渡る。

「しばらくは俺にも時間が出来ると思うんで、同僚機に合わせるなら今が良い時期かも」
「そっか。じゃあコウ君達の様子を見てから、近い内に連れて来るね」

 今は古代文明遺跡の探索をやっているので、その時代の記録という知識を持つ同僚機エイネリアの力も必要らしいのだ。その話に、ヴォレットが反応した。

「探索と言えば、宮殿の地下探索もそろそろ再開したいのう」
「そういやあれから放置されてたな」

 サンクアディエットが大きくなる度に、上へ上へと増築されて来たヴォルアンス宮殿の地下は、時代別に放棄された古い階層が連なっており、地下迷宮のようになっている。
 悠介達はポルヴァーティア襲来の直前まで、よく地下に下りては探索をしていたらしい。主に、ヴォレット姫の嗜好で。

「それって、悠介君の能力があれば調べるまでも無いんじゃないの?」

 朔耶の素朴な疑問に、悠介は愛想笑いを浮かべながら『探索行為はあくまでスタイル』であると答える。

「皆でわいわい探検するのが楽しいっていうね」
「ああ、なるほど」

 要するに姫様の探検ごっこがメインであり、結果的に色々な発見もオマケで付いて来る、という活動のようだった。

『面倒見の良さそうな悠介君らしいかなー』
ヨイ カンケイヲ キズケテ オルナ

 神社の精霊も悠介の人柄の良さには同意するのだった。


 そのままお昼前頃まで他愛無い雑談をしながら過ごし、ヴォレット姫がお稽古事に席を外したのを機に朔耶もお暇しようとすると、悠介がこんな事を言って来た。

「ところで、ガゼッタの事なんだけど――もし負担でなければ時々様子を見に行って欲しいんだ」
「会談の酒盛りでもちらっと聞いたけど、結構大変らしいね?」

 現在、ガゼッタの内部では覇権主義勢力が暗躍しており、ポルヴァーティアの勢力とも接触しているらしく、下手をすれば内戦を起こされる危険性もあるとの事だった。

「不死身のアユウカスさんは兎も角として、シンハが危ない気もするんだよな」
「あのマッチョ王さんか」
「マッチョ王て」

 悠介は朔耶のシンハを言い表す言葉に少し吹き出しつつ続ける。

「今は自重してか中枢塔で大人しく政務に勤しんでるみたいだけど、何かあったら直ぐ自分で行動するタイプだから」

 パトルティアノーストで覇権主義勢力が武装決起でもした場合、まず間違いなく陣頭指揮に立つ。それを見越して暗殺などの活動を仕掛けられる可能性もある。

「確か悠介君も狙われたりするんでしょ? 色々面倒な事になってるね」
「ほんとそれだよ」

 時々朔耶が顔を出すようにすれば、それだけで『敵性勢力』の予定が狂うはずだという悠介の思惑には、神社の精霊も妥当な考えだと判定し、朔耶も納得する。

「なんか結局政治的な活動に関わってる気もするけど、分かったよ。しばらくはちょくちょく顔出しに行くようにするね」

「頼んます」

 今後はガゼッタの様子も見に行く約束をした朔耶は、一旦地球世界の自宅に戻った。


「たっだいまー。ご飯ある?」
「おかえり。カレーの残りがあるわよー」

 キッチンで食事の準備をしている母が答える。この頃はまた異世界を飛び回って家族で食事をしていなかったので、偶には実家でノンビリしようと昼食を取っていく事にした。

「昨夜カレーだったのかー。昨日は晩餐会の料理でお腹一杯だったからなぁ」
「あんたこの頃また忙しそうにしてるけど、危ない事してないでしょうね?」
「大丈夫、大丈夫」

 母と二人で昼食を囲みながら話す朔耶は、最近のオルドリア世界は概ね平穏だし、狭間世界では少々燻っているものの、大きな問題も起きていない事を話す。

「狭間世界の方にはあんまり干渉する気無いしね」
「もう十分干渉してるじゃないの……」

 大丈夫の基準が分からんと、娘の将来を心配する母殿なのであった。


 昼食後、王都フレグンスに転移した朔耶は、大学院に飛んだ。中央塔サロンに入ると、遺跡調査の関係で休校中にも関わらず、そこそこの院生達で賑わっている。

「あらサクヤ。調査の視察にでも来ましたの?」
「ルディ達も来てたんだ? あたしはちょっとコウ君に用事があってね」

 いつものテーブルには、エルディネイアのチームメンバーも顔を揃えている。休校中でも立ち入り禁止になる訳ではないので、他の院生達もほとんどが交流目的で登校しているようだ。

 中には遺跡調査隊の雰囲気を楽しもうと、テントを持ち込んで泊まり込みをしている者達もいるそうな。特に騒いだりはしていないので、大学院側も大目にみているらしい。

「それはそれで楽しそうかな?」
「キャンプみたいだよね~」

 朔耶の感想にリコーが同意すると、他のメンバー達もおおむね頷いていた。エルディネイア達と別れた朔耶は、コウ達遺跡調査隊の様子を見に地下へと下りて行った。

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