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第三章 アナスタシアの反撃
30 殿下と護衛騎士と男爵令嬢
エマは物思いに沈むヴォルフリートの横で、さっさとシャワーを浴び身支度を整えると、いつものように長い髪を高く結い上げた。
紺色のジャンパースカートは、静かな威厳を纏わせる大人びた色合いでありながら、胸元のリボンがささやかな可愛らしさを添えてくれる。肩に羽織るケープは歩くたびふわりと揺れ、三角の襟と並んだボタンは、どこか物語の魔法使いを思わせる。
――ほんの数年前までは憧れるだけだった。
王国の未来を背負う魔導師を育てる、最高峰の学び舎。そこに通う自分を想像すらしなかった。平民の娘が、夢物語のように制服に袖を通し、今ではそれが日常になっているだなんて。
魔法使いにとって最も大切なのは血筋だ。家ごとに異なる得意魔法があり、強き魔力を持つ家系同士の婚姻によってその力はより強固になる。必然的に、強い魔導師は貴族に生まれることが多い。
だからこそ、平民の自分には縁遠い世界だと思っていた。――そう、あの日、光魔法を宿すまでは。
「ヴォルフリート殿下、テオバルトも外で待ってるわ。行きましょう」
軽やかに声をかければ、殿下はゆるんだネクタイを指先で正し、次の瞬間には生徒会会長――第二王子ヴォルフリートとしての凛々しい顔つきに戻っていた。
扉を開ければ、すでにテオバルトが待っていた。制服姿に剣を佩き、まるで騎士そのものの立ち姿。彼はエマよりもずっと長く、殿下に振り回され続けているのだ。
寮から学園までの道のりを、三人で並んで歩くのはもはや日課となっていた。朝の石畳はまだひんやりとしていて、並木道を抜けると風に揺れる葉が陽光をきらめかせる。そんな何気ない光景も、二人の王子と共に歩くと途端に華やかな舞台に変わってしまう。
ヴォルフリートとテオバルトが通りかかれば、周囲の女子生徒たちからは黄色い歓声があがる。視線が一斉に集まり、笑顔や囁き声が花のように散っていく。その一方で、エマに向けられるのは冷ややかな視線と、口元を隠して囁かれる嫉妬混じりの陰口だった。
ヴォルフリート殿下は、第二王子という肩書を持たなくとも、端正な顔立ちに加え、学業優秀、そして誰に対しても公平で優しい。婚約者がいない今は、玉の輿を狙う者にとって垂涎の的に違いない。――エマは心の奥底で「早く化けの皮が剥がれればいい」と毒づく自分に苦笑した。
ヴォルフリートの相手はつかれる。確かにSubとして強いDomにプレイされるのは幸福の極みだがヴォルフリートから愛を感じられた事は一度もない。エマからすれば好きでもない相手に事務的に性欲を発散されてるこの関係はオナホとその持ち主でしかないわけだ。
「エマ、顔色が悪ぃぞ。平気か?」
一方、テオバルトは鍛え上げられた体に快活な笑みを浮かべ、入学以来ずっと剣術の実技成績は一位。兄のような包容力を漂わせながら、ヴォルフリートへの忠誠を貫く姿は、学園中の男子の憧れであり女子の夢でもある。
そんな二人の隣を歩く自分は、いつだって居心地の悪い視線に晒される。
紺色のジャンパースカートは、静かな威厳を纏わせる大人びた色合いでありながら、胸元のリボンがささやかな可愛らしさを添えてくれる。肩に羽織るケープは歩くたびふわりと揺れ、三角の襟と並んだボタンは、どこか物語の魔法使いを思わせる。
――ほんの数年前までは憧れるだけだった。
王国の未来を背負う魔導師を育てる、最高峰の学び舎。そこに通う自分を想像すらしなかった。平民の娘が、夢物語のように制服に袖を通し、今ではそれが日常になっているだなんて。
魔法使いにとって最も大切なのは血筋だ。家ごとに異なる得意魔法があり、強き魔力を持つ家系同士の婚姻によってその力はより強固になる。必然的に、強い魔導師は貴族に生まれることが多い。
だからこそ、平民の自分には縁遠い世界だと思っていた。――そう、あの日、光魔法を宿すまでは。
「ヴォルフリート殿下、テオバルトも外で待ってるわ。行きましょう」
軽やかに声をかければ、殿下はゆるんだネクタイを指先で正し、次の瞬間には生徒会会長――第二王子ヴォルフリートとしての凛々しい顔つきに戻っていた。
扉を開ければ、すでにテオバルトが待っていた。制服姿に剣を佩き、まるで騎士そのものの立ち姿。彼はエマよりもずっと長く、殿下に振り回され続けているのだ。
寮から学園までの道のりを、三人で並んで歩くのはもはや日課となっていた。朝の石畳はまだひんやりとしていて、並木道を抜けると風に揺れる葉が陽光をきらめかせる。そんな何気ない光景も、二人の王子と共に歩くと途端に華やかな舞台に変わってしまう。
ヴォルフリートとテオバルトが通りかかれば、周囲の女子生徒たちからは黄色い歓声があがる。視線が一斉に集まり、笑顔や囁き声が花のように散っていく。その一方で、エマに向けられるのは冷ややかな視線と、口元を隠して囁かれる嫉妬混じりの陰口だった。
ヴォルフリート殿下は、第二王子という肩書を持たなくとも、端正な顔立ちに加え、学業優秀、そして誰に対しても公平で優しい。婚約者がいない今は、玉の輿を狙う者にとって垂涎の的に違いない。――エマは心の奥底で「早く化けの皮が剥がれればいい」と毒づく自分に苦笑した。
ヴォルフリートの相手はつかれる。確かにSubとして強いDomにプレイされるのは幸福の極みだがヴォルフリートから愛を感じられた事は一度もない。エマからすれば好きでもない相手に事務的に性欲を発散されてるこの関係はオナホとその持ち主でしかないわけだ。
「エマ、顔色が悪ぃぞ。平気か?」
一方、テオバルトは鍛え上げられた体に快活な笑みを浮かべ、入学以来ずっと剣術の実技成績は一位。兄のような包容力を漂わせながら、ヴォルフリートへの忠誠を貫く姿は、学園中の男子の憧れであり女子の夢でもある。
そんな二人の隣を歩く自分は、いつだって居心地の悪い視線に晒される。
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