悪役令嬢の金魚のフンが返り討ちにされ美味しく食べられた話

犬っころ

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第三章 アナスタシアの反撃

31 殿下と騎士様の羽虫

「……また一緒にいる」「どうせ媚びを売っているんでしょ」

通り過ぎざまに投げられる小声が、風に混じって耳に届く。けれどその囁きは、抑えたふりをしながらも、わざと聞かせるように発せられているのが分かる。

「平民のくせに図々しい」
「あんな子に着られて制服が泣いてるわ」

制服の裾を指差し、唇に笑みを浮かべる女子たちの視線が容赦なく突き刺さる。その場にいるだけで罪を問われているかのような感覚に、エマの背筋はひやりと冷えた。

ヴォルフリートの横はアナスタシアが相応しいと考えるルクレール派のご令嬢だ。

ヴォルフリートの隣を歩くだけで、これほどまでに敵を作る。学園に通い始めた頃は、その事実に心臓が締めつけられる思いだった。だが時が経つにつれ、耳に入る陰口にも体は慣れてしまった。慣れれば慣れるほど、心の奥には苦さだけが残る。

――早く本性が知れ渡ればいい。

心の中で吐き捨てる。女子たちが夢に見ている“理想の第二王子”は、所詮は幻影に過ぎない。誰にでも優しく、完璧で、慈悲深い王子像。その裏に潜む冷徹さを、知っているのは自分だけだ。だからこそ、彼を仰ぎ見るまなざしの一つ一つが、なおさら滑稽に映る。

かつて囁かれた噂――「ヴォルフリート殿下がある令嬢を手酷く抱き、泣かせた」という話は、事実だった。だが彼自身が「そうかもしれないね、確かめてみる?」と悪びれもせずに茶化したため、本当にそうならば自ら冗談にはできまいという結論に落ち着き、良く考えれば誰にでも分け隔て無く優しいヴォルフリート殿下がそんな事するはずがない、フラれた腹いせだろう。と結論付けられやがてその噂は消えていった。

隣でテオバルトが愉快そうに何かを話すと、ヴォルフリートの口元が緩み、自然と笑い声がこぼれる。その輪の中でエマも思わず表情を和らげかける。だが視線の刃がまた突き刺さり、慌てて瞳を伏せた。

その瞬間、背中にざらつくような嫌悪が走る。
「見て、あの笑い方。殿下を独占してるつもりかしら」
「可愛くもないのにね」

遠ざかっていく声は、耳を塞いでも心に残る。エマは静かに息を吐いた。苦い空気を吐き出すように、長く、深く。
それでも歩みを止めることはなかった。彼女は足並みを崩さず、ただ二人の隣を歩き続けた。


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