アホホスト借金地獄の末に漁船か臓器か性奴隷か、もちろん性奴隷です

犬っころ

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二章

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ナースコールの番号が表示された瞬間、蓮の思考は一瞬で吹き飛んだ。
体が勝手に動いた。氷嚢も、包帯も置きっぱなし。
ただ走る。冷たい廊下のタイルを音を立てて蹴りながら、息を切らして病棟の奥へと駆けていく。

雅也の部屋は曲がり角の突き当たり。
昼間は海が見えるお気に入りの部屋だが、今の蓮にはそんな風景を愛でる余裕などなかった。

扉の向こうから聞こえる、息を詰めるような荒い呼吸音と、慌ただしく動く看護師たちの靴音。

(──間に合わなかった)

蓮がその現実を認識するよりも先に、部屋の引き戸が内側から開かれた。

「あ、天城さん……今、処置中です。危ないので奥には……」

若い看護師が手で制止しようとする。だが蓮は構わず部屋の中へと足を踏み入れた。

ベッドの上。
雅也が、仰向けのまま肩を大きく上下させ、過呼吸を起こしていた。

瞳孔は見開かれ、呼吸は喉を鳴らすように苦しげで──
唇は乾いて、今にも「声」を発しようとしているのに、痛みの波に言葉を裂かれていた。

「……っ、は……っ、っ、あ……っ」

喉の奥でせき止められるように、意味にならない悲鳴がこぼれる。
それでも苦しさと痛みが抜けきらず、体がベッドの上でびくびくと痙攣していた。

医師が注射器を構え、点滴のラインに薬剤を注入する。
看護師が吸引機と酸素マスクを整え、血中酸素濃度をモニターで確認する。
みな声を出さずに、迅速に、正確に、冷静に動いていた。

(ああ──プロだ。俺とは違う)

蓮の足は、自然とベッドサイドへと吸い寄せられていた。
何もできない。邪魔すらできない。
けれど、ただ一つだけ──兄として、できることがあった。

「雅也……」

声にならない声で呼びながら、蓮は震える弟の手をそっと握った。
細くなった指。氷のように冷たく、骨ばっていて、それでも必死に何かを掴もうとするように、弱く指が動いた。

(俺のこと、わかってる……?)

問いかけるように握り返す。
雅也の瞳が、かすかに揺れた。
その一瞬に、蓮の喉が痛くなるほど熱くなった。

「大丈夫……もう大丈夫だから……すぐ、楽になるからな……」

震える声で、囁くように何度も言葉を重ねた。
何もできない現実が、喉の奥に鋭く突き刺さる。
さっき殴られた頬の痛みなんて、今はまるでどうでもよかった。

「……っ、つぅ……あ……っ、ぐ……」

雅也がうわ言のように口を動かす。
蓮はその声を拾うように、顔を近づけた。
でも、言葉にはならなかった。

医師が短く頷く。鎮静剤が効いてきた合図だ。
やがて痙攣は少しずつ収まり、呼吸も浅く、静かになっていく。
酸素マスクが口元に装着され、機械音だけが部屋に残った。

蓮の手の中にある、弟の手はもう力を失っていた。
ただ、ぬくもりだけが確かにそこにあった。

医師が隣に立ち、蓮に視線を送る。

「……鎮静剤の効果はしばらく持続します。痛みは、今は取れているはずです」

「……ありがとうございます」

蓮は低く、深く頭を下げた。
背筋に汗が流れ、喉がひどく乾いていた。

看護師が軽く肩を叩き、「あとはこちらで」と告げる。
蓮はもう一度、弟の額にそっと触れてから部屋を出た。

ドアの外に出た瞬間、肺が一気に酸素を求めて広がる。
だが、呼吸は浅く、体の芯だけが重く沈んだままだった。

(手を握るだけしか、できなかった)

医療行為は何一つできない。
ましてや、痛みを取ってやることも、何かを決めてやることも。

(兄として、こんなもんかよ)

自分を責める気持ちはもう通り越していた。
けれど、胸の奥にあるのは、紛れもない「無力感」だった。

それでも──

蓮は顔を上げる。
やらなければいけないことは、まだ山ほどある。

泣くのは、全部が終わってからでいい










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