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二章
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しおりを挟む真城の声は、まるで穏やかな説得だった。だがそこには、逃れられない鎖のような冷たさがあった。
「じゃぁ、もう分かるよね。──二度と逃げないって、約束してね?」
その言葉に、蓮は反射のようにこくこくと頷いた。
震える肩が、すべてを物語っていた。
すると真城はゆるやかに片眉を上げた。
笑っていた。…優しくさえ見えた。
「うんうん、偉いねぇ。じゃあさ──」
真城は、手を前に出して小さく指を鳴らした。
それはまるで、何かを合図するようで。
「もう二度と逃げないなら、“一生俺のもの”でいる覚悟あるんだよね?ならまた印つけてあげないとだね」
その言葉の意味を、蓮は肌で理解した。
焼かれる。
あの夜と同じように、皮膚を灼き、痛みとともに“所有物”の印を刻まれる。
あの匂い、あの音──フラッシュバックが襲う。
しかし。
「……それでいい」
蓮は、小さな声で呟いた。
「また焼かれても……文句は無い……っ。だからっ、……お金をください」
その瞬間、蓮は地面に手をつき、額を床に叩きつけるようにして土下座した。
鼻先が床に触れ、頬が震える。唇は乾き、喉は裂けるようだった。
真城は、ほんの少し驚いたように目を見開いたが──
すぐに、気に入ったように細く笑った。
「うん、いいよ」
その声はあまりに優しくて、逆に怖かった。
「じゃあ──ここに、穴、開けちゃおっか」
言うが早いか、真城は蓮の胸元に指を伸ばし、服の上から乳首を掴んだ。
軽く引っ張る。……いや、“引き裂く”一歩手前の力だった。
「っ……!」
蓮の背筋が跳ねる。
声を殺し、必死に堪える。恥辱と恐怖と、でも逃げられない現実が、全身を締めつけた。
「焼くのもいいけど、もっと“わかりやすくて逃げられない印”も欲しいよねぇ?」
真城の指先は執拗にその一点をいじる。
焦らすように。もてあそぶように。
“許可”を取ったはずの言葉の直後に、所有の実行が始まっていた。
「や……ぁ、」
情けない声が、勝手に喉から漏れた。
掴まれた乳首は、服越しであるにも関わらず異様な存在感を帯びている。
引かれたたび、肌の下にまで灼けるような痛みが走り、頭の芯がぐらぐらと揺れた。
「こっちの方が、焼印より逃げられない印になりそうじゃん?」
真城の声は冗談のように軽い。
なのに──どこまでも現実的で、容赦がなかった。
蓮はただ震える。
唇を噛みしめても、震えは止まらない。
腕はとっくに力を失い、土下座の体勢のまま、床を支える手さえもぐらついている。
「っ……あ、あ……や……め……」
口から洩れるのは拒絶の言葉、のような何か。
だが声はあまりにも弱くて、ただの震えにしか聞こえない。
真城の指先が服の隙間に滑り込み、肌に触れた瞬間──
「……っ!!」
蓮の全身が跳ねる。
その拍子に、我慢していた涙がこぼれた。ぽとり、ぽとりと、床に落ちていく。
「ねえ、言ったよね?“文句はない”ってさ」
耳元に囁く声が、あまりに優しくて、それが逆に突き刺さる。
冷たい刃物みたいに、静かで残酷な甘さだった。
涙が止まらなかった。
でも、止めようとも思えなかった。
悔しい、痛い、怖い──けれど、それでも。
「……ぅ……うん……いい、から……お金……お願い……します……」
蓮の声は涙で濡れていた。
それでも、はっきりと願っていた。
これ以上の情けない姿はない。
けれど、選べる余地なんて最初からなかった。
真城の手が緩むことはない。
爪の先が、刻むように蓮の乳首を押し潰してくる。
「ほら……泣き顔、見せてよ。…ああ、お前、ほんとにかわいいね」
真城の言葉に、蓮はついに視線を上げてしまった。
そこには、ひどく満足げな笑みを浮かべた男がいた。
かつて自分を焼いた男。
逃げても逃げても、結局こうして引き戻される、自分の檻だった。
「立て。脱げ」
淡々と告げられたその一言に、蓮の身体がぴくりと震えた。
命令の意味は、聞かずともわかる。
その響きには、いつかと同じ、あの地下の空気と温度が張り付いていた。
棚の上に置かれた針と、小さな金属のピアス。
その冷たい光が、部屋の明かりに反射して鈍く光っていた。
真城はソファに深く腰を落とし、無言のままタバコを一本取り出す。
火をつけ、ゆっくりと紫煙を吐き出すと、そのまま何も言わず、蓮に目を向けた。
見ている。
黙って、ただ、見ている。
「……っ」
蓮は唇を噛みしめ、俯いたまま手を伸ばす。
震える指先が、シャツの裾をつまむ。
一度は掴み損ね、もう一度、指を滑らせるようにして服を脱いでいく。
冷たい空気が肌をなぞる。
焼き跡がある尻も、へその下も、すべて晒すように──
着ていたものを一枚、また一枚と、床に落としていった。
下着を脱ぐ瞬間、さすがに呼吸が乱れた。
息を吸うたび肺が痛いほど縮み、耳の奥がじんじんと熱を持った。
けれど、脱がずに済む選択肢など最初からなかった。
蓮がすべてを脱ぎ終えた頃、真城はちょうど二本目のタバコに火をつけたところだった。
少しだけ目を細めると、何も言わずに自分の膝をぽん、と叩いた。
「おいで」
その声はやけに柔らかくて、それがかえって残酷だった。
命令ではなく、選択肢を与えるようなフリをして──逃げ道を潰す。
蓮は躊躇うことなく足を動かした。
というよりも、躊躇することが許されていないことを、身体が知っていた。
ソファに近づき、真城の膝に跨がるようにして座る。
肌と肌が触れ合い、少しだけ震えた体を、真城の胸に預ける。
逃げない。
そう言ったのは、自分だ。
だから、どんなことがあっても──ここに居なければならない。
蓮は、真城の膝の上で目を閉じた。
息を殺しながら、ゆっくりと自分の体重を彼に預けていく。
焼かれた痕の疼きが、古傷のように、確かにそこにあった
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