アホホスト借金地獄の末に漁船か臓器か性奴隷か、もちろん性奴隷です

犬っころ

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二章

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森内の声は、変わらず穏やかだった。
 だがその響きには、言葉の端々に滲む重みと、言葉にしきれぬほどの“思い”があった。

 それは、ただの報告でも、忠告でもない。
 確かに見て、感じて、日々積み重ねてきた者の実感だけが持つ、静かな説得力だった。

 

「──蓮は、組長が思うよりも、ずっと強くて、賢い子です」

 

 その第一声に、真城の肩がわずかに揺れた。反応は小さく、声はない。
 それでも、森内には分かった。彼の中に生まれた“ざわめき”が、確かに届いたのだと。

 

「確かに口は悪いし、すぐ頭に血がのぼる。気に入らない相手には年齢、立場関係無く遠慮なく噛みつく……」



 静かに続けながら、森内はふと目を伏せた。
 その眼差しは、まるで誰かの姿を、胸の内で確かめているようだった。

 

「けれど、目上の人間には必ず礼を尽くす。どこで育ったかなんて関係ない。不思議なくらい誰に対しても、分け隔てなく同じように話しかけるんです」

 

 その声には、どこか温かさがあった。
 懐かしさすら滲ませながら、森内は、台の端に置かれていた湯飲みにそっと手を伸ばす。
 両手でそれを包み込むように持ち上げるその仕草は、まるで湯の中に少年の面影を映し取ろうとするかのように、丁寧で、慎重だった。

 

「蓮が広間に顔を出すと……空気が変わる。場が、明るくなる」

 

 そこにあるのは、単なる“和やかさ”ではない。
 緊張が解ける、硬さがほぐれる。それはまるで、静かに吹き抜ける風のように自然で、だが確実な変化だった。

 

「気の利いた冗談を言って皆を笑わせるけれど、決して自分が目立とうとはしない。……自然と、皆があの子のまわりに集まっていくんです」

 

 誰も浮かせず、誰も締め出さない。
 それは簡単なようでいて、組という閉鎖的な世界ではなおさら難しいことだった。

 

「ヤクザってのは、寄れば喧嘩か自慢話。みんなどこかでうんざりしながらも聞いている、それが普通です。けど、蓮はみんなのツボをおさえ話し下手な若い子にも無理なく声をかけて、俺たちが出来ないようなきっかけを作ってやれる。……そういう空気を、あの子は自然と生み出すんです」

 

 語るほどに、森内の声に宿る熱がじんわりと深くなっていく。
 尊敬とも違う、崇拝とも違う。もっと地に足のついた、実感に根ざした“信頼”という感情が、その語りを支えていた。

 

「……だから、あの子が沈むと、組の空気まで一緒に沈んでしまう」

 

 ぽつりと落とされたその言葉には、隠しようのない実感があった。
 森内は静かに湯飲みを置き直し、真城の方へと向き直った。

 

「春先……蓮が心身共に体調を崩して、部屋から出てこられなくなった時がありましたね……本家の広間は、驚くくらい静かになったんです」

 

 誰もが、言葉にしなかった。
 けれど、蓮がいないことで“何か”が失われたということを、全員が感じていた。
 そのことが、痛いほどにわかる静けさだった。

 

「……あの子は、誰かの顔色を見て動くタイプじゃない。けど、誰かが寂しそうなら、絶対に放っておかない。そういう子なんです」

 

 その声色が、ふと曇る。
 森内の目元に、少しだけ陰が差した。

 

「……俺は仁と柴のこと、最近になって気がつきました。柴が──蓮と同じ、オメガだということも」

 

 その一言に、真城の手元が静かに止まった。
 気配の変化を、森内は見逃さない。

 

「でも柴も蓮も……第二性、そのことに触れません。仁も柴が“そう扱われること”を望んでいないのを、分かっている。だから仁と柴の関係は徹底的に隠されていた。」

 

 言葉を続ける森内の声音が、ほんのわずかに低くなった。
 それは、口にすれば壊れてしまいそうな真実を、慎重に言葉にしていく声だった。

 

「……昔、兄が医者をやっていた頃、少しだけ診療を手伝ったことがあります。オメガの妊娠適齢期ってのは短い。二十五を越えたら、妊娠出産へのリスクが跳ね上がる。──特に、男性オメガの場合は」

 

 湯気がふわりと立ち上がり、二人の間を柔らかく揺らした。
 その空気の向こうに、森内は慎重に言葉を重ねる。

 

「蓮は嫌がりますけどオメガだと言うことは事実です。オメガが子供を成さねば幸せになれないと言う訳ではありませんが…もし蓮が…今、組長に見限られて心を壊したら。そしてその年齢で他の誰かと、無理に関係を持って、子を宿してしまったら──」

 

 そこまで言って、森内はようやく真城に正面から目を向けた。
 眼差しの奥にあったのは、ためらいや遠慮ではない。
 確かな“懇願”と、“願い”だった。

 

「……その命がどうなるか。想像に難くありません」

 

 真城の視線はなお伏せられたままだ。
 だが、喉がわずかに鳴った音が、静寂の中にくっきりと響いた。

 

「だから、“今”の判断が大事なんです。……彼にも、“幸せになる権利”がある」

 

 その言葉には、森内の焦りと切実さが、飾りなく滲んでいた。
 迷いも、葛藤も、すべてを抱えたうえで、なお伝えずにはいられなかった言葉。

 

「……たしかに、お金の関係で始まったかもしれません」

 

 森内の声が静かに落ちる。
 真城の眉の端が、小さく揺れた。

 

「けれど──それ以上に」

 

 湯飲みが、再び置かれる。
 小さな音が、広い調理場に静かに響いた。

 

「……あの子の身体には、あなたによって“消えない傷”が刻まれている」

 

 責めているのではない。
 同情でもない。
 それでも──言わねばならない、重く、確かな“事実”だった。

 

 森内の脳裏に、あの夜の光景がよみがえる。

 焼印を押され、必死に泣き叫びながら、それでも声を上げることすら許されなかった少年の背中。
 その痛みを受け入れるように、か細い身体が震えていた。
 今も、まぶたの裏に焼きついて離れない。

──最後まで面倒を見る気がないのならリスクが上がる前に手放してやれ

 それが、森内の本音だった。
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