アホホスト借金地獄の末に漁船か臓器か性奴隷か、もちろん性奴隷です

犬っころ

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SECOND:太陽のような男

24 しーちゃんと誠ちゃん

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 「しーちゃん、何かあった? 泣きそうな顔してる」

 滑り台の下から誠太郎の声がした。
 その声音は、昔の“誠ちゃん”のままだった――優しくて、真っ直ぐで、馬鹿みたいに純粋で。

 けれど今の柴には、それがどうしようもなく苦しかった。

 「……てめぇには関係ねぇだろ」

 吐き捨てるように言い、柴は滑り台を滑り降りた。
 砂を巻き上げる音とともに足が地面に着いた瞬間、目の前に誠太郎が立っていた。
 息を切らし、頬を赤らめ、道着の胸元からはかすかに湯気が上がっている。
 夕暮れの街灯に照らされたその姿が、やけに大人びて見えた。

 「しーちゃん……この匂い、オメガでしょ」

 誠太郎の声は震えていた。けれど、その瞳はまっすぐ柴を見つめている。

 「いい匂いする。……俺、ずっとしーちゃんのこと大好きだった。でもベータだから諦めた。しーちゃんの事が大好きなのはそれは今も変わらない」

その言葉に、柴の呼吸が止まった。
 喉が音を立てて動く。胸の奥で、鼓動が速くなる。
 風が吹き抜けるたびに、空気の中に甘い匂いが広がっていく――自分のフェロモンだ。
 分かっているのに、止められない。

 「っ……俺は、お前のことを性的対象として見てねぇ」

 絞り出すような声だった。
 けれど誠太郎は怯まない。
 むしろその瞳は、幼い頃に泣きながら拳を握りしめていたあの頃と同じくらい真剣だった。

 「うん、知ってるよ」
 穏やかに笑い、誠太郎は柴のポケットに手を伸ばした。
 「とりあえず薬、飲もう? 今は……飲んでる?」

 「……飲んでねぇよ」

 その答えを聞いた瞬間、誠太郎の動きは早かった。
 ためらいもなく、柴の右ポケットに手を突っ込み、抑制剤の小瓶を取り出す。
 そして、手慣れた動作で錠剤を一粒、柴の唇の隙間に押し込んだ。

 「っ……お前、何勝手なこと……!」

 「知ってるんだ、しーちゃんが“隠したいもの”はいつも右ポケットだって」

 誠太郎は微笑んだ。
 その笑顔は優しいのに、どこか切実で、懐かしい匂いがした。

 柴は反射的に誠太郎の手を払いのけたが、遅かった。
 薬は舌の上で苦く溶けていく。
 身体の熱がわずかに鎮まる気がして、同時に心の奥がざらついた。

 「……泣き虫誠太郎はどこ行った」

 「だって……俺、今でもしーちゃんのこと――お嫁さんにしたいんだ」

 誠太郎はまっすぐにそう言った。
 それは冗談でも、懐かしさでもない。
 目の奥に宿る熱が、それを証明していた。

 風が止まり、世界が一瞬、静止したように思えた。
 街灯の光が二人の間を照らし、漂う甘い匂いだけが現実を繋ぎ止めている。

 柴は何も言えなかった。
 ただ、息を吸うたびに、誠太郎の声と体温と――“しーちゃん”という呼び名が胸の奥で疼いた。

 「……俺は、お前の気持ちには答えらんねぇ」

 ようやく絞り出した言葉だった。
 それを口にした瞬間、柴の胸の奥で何かが小さく軋む音がした。

 目の前の幼馴染――間宮誠太郎は、昔と同じように“しーちゃん”と呼んだ途端、まるで時間を巻き戻したような顔をした。
 どこか拗ねたようで、懐かしい。けれど、もうあの頃には戻れない。

 道場の方から、子どもたちのにぎやかな声が響いてきた。
 練習が終わったらしい。
 掛け声と笑い声が重なり、夕焼けに溶けていく。

 「……じゃあな。俺、チビどもの迎えに来てんだ。お前と喋ってる暇はねぇ」

 柴はそう言って、ママチャリのハンドルを掴んだ。
 押し歩こうとした瞬間、背後から誠太郎の足音が追いかけてくる。

 「ねぇ、連絡先だけ交換してよ! 消えちゃったんだ」

 振り返らずに柴は短く答える。
 「違ぇよ。俺がブロックしたんだよ」

 「……そっか。でもさ、もう一回だけ交換しよう?
  もう“好き”とか言わないから。
  ただ……また会いたい時に、ちゃんと連絡取れるようにしたいだけなんだ」

 その声が少し震えていた。
 夜風が吹き抜け、道着の裾がかすかに揺れる。
 それでも誠太郎は一歩も引かなかった。
 子どもの頃、泣きながらも絶対に諦めなかったあの時と同じ顔で、まっすぐに柴を見つめている。

 柴は舌打ちをし、ポケットからスマホを取り出した。
 「……ほんっとにしつけぇな」

 画面に映る誠太郎の指が、かすかに震えていた。
 連絡先を交換する音が、小さく“ピッ”と鳴る。
 それだけの行為なのに、やけに心臓の音が大きく響いた。

 「……これで最後だ。二度と“好き”なんて言うなよ」

 柴が言うと、誠太郎は少しだけ笑った。
 その笑顔は、あの頃と何一つ変わっていなかった。

 「うん。約束するよ、しーちゃん」

 そう言ったその声は、どこか切なく、少しだけ大人びていた。
 街灯の光の下、二人の影が長く伸びて重なり――そしてすぐに離れた。

誠太郎はいつも柴の太陽だ。それも弱くてどうしようも無い太陽だった。
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