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一章
17
真城は、しばらくの間、蓮の瞳を無言で見つめ続けていた。
その視線には、愉悦と満足、そして完全な支配の色が滲んでいる。
まるで「もうお前は俺のものだ」と言葉にせずとも伝えているようだった。
「……いい子だ。」
ぽつりと、吐息のように呟く。
その声は柔らかいが、ぞっとするほど冷たかった。
真城は掴んでいた蓮の髪から手を離した。
解放された髪がぱさりと肩に落ち、蓮はわずかに前のめりになる。
頭皮に残る鈍い痛みと、首の筋肉の張りがじんじんと現実を突きつけ、ようやく呼吸を整えようとするが、胸はまだ苦しく早鐘を打っていた。
真城は何事もなかったかのように立ち上がると、堂々とした足取りでソファへと歩いた。
一歩、また一歩――革靴の硬質な音が「コツ、コツ」と静かなフロアに響く。
その音だけで空気が震え、周囲の誰もが息を呑んで動けなくなる。
ソファの前に辿り着くと、真城はまるで自分の家に帰ってきたかのように、自然な仕草で腰を下ろした。
背もたれに肘をかけ、脚をゆったりと組む。
動作一つにまで余裕が漂い、まるで「この場を完全に支配している」と見せつけるようだった。
「……さて。」
真城は胸ポケットからタバコを取り出す。
すかさず護衛が動き、火を差し出す。
その一連の動作があまりにも滑らかで、慣れた主従関係を思わせた。
真城はタバコをくわえ、火を受け取ると深く一吸いする。
紫煙が吐き出され、重く濁った空気がさらに沈殿するようにフロアに広がった。
ホストたちも黒服たちも、一言も発せず、ただ硬直したまま息を潜めている。
そして――真城はグラスを指先で軽く転がしながら、何気ない口調で言った。
「舐めろ。」
その一言に、空気が揺れた。
耳を疑うような命令だったが、誰ひとりとして異を唱える者はいない。
むしろ、息をする音すら憚られるほどの沈黙が落ちた。
蓮は床に座り込んだまま、顔をわずかに上げる。
目の奥には恐怖が宿っていたが、それでも真城の目を睨み返そうとしている。
「歯、立てたら――全部引っこ抜く。」
真城の声は、先ほどまでの柔らかさを失い、低く鋭い響きを帯びていた。
その言葉に、蓮の心臓が跳ね上がる。
背中に冷たい汗が伝い、手が震える。
「……やだ、っ……こんな大勢の目の前で……」
蓮の声はかすれて震えていた。
しかし、その姿にはどこか反抗心が滲んでいる。
震えていながらも、完全に怯え切ったわけではない――その態度が、逆に周囲の空気をさらに凍らせた。
周囲のホストや黒服たちは、誰もが目を逸らした。
目の前で起きていることが現実だと認めたくない――そんな空気が支配していた。
仁は膝の上で拳を握りしめ、唇を噛みしめていた。
怒りと焦り、そして恐怖が入り混じり、頭が真っ白になる。
しかし、何もできなかった。
今ここで声を上げれば、真城の機嫌を逆撫でし、状況がさらに悪化する――それが分かりすぎるほど分かっていたからだ。
蓮は唇を噛み、苦しげに呼吸を整える。
恐怖は確かにあった。それでも、視線は決して逸らさない。
まるで捕食される寸前の獲物のような姿。
だが、その瞳には「屈服だけはしない」という僅かな光が宿っていた。
その気配に、周囲のホストたちは心の底から震えた。
――この状況で、まだ睨み返せるのか。
恐怖と畏怖、そして不安がない交ぜになった視線が、蓮へと集まっていた。
真城は、タバコをくわえたまま、薄く笑みを浮かべた。
その目には、完全な支配の光が宿っている。
「あれ、レント君――嫌とか言える立場だっけ?」
声は柔らかく、しかしその響きには圧倒的な威圧が混じっていた。
次の言葉は、まるで当然のことを告げるように淡々としている。
「大人しく――ちんこしゃぶってな。」
その瞬間、真城の足が軽く振り上げられ、蓮の顔を蹴り飛ばした。
ドンッ、と鈍い音が響く。
当たり所が悪かったのか、蓮は鼻を押さえた瞬間、鮮やかな赤い血が指の間から溢れた。
鼻血がぽたぽたと床に滴り落ち、緊張に支配されたフロアに小さな音を立てる。
――痛みよりも、屈辱が鋭く突き刺さる。
蓮は唇を震わせ、乱れた呼吸を整えようとした。
それでも視線だけは逸らさず、真城を睨み返そうとする。
だが、真城は微動だにせず、タバコを指先で弾き、煙を吐き出すだけだった。
その態度は「お前の反抗なんてどうでもいい」と言わんばかりに余裕に満ちていた。
やがて――蓮は渋々といった様子で、肩を震わせながら手を伸ばした。
血で汚れた指が、真城のスーツのファスナーへとゆっくりと掛かる。
その手つきには、迷いや恐怖が色濃く滲んでいた。
しかし同時に、完全な屈服ではなく、「この場を凌ぐための選択」という諦めの意思も見え隠れしていた。
周囲のホストや黒服たちは、一切声を出せない。
仁は膝の上で拳を握りしめ、唇を噛み切りそうなほど強く噛みしめていた。
「ここにいる全員、レント君がどういう顔でちんこしゃぶるかちゃんと見ててね。」
――これ以上、どうすることもできない。
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