アホホスト借金地獄の末に漁船か臓器か性奴隷か、もちろん性奴隷です

犬っころ

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一章

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あの約束を交わしたその日は――結局、蓮は限界を迎えたように深い眠りに落ちた。

目を覚ましたのは、太陽が西に傾き、外から他の組員たちの「今夜の飯は何かな」と浮き足立った声がかすかに届き始めた頃だった。
全身を覆う倦怠感はひどく、思考は霞がかかったように重く、体の芯まで疲れが染み込んでいた。

特に腰の痛みは鋭く、少し動くだけで鈍い痛みが背筋から全身へと走り、口から勝手に息が漏れる。
しかしその声でさえ、叫び過ぎで腫れた喉のせいか、かすれた空気音のようにしかならなかった。

真城も、そのやつれ切った姿を見て――さすがに手を出す気にはなれなかったのかもしれない。
あるいは、普段の彼なら絶対に表に出さない、ほんの一瞬の罪悪感が胸をよぎったのか。

理由は分からない。
けれど、真城はその夜、蓮が卓に座って食事を取る間、無言で後ろから腕を回し、強く抱きしめるだけだった。

いつものような挑発的な軽口も、支配的な微笑も見せず、ただ――背中越しに、確かに自分がここにいるのだと確かめるように。

不意を突かれた蓮は、違和感に胸の奥がざわつくのを感じたが、問いかける気力もなかった。
喉は腫れ、声を出すだけで痛みが走る。
それでも空腹だけは誤魔化せず、差し出された膳の飯を黙々と口に運ぶしかなかった。

けれど、その膳に並んだ料理は、他の組員のものより明らかに軽めの献立だった。

ここ数日で飯の作法もしっかりと身につき、人様に見られても恥ずかしくないぐらいにはなった。だから、柴や他の部屋住みに誘われるがまま大広間で配膳を手伝ったあと他の組員と一緒に飯を食っていた。

身体を気遣った結果なのか、それとも真城の勝手な判断なのか――蓮には分からなかったが、その一方的な加減に、胸の奥で小さな殺意が芽生えるのを感じている。

目の前にはカレーが並んでいるというのに自分だけ卵粥と小さめのリンゴだ。

ーーぶちギレ一歩手前

真城はしばらく蓮の背に腕を回したまま、何も言わずに静かにまるで子供が親の腰に抱きつくかのように甘えた様子で抱きついたまま離れない

そしてやがて、ふと力を抜くように腕を離し、音を立てぬ足取りで立ち上がった。

「……」

無言のまま障子をすっと開け、その向こうに姿を消す。そして森内と柳が慌てたように後ろを着いてく。
残された蓮は、食べ終わった膳を見下ろしながら、心の奥に言葉にできない違和感と苛立ちだけを抱えていた。

――それが、昨日の出来事だった

蓮は竹箒を両手で握り、まだ鈍く疼く腰を気にしながら、柴と並んで庭の掃き掃除をしていた。
秋をわずかに過ぎ、紅や茶色に染まった落ち葉がひらひらと空から舞い降りてくる。
風が吹くたびに庭の隅に積もった葉がさらさらと揺れ、掃いても掃いても終わりがない。

「……っ、腰、痛ぇ……」

蓮は顔をしかめ、箒を杖代わりにするようにして立ち上がる。

「ほんっと、あいつ……絶倫すぎて、マジでついていけねぇ……」

その声はぼやきというより、本気で疲弊した呻きに近かった。

「おい、昼間っから汚ねぇ話題すんなよ」

隣で箒を動かしていた柴が、呆れたように言いながらも口元を緩める。

その日の蓮は、いつもの着流しではなく、部屋住みたちと同じ“お揃い”のジャージに袖を通していた。
光沢のある化繊の生地は、どこか体育の授業を思い出させるような安っぽさを漂わせている

どう見ても似合っているとは言い難い。
だが、今日はみんなと同じ格好でいたかった。それだけの理由で、迷わず袖を通したのだ。

このジャージには不思議な決まりがあった。
色は毎年違っていて、それによって一目で“何年目”かが分かるという。
今年の色は青。去年は緑、その前は赤だったらしい。
部屋住みたちは、互いの色で自然と年次を覚えている。

「……どうせ抱かれるんだったらせめて…優しく抱かれてぇ」

すると、少し離れて掃除をしていた別の部屋住みが、にやりと笑いながら蓮の腰を軽く叩いた。

「ほら、もう一丁頑張れよ、よっ、色男」

「いっ……てぇっ!!」

叩かれた瞬間、腰に力が入らなくなり、蓮は情けない声を上げながらガクンと膝をついた。
その様子に、周囲の部屋住みたちは一斉に吹き出す。

「おいおい、腰砕けてんじゃねぇか!」
「昨日も泣かされたんだろ? 顔に書いてあるわ」
「真城さん相手じゃ、そりゃバラバラにされるよなぁ」

からかう声が次々と飛び、笑い混じりの冷やかしが止まらない。

「……っ、うっせぇ、ほっとけ!」
蓮は顔を赤くしながら箒を持ち直し、必死に立ち上がろうとするが、またしても腰がガクガクと震え、まともに力が入らない。

その様子が面白いのか、部屋住みたちはさらに笑い声を上げ、肩を揺らして楽しんでいた。
柴も苦笑しながら蓮の背中を軽く叩き、呆れ半分で言う。

「お前なぁ……もうちょい節制しろや。次の日に響くって分かってんだろ」

「俺に言うなよ、暁臣に言えっ……!」

蓮は恨めしそうに空を仰ぎ、箒を乱暴に地面に突き立てた。

頭上から、また一枚、枯れ葉がひらりと舞い落ちてくる。
その落ち葉が蓮の肩に乗った瞬間、周囲から再び笑いが弾けた。

「ほら、落ち葉まで慰めてくれてんじゃん!」
「組長に愛されてんだからもう一丁踏ん張れや!」


「……ありがたくねぇよ、こんなの!」

蓮の叫びが庭に響き、部屋住みたちは腹を抱えて笑っていた。

笑い声が広がる中、蓮はふと、この光景が少しだけ懐かしく感じられた。
まるで小・中学校の休み時間のようだ――誰かのどうでもいい服装や髪型で盛り上がって、くだらないことで笑い合っていたあの頃。

福祉系の高校に進んだ為、男が少なく結束が硬かった。だから毎日馬鹿みたいなことをしては怒られていた、そんなあの頃が懐かしくてしょうがない。

思わず、口元が緩む。
ここに来てからずっと張り詰めていた気持ちが、少しだけ和らいでいくような感覚があった。

やはり同世代だと話しやすい

「……なんか、こういうの悪くないな」

ぼそりと呟いたその言葉は、誰の耳にも届かなかった。
けれど、蓮の胸の奥では、少しだけ温かく響いていた。










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