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「と、ところで…お仕事中なのでは…?」
「あぁ、それなら大丈夫ですよ。黙っていれば問題ありません。」
ロバートくんは指を口に当ててウィンクしながらそう言ってきたのだ。その仕草に思わずキュンと胸が締め付けられた。要は仕事サボるってことなんだろうけど、なんか許されるというか許したくなってしまう。
「そうなんだ…」
「あっ、仕事を怠ける男はお嫌いですか…?」
「あ、いや、サボりは良くないけど、私も時折、スランプ時とかは、仕事から目を逸らしたりしてるから…」
「へぇ、貴方もサボったりしていらっしゃるんですね。意外です。」
ロバートくんは微笑みながらそう言った。その笑顔にまたドキッとする。
こんなにも可愛らしい笑顔をするんだなぁ…私は、この笑顔を奪っていたのか。
なんて思いながらじっとロバートくんのことを見ていたら、ロバートくんが突然手で顔を伏せ始めたのだ。
「その、じっと見られると恥ずかしいです…」
「はっ、ご、ごめんね!」
しまった。つい珍しくて見つめてしまった。誰だって自分の顔をじっと見られるのは嫌であろう。仮にも貴族だというのにマナーがちゃんとなってなかった。
「あ、あそこでお茶しましょう。俺のお気に入りのカフェなんですよ。」
そう言って案内されたのは緑いっぱいのカフェだった。中に入るとまるで森の中にいるかのような沢山の植物が飾られていた。
「素敵な場所だね、自然と融合したカフェなんて初めて入ったよ。」
「空間もそうですが、ここのケーキも美味いんですよ。おすすめはレアチーズケーキなんです!良ければ是非!」
「じゃあそれを…」
慣れた感じでロバートくんは店員に注文していた。店員が私の方を見て若干動揺していた。無理もない、女装したら奴が店に居るんだもの。申し訳ない。
さて、ケーキが来るまで時間はある、このタイミングで彼に色々質問しよう。
「その、好きな食べ物はある?」
いや待て、ついさっき会った相手に急に好きな食べ物を尋ねるのはおかしいだろ。ロバートくんはそう聞かれて若干動揺してしまっていた。けどすぐに笑顔に戻した。
「チキンステーキですね。」
「!そうなんだね!」
なら今後夕飯のメニューはチキンステーキを多めにしてあげよう。これは良いことを聞いた。どうせならとびっきり最高級なチキンを用意した方がきっと彼も喜ぶだろう。
すると思ったより早く注文していた品が届いた。
私にはおすすめされたレアチーズケーキセットが置かれ、ロバートくんにはモンブランと、木の器にミルクらしきものとパンのようなものが入っているのが置かれた。
「あっ、ちょ、これ今日は頼んでないよ?!」
ロバートくんは予想外なことに動揺していた。どうやらそれは普段から頼んでいるようだった。
「それは…?」
「あ、その…パンをミルクに浸したものです…」
「へぇ…」
ならどうして彼は動揺しているのだろうか。
「その……あんまり言うのは恥ずかしいんですが、実はミルクに浸したパンが好きなんです。」
「そうなの?」
「ミルクに限らずスープとかもそうですね…くたくたになるまで浸したパンが美味しいんです…すいません行儀悪くって…」
確かにあまり人に言えたことではないかもしれない。けれどもなんとなくだがチキンステーキよりその浸したパンの方が好物なんじゃないかと思った。
「そんなことはないよ、良かったら一口頂けるかな?」
「へっ?いやでも…」
「普段から頼んでるぐらい好きなんでしょ?なら味わってみたいな。」
「わ、わかりました…どうぞ…」
ロバートくんは木の器とスプーンを渡してくれた。正直こんな食べ方をしたことはない。味の想像はなんとなくつく。けれども彼の好きな食べ物がどんなものなのか知る必要があったからだ。
既にくたくたになったパンをすくって口に含めた。
すると口の中に広がるミルクの甘さ、そしてくたくたになったパンの食感が柔らかく舌の上で溶けたような感じがした。
「おいしいね。キミが気にいるのもわかるよ。」
そう言うとロバートくんは嬉しかったのか、笑顔を見せてきた。
「嬉しいです、正直受け入れてくれないと思ってましたから…」
「私だって、人に言えない食べ方ぐらいするよ。締切が迫ってる時はそれはもう、口で引きちぎりながらパンを食べてるからね。」
「そうなんですか、是非見てみたいです。」
「さ、流石に恥ずかしいかな…」
気づけば、私達は他愛のない話をしていた。けれども楽しかった。こんな風にロバートくんと会話をすることなんて今までなかったのだから。
流石に長時間サボる訳にはいかないからとしばらくして私達は別れることに。
「ありがとうございました。こうして貴方と一緒に過ごすことが出来て嬉しいです。」
「こ、こっちこそありがとう…」
ロバートくんを観察するつもりだったのだがまさか当の本人と親しく会話することが出来たのは良かった。
あぁ、このまま別れるのは寂しいな。もちろんこの後お互い同じ家に帰るのだが。
「……あの、もし良かったら、今後もこんなふうに会っていただけますでしょうか?」
「へ?!」
突然の提案に思わず声が裏返ってしまった。
これは断るべきだろう、バレてないとはいえ嫌いな男と過ごすと知ったらますます嫌われる。
でも、もう一度彼の笑顔が見たい。また楽しく会話をしたい。そんな自分勝手な欲が出てしまった。
「…うん、喜んで。」
「本当ですか!やった!」
ロバートくんはガッツポーズをした。そこまで喜ばれるとは思わなかった。
「それで、貴方のことはなんと呼べば?」
「あ、名前?!」
そういえばなんやかんやで名乗らずに居た。どうしよう、全く考えていなかった。
「えっと、その、ア、アデリーナ!」
「アデリーナ、素敵な響きですね。」
「あ、ありがとう…」
「あぁ、それなら大丈夫ですよ。黙っていれば問題ありません。」
ロバートくんは指を口に当ててウィンクしながらそう言ってきたのだ。その仕草に思わずキュンと胸が締め付けられた。要は仕事サボるってことなんだろうけど、なんか許されるというか許したくなってしまう。
「そうなんだ…」
「あっ、仕事を怠ける男はお嫌いですか…?」
「あ、いや、サボりは良くないけど、私も時折、スランプ時とかは、仕事から目を逸らしたりしてるから…」
「へぇ、貴方もサボったりしていらっしゃるんですね。意外です。」
ロバートくんは微笑みながらそう言った。その笑顔にまたドキッとする。
こんなにも可愛らしい笑顔をするんだなぁ…私は、この笑顔を奪っていたのか。
なんて思いながらじっとロバートくんのことを見ていたら、ロバートくんが突然手で顔を伏せ始めたのだ。
「その、じっと見られると恥ずかしいです…」
「はっ、ご、ごめんね!」
しまった。つい珍しくて見つめてしまった。誰だって自分の顔をじっと見られるのは嫌であろう。仮にも貴族だというのにマナーがちゃんとなってなかった。
「あ、あそこでお茶しましょう。俺のお気に入りのカフェなんですよ。」
そう言って案内されたのは緑いっぱいのカフェだった。中に入るとまるで森の中にいるかのような沢山の植物が飾られていた。
「素敵な場所だね、自然と融合したカフェなんて初めて入ったよ。」
「空間もそうですが、ここのケーキも美味いんですよ。おすすめはレアチーズケーキなんです!良ければ是非!」
「じゃあそれを…」
慣れた感じでロバートくんは店員に注文していた。店員が私の方を見て若干動揺していた。無理もない、女装したら奴が店に居るんだもの。申し訳ない。
さて、ケーキが来るまで時間はある、このタイミングで彼に色々質問しよう。
「その、好きな食べ物はある?」
いや待て、ついさっき会った相手に急に好きな食べ物を尋ねるのはおかしいだろ。ロバートくんはそう聞かれて若干動揺してしまっていた。けどすぐに笑顔に戻した。
「チキンステーキですね。」
「!そうなんだね!」
なら今後夕飯のメニューはチキンステーキを多めにしてあげよう。これは良いことを聞いた。どうせならとびっきり最高級なチキンを用意した方がきっと彼も喜ぶだろう。
すると思ったより早く注文していた品が届いた。
私にはおすすめされたレアチーズケーキセットが置かれ、ロバートくんにはモンブランと、木の器にミルクらしきものとパンのようなものが入っているのが置かれた。
「あっ、ちょ、これ今日は頼んでないよ?!」
ロバートくんは予想外なことに動揺していた。どうやらそれは普段から頼んでいるようだった。
「それは…?」
「あ、その…パンをミルクに浸したものです…」
「へぇ…」
ならどうして彼は動揺しているのだろうか。
「その……あんまり言うのは恥ずかしいんですが、実はミルクに浸したパンが好きなんです。」
「そうなの?」
「ミルクに限らずスープとかもそうですね…くたくたになるまで浸したパンが美味しいんです…すいません行儀悪くって…」
確かにあまり人に言えたことではないかもしれない。けれどもなんとなくだがチキンステーキよりその浸したパンの方が好物なんじゃないかと思った。
「そんなことはないよ、良かったら一口頂けるかな?」
「へっ?いやでも…」
「普段から頼んでるぐらい好きなんでしょ?なら味わってみたいな。」
「わ、わかりました…どうぞ…」
ロバートくんは木の器とスプーンを渡してくれた。正直こんな食べ方をしたことはない。味の想像はなんとなくつく。けれども彼の好きな食べ物がどんなものなのか知る必要があったからだ。
既にくたくたになったパンをすくって口に含めた。
すると口の中に広がるミルクの甘さ、そしてくたくたになったパンの食感が柔らかく舌の上で溶けたような感じがした。
「おいしいね。キミが気にいるのもわかるよ。」
そう言うとロバートくんは嬉しかったのか、笑顔を見せてきた。
「嬉しいです、正直受け入れてくれないと思ってましたから…」
「私だって、人に言えない食べ方ぐらいするよ。締切が迫ってる時はそれはもう、口で引きちぎりながらパンを食べてるからね。」
「そうなんですか、是非見てみたいです。」
「さ、流石に恥ずかしいかな…」
気づけば、私達は他愛のない話をしていた。けれども楽しかった。こんな風にロバートくんと会話をすることなんて今までなかったのだから。
流石に長時間サボる訳にはいかないからとしばらくして私達は別れることに。
「ありがとうございました。こうして貴方と一緒に過ごすことが出来て嬉しいです。」
「こ、こっちこそありがとう…」
ロバートくんを観察するつもりだったのだがまさか当の本人と親しく会話することが出来たのは良かった。
あぁ、このまま別れるのは寂しいな。もちろんこの後お互い同じ家に帰るのだが。
「……あの、もし良かったら、今後もこんなふうに会っていただけますでしょうか?」
「へ?!」
突然の提案に思わず声が裏返ってしまった。
これは断るべきだろう、バレてないとはいえ嫌いな男と過ごすと知ったらますます嫌われる。
でも、もう一度彼の笑顔が見たい。また楽しく会話をしたい。そんな自分勝手な欲が出てしまった。
「…うん、喜んで。」
「本当ですか!やった!」
ロバートくんはガッツポーズをした。そこまで喜ばれるとは思わなかった。
「それで、貴方のことはなんと呼べば?」
「あ、名前?!」
そういえばなんやかんやで名乗らずに居た。どうしよう、全く考えていなかった。
「えっと、その、ア、アデリーナ!」
「アデリーナ、素敵な響きですね。」
「あ、ありがとう…」
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