年下の夫は自分のことが嫌いらしい。

海野(サブ)

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「……え?すき?」

 その言葉を飲み込むのに時間がかかった。ロバートくんは今私に好きと言った?

「…嫌いではなく?」

「…?、少なくともアルロ様を嫌う理由はないですけど?」

「…だってロバートくんはずっと私のことが嫌いだったんじゃ…。」

「いえ別に?」

「え?」

「え?」

 この間、なんとも言えない空気が私達の間に流れた。流石にこの流れてロバートくんがわざわざ嘘をつく理由はない。

「…だって、いつも私といる時表情が硬いし、目を合わせてもすぐ逸らしてきたんじゃないか!」

「そ、それは…」

 ロバートくんは動揺して、そして手で顔を覆い隠し始めた。

「緊張していたんです…あなたとお話しして、視線が合うと凄く胸がドキドキして、つい…」

「緊張、ドキドキ…」

 いや、もう結婚してから何年も経ってるよね!?今だに緊張するってどういうこと!?
 …いや、それは私も同じだ。彼とは理由は異なるがいつも接する時は緊張していた。

「俺、嫁ぐ前は貴族らしい生活が送れなかった影響で、貴族の作法やら皆無だったんです。だから不安…自信なかったんです。もし少しでも変なところを見られたら嫌われてしまうんじゃないか、と。」

「……」

「でも、あなたはいつも優しく接してくれて、その笑顔が美しくて、なおさら直視できなくて…」

「う、美しい!?わ、わたしが!?」

 まさかロバートくんに美しいと言われるとは思っていなかった。確かにアデリーナ女装の時は言ってくれたけど、あれは女性に向けたお世辞だっただろうから。

「だから少しでもあなたの隣に立つのに相応しい男になりたくて、騎士になったんです。」

「…でも、立派な騎士になった後でもさ、避けてたじゃないか…」

「まだ自信持てなかったんです…」

  ロバートくんは項垂れていた。私は今日までのロバートくんを振り返っていた。
 言われてみれば、まぁ、辻褄は合っているようだった。

「でも、あなたが女装して他人アデリーナになりすまして私に近づいた時、これはチャンスだと思いました。」

「……えっ。」

「めちゃくちゃ緊張しましたけどまだ他人アデリーナとして接すると自然に会話が出来たんです。」

「まってまって、え、ロバートくんは私がアデリーナだと気づいていたの?」

「はい、最初から。」

 …うそでしょ!?じゃああの時点で既にバレていたというのか!?

「じゃ、じゃあなんで気づいてないフリしてたの!?」

「何か理由があってあのような格好をしていると思いました。むしろなんで女装していたんですか?」

「うっ、それは…ロバートくんと仲良くなりたくて…けどバレたくなかったら変装して女性のフリをしていたんだ。」

 あくまでロバートくんを観察し、周囲の情報を掴む予定だった。だから別に最初からロバートくんに接近するつもりはなかった。

「…可愛い理由だったんですね。」

「なんだよ可愛いって!私は真剣だったんだよ!!」

 ロバートくんは少し笑っていた。私は少し軽くぽこぽことロバートくんの肩を叩いた。
 
「……じゃあ…私の思い違いだったんだ…ずっと、嫌われていたと思っていたよ…」

「アルロ様を嫌うなんて有り得ない。俺は、初めて会った時からずっと、好きでした。」

 ロバートくんはそっと私の手をとり、手の甲に唇を落とした。そして私の眼を見る。

「俺は、あなたと結婚出来て幸せです。これ以上ない幸せだと思っています。」

 エメラルドグリーンの瞳で真っ直ぐ濁りなく私を見ていた。
 その瞬間、今まで悩んで苦しんでいた物が氷のように溶けて、そしてその氷は私の涙に変わっていた。

「あ、アルロ様!?」

「ご、ごめん…ロバートくんにそう思われていたの嬉しくて…」

 次から次へと涙が溢れてくる。ロバートくんと別れた後に涙を流すのだろうと思っていたが、まさかこんな形で涙を流すとは思わなかった。

「アルロ様…すいません…俺はずっとアルロ様を傷つけてしまっていたんですね、なのに、勘違いして手を出して、その上あんな事を口走ってしまった…」

「いや、私の方こそキミの想いに気づかなくてごめんね。怖気ついていたのは私の方だ。」

 思えば、私はちゃんと彼と向き合おうとしてなかった。勝手に決めつけて、彼の気持ちを理解したつもりだった。けれどもそうじゃなかった。直接聞くのは怖かったのだ。

「……離婚しようって言ったけど、撤回してもいいかな…?私に失望していなければだけど…」

「当たり前です!俺は離婚なんかしたくありませんから!!」

「よかった。」

 一件落着、だろうか。私は一安心した。
 
「…あの、一つ聞いても良いでしょうか?」

「うん?なんだい?」

「アルロ様は自身は、俺のことはどう思ってますか…?」

 ロバートくんは不安そうな表情で私に向けてきた。
 そうだ、私達は両想いなんだっけ。今それを知っているのは私だけだ。
 それを言葉にして伝えても良いのだが…

「ロバートくん…」

 私はロバートくんに近づき、そっと彼の頬に手を当てて、そして唇を重ねた。

「…これでわかる、かな?」

「あ、アルロ様!!」

「わっ!」

 ロバートくんは思いっきり抱きついてきた。私は今産まれたての姿だから直に彼の温もりが肌に伝わってくる。

「嬉しいです…アルロ様…」

「ロバートくん………ロバートくん…?」

 しばらくぎゅっと抱きしめられたと思いきや、そのまま押し倒された。

「あの、ロバートくん…?」

「そういえば、俺達まだ初夜迎えていませんでしたよね?」

「へっ!?ちょっさっきシたばかりじゃん!?ひゃっ、ちょっ、ロバートくん!!!!!!?」

 その後、流されるまま夫夫の営みをすることになってしまったのだ。
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