目付きの悪い俺が黒猫に振り回されてます。

海野(サブ)

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前編

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「なぁ。最近雰囲気変わってきてるよな?」

 遊びに出かけた数日後。仕事着に着替えている時に先輩がそう言って来た。

「そ、そうですか…? メガネのせいですかね…?」

 俺の今の髪型は、前髪伊達メガネで目元ガードスタイルではなく、遊びに出かけた時と同じ前髪が少し垂れたオールバックである。クロが絶対その方がいいと言ってくるので不安だがこの髪型にしてみた。そして伊達メガネは付けずに裸眼のままでいる。

「急に髪型変えていかつくなったのはもちろんだけど。なんかこうよ、俺不幸ですよ感が若干薄れたよな。」

「いかっ!?というか別に俺は自分が不幸オーラ出していないんですが!?」

「いや、明らかに不幸感出してただろ。」

 ま、まじか。俺そんなオーラ出していたのか。でも、確かに言われてみればずっと俺はなんで目つきのせいで不幸なんだろうと思っていたような気がする。

「そ、それはすいませんでした…」

「ていうか、お前。彼女でも出来た?」

「へ?! な、なんでそうなるんですか!??」

「いや、雰囲気変わる奴ってだいたい彼女出来たとかだろ。」

「彼女いません!!その、あの、え、えーと…髪型に関してはし、知り合いにアドバイス貰っただけです!!」

「つまり女か。」

「だから違います!!」

 先輩はゲラゲラと笑いながら揶揄してきた。俺は必死に否定するが、聞く耳を持ってくれていない。だいたい俺に恋人なんか出来ると本気で思っているのか?

「ま、少なくとも前のお前より今の方がマシになったんじゃねえの?」

 手をひらひらさせ、そう言いながら先輩は店の方に向かって行った。
 俺は呆然とした。まさか先輩にあんなこと言われるとは思っていなかったからだ。けれど少し嬉しかった。普段嫌味ばかり言ってくる人に少しだけ自分を認めてもらえた気がしたからだ。

「あ、士郎くん。準備終わったかい?」

 先輩と入れ替わるようにマスターが入ってきた。

「あ、すいません。今行きます。」

「急かしてわるいね。今日から短期間入ってくれる子を紹介したくて。」

「あ、はい。わかりました。」

 そういえばこないだ短期バイトの人が入ると言っていた。毎回短期バイトで入る人と接するのは緊張する。短期バイトで入る人達は揃いに揃って俺の目付きにビビって萎縮させてしまうのだ。
 今回の人もそうさせてしまうんじゃないかと不安になる。だけど……

『シロウは他人の目が怖いんだよ。』
『何しても怯えて、ここに来るまですごい周り気にしてたし、今も気にしてるみたいだし。それが顔に出てるんじゃない?』

 クロに言われたことを思い出した。
 俺は、この目付きの悪さで相手を怖がらせてしまいずっと申し訳ないと思っていた。けど、確かに言われてみれば、俺はずっと他人の目が怖かったのだ。ビビられ、俺がどんな奴なのか勝手に決めつけられていた。相手を怖がらせてしまうのは事実だ。こればかりは仕方ないとは思う。だけどその後、俺はその人達に本当の自分はどんな人なのか見てもらおうとしてこなかったと今更ながら気付いた。
 
 “俺自身が相手を怖がっていた“
 
 だから人と関わることに逃げて来たのだ。本当は人からの温もりを求めているにも拘わらず。
 
 少しずつでも良い、変わろう。見た目ではなく、中身を。

「お待たせしました。……え?」

 準備終わって俺も店に向かうと、そこには中学の時の同級生だった女性が立っていた。

「灰島さん…?」

「え?もしかして色野くん!?」

 同級生であった【灰島加奈子ハイジマカナコ】さんも俺だと気付いたのか、手を口に当てて驚いていた。

「おや?知り合いだったのかい?」

「え、えぇ…中学生の時の同級生の…」

 まさか短期で入る人が中学校の同級生だったとは。

「久しぶりだね、色野くん。」

 灰島さんは優しく笑みを浮かべていた。彼女は垢抜けてすっかり大人の女性になっていた。

「あ、あぁ…」

 俺は色々な意味で緊張して視線をずらした。
 いや、まて。変わろうとしたんだろ。だいたいクロに相手の目をちゃんと見ないといけないって注意されたんだし。
 俺は出来るだけ灰島さんの目を見ようとした。

「ひ、久しぶり…」

「…!うん。」

 う、人と目を合わせるのってこうも恥ずかしいというか難しいのか。

「さて、灰島さんにはホールの方で入ってもらう。仕事内容は妻や甥に説明するから。士郎くんには、仕事内容も違うから無理に聞かなくても良いからね…」

 マスターは俺の顔を見て気まずい顔をした。実はマスターには新人の子にはよっぽどのことがなければ俺に関わらせないようお願いした。だいぶわがままなことを言っているが、俺を恐れて仕事に集中出来なくなってしまわないよう自分なりに配慮を考えだ。マスターは俺の気持ちに配慮してくれている。
 だが、流石にこのままではダメだ。少しでも、変わっていかないと。

「あ、えっとマスター。俺、今回は、というかこれからは俺も出来るだけ新人のサポートしていきます…」

 その場にいた全員、目玉が飛び出すんじゃないかの勢いで驚いていた。

「え!?大丈夫なのかい?!」

「おいおい、いくら同級生だったからって急にやる気出してるんじゃねえよ。さては、好きな人だったのか?」

「ち、ちちち違いますよ!!!!!さ、流石に今まで甘えてきたので、流石にそろそろしっかりしないといけないと思いまして!!」

 先輩に揶揄われて俺は必死に否定した。

「そうか…わかった。なら士郎くんも色々教えてやってくれ。」

「はい!」

 マスターはまだ動揺はしていたが、俺のやる気を認めてくれた。
 それからそれぞれ仕事を始める。ホールに関しては奥さんと先輩が教えていたが、掃除とかは俺が教えることになった。

「とまぁこんな感じだな…」

「なるほど…了解。」

 灰島さんは俺が教えたことをきちんとメモに書き写していた。
 それにしても、まさかこんな偶然があるとは。世界は狭いというのは本当らしい。
 灰島さんは中学の時、同じクラスだった。ほとんど会話はしたことはない。そもそもクラスメイトとほとんど会話をしない悲しい学生時代を送ってきたのだが…

「何かわからないことがあったら聞いてくれ。出来るだけわかりやすく教えるから…」

「わかった、ありがとう。」

「灰島さーん。こっちに来てくれるかしら?」

「はーい。」

 灰島さんは奥さんに呼ばれてそのまま移動して行った。姿が見えなくなるのを確認して、俺は特大の息を吐いた。
 き、緊張した…いくら知り合いだったとはいえほとんど喋ったことない人を相手するのはめちゃくちゃ緊張する。喋り方が変じゃないか、不快な思いをさせてないかと考えながら話していた。
 そもそもまともに人と話すのが今までにあったのだろうか?いや、まぁクロとは喋っていたけども。人とコミュニケーション取るのってこんなに難しかったっけ!?
 もしかして俺、自分では気づいていなかったが実はだいぶコミュ障なのか!?!ずっと俺は、相手がビビらなければまともに話せると思っていた。だが実際ははっきり喋らないし、なんなら声さえ小さい気がしてきた。
 誰も指摘しないし、そもそも俺から避けて来たから指摘しようもない。
 もしかしたら俺は、自分が思っている以上に中身を変えないといけないのだろうか。
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