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第二章
第62話「踏み込みゆけば、あとは極楽」
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街の外壁を越えて、俺たちは夜の草原に出た。
高い外壁を越える際、ケルベロスはその巨体にも関わらず驚くべき跳躍力でこれを飛び越えた。
しかも衛兵にその存在を知られぬように、音も無く気配も無くだ。
俺たち猫は衛兵に見つからないように、気配を消して外壁の階段を上り、そこからは外に向かって飛び下りた。
猫は皆、高い所から飛び降りるのは得意なのだ。
「…………ぽよ」
ライミー(猫型)の表情は読みにくいが、怖い思いをしたとげんなりした様子だ。
気のせいかもしれないが、今も俺と外壁を交互に睨んでいる気がする。
外壁の上ですくんでいたライミーは、俺が首根っこくわえて一緒に飛び降りたのだ。
“猫”は皆、高い所から飛び降りるのは得意なのだ。
緊急事態だから許してほしい……。
周囲はかなり暗く、月明りが俺たちを照らしている。
俺は再びケルベロスと対峙する。
ライミーたちは、少し離れてこちらを見守っている。
「バウゥッ?(覚悟はいいか?)」
ケルベロスの真ん中の頭が問いかけてくる。
その眼光は鋭く、今までも主の敵を正面から蹴散らしてきただろう実力を感じさせる。
左右の頭は、意思を持ってるように動いているけど、言葉は一切発しない。
……シャイなのかもしれないな。
「クルニャン!(悪いが、ここでやられるわけにはいかない!)」
俺が敗れたら、関係者であるそこの猫たちも無事では済まないだろう。
それに、さっき屋根裏で聞いた話によると、伯爵領やリルたちにも魔の手が伸びることになる。
負けられない戦いの緊張感に、口の中が渇く。
ケルベロスは三つの頭を持っているけど、両脇の頭は何か役割があるのだろうか。
一応警戒しておかねば……、と思っていた時のことだ。
ケルベロスの巨体がさらに大きく膨らんだ気がした。
「ルニャッ!?(速いっ!?)」
すぐにそれがケルベロスの正面からの突撃による接近だと気づき、その場を飛びのく。
カウンターで魔法を置いていこうかとも思ったが、ちょっとした魔法程度では牽制にもならないだろうと思い直す。
こいつを倒すためには、合成による威力の極大化か、あるかどうかも分からない弱点をつくしかないだろう。
火には強いけど、水には弱いとかだったら単純で助かるけど、よく考えたら水魔法は使えないんだった。
「クルルッ!!(くらえっ!!)」
ケルベロスの周囲を回り込むように動きながら風刃を放つ。
半球状に空間を埋め尽くした風刃が、ケルベロスに降りそそぐ。
「バウウッ!!(ぬるいわっ!!)」
ケルベロスの質量をともなった咆哮が、風刃と相殺する。
真ん中の頭が首を動かすと、発する波動が弧を描き風刃を消し飛ばしていく。
さながら音波兵器といったところだろうか。
迸る遠吠えが直撃したわけでもないのに、耳がキーンとする。
強い犬が吠えると厄介この上ない。
風刃は消されたけど、本命は……。
「バウ……(ぬっ……)」
ケルベロスの体に、黒い針のようなものが数本吸い込まれた。
スキル“毒弾”による、毒針だ。
風刃に隠れるように、そっと忍ばせた。
多くは風刃とともにかき消されたしまったけど、役目は数本で十分だ。
「クルニャ(竜にも効く猛毒だ)」
即効性の猛毒だから、すぐに効果が……。
「バウバウッ?(なんだこれは? 人族は体の調子を整えるために体に針を刺すというが、それか?)」
ケルベロスが首をコキコキと鳴らしている。
全く効いている気配がない。
高い毒耐性を持っているのだろう。
効かない可能性は考えていたけど、鍼灸師扱いされるとは……。
炎熱嵐の時も思ったけど、こちらの攻撃を避ける素ぶりを見せないことから察するに、こいつは耐久性に余程自信があるのだと思う。
今まで、ダメージを負って危ない目にあったことがほとんど無いのではなかろうか。
素早さを見るかぎり、避けるのが苦手ってことはないだろう。
ライミーたちの方をチラリ見やると、心配そうにこちらを見守っていた。
今のちょっとした攻撃のやり取りだけでも、楽には勝たせてくれないことが分かったのだろう。
タフな相手にはいろいろ試していくしかないな。
「クルニャン!(これならどうだ!)」
土魔法による拘束を試みる。
ケルベロスを覆うように石の板がいくつも現れる。
その重さはかなりのもので、非力な魔物ならそれだけで生き埋めにできるだろう。
「バウゥ(無詠唱は大したものだが、我に砂遊びは通じぬ)」
ケルベロスが前足を振るうと、石板は砕け散った。
まるで、立ちはだかるものは全てこのようになると示しているようだ。
石を砕いた後、ケルベロスは吠えると同時に飛びかかって来た。
「ルニャ!?(くっ!?)」
距離が近かったこともあって、避けるのが間に合わない。
竜鱗の腕を盾に、ケルベロスの薙ぎ払いを受け止め……られず、俺は草原を転がった。
視界がクルクルと回り逆さで止まる。
すぐに現状を理解し、飛び起きる。
竜の硬い体すらも抉りそうな一撃を受けて、腕が痺れるだけで済んだのは、ふっ飛ばされた幸運だろうか。
久しぶりの苦戦に、内心冷や汗が止まらない。
オークキングなんか比べ物にならないほどの強敵だ。
上には上がいることは想定していた。
だからこそ、強さを欲していた。
でもこういう魔物が普通に存在するなら、せめて存在することだけでも教えて欲しかった。
ちょっと隣の領地に来ただけでエンカウントするとか、ちょっと自信をなくすよ。
魔物ランク、仕事しろ。
「バウバウッ!(なぶる趣味はない。一気にいくぞ!)」
ケルベロスは、足場を固めるように前足で地面を何度か蹴る。
可愛さのかけらもないどころか、獲物になったら絶望したくなる瞬間だろう。
「クルニャ!(やってやる!)」
覚悟を決める。
戦いながら切り崩す方法を考えるしかない。
相手の攻撃を待ってても押されるだけなので、俺は自分から仕掛ける。
ケルベロスのカウンター気味の振り下ろしを避け、右手で突きを繰り出す。
避ける気が無かったのか、俺の突きはケルベロスの脇腹に命中した。
全く効いていないようで、うめき声を上げることすらなく、ケルベロスは再度攻撃に転じる。
三つの頭のうち左の頭が、俺に噛みつこうとしてきた。
シャイな彼の攻撃だ。
「バウッ!!」
シャイな彼も吠えるらしい。
迫ってくる凶悪な犬の顔を見ながら、そんなことを思った。
「クルニャ!(ここだ!)」
危険だけど、踏み込むべき時がある。
――――踏み込みゆけば、あとは極楽。
ふとそんな言葉が頭をよぎる。
犬に手を噛まれたら、手を奥まで突っ込んだ方が噛むのを止めてくれる。
そんなことも浮かんだ。
まだ噛まれてないけど……。
――空竜猛進
“猛進”と“飛行”と“風刃”のスキルを瞬時に合成する。
オークキングを倒した合成技で、平常時でも使えるように訓練していたのだ。
遥か彼方に吹っ飛んでいかないように、今は威力と方向をコントロールできるようになっている。
シャイなワンコの鼻っ柱に向けて、我が身という砲弾が発射された。
周囲に響きわたる爆発音。
気づいたら俺は地面に転がっていた。
激突の衝撃で脳震盪を起こしていたらしい。
俺はどれくらいの時間、気を失っていた?
ケルベロスはどうなった?
起き上がり周囲を見回すと、すぐにケルベロスが視界に入った。
「バウウゥ(やるな……。だがこの程度では我は倒せん)」
ケルベロスの左の頭は気を失っているのか、力なくダラーンとうなだれている。
残りの二つの頭は全く影響を受けていないように見える。
捨て身の攻撃だったのになあ……。
自身のダメージを覚悟の上の攻撃が、頭一つ気絶させただけということに、少なからずショックを受ける。
しかも、こちらもダメージを受けていて体が痛い。
これをあと二回繰り返せる気がしない。
「クルナー……(だけど、諦めるわけにはいかない……)」
きしむ身体を無視して、戦闘態勢を取る。
そこにケルベロスが飛び掛かってくる。
かわしざまに攻撃を加えては、正面に立たないようにステップをふむ。
頭一つやられて本気度が増したのか、ケルベロスの攻撃も大振りではなく、隙の無いものになってきた。
そんな攻撃でも、当たれば大きなダメージを負いそうな威力がうかがえる。
現に、何度か擦っただけで、その部分に傷を負った。
近接での攻防が繰り返される。
相手のタフで剛腕唸る攻撃を、スキルと手数で何とか迎え撃つ。
ひたすらにそれが続く。
瞬きすら許されぬ攻防が、ただひたすらに……。
もうかれこれ、オークキングを百回以上打ち倒せる攻撃を繰り出したのではなかろうか。
時間の感覚もよく分からず、数時間戦い続けてる気さえしてきた。
それなのに、相手に焦りや疲れは見受けられない。
ケルベロスのその泰然とした様子が、俺に焦りの気持ちを抱かせる。
ケルベロスを倒すだけでも手こずっているのに、もしここにこいつの主であるキマリスが来たら……、打開策が全く浮かばない。
さらに気絶していた頭も復帰してしまい、相手にダメージが与えられてるかすら疑問が生じてくる。
そんな焦りの気持ちが膨みつつあったときのことだ。
正面の頭の噛みつきをかわし、見上げるとふとケルベロスの三つの頭が視界に収まる。
そこに違和感を感じた。
今まで沈黙を守っていたケルベロスの右頭部が、横を向いて口を大きく広げている。
「クルニャ?(えっ?)」
背筋に寒気が走った。
右頭部の口が向いてる方向に、俺が走り出したのは無意識だった。
周囲の音が止んだ気がした。
空気を切り裂く音がどこか遠くに聞こえた。
ケルベロスの口から、破壊という概念を束ねたかのような黒き波動が迸った。
……それはライミーやミケたちに向けられたものだった。
トラックに轢かれそうな子供を助けようと飛び出すのは、無意識の行動かもしれない。
気づいたら、目の前にライミーたちの顔が見えた。
みんな泣き出しそうな顔をしている。
「シュン!!」
「「ボス!!」」
ライミーが叫ぶのを聞くのは初めてだな……。
ケルベロスが放った黒波動を背中に受ける瞬間、俺はそんなことを考えていた。
高い外壁を越える際、ケルベロスはその巨体にも関わらず驚くべき跳躍力でこれを飛び越えた。
しかも衛兵にその存在を知られぬように、音も無く気配も無くだ。
俺たち猫は衛兵に見つからないように、気配を消して外壁の階段を上り、そこからは外に向かって飛び下りた。
猫は皆、高い所から飛び降りるのは得意なのだ。
「…………ぽよ」
ライミー(猫型)の表情は読みにくいが、怖い思いをしたとげんなりした様子だ。
気のせいかもしれないが、今も俺と外壁を交互に睨んでいる気がする。
外壁の上ですくんでいたライミーは、俺が首根っこくわえて一緒に飛び降りたのだ。
“猫”は皆、高い所から飛び降りるのは得意なのだ。
緊急事態だから許してほしい……。
周囲はかなり暗く、月明りが俺たちを照らしている。
俺は再びケルベロスと対峙する。
ライミーたちは、少し離れてこちらを見守っている。
「バウゥッ?(覚悟はいいか?)」
ケルベロスの真ん中の頭が問いかけてくる。
その眼光は鋭く、今までも主の敵を正面から蹴散らしてきただろう実力を感じさせる。
左右の頭は、意思を持ってるように動いているけど、言葉は一切発しない。
……シャイなのかもしれないな。
「クルニャン!(悪いが、ここでやられるわけにはいかない!)」
俺が敗れたら、関係者であるそこの猫たちも無事では済まないだろう。
それに、さっき屋根裏で聞いた話によると、伯爵領やリルたちにも魔の手が伸びることになる。
負けられない戦いの緊張感に、口の中が渇く。
ケルベロスは三つの頭を持っているけど、両脇の頭は何か役割があるのだろうか。
一応警戒しておかねば……、と思っていた時のことだ。
ケルベロスの巨体がさらに大きく膨らんだ気がした。
「ルニャッ!?(速いっ!?)」
すぐにそれがケルベロスの正面からの突撃による接近だと気づき、その場を飛びのく。
カウンターで魔法を置いていこうかとも思ったが、ちょっとした魔法程度では牽制にもならないだろうと思い直す。
こいつを倒すためには、合成による威力の極大化か、あるかどうかも分からない弱点をつくしかないだろう。
火には強いけど、水には弱いとかだったら単純で助かるけど、よく考えたら水魔法は使えないんだった。
「クルルッ!!(くらえっ!!)」
ケルベロスの周囲を回り込むように動きながら風刃を放つ。
半球状に空間を埋め尽くした風刃が、ケルベロスに降りそそぐ。
「バウウッ!!(ぬるいわっ!!)」
ケルベロスの質量をともなった咆哮が、風刃と相殺する。
真ん中の頭が首を動かすと、発する波動が弧を描き風刃を消し飛ばしていく。
さながら音波兵器といったところだろうか。
迸る遠吠えが直撃したわけでもないのに、耳がキーンとする。
強い犬が吠えると厄介この上ない。
風刃は消されたけど、本命は……。
「バウ……(ぬっ……)」
ケルベロスの体に、黒い針のようなものが数本吸い込まれた。
スキル“毒弾”による、毒針だ。
風刃に隠れるように、そっと忍ばせた。
多くは風刃とともにかき消されたしまったけど、役目は数本で十分だ。
「クルニャ(竜にも効く猛毒だ)」
即効性の猛毒だから、すぐに効果が……。
「バウバウッ?(なんだこれは? 人族は体の調子を整えるために体に針を刺すというが、それか?)」
ケルベロスが首をコキコキと鳴らしている。
全く効いている気配がない。
高い毒耐性を持っているのだろう。
効かない可能性は考えていたけど、鍼灸師扱いされるとは……。
炎熱嵐の時も思ったけど、こちらの攻撃を避ける素ぶりを見せないことから察するに、こいつは耐久性に余程自信があるのだと思う。
今まで、ダメージを負って危ない目にあったことがほとんど無いのではなかろうか。
素早さを見るかぎり、避けるのが苦手ってことはないだろう。
ライミーたちの方をチラリ見やると、心配そうにこちらを見守っていた。
今のちょっとした攻撃のやり取りだけでも、楽には勝たせてくれないことが分かったのだろう。
タフな相手にはいろいろ試していくしかないな。
「クルニャン!(これならどうだ!)」
土魔法による拘束を試みる。
ケルベロスを覆うように石の板がいくつも現れる。
その重さはかなりのもので、非力な魔物ならそれだけで生き埋めにできるだろう。
「バウゥ(無詠唱は大したものだが、我に砂遊びは通じぬ)」
ケルベロスが前足を振るうと、石板は砕け散った。
まるで、立ちはだかるものは全てこのようになると示しているようだ。
石を砕いた後、ケルベロスは吠えると同時に飛びかかって来た。
「ルニャ!?(くっ!?)」
距離が近かったこともあって、避けるのが間に合わない。
竜鱗の腕を盾に、ケルベロスの薙ぎ払いを受け止め……られず、俺は草原を転がった。
視界がクルクルと回り逆さで止まる。
すぐに現状を理解し、飛び起きる。
竜の硬い体すらも抉りそうな一撃を受けて、腕が痺れるだけで済んだのは、ふっ飛ばされた幸運だろうか。
久しぶりの苦戦に、内心冷や汗が止まらない。
オークキングなんか比べ物にならないほどの強敵だ。
上には上がいることは想定していた。
だからこそ、強さを欲していた。
でもこういう魔物が普通に存在するなら、せめて存在することだけでも教えて欲しかった。
ちょっと隣の領地に来ただけでエンカウントするとか、ちょっと自信をなくすよ。
魔物ランク、仕事しろ。
「バウバウッ!(なぶる趣味はない。一気にいくぞ!)」
ケルベロスは、足場を固めるように前足で地面を何度か蹴る。
可愛さのかけらもないどころか、獲物になったら絶望したくなる瞬間だろう。
「クルニャ!(やってやる!)」
覚悟を決める。
戦いながら切り崩す方法を考えるしかない。
相手の攻撃を待ってても押されるだけなので、俺は自分から仕掛ける。
ケルベロスのカウンター気味の振り下ろしを避け、右手で突きを繰り出す。
避ける気が無かったのか、俺の突きはケルベロスの脇腹に命中した。
全く効いていないようで、うめき声を上げることすらなく、ケルベロスは再度攻撃に転じる。
三つの頭のうち左の頭が、俺に噛みつこうとしてきた。
シャイな彼の攻撃だ。
「バウッ!!」
シャイな彼も吠えるらしい。
迫ってくる凶悪な犬の顔を見ながら、そんなことを思った。
「クルニャ!(ここだ!)」
危険だけど、踏み込むべき時がある。
――――踏み込みゆけば、あとは極楽。
ふとそんな言葉が頭をよぎる。
犬に手を噛まれたら、手を奥まで突っ込んだ方が噛むのを止めてくれる。
そんなことも浮かんだ。
まだ噛まれてないけど……。
――空竜猛進
“猛進”と“飛行”と“風刃”のスキルを瞬時に合成する。
オークキングを倒した合成技で、平常時でも使えるように訓練していたのだ。
遥か彼方に吹っ飛んでいかないように、今は威力と方向をコントロールできるようになっている。
シャイなワンコの鼻っ柱に向けて、我が身という砲弾が発射された。
周囲に響きわたる爆発音。
気づいたら俺は地面に転がっていた。
激突の衝撃で脳震盪を起こしていたらしい。
俺はどれくらいの時間、気を失っていた?
ケルベロスはどうなった?
起き上がり周囲を見回すと、すぐにケルベロスが視界に入った。
「バウウゥ(やるな……。だがこの程度では我は倒せん)」
ケルベロスの左の頭は気を失っているのか、力なくダラーンとうなだれている。
残りの二つの頭は全く影響を受けていないように見える。
捨て身の攻撃だったのになあ……。
自身のダメージを覚悟の上の攻撃が、頭一つ気絶させただけということに、少なからずショックを受ける。
しかも、こちらもダメージを受けていて体が痛い。
これをあと二回繰り返せる気がしない。
「クルナー……(だけど、諦めるわけにはいかない……)」
きしむ身体を無視して、戦闘態勢を取る。
そこにケルベロスが飛び掛かってくる。
かわしざまに攻撃を加えては、正面に立たないようにステップをふむ。
頭一つやられて本気度が増したのか、ケルベロスの攻撃も大振りではなく、隙の無いものになってきた。
そんな攻撃でも、当たれば大きなダメージを負いそうな威力がうかがえる。
現に、何度か擦っただけで、その部分に傷を負った。
近接での攻防が繰り返される。
相手のタフで剛腕唸る攻撃を、スキルと手数で何とか迎え撃つ。
ひたすらにそれが続く。
瞬きすら許されぬ攻防が、ただひたすらに……。
もうかれこれ、オークキングを百回以上打ち倒せる攻撃を繰り出したのではなかろうか。
時間の感覚もよく分からず、数時間戦い続けてる気さえしてきた。
それなのに、相手に焦りや疲れは見受けられない。
ケルベロスのその泰然とした様子が、俺に焦りの気持ちを抱かせる。
ケルベロスを倒すだけでも手こずっているのに、もしここにこいつの主であるキマリスが来たら……、打開策が全く浮かばない。
さらに気絶していた頭も復帰してしまい、相手にダメージが与えられてるかすら疑問が生じてくる。
そんな焦りの気持ちが膨みつつあったときのことだ。
正面の頭の噛みつきをかわし、見上げるとふとケルベロスの三つの頭が視界に収まる。
そこに違和感を感じた。
今まで沈黙を守っていたケルベロスの右頭部が、横を向いて口を大きく広げている。
「クルニャ?(えっ?)」
背筋に寒気が走った。
右頭部の口が向いてる方向に、俺が走り出したのは無意識だった。
周囲の音が止んだ気がした。
空気を切り裂く音がどこか遠くに聞こえた。
ケルベロスの口から、破壊という概念を束ねたかのような黒き波動が迸った。
……それはライミーやミケたちに向けられたものだった。
トラックに轢かれそうな子供を助けようと飛び出すのは、無意識の行動かもしれない。
気づいたら、目の前にライミーたちの顔が見えた。
みんな泣き出しそうな顔をしている。
「シュン!!」
「「ボス!!」」
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