上 下
5 / 34

第4話 『黒閃のフェンリル』と『破天のハティ』

しおりを挟む
 『 疾駆迅雷しっくじんらい   とお足跡そくせき   つむぐ 』


 リルは銀狼族という獣人の一種族出身とのことだ。
 その銀狼族に古くから伝わる伝説を誇らしそうに語ってくれた。

 狼耳と狼尻尾だったのね……


________________________________________________________________________



 およそ千年前、銀狼族に一人の英雄がいた。
 名はバルハルト、銀色の髪を短く切りそろえた青年。
 バルハルトはニ匹の従魔を従えていた。

 従魔の名は『フェンリル』と『ハティ』、フェンリルは黒い狼の姿をしていたと伝えられ、その漆黒の佇まいは闇の奥に潜む『無』を想起させるものだったという。ハティは金色に輝く体毛に、叡智を湛える青の瞳、獅子の姿をしていたと伝えられている。フェンリルとハティは親子だったという説と、つがいだったという説がある。

 災害と呼ばれるような凶悪な魔物ですら、バルハルト達にとっては日常の狩りと同じようなもので、各地の凶悪な魔獣を討伐して回り、その名を轟かせていった。 

 ある満月の夜、突如空から災厄が湧いた。数十万とも数百万とも言われる、魔の軍勢。
 地上の人族、獣人族は力を合わせて魔を退けようとしたが、時の経過とともに押し込まれ始めた。その強さ、凶悪さに人々は絶望していった。

 皆が絶望して諦めていく中、バルハルト達は自分達だけで軍勢に挑んだ。七日七晩、戦った後に最後は軍勢を追いやったと伝えられている。
 その後、バルハルト達の姿を見たものは無く、この戦いで最後に散ったとも、追いやるために魔の国に乗り込んでいったとも言われている。

 この神話のような戦いは伝説として、吟遊詩人達によって後世まで語り継がれた。
 
「 疾駆迅雷しっくじんらい   とお足跡そくせき   つむ

        天覆そらくつがえす  二筆ふたふでかぜ 」

 バルハルト達の十の足が、歴史をつくったと。人によっては『史』ではなく『死』であるとして、軍勢を蹴散らす姿に畏敬を込めて詩を詠んだ。

 フェンリルとハティの戦う姿は、人が目で追えるようなものではなかったが、時折空に閃く尻尾の軌跡は美しい筆の軌跡のようで、その神々しさに人々は心を奪われ祈り続けたという。

『英雄バルハルト』 『黒閃こくせんのフェンリル』 『破天はてんのハティ』 
 
 十の足跡 史を紡ぐ

 その伝説は銀狼族の誇りである。

__________________________________________________________________________________

 
 リルの話によると、人族が中心の国にも似たような言い伝えがあるらしい。
 教会によって話が伝えられてるらしいけど、伝説の内容が違い、バルハルトは『人族』で『十の足』というのは『五人の勇者』のことで、『フェンリル』と『ハティ』は狼と獅子ではなく、『狼と比喩されるくらいに強き者』と伝えられてるらしい。

 村に立ち寄った吟遊詩人、エルフのお姉さん曰く、「人族に都合のいいように伝えられてるのよ……」とのことだ。
 エルフは長寿でいつまでも若いままの姿をしていると、リルが教えてくれた。

『……ということは、エルフの『お姉さん』ではなかったのでは……』と思ったが、思っただけなので問題無しである。喋れないし全然問題無しなのである。

 この神話のような伝説。漠然としたものだが、俺達に関係してくるような気がした…………

しおりを挟む

処理中です...