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第16話 リルとクレア
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「リル姉様、水が気持ちいいです」
「クレア、はしゃぐと滑って危ないよ」
木々の向こうから、リルとクレアが水浴びをしている声が聞こえる。
パシャパシャという水の音、美少女二人のはしゃぐ声、心洗われるようだね。
そしてなぜか、俺の隣にはおっさ……アルフレッドが座っている。
俺達はリル達のいる川には背を向けている。三十メートルくらいは離れているだろうか。
たまにアルフレッドが俺の方を見て、不思議なものを見るように首をかしげる。
あれ? 俺ってこういう場合、向こうで一緒に水浴びするポジションじゃない?
おかしくない?
「リル姉様の銀色の髪と尻尾、陽の光を浴びてキラキラしてて綺麗です」
「クレアの金髪の方がキラキラしてるよ。ほら、顔にまだ汚れが残ってるよ、動かないでね」
「ん……くすぐったいです」
森が静かなので、少し離れていてもリル達の声がよく聞こえる。
これが百合展開というやつか……というのは冗談だが、リルとクレアがなぜか打ち解けまくっている。イチャイチャしていると言っても過言ではないだろう。
クレアがリルに懐いてるうちに、今みたいな感じになったのだ。リルも初めは姉様と呼ばれるのには困惑していたが、好意を向けられるというのは悪い気がしないようだ。
やはりクレアもリルの尻尾をモフモフしたいのだろうか。だとしたら、その気持ちはよく分かるよ……
なんにせよ楽しそうなのは良い事だ。
◇◇◇
――時は少し遡り。
朝の食事時、アルフレッドは娘のクレアがリルに懐く様子を微笑ましく見ていたけど、俺が見ると軽く咳払いをしていつもの真面目な顔に戻った。
このニ人を見た感じ、リルが人族でないことに全く忌避感を感じてないように思う。リルの話だと人族は他種族に差別的な傾向が強いと聞いていたのだが……
人や場所によるってことかな。
川に来るまでの道中で、リルがアルフレッド達に簡単な自己紹介をした。といっても、自分が銀狼族であり、住んでいた村が盗賊の襲撃を受けた為、この山で生活しつつ将来冒険者になるための準備をしているということだ。俺は友達の『シュン』だと紹介された。
なぜかクレアがリルの話を聞いて目を輝かせていたのだが、話のどこに目を輝かせるような所があったのか……
◇◇◇
今はリルとクレアが水浴びをして、アルフレッドが見張りをしているというわけだ。まあリルは魔物が近付いてきたら気づくだろうし、見張りは必要ないんだけどね。
隣のアルフレッドがこちらを見て何かを喋ろうとしてるのか、口をパクパクしている。おそらく話しかけようとしたけど、『こいつ魔物だよね? でも、リル殿が友達だと言って普通に話しかけてるし……』みたいな葛藤でもあるのだろう。
「なあ、おま……シュンは普通の魔物にしては、従順で人に懐き過ぎというくらい懐いているけど、俺達の言葉が少しは分かったりするのか?」
昨日のリルとの会話の時よりも少し砕けた話し方だ。こっちが地の話し方なのだろう。
さて、どうしようか? 分からないフリして無視するのは簡単だけど……
記憶の世界で犬は飼い主の言うことをある程度理解できていたし、この世界でもある程度言うことを聞く魔物はいると考えるのが自然だ。
ただ、アルフレッドの態度からすると、人の言葉を完全に理解したり話すことができる魔物は、存在しないか存在しても希少なのだろう。
「クルニャン」
鳴くのと同時に肯定に見えるように頷く。
「…………」
アルフレッドが半分口を空けたまま固まっている。
大丈夫かな……この妖かしめ!っていきなり切られたりしないよね。
「パパ、どうしたの?」
リル達が水浴びを終えてこっちに来たようだ。
「なんでもない、少し考え事をしていた」
いつもの真面目な顔に戻ってる。
「リル姉様、私もシュンを抱っこしてもいいでしょうか」
クレアが両手を丁度俺のサイズに広げてソワソワしている。目がちょっと怖い……
「交代の水浴びが終わってからね」
なぜか俺とアルフレッドが一緒に水浴びすることになっていた。それはもう烏の行水で、逃げ出すようにすぐ戻ってきたよ。マッチョの水浴びなんて見たくないし……
◇◇◇
「クレアはどうしてリルとシュンのことを嬉しそうに見るの?」
今は川原で昼食を取っているところだ。大きめの石に座り三人が円になるように座っている。俺はリルの膝の上で、手ずから魚をもらっている。その様子をクレアがニコニコ見ていたのを、リルが不思議に思って質問したのだ。
まあ、俺も今朝からクレアがやたらリルに好意的だったのは不思議に思っていた。
「リル姉様は御伽噺のバルハルト伝説って知っていますか」
「うん、小さい頃に何度も親に話してもらったから」
この前、リルが語ってくれた千年前の出来事とされる言い伝えだ。現実離れした話だし御伽噺とされてるようだ。
「私はバルハルト伝説は架空の話ではなくて、実際にあった話だと思っています。『 疾駆迅雷 十の足跡 史を紡ぐ 』 ああ、素敵です」
「そ、そうなんだ……」
夢見る少女風味のクレアにリルが少し面食らってる。リルにとって英雄バルハルトは自分の一族の誇りだけど、ここでその話が出るとは思っていなかったようだ。アルフレッドの方を見たら、特に気にする風でもなく串から魚を食べている。
「リル姉様と出会った時に、もしかしたら銀狼族かもって思ったのです。聞いていた特徴通りでしたから」
クレアは目を輝かせながら話を続ける。
「それで朝日を浴びて、輝く銀色の髪を見たときには確信しました。ここに来る途中でリル姉様の口からも聞けて、やっぱりって」
この感じは伝説に出て来る、憧れてた銀狼族に会えて喜んでいるって感じなのかな。
「でも、私は銀狼族でも両目の色がそれぞれ違うし気持ち悪いでしょ?」
「いいえ、それもリル姉様の魅力です。素敵だと思います。それに……」
クレアがリルの言葉に被せ気味で主張した。その主張には俺も同感だ。
「リル姉様とシュンの関係が、バルハルト様とフェンリル様とハティ様を、こう……幼くというか、可愛らしくしたような感じで、凄く微笑ましいのです」
「…………」
リルが言葉を失っている……
自分が英雄と重ね合わせて見られてたと知ったら、それはまあそうなるよね。しかもミニチュア版みたいな感じで……
ただ……一つ気になることが……と思ってリルの方を見ると、なんとか復帰して俺と同じことに気づいたようだ。
「ええと、一つ気になったことがあるんだけど、人族に伝わる伝説は五人の勇者の話ではないの?」
そうだ、人族中心の国では人族に都合の良いように、伝説の英雄は五人の人族だとされているとリルが言っていた。
「うーん……」
クレアがアルフレッドの方を見る。何かを確認している感じだ。
その視線に気づいたアルフレッドが無言で頷いた。何か父親の許可を取ったようだ。
「人族の国でも国や領地によって事情が違うのです。私達の住んでいたベルモンド伯爵領では教会の影響も小さく、御伽噺の伝説は銀狼族の英雄と従魔のお話として今でも語り継がれているのです」
クレアが住んでた所は銀狼族に理解があるってことか。
「リル殿……」
「はい」
ずっと無言だったアルフレッドがリルに声をかけた。いつも以上に真剣な表情に俺もつい姿勢を正してしまった。
「私達はとある事情を抱えている。これを話してしまうと完全に君達をこちらの事情に巻き込んでしまうことになる。願わくば力を借りたいが、君達のリスクも大きい。断られたら大人しくここを離れようと思う。だが、どうかできる範囲で構わないから力を貸してもらえないだろうか」
俺の背中に添えられてるリルの手に力が入ったのが分かる。リルの方を見ると、その真剣な表情で答えはすぐに分かった。
「私リルにできることであれば」
そう言ってリルは承諾した。
「クレア、はしゃぐと滑って危ないよ」
木々の向こうから、リルとクレアが水浴びをしている声が聞こえる。
パシャパシャという水の音、美少女二人のはしゃぐ声、心洗われるようだね。
そしてなぜか、俺の隣にはおっさ……アルフレッドが座っている。
俺達はリル達のいる川には背を向けている。三十メートルくらいは離れているだろうか。
たまにアルフレッドが俺の方を見て、不思議なものを見るように首をかしげる。
あれ? 俺ってこういう場合、向こうで一緒に水浴びするポジションじゃない?
おかしくない?
「リル姉様の銀色の髪と尻尾、陽の光を浴びてキラキラしてて綺麗です」
「クレアの金髪の方がキラキラしてるよ。ほら、顔にまだ汚れが残ってるよ、動かないでね」
「ん……くすぐったいです」
森が静かなので、少し離れていてもリル達の声がよく聞こえる。
これが百合展開というやつか……というのは冗談だが、リルとクレアがなぜか打ち解けまくっている。イチャイチャしていると言っても過言ではないだろう。
クレアがリルに懐いてるうちに、今みたいな感じになったのだ。リルも初めは姉様と呼ばれるのには困惑していたが、好意を向けられるというのは悪い気がしないようだ。
やはりクレアもリルの尻尾をモフモフしたいのだろうか。だとしたら、その気持ちはよく分かるよ……
なんにせよ楽しそうなのは良い事だ。
◇◇◇
――時は少し遡り。
朝の食事時、アルフレッドは娘のクレアがリルに懐く様子を微笑ましく見ていたけど、俺が見ると軽く咳払いをしていつもの真面目な顔に戻った。
このニ人を見た感じ、リルが人族でないことに全く忌避感を感じてないように思う。リルの話だと人族は他種族に差別的な傾向が強いと聞いていたのだが……
人や場所によるってことかな。
川に来るまでの道中で、リルがアルフレッド達に簡単な自己紹介をした。といっても、自分が銀狼族であり、住んでいた村が盗賊の襲撃を受けた為、この山で生活しつつ将来冒険者になるための準備をしているということだ。俺は友達の『シュン』だと紹介された。
なぜかクレアがリルの話を聞いて目を輝かせていたのだが、話のどこに目を輝かせるような所があったのか……
◇◇◇
今はリルとクレアが水浴びをして、アルフレッドが見張りをしているというわけだ。まあリルは魔物が近付いてきたら気づくだろうし、見張りは必要ないんだけどね。
隣のアルフレッドがこちらを見て何かを喋ろうとしてるのか、口をパクパクしている。おそらく話しかけようとしたけど、『こいつ魔物だよね? でも、リル殿が友達だと言って普通に話しかけてるし……』みたいな葛藤でもあるのだろう。
「なあ、おま……シュンは普通の魔物にしては、従順で人に懐き過ぎというくらい懐いているけど、俺達の言葉が少しは分かったりするのか?」
昨日のリルとの会話の時よりも少し砕けた話し方だ。こっちが地の話し方なのだろう。
さて、どうしようか? 分からないフリして無視するのは簡単だけど……
記憶の世界で犬は飼い主の言うことをある程度理解できていたし、この世界でもある程度言うことを聞く魔物はいると考えるのが自然だ。
ただ、アルフレッドの態度からすると、人の言葉を完全に理解したり話すことができる魔物は、存在しないか存在しても希少なのだろう。
「クルニャン」
鳴くのと同時に肯定に見えるように頷く。
「…………」
アルフレッドが半分口を空けたまま固まっている。
大丈夫かな……この妖かしめ!っていきなり切られたりしないよね。
「パパ、どうしたの?」
リル達が水浴びを終えてこっちに来たようだ。
「なんでもない、少し考え事をしていた」
いつもの真面目な顔に戻ってる。
「リル姉様、私もシュンを抱っこしてもいいでしょうか」
クレアが両手を丁度俺のサイズに広げてソワソワしている。目がちょっと怖い……
「交代の水浴びが終わってからね」
なぜか俺とアルフレッドが一緒に水浴びすることになっていた。それはもう烏の行水で、逃げ出すようにすぐ戻ってきたよ。マッチョの水浴びなんて見たくないし……
◇◇◇
「クレアはどうしてリルとシュンのことを嬉しそうに見るの?」
今は川原で昼食を取っているところだ。大きめの石に座り三人が円になるように座っている。俺はリルの膝の上で、手ずから魚をもらっている。その様子をクレアがニコニコ見ていたのを、リルが不思議に思って質問したのだ。
まあ、俺も今朝からクレアがやたらリルに好意的だったのは不思議に思っていた。
「リル姉様は御伽噺のバルハルト伝説って知っていますか」
「うん、小さい頃に何度も親に話してもらったから」
この前、リルが語ってくれた千年前の出来事とされる言い伝えだ。現実離れした話だし御伽噺とされてるようだ。
「私はバルハルト伝説は架空の話ではなくて、実際にあった話だと思っています。『 疾駆迅雷 十の足跡 史を紡ぐ 』 ああ、素敵です」
「そ、そうなんだ……」
夢見る少女風味のクレアにリルが少し面食らってる。リルにとって英雄バルハルトは自分の一族の誇りだけど、ここでその話が出るとは思っていなかったようだ。アルフレッドの方を見たら、特に気にする風でもなく串から魚を食べている。
「リル姉様と出会った時に、もしかしたら銀狼族かもって思ったのです。聞いていた特徴通りでしたから」
クレアは目を輝かせながら話を続ける。
「それで朝日を浴びて、輝く銀色の髪を見たときには確信しました。ここに来る途中でリル姉様の口からも聞けて、やっぱりって」
この感じは伝説に出て来る、憧れてた銀狼族に会えて喜んでいるって感じなのかな。
「でも、私は銀狼族でも両目の色がそれぞれ違うし気持ち悪いでしょ?」
「いいえ、それもリル姉様の魅力です。素敵だと思います。それに……」
クレアがリルの言葉に被せ気味で主張した。その主張には俺も同感だ。
「リル姉様とシュンの関係が、バルハルト様とフェンリル様とハティ様を、こう……幼くというか、可愛らしくしたような感じで、凄く微笑ましいのです」
「…………」
リルが言葉を失っている……
自分が英雄と重ね合わせて見られてたと知ったら、それはまあそうなるよね。しかもミニチュア版みたいな感じで……
ただ……一つ気になることが……と思ってリルの方を見ると、なんとか復帰して俺と同じことに気づいたようだ。
「ええと、一つ気になったことがあるんだけど、人族に伝わる伝説は五人の勇者の話ではないの?」
そうだ、人族中心の国では人族に都合の良いように、伝説の英雄は五人の人族だとされているとリルが言っていた。
「うーん……」
クレアがアルフレッドの方を見る。何かを確認している感じだ。
その視線に気づいたアルフレッドが無言で頷いた。何か父親の許可を取ったようだ。
「人族の国でも国や領地によって事情が違うのです。私達の住んでいたベルモンド伯爵領では教会の影響も小さく、御伽噺の伝説は銀狼族の英雄と従魔のお話として今でも語り継がれているのです」
クレアが住んでた所は銀狼族に理解があるってことか。
「リル殿……」
「はい」
ずっと無言だったアルフレッドがリルに声をかけた。いつも以上に真剣な表情に俺もつい姿勢を正してしまった。
「私達はとある事情を抱えている。これを話してしまうと完全に君達をこちらの事情に巻き込んでしまうことになる。願わくば力を借りたいが、君達のリスクも大きい。断られたら大人しくここを離れようと思う。だが、どうかできる範囲で構わないから力を貸してもらえないだろうか」
俺の背中に添えられてるリルの手に力が入ったのが分かる。リルの方を見ると、その真剣な表情で答えはすぐに分かった。
「私リルにできることであれば」
そう言ってリルは承諾した。
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