『万物異転、猫が世界の史を紡ぐ【出会い編】 ~出会ってすぐにモフられる~』

メイン君

文字の大きさ
21 / 34

第20話 暗中飛躍

しおりを挟む
 ―― リル達がベルモンド親子と出会う2日程前、別所にて ――


「ガストマ殿、ベルタ山に逃げられたとはどういうことだ」

 室内ではルードリヒ侯爵と傭兵団長ガストマが執務用の机を挟んで向かい合っていて、侯爵のすぐ傍には二人の護衛が控えている。
 傭兵団の一部は一旦、侯爵領まで戻ってきていた。もちろん街道と森の周囲に監視の人員は残してきている。

「侯爵様よ、まだ失敗したわけじゃないんだから、そう目くじら立てなさんな。それに殺すだけだったら簡単だったんだ。それを殺さず捕獲しろっていうんだから、こっちとしては報酬を上乗せ願いたいくらいだぜ」

 両手を上に広げながら侯爵に話しかける男、身長は平均より若干低めながら、鍛えられて引き締まった体躯がバネを感じさせ、その目は相手が王であろうと怯まないだろう強烈な意志を宿している。
 このガストマも「誰を」とは言葉にはしない。この手の依頼は慣れたもので、報酬の増額がなるとは思っておらず、ただの軽口のようなものだ。

「くっ、既に高額な報酬を約束して前金も払っているだろうが……」

「安心してくれ、あんたが裏にいるっていう証拠等残してない。山に入った奴らを捕まえるための策があるし、今準備も進めている」

 その言葉を聞いて侯爵は、とりあえず一息つく。傭兵団『暴風の蛇』は悪評高く恐れられているが、依頼成功率が高いのも事実だ。その実力はA級冒険者パーティーより高いと目されている。

――――コンコンコン

 執務室の扉をノックする音。一瞬室内に緊張が走るが、ガストマは扉の向こうの人物に心当たりがあった。

「おそらくうちの副団長が報告に来たんだが、入れていいかい」

 今後の動きについて報告に来るように、ガストマは副団長のザールに告げてあった。

「ああ……いいぞ」

 侯爵の言葉を受けて護衛の一人が扉を開けに向かう。

 入ってきたのは、ガストマとは対象的な細身で神経質そうな長身の男。ガストマが武官とするなら、ザールは文官といったところだろうか。

「これからの動きについて報告にまいりました」

 ザールの発言を受けて侯爵が先を続けるように頷く。

「準備は今日中に整いますので、明日の午前中には山狩りに向かうことができます。それでよろしいでしょうか」

 侯爵に報告した後、ザールはガストマの方をチラリと見る。ガストマはお前に任せるとでもいうように腕を組んで、目は軽く閉じている。

「分かった、捕まえて連れてきてくれれば何も言わん。以前にも言ったが、表から見える傷は可能な限りつけないようにして欲しい。後の目的に差し支えるからな」

 侯爵としては、万が一囲みを破られ逃げられたとしても、伯爵から追及される証拠も無ければ、そもそも王都での立場の優位性から、追及される力関係ではない。味方の少ない伯爵ではまず無理なことは侯爵も分かっている。
 しかし、今回の伯爵継承のタイミングは侯爵にとって、念願の伯爵領を掌握することと、目の上のたんこぶであったベルモンド家の排除の両方をともに実現できる好機であった。娘婿にベルモンド家の者を迎え入れたのも、いつか今回のような機会がくると思っていたからだ。

 傭兵団への報酬と、娘婿を伯爵にする為に王都で根回しするのに必要な費用、その他経費を合わせると莫大な金銭が必要になるが、侯爵はその大部分を伯爵領から引っ張るつもりでいる。

「侯爵様は安心して紅茶でも飲んで待ってな。たまにやり過ぎたことはあるかもしれねえけど、俺が直接参加した依頼で失敗したことはねえ。結果は変わんねえよ」

「……ああ」

 ガストマの言葉に侯爵は気圧されたが、それを面に出さないように頷いた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

異世界での異生活 ~騎士団長の憂鬱~

なにがし
ファンタジー
成人年齢15歳、結婚適齢期40~60歳、平均寿命200歳の異世界。その世界での小さな国の小さな街の話。 40歳で父の跡を継いで騎士団長に就任した女性、マチルダ・ダ・クロムウェル。若くして団長になった彼女に、部下達はその実力を疑っていた。彼女は団長としての任務をこなそうと、頑張るがなかなか思うようにいかず、憂鬱な日々を送る羽目に。 そんな彼女の憂鬱な日々のお話です。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

処理中です...