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第19話 クレアのまどろみ

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「リル姉様、もうモフモフはいっぱいです……」

 クレアは寝ぼけてリルの尻尾に顔をうずめてしまい、まるで自ら望んで溺れているかのようだ。

「このお布団と太陽の匂い……幸せの匂いです……はぁぁ……いつまでも埋もれていたいです」

 クレアはリルの尻尾に埋もれ、スンスンと匂いを楽しんでいる。長毛の猫や、モフモフの尻尾は天日干ししたばかりの布団の匂いに似ていると言う。

「草原の匂いが日々の窮屈さを忘れさせてくれます……はぁぁ……通り抜けていく風が気持ちいいです。いつもでもこうして……草原でお昼寝していたいです」

 今度はすぐ近くの猫を抱枕にし始めた。ご令嬢は勉強や作法を学ぶ日々に少し窮屈さを感じていたらしい。アニマルセラピーという言葉があるが、全身でそれを実践するかのように、モフモフと触れ合ってクレアはとても癒やされているようだ。

「風の気持ちいい草原に……フカフカのお布団を敷いて……リル姉様とシュンに挟まれてお昼寝……クレアは幸せ者です」

 シュンを抱枕にしたまま、リルの尻尾を枕にして、幸せそうに眠るクレア。黄金色に輝く髪の間からのぞく弾力のありそうな頬は、薄っすらとピンク色に染まっている。
 幸せに緩んだ口元からは、光をキラキラと反射する雫がシュンのエプロンに落ちていく。

「ずっとこのまま……」

 クレアはモフモフと確かな温かさが、ずっと続くように願っているようだ。

 シュンの尻尾が嬉しそうにパタパタと動いていた。

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