『万物異転、猫が世界の史を紡ぐ【出会い編】 ~出会ってすぐにモフられる~』

メイン君

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第28話 蠱毒の洞穴の最深部にて

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 とりあえず自己鑑定を。

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名前:シュン
種族:ワイルドキャット
レベル:31
体力:54
魔力:66

スキル:「自動翻訳」「自己鑑定」「火無効」「毒無効」「暗視(強)」「毒弾」  

称号:「シャスティの加護」「毒ノ主アスタロト
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 「毒ノ主」とは、なかなかに仰々しい称号だ。

 二重鑑定と……

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毒ノ主アスタロト」――――毒の扱いに関して主級マスタークラス
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…………いまいち分からない。

 色々ゆっくり考えたいことはあるけど、今は先に進むことを優先すべきだなと、独りごちることクルニャ。とりあえず今は、毒を使わせたら結構凄いってことでいいや。
 
 体もだいぶ大きくなってきた。全長二メートルくらいだろうか。ステも相まって今なら猪にも余裕でパワー負けしないだろう。

 体は凄いペースで大きくなっていくけど、やっぱり腕は生えないよね。そりゃそうか……
 毛や皮膚もボロボロのままだしね……


◇◇◇


 巨大ムカデはこの洞窟の中でもかなり上位の魔物だったようで、その後は魔物をサクサク倒せている。

 新称号のおかげか、または熟練度的なものなのか、毒弾の形状をかなり自由に変えられるようになった。
 特に針状に発射する疑似毒針は正確に狙えるし、速度も素晴らしい。

 毒弾、毒霧、毒針と使い分けながら、下り気味の道をザクザクと進む。
 毒が強力な為、ほとんどの魔物を一撃必殺できるのがありがたい。 

 途中、魔物の群れにも遭遇したけど、毒針連打で問題なかった。対多数にも使えて便利な毒。
 点は連なり面となるといった感じだろうか。

 この洞窟の制覇が見えてきたか……と思っていると急に視界が開けた。

 どうやら広間に出たようで、奥の壁が見えず天井もかなり高い。モヤがかかっていて視界が悪いが、かなり広い空間だということは分かる。

 雰囲気的にはボスとかが居そうな広間だ。
 気を引き締めて周囲を見回してみる。
 すると、正面のモヤがかかったさらに奥に何やら只ならぬ気配を感じる。

 すぐに動けるようにと気を張りながら前方に進む。

 その時、地鳴りのような音が周囲に響いた。

『!?』

 さらに進むと、巨大ムカデの尾らしいものが見えてきた。

 巨大ムカデはあの後は見かけなかったけど、何匹もいるんだな。
 あの後レベルもステも上がったし、今なら油断しなければ問題なく勝てるはずだ……と自分を奮い立たせる。

 しかし、ムカデの様子がどうもおかしい。
 死んだように動かないから寝てるのかと思ったら、ズルズル引きずられるように動きだした。

 さらに進んだところで壁に突き当たった……と思って見上げると、そこにはこちらを見下ろす大きな目。

『!?』

 爬虫類を思わせる巨大な目がこちらを向いている。
 見つめ合うこと数瞬。相手が巨大な魔物だということに気づいた。

『ドラゴン?』

 巨大な西洋風の竜がそこにいた。

 壁だと思っていたのは、そのドラゴンの胴体だった。その赤茶色の皮膚はまるで岩のよう。チラリと横目に見たドラゴンの爪は、ショベルカーを彷彿させる。

 うん、その爪だったらその岩のような皮膚にも傷をつけられそうだね……と若干の現実逃避。

 レッドドラゴン的なヤツかな……

 どうやらドラゴンは食事中だったようで、巨大ムカデがドラゴンの口からダラーンと垂れている。その様子はまるでスルメを咥えてるかのよう。

 中ボスを餌にする大ボスっていう感じだろうか……

 そのシュールな様子に反して、存在感が半端じゃない。もはや大自然的な何かに思えるくらいで、存在感という言葉にも違和感を感じるくらいだ。

『これは無理じゃね? いや、毒が効くならワンチャンあるのか?』

 こちらの存在に気付いたのか、食べかけのムカデをペッと吐き出し、ドラゴンがこちらを向く。

 ムカデスルメが轟音を立てて地面に落ちたのを合図とするかのように、ドラゴンがこちらに向けて腕を振り下ろしてきた。

 巨大な図体に見合わず高速で振り下ろされる腕をかわし、かわしざまに毒弾を腕に見舞う。

 毒弾は腕に当たったが、ドラゴンに効いてる様子がない。いや、わずかに嫌がってる感じはするから全く効かないというわけではないのだろう。
 ただ、動きが鈍る様子はないから、普通に何発当てても倒せないだろう。

 どうしたものか考えていると、ドラゴンがこちらに向けて口を開けた。

 ファイアブレス来るかと身構えると、本当にドラゴンは本当に火炎放射器ヨロシク、炎を吹き出した。

 反射的に横っ飛びに避ける。

 俺が一瞬前まで居た場所に炎が直撃する。
 そのままこちらに向けて炎で薙ぎ払ってくる。

 「火無効」があるから受けても大丈夫そうだが、何となく嫌な予感がして炎を跳ぶようにして避ける。

 しかしファイアブレスの速度が思いの外速くて、足にかすった。

『!?』

 視界が回り身体が地面に叩き付けられた。

『痛っ!?』

 熱くはないけど痛みと衝撃で、目の前がチカチカする。
 転げ回りたくなる気持ちを何とか抑え込み、無理やり身体を起こし周囲を見回す。
 ドラゴン発見、いくらか弾き飛ばされたようだ。

 炎に当たったのに全く熱くはなかった。しかしまだ身体中が痛い。
 これはきっとあれだ。ファイアブレスには火以外にも何か付与されてるってことだろう。例えば打撃属性とか。火は無効化できたけど、そっちは無効化できないからダメージを受けるのだろう。

 かすっただけでコレとか、直撃したら死ぬぞ……

 こっちの攻撃は大して効かないのに、あちらの攻撃は即死とかヤバイな。
 口とか目とかに毒を当てられれば効くのだろうか。

 ここで引き返すのもありだろうか。リルを助けるために強くなるつもりが、ここで死んでしまっては元も子もない。
 レベルもだいぶ上がったし、今ならリルを助けられる可能性もあるんじゃないだろうか。
 ただ今の俺ではまだ絶対とは言えない気がする。あの傭兵団長だったらムカデも倒しそうだし……

 クソッ、やるだけやってやる。

 そこからはもう、逃げ回りながら、毒針連打したり、毒弾を顔に目掛けて発射したりと、先の見えない持久戦。気分は熊と戦う蜂といったところだろうか。
 ヒットアンドアウェイしたいけど、針が刺さらないといった感じ。

 アレコレと色々試すこと数十分、ドラゴンは一向に弱る気配が無い。
 その間、ドラゴンの爪、尻尾、ブレスと当たったら即死級の攻撃を必死に、それはもう必死にかわしている。

 こんな所で死ぬわけにはいかない……
 リル……

 リルの笑顔が脳裏に浮かぶ。

 一瞬、走馬灯かと思った。そんな俺のすぐ傍をドラゴンの爪が通り過ぎる。

 集中力が切れていた……危なかった。

 なんとか無理やり戦闘に意識を向けるが、疲労で体が思うように動かなくなってきたかもしれない。
 全力で数十分の戦闘って何ラウンド分だよと、内心悪態をつく。

 その時だった。

「グォホッ!!!」

 ドラゴンが今までには無かった唸り声を上げた。

 何かに狙いを定めることなく、その場で暴れるドラゴン。
 その大きな振動は、まるで洞窟が揺れているようだ。
 
『上手くいったのか?』

 実は体感二十分以上前から、毒をある・・形状にして継続的に発射していた。
 二十分という時間を、随分長くかかったと考えるべきか、効いて良かったと考えるべきか。

 毒をガス状にしてバラ撒いていたのだ。

 毒ガス禁止の「ジュネーヴ条約」、ここは異世界だからいいよね?

 そんなことを考えていると、ドラゴンが辺り構わずファイアブレスし始めた。
 それを必死にかわす猫。

 弾幕ゲームさながらの回避の最中、何度詰むと思ったことか。

 ブレスが止んだあとには、向かい合うドラゴンと猫。傍から見たらカブトムシと象のサイズ感だろうか。
 そんな俺をドラゴンが敵として認識してくれることに、少なからず感慨深いものがある。

 ただ内心はかなり焦っている。今のブレスで毒ガスの殆どが払われてしまったのだ。
 無色透明で目には見えないガスだけど、毒使いとして毒が払われたことは分かる。

 ドラゴンを見ると奴の体力もだいぶ失われたように見える。
 動きが目に見えて遅くなってきているし、フラフラしているようにも見える。
 毒ガスを撒き続けられれば最終的にはドラゴンも倒れるように思われる。

 しかし、もう一度数十分に渡って相手の攻撃をかわしながら毒ガスを撒くのは体力が続かないように思う。

 どうしたものか……

『はぁ……やっぱり最後はこの方法になるか……』

 俺の命が失われるのは……まあいい。
 ただそれでリルを助けられなくなるのは死んでも嫌だ。

 命を惜しまない気持ちがある一方、何が何でも命を惜しむ気持ちもある。
 矛盾するかのようなこの気持ちを感じるのは本日何度目のことだろうか。

 無謀な方法だと思いながらも、上手くいくはずだという根拠の無い確信がある。

『毒にあたって死んでくれ』

 ドラゴンに恨みは無い。むしろ戦闘を通して、その姿には大自然に対する敬意に近いものを感じている。
 ドラゴンを人々が神と崇める気持ちも、今なら少なからず理解できる。
 こんな洞窟の奥底で人知れず果てるドラゴンには悪いなと思う。

 しかし、俺にとってはリルが何より大事だ。
 悪いが俺の血肉となってくれ。

 俺はドラゴンに向かって走り出した。

 ドラゴンの動きが鈍くなってるおかげで、難なく近づくことができた。
 そこからは岩山を駆け上るようにドラゴンの巨大な体を駆け上る。

 弱る前のドラゴンだったら振り落とされたかもしれないが、今なら何とかいける。
 
 首まで辿り着いた所でドラゴンと目が合った、気がした。
 次の瞬間、ドラゴンが口を開けてこちらを飲み込もうとしてくる。
 サイズ感は人間と大豆くらいだろうか。

 毒を警戒する人族だったらこうはいかなかったかもしれない。
 おそらくドラゴンはある程度の毒耐性を持っているのだろう。今まで毒で死ぬ危険を感じたことは無いのだろう。

 唯一そこが俺の付け込める隙だった。

 力を振り絞って、ドラゴンの口の中に飛び込む。

 自身を毒のカプセルに見立てるように。
 体内で毒を煮詰めるように濃縮させる。
 神すら殺せる毒になろう。

 落下の浮遊感を感じ、ドラゴンの体内を落ちていく。

 毒が濃縮されたと思ったところで、毒を解き放つ。

 吐き出した毒にドラゴンは間を置かず反応した。

「グオッ!」

 体内にいるためか幾分篭った響きの唸り声。

 そして、建物が倒壊する時のような大きな音が続く。
 思いの外大きな音に、一瞬洞窟が崩壊したかと思ったが、すぐ止んだことからドラゴンの倒れた音に間違いなさそうだ。
 つい今まで感じていた、周囲の脈動や存在感が急に失われた。

 周囲に見えるのはドラゴンの体内の肉壁。
 暗視が仕事しているためかハッキリ見えるそれも、動きをまるで感じさせない。
 
 急に無音の世界となり、若干の喪失感を覚える。

 達成感と喪失感のないまぜになった気持ちの中、自身の体力が限界に近かったことを認識した。
 ドラゴンには血肉になってもらう事がせめてもの供養だと、内側から食い付きいくらか食したところで俺は意識を失った。

 傍から見たら、猫は未だドラゴンの体内である。

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