『万物異転、猫が世界の史を紡ぐ【出会い編】 ~出会ってすぐにモフられる~』

メイン君

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第32話 モフりたいのに、モフられる

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 俺は三人を背に乗せたまま草原を走る。

 特にクレアが落ちないように、速すぎないように、揺れないように繊細に。

 背中に感じる三人の重みが、心底から心地良い。
 無事に俺の背中に乗っているという事実が、言葉にできないくらいに嬉しい。

 向かい風が、目から落ちる水分をすぐに乾かしてくれることが有難かった。

 後々問題にならないように街道を避けて走り、草原から森に入り、川があるところで俺は足を止めた。

 地面にペタリと腹這いになることクルニャ、三人ともスッと降りてくれた。

 三人の方を向くと、予想通り視線が俺に集まっていた。三人ともが何かを言いたそうに、口を開きかけては閉じる。

 うー、なんだか照れくさい。

「クルニャーン!」

 こういう時はとりあえず、鳴くにかぎる。きっとこれが正解だ。
 それにしても、体は大きくなったのに、鳴き声が子猫みたいだ。
 自分で言うのもアレだが、体に似合わず可愛らしい鳴き声しか出せない。

 リルと目が合った瞬間に、ガバッと抱きつかれた。

「シュン、シュン、シュン…………」

 リルは俺に抱きつきながら、何度も何度も俺の名前を呼ぶ。

 離れてた間に名前を呼べなかった分まで呼ぶように。

 もう二度と傍から離れないようにと。

「ニャーン」

 リルからそんな想いが伝わってきた気がした。
 俺もだよ、という想いを込めてそっとリルの肩に鼻を押し付けた。

 リルに助けられた恩を、少しは返せただろうか……

「リル姉様! シュン!」

 抱きつきながら名前を呼ぶのに、クレアが加わった。
 クレアも無事で良かった。頑張ったね、クレア。

 二人とも怪我も無さそうで、衰弱してる感じもしない。
 死にそうになりながらも、諦めたりしないで本当に良かった。

 もう一人は……とアルフレッドの方に目を向ける。

「シュンよ、何がなんだかいまだによく分からないけどよ。お前が死ぬほど頑張ってくれたのは……なんとなく理解しているよ。ありがとな」

 アルフレッドに背中をなでられる。

 うー……今の俺は毛並ゴワゴワの血まみれで、そろそろ羞恥心が限界に……

 耐え切れず、川に向かってそっと進んでみる。二人とも意地でも離れないといった感じだ。

 特に衰弱もしてなさそうだし、大丈夫だろ。
 ということで、離れないリルとクレアを引き連れたまま川まで進む。二人の足がズルズルと地面を擦っている。
 そのまま三人で川に浸っていく。久しぶりの水浴びはなんだか数年ぶりの水浴びのように感じた。


◇◇◇


 たき火を囲んで食事を取る俺たち。俺が川で獲った魚を焼いて食べている。

 そうだ……以前にリルがやっていたように、ついに俺も泳いでる魚をシュパっと獲ることができるようになったのだ。
 
 川で汚れを落としたことで、毛並みのモフモフ感が復活だろうか。

「あー……シュンの背に乗せられてる間に、考えを整理しようと思ったが、まだ頭の中がグチャグチャだわ」

 あーとかうーとか言ってた、アルフレッドが喋り始めた。理解がまだ追いついていないらしい。
 まあ、逆の立場だったら、俺も混乱しているよ。何があったら子猫が傭兵団を壊滅させるんだよと。

 リルとクレアは俺の両脇で、俺に寄りかかりながら毛並みを撫でつつ、魚をハムハムと食べている。
 アルフレッドとは対照的に二人はスッキリとした表情だ。なぜか強くなった俺が助けてくれた、その事実で良いじゃんといった感じだろうか。

 アルフレッドの困惑を解消してあげたいのはやまやまだけど、いかんせん俺はまだ喋ることができない。
 女神様は言葉を喋る下地ができてるとか言ってたけど、全然喋れませんよ。
 アルフレッドも俺が言葉を理解してるけど、喋れないということが分かっているらしく、それでどうしたら良いか困惑している面もあると思う。

 今は俺が助けるまでの経緯はそっとしておいて、これからどうするかを話し合うのが良いと思うんだ。
 そのうち喋ることができるようになったら、蠱毒の洞穴のこととか話すからさ。ドラゴンがいたこととかも話すからさ。

「アルフレッドさん、これからどうしますか? 王都に向かうんですか?」

 さすがリル、話が早い。そして可愛い。

「ああ……そのことだが、王都に行くのはやめて一度伯爵領に戻ろうと思っている。侯爵が死んだりして、王都も少なからずバタバタするはずだ。すんなり俺の継承の儀というわけにはいかないだろう」

 国のことは俺にはよく分からないけど、アルフレッドがそう言うなら、そうなのだろう。
 アルフレッドは続ける。

「俺は立場上、疑われることもあるだろうし、中央に根回しをしながら暫く様子をみることにするよ。そこで話は変わるんだが、リルとシュン、俺の領地にこないか? いや、来て欲しい。お礼もそうだが、どうも二人とこのまま離れるのは寂しくてよ。なあ、クレア?」

「パパ!」

 クレアが名案だとばかりに、嬉しそうにする。
 けど、決めるのはリルだということに思い至ったのか、クレアは恐る恐る横目でリルの方を見た。

 それより、傭兵団を潰して侯爵を殺した俺がアルフレッドの領地にいたら、いろいろとまずいんじゃないの。侯爵領都で、街の人に結構見られちゃったしさ。侯爵の暗殺を疑われるなんてもんじゃない。
 
 リルが俺の目を見つめてくる。
 どうする?って聞かれた気がしたから、任せるよって意味で頷いた。

「分かりました。こちらこそお願いします。アルフレッドさん、リルたちも伯爵領に連れて行ってください」

「リル姉様! ほんと! パパ、やったわ!!」

 クレアは余程嬉しかったのか、リルの発言にかぶせ気味に叫んだ。その場でピョンピョンと跳ねた後、右側から俺を強く抱きしめてきた。俺の首のあたりに顔を埋めてグリグリしている。

 水浴びして汚れを落とした俺の毛並み、思う存分にモフるがいい……

 ちなみに俺の左側はリルにモフられている。

 さっきから、俺の喉が勝手にグルグル鳴って止められない。

 これからもリルとクレアと一緒だということを思うと、嬉しさとワクワクで俺の尻尾はピタピタと勢いよく振られるのだった――――
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