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第四章
第四章 第三話
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俺は秀と話している振りをしながらさり気なく繊月丸を呼んだ。
「雪桜に気付かれないように高樹だけ呼んできてくれ」
「どうかしたの?」
秀が訊ねた。
「雪桜へのプレゼント、思い付いたんだ」
「なに?」
「お前、祖母ちゃんに誕生日がないって言ってただろ」
「うん。けど、雪桜ちゃんと何か関係あるの?」
そこへ高樹がやってきた。
「雪桜は来ないな」
「ああ、友達と話してた」
「秀と高樹と俺の三人で金を出し合って雪桜の誕生会をしないか? それを誕生日プレゼントって事にするんだ」
「綾さんと関係あるの?」
「祖母ちゃんの誕生日会も兼ねるんだよ。そうすればお前は祖母ちゃんへのお返しにもなるだろ」
「あ、それいいね!」
「俺も構わないぜ」
「じゃあ、計画立てようぜ」
雪桜の誕生日はもうすぐだ。
急ぐ必要がある。
俺達はどこで誕生会をするか話し合い、月曜が雪桜の誕生日だから一日早い日曜に秀の家に集まることになった。
次の時間も高樹がやってきた。
雪桜も一緒だから誕生会の話ではないだろう。
高樹によると神田川の近くで人が消えるという噂があるらしい。
「じゃあ、帰りに祖母ちゃんに聞いてみるか」
俺はそう答えた。
夕方、中央公園でいつものように祖母ちゃんと合流すると、初顔の男性がいた。
二十歳くらいの一見普通に見える青年だ。
というかサーファーみたいな格好をしている。
だが、
「その子、見えないから姿現して」
と祖母ちゃんが雪桜に視線を向けながら青年に言ったので化生だと分かった。
「こんにちは」
雪桜が挨拶すると、
「ちっす!」
と今時の青年としか思えない挨拶が返ってきた。
でも祖母ちゃんの知り合いなら相当な年のはず……。
「名前は? なんて名乗ってんの?」
祖母ちゃんが青年に訊ねると、
「名乗る必要がないんでなぁ」
と頼母と似たような事を言った。
間違いなく化生だ。
「まぁいいわ」
祖母ちゃんが頷く。
良くないだろ……。
なんて呼べばいいんだよ……。
てか、こいつ誰だよ……。
「それより雨月、神田川の化生はどうするんだ?」
「祖母ちゃん、知ってたのかよ!」
「当然でしょ」
「どうするってのは?」
俺が訊ねた。
「この前、桜の木にいたヤツ、上野に追い払ったでしょ」
「あいつは妖奇征討軍が倒したんじゃ……」
「あれは退治されたけど、不忍池の主が私が上野に追い払った事に文句言ってきたのよ。厄介事を押し付けるなって」
人を喰う化物を上野に行かせたため、不忍池の主が化物退治に来た妖奇征討軍に手を貸したらしい。
それで見えないのに倒せたのか……。
ただ妖奇征討軍は不忍池の主の助力があったとは気付いてないそうだ。
「それで意趣返しにあの辺りにいた化生をこっちに追い払ったから今は明治通りの辺りで人を襲うようになったらしいのよ」
そのため近所の化生達から責任を取って退治しろと迫られてるらしい。
「ま、私は別に放っておいてもいいんだけど……」
「待て、人が襲われてるんだろ」
俺が言った。
神田川と明治通りが交差しているのは高田馬場と早稲田の中間辺りだから人通りは少なくないはずだ。
人が多い場所に人間を襲うような化生を放置しておく訳にはいかない。
「ところでその化生ってなんだ?」
高樹が訪ねた。
「さぁ? 川なら河童か川獺じゃない?」
祖母ちゃんは聞いてないらしい。
「カワウソって絶滅したんじゃ……」
「生物のカワウソはね。でも化生になったのは別だから」
「ていうか、東京に河童もいたのか」
意外だった。
昔はカワウソがいたと祖母ちゃんが言っていたが、今の口振りだと祖母ちゃんが言ってたカワウソはニホンカワウソではなく化生の方の川獺の事だったのかもしれない。
「深川で売ってた河童から作り方教わった薬とか有名だったのよ」
「いつの時代の話だよ」
「薬は江戸」
「明治になってからは医学は西洋式になったんでな~」
「あの薬、ホントによく効いたのにね」
祖母ちゃんと海伯が交互に答えた。
「合羽橋って名前、聞いた事あるでしょ。あれは河童が作るのを手伝ったから合羽橋って言うのよ」
「あそこにはもう橋はないぞ。川が無くなったからな」
化生が言った。
「その橋って、えっと……」
青年に質問しようと仕掛けた雪桜が口籠もる。
「ほら、話をするなら名前が無いと不便でしょ」
祖母ちゃんの言葉に青年が頬を掻いた。
「そう言われても人間の名前はよく分からないんだよなぁ」
「川の河童が河伯だから海伯でいいんじゃない?」
祖母ちゃんがいい加減な名前を言った。
また適当に……。
と突っ込みたいところだが、それより――。
「川の河童って、川以外にも河童がいるのかよ」
「そりゃ、お堀とか海とか水があるところには大体いるわよ」
「尾籠な話だが厠にもいるんでな」
「お堀!?」
「海!?」
俺達が同時に声を上げたが祖母ちゃんと海伯は当たり前のような顔をしている。
「厠……ってトイレだよな。水洗になってからの話か?」
「尾籠って言ったでしょ。汲み取り式の頃よ」
てことは河童がいたのは……。
あまり想像したくない……。
「びろう?」
雪桜が首を傾げる。
「不潔とか、見苦しいとか言う意味。海伯、あんた言葉遣いが古いわよ」
「いや~、浜にいる人間の言葉を真似してるつもりなんだよね~。ウェ~イ、とか」
「川やお堀で河童に引き込まれそうになった話とか江戸にも一杯あるわよ」
「未遂てことは殺されてはいないって事か……」
「死んだら話せないから」
死人に口なし……。
「お薬の作り方教えたもらった話がいくつも残ってるんじゃ……」
「そういうのは人間を襲って返り討ちに遭った河童が許してもらう代わりとして差し出したってのがほとんどだよ。ウェ~イ」
海伯が言った。
「つまり、海伯さんは……」
「海の河童よ」
「じゃあ、江戸前の河童……」
「カッパ巻きがシャレじゃなくなったね」
秀が呑気に笑った。
「河童が喰われた事はないけどね~」
海伯もあっけらかんとした表情で笑いながら答えた。
河童がって……人間の方は喰われた事があるって事か……。
「海の河童は放浪してる事があるから。海伯も東京湾に住んでるわけじゃないわよ」
「合羽橋みたいに人間に協力した話より殺されそうになったって話が多いからね~。ウェ~イ」
海伯が言った。
つまり基本的には害をなすのだ。
となると江戸前の河童はとりあえずおいといて、
「また化生退治に行かないといけないのか」
俺は溜息を吐いた。
「雪桜に気付かれないように高樹だけ呼んできてくれ」
「どうかしたの?」
秀が訊ねた。
「雪桜へのプレゼント、思い付いたんだ」
「なに?」
「お前、祖母ちゃんに誕生日がないって言ってただろ」
「うん。けど、雪桜ちゃんと何か関係あるの?」
そこへ高樹がやってきた。
「雪桜は来ないな」
「ああ、友達と話してた」
「秀と高樹と俺の三人で金を出し合って雪桜の誕生会をしないか? それを誕生日プレゼントって事にするんだ」
「綾さんと関係あるの?」
「祖母ちゃんの誕生日会も兼ねるんだよ。そうすればお前は祖母ちゃんへのお返しにもなるだろ」
「あ、それいいね!」
「俺も構わないぜ」
「じゃあ、計画立てようぜ」
雪桜の誕生日はもうすぐだ。
急ぐ必要がある。
俺達はどこで誕生会をするか話し合い、月曜が雪桜の誕生日だから一日早い日曜に秀の家に集まることになった。
次の時間も高樹がやってきた。
雪桜も一緒だから誕生会の話ではないだろう。
高樹によると神田川の近くで人が消えるという噂があるらしい。
「じゃあ、帰りに祖母ちゃんに聞いてみるか」
俺はそう答えた。
夕方、中央公園でいつものように祖母ちゃんと合流すると、初顔の男性がいた。
二十歳くらいの一見普通に見える青年だ。
というかサーファーみたいな格好をしている。
だが、
「その子、見えないから姿現して」
と祖母ちゃんが雪桜に視線を向けながら青年に言ったので化生だと分かった。
「こんにちは」
雪桜が挨拶すると、
「ちっす!」
と今時の青年としか思えない挨拶が返ってきた。
でも祖母ちゃんの知り合いなら相当な年のはず……。
「名前は? なんて名乗ってんの?」
祖母ちゃんが青年に訊ねると、
「名乗る必要がないんでなぁ」
と頼母と似たような事を言った。
間違いなく化生だ。
「まぁいいわ」
祖母ちゃんが頷く。
良くないだろ……。
なんて呼べばいいんだよ……。
てか、こいつ誰だよ……。
「それより雨月、神田川の化生はどうするんだ?」
「祖母ちゃん、知ってたのかよ!」
「当然でしょ」
「どうするってのは?」
俺が訊ねた。
「この前、桜の木にいたヤツ、上野に追い払ったでしょ」
「あいつは妖奇征討軍が倒したんじゃ……」
「あれは退治されたけど、不忍池の主が私が上野に追い払った事に文句言ってきたのよ。厄介事を押し付けるなって」
人を喰う化物を上野に行かせたため、不忍池の主が化物退治に来た妖奇征討軍に手を貸したらしい。
それで見えないのに倒せたのか……。
ただ妖奇征討軍は不忍池の主の助力があったとは気付いてないそうだ。
「それで意趣返しにあの辺りにいた化生をこっちに追い払ったから今は明治通りの辺りで人を襲うようになったらしいのよ」
そのため近所の化生達から責任を取って退治しろと迫られてるらしい。
「ま、私は別に放っておいてもいいんだけど……」
「待て、人が襲われてるんだろ」
俺が言った。
神田川と明治通りが交差しているのは高田馬場と早稲田の中間辺りだから人通りは少なくないはずだ。
人が多い場所に人間を襲うような化生を放置しておく訳にはいかない。
「ところでその化生ってなんだ?」
高樹が訪ねた。
「さぁ? 川なら河童か川獺じゃない?」
祖母ちゃんは聞いてないらしい。
「カワウソって絶滅したんじゃ……」
「生物のカワウソはね。でも化生になったのは別だから」
「ていうか、東京に河童もいたのか」
意外だった。
昔はカワウソがいたと祖母ちゃんが言っていたが、今の口振りだと祖母ちゃんが言ってたカワウソはニホンカワウソではなく化生の方の川獺の事だったのかもしれない。
「深川で売ってた河童から作り方教わった薬とか有名だったのよ」
「いつの時代の話だよ」
「薬は江戸」
「明治になってからは医学は西洋式になったんでな~」
「あの薬、ホントによく効いたのにね」
祖母ちゃんと海伯が交互に答えた。
「合羽橋って名前、聞いた事あるでしょ。あれは河童が作るのを手伝ったから合羽橋って言うのよ」
「あそこにはもう橋はないぞ。川が無くなったからな」
化生が言った。
「その橋って、えっと……」
青年に質問しようと仕掛けた雪桜が口籠もる。
「ほら、話をするなら名前が無いと不便でしょ」
祖母ちゃんの言葉に青年が頬を掻いた。
「そう言われても人間の名前はよく分からないんだよなぁ」
「川の河童が河伯だから海伯でいいんじゃない?」
祖母ちゃんがいい加減な名前を言った。
また適当に……。
と突っ込みたいところだが、それより――。
「川の河童って、川以外にも河童がいるのかよ」
「そりゃ、お堀とか海とか水があるところには大体いるわよ」
「尾籠な話だが厠にもいるんでな」
「お堀!?」
「海!?」
俺達が同時に声を上げたが祖母ちゃんと海伯は当たり前のような顔をしている。
「厠……ってトイレだよな。水洗になってからの話か?」
「尾籠って言ったでしょ。汲み取り式の頃よ」
てことは河童がいたのは……。
あまり想像したくない……。
「びろう?」
雪桜が首を傾げる。
「不潔とか、見苦しいとか言う意味。海伯、あんた言葉遣いが古いわよ」
「いや~、浜にいる人間の言葉を真似してるつもりなんだよね~。ウェ~イ、とか」
「川やお堀で河童に引き込まれそうになった話とか江戸にも一杯あるわよ」
「未遂てことは殺されてはいないって事か……」
「死んだら話せないから」
死人に口なし……。
「お薬の作り方教えたもらった話がいくつも残ってるんじゃ……」
「そういうのは人間を襲って返り討ちに遭った河童が許してもらう代わりとして差し出したってのがほとんどだよ。ウェ~イ」
海伯が言った。
「つまり、海伯さんは……」
「海の河童よ」
「じゃあ、江戸前の河童……」
「カッパ巻きがシャレじゃなくなったね」
秀が呑気に笑った。
「河童が喰われた事はないけどね~」
海伯もあっけらかんとした表情で笑いながら答えた。
河童がって……人間の方は喰われた事があるって事か……。
「海の河童は放浪してる事があるから。海伯も東京湾に住んでるわけじゃないわよ」
「合羽橋みたいに人間に協力した話より殺されそうになったって話が多いからね~。ウェ~イ」
海伯が言った。
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