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第四章
第四章 第四話
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「どうする? また秀の家に泊まってることにするか? それとも夜中にこっそり抜け出すか?」
「夜は無理だ。場所が悪い」
高樹がスマホを見ながら難しい顔で言った。
「なんで?」
確かに明治通り沿いは車の通りは多いかもしれないが、走行中に未成年を見たという理由で通報する者は少ないだろう。
だが繁華街ではないからコンビニ以外で深夜まで営業している店もないだろう。
大通り沿いは住宅地との間に大きな商業ビルが建っている場合がほとんどだから道路沿いにいれば民家からはビルに遮られて見られる心配はないはずだ。
「そこは警察署の真ん前だ」
高樹がスマホを掲げて地図アプリを見せた。
表示された橋の目と鼻の先に警察署が表示されている。
「それはマズい……」
繊月丸が見えないとしても夜中に高校生が出歩いていたら補導される。
秀も高樹も俺も祖母ちゃん達のように人の目から見えなくなる能力などない。
とりあえずどうやって化生退治をするか各自で考えておくという事になった。
夕食後、部屋に戻るとミケが窓辺にいた。
『ねぇ、あやはいる?』
ミケが聞いてきた。
「いや、いない」
『そう。出掛けるから窓開けて』
「どこ行くんだ?」
『どこだっていいでしょ!』
「帰ってくるんだろうな」
捨てないと小早川に約束してしまったし、戻ってこなかったら姉ちゃんは俺が捨てたと言って責めるはずだ。
俺が窓を開けるとミケは何も言わずに出て行った。
四月十七日 金曜日
翌日、俺達はファーストフード店にいた。
海伯も一緒に。
そしてもう一人、知らない男性が。
「えっと……」
「尾張家下屋敷の辺りの狐。今、なんて名乗ってるの?」
尾張徳川家の下屋敷の辺りというと今の戸山公園だ。
早稲田駅の近くから高田馬場駅の近くまで続く広い公園である。
「人とは関わってないのでな」
化生って皆そう言うんだな……。
「じゃ、白狐で」
また適当に……。
「ていうか、白い狐なのか?」
「八百年も生きてるから白髪になっちゃったのよ」
「白髪とは失敬な。私は生まれた時から白狐だ。それに八百年というのは二百年前の話だ」
「え、じゃあ、千歳近いって事ですか……」
雪桜が驚愕したような表情を浮かべる。
「うむ、そろそろ寿命も近いだろうな」
寿命……。
初対面でも老い先短いと聞くとしんみりす――。
「せいぜいあと百年というところだな」
千年生きててもまだ残りが百年もあるのかよ……。
「それはともかく、困ってるんでしょ。こいつ、物知りだから」
他人事みたいに……。
そもそも化生がこっちに来たのは祖母ちゃんがあいつを上野に追い払ったのが原因だろ。
もっとも俺がなんとかしろと要求してしまったからと言うのもあるのだが。
「で、困り事とは?」
白狐の問いに俺達は事情を話した。
「ああ、神田川の」
「知ってる?」
「うむ、河童だ。それはともかく、夜がマズいなら昼にやれば良かろう」
「え?」
「夜中でも撮影の振りはするのであろう。ならば白昼堂々と撮影の振りをすれば良い」
「一理ある」
高樹が頷いた。
「けど、そうなると俺は無理だぞ。繊月丸は姿を消せば高樹は何も持ってないように見えるだろうがアーチェリーはそうはいかないし」
「特定の範囲内にいて移動しない者、と言う条件付きなら化かせるんだがな」
「通り過ぎるだけの人間となるとね」
白狐と祖母ちゃんが言った。
化かす……。
そういや二人とも狐か……。
「食い逃げの時みたいに眠らせたりするわけにもいかないからね~、ウェ~イ」
海伯が呑気な口調で言った。
「食い逃げ!?」
「ちょっと、あれは私じゃないわよ。私は市内には住んでなかったんだし」
「私も違うぞ」
「狐は一杯いたから話が沢山残ってるのよ」
祖母ちゃんと白狐が食い逃げを否定した。
てか、狐が食い逃げ……。
「それはともかく、狐の手が借りられないならしゃーない。オレが手ぇ貸すよ」
海伯が言った。
「助かるよ」
俺達は海伯に礼を言った。
「明日は土曜だし、早い方がいいよな」
「一応俺も師匠に何か方法がないか聞いてみたんだがアーチェリーの誤魔化し方は分からないって」
「師匠?」
「頼母でしょ。小石川の大マムシ」
「ああ。師匠って呼んでるのか」
「師事するなら師匠って呼べって言うから……」
高樹が気恥ずかしそうに言った。
とはいえ相手がマムシだろうと教えてもらうなら敬意は払うべきだろう。
そもそも江戸時代から生きてる時点で相当年上って事だしな……。
俺達は待ち合わせの場所と時間を打ち合わせた。
四月十八日 土曜日
早朝、俺はアーチェリーのケースを持って家を出た。
通報を受けた警察官が来たら祖母ちゃんが化かしたらどうかと白狐が提案してくれたのだ。
普通、最初に来るのは制服警官が一人か二人だし、仮に機動隊が集団でやってきても範囲や相手が限定されてるならその場から逃げるくらいの目眩ましは祖母ちゃんなら容易いとの事だった。
秀や高樹、祖母ちゃんや繊月丸と落ち合った俺達は神田川に架かる橋の近くに来ていた。
目眩ましで人に見られる心配がないとは言え、万が一戦っている最中に誰かに見られて誤魔化す必要に迫られた時にフォロー出来るようにと秀も同行している。
頼母や白狐は「(海伯もいる事だし)たかが河童一匹」と言っていたとかで来ていない。
「車が多いな」
高樹が辺りを見回しながら言った。
わざわざ早起きしてきたのは人を巻き込まないようにするためだ。
通報されても誤魔化せるとは言っても矢が人に当たったらケガをするか、最悪命を落とす。
人に被害を出さないための化生退治で他人を巻き込んでしまうのは本末転倒だ。
しかも繊月丸は繊月丸で『骨喰』の名前の由来が『切れ味が良すぎて向かいに立っている相手に切っ先が届かない距離から振り下ろしたにも関わらず、相手は骨が砕けて死んでしまった』というのだから人間の近くでは迂闊に振り下ろすわけにはいかないのだ。
朝早い上に土曜なので出勤する人も少ないから人通りは無いのだが……。
車の通りが多いという事は高樹や俺がうっかり車道に出てしまった時に撥ねられる危険があるという事だ。
高樹も俺も普通よりは頑丈、と言うだけだから車にぶつかればケガをするし、打ち所が悪かったりすれば落命する。
「夕辺下見しておいたのだが、少々狭くても良いなら川沿いに道があるぞ」
海伯が川沿いの脇道を指した。
「あそこは車が入ってこられぬ故……ウェ~イ」
「私達しかいないところで人間の振りはいいから」
祖母ちゃんは海伯にそう言った後で、
「この時間で、しかも歩道なら人間には見えなくすれば誰も来ないわね」
周囲を見回した。
「小道沿いのマンションに住んでる人はどうすんだ? 裏にも出入口があるのか?」
「少し待ってもらいましょ。大急ぎで済ませれば遅刻したとしても大した遅れにはならないわよ」
「夜は無理だ。場所が悪い」
高樹がスマホを見ながら難しい顔で言った。
「なんで?」
確かに明治通り沿いは車の通りは多いかもしれないが、走行中に未成年を見たという理由で通報する者は少ないだろう。
だが繁華街ではないからコンビニ以外で深夜まで営業している店もないだろう。
大通り沿いは住宅地との間に大きな商業ビルが建っている場合がほとんどだから道路沿いにいれば民家からはビルに遮られて見られる心配はないはずだ。
「そこは警察署の真ん前だ」
高樹がスマホを掲げて地図アプリを見せた。
表示された橋の目と鼻の先に警察署が表示されている。
「それはマズい……」
繊月丸が見えないとしても夜中に高校生が出歩いていたら補導される。
秀も高樹も俺も祖母ちゃん達のように人の目から見えなくなる能力などない。
とりあえずどうやって化生退治をするか各自で考えておくという事になった。
夕食後、部屋に戻るとミケが窓辺にいた。
『ねぇ、あやはいる?』
ミケが聞いてきた。
「いや、いない」
『そう。出掛けるから窓開けて』
「どこ行くんだ?」
『どこだっていいでしょ!』
「帰ってくるんだろうな」
捨てないと小早川に約束してしまったし、戻ってこなかったら姉ちゃんは俺が捨てたと言って責めるはずだ。
俺が窓を開けるとミケは何も言わずに出て行った。
四月十七日 金曜日
翌日、俺達はファーストフード店にいた。
海伯も一緒に。
そしてもう一人、知らない男性が。
「えっと……」
「尾張家下屋敷の辺りの狐。今、なんて名乗ってるの?」
尾張徳川家の下屋敷の辺りというと今の戸山公園だ。
早稲田駅の近くから高田馬場駅の近くまで続く広い公園である。
「人とは関わってないのでな」
化生って皆そう言うんだな……。
「じゃ、白狐で」
また適当に……。
「ていうか、白い狐なのか?」
「八百年も生きてるから白髪になっちゃったのよ」
「白髪とは失敬な。私は生まれた時から白狐だ。それに八百年というのは二百年前の話だ」
「え、じゃあ、千歳近いって事ですか……」
雪桜が驚愕したような表情を浮かべる。
「うむ、そろそろ寿命も近いだろうな」
寿命……。
初対面でも老い先短いと聞くとしんみりす――。
「せいぜいあと百年というところだな」
千年生きててもまだ残りが百年もあるのかよ……。
「それはともかく、困ってるんでしょ。こいつ、物知りだから」
他人事みたいに……。
そもそも化生がこっちに来たのは祖母ちゃんがあいつを上野に追い払ったのが原因だろ。
もっとも俺がなんとかしろと要求してしまったからと言うのもあるのだが。
「で、困り事とは?」
白狐の問いに俺達は事情を話した。
「ああ、神田川の」
「知ってる?」
「うむ、河童だ。それはともかく、夜がマズいなら昼にやれば良かろう」
「え?」
「夜中でも撮影の振りはするのであろう。ならば白昼堂々と撮影の振りをすれば良い」
「一理ある」
高樹が頷いた。
「けど、そうなると俺は無理だぞ。繊月丸は姿を消せば高樹は何も持ってないように見えるだろうがアーチェリーはそうはいかないし」
「特定の範囲内にいて移動しない者、と言う条件付きなら化かせるんだがな」
「通り過ぎるだけの人間となるとね」
白狐と祖母ちゃんが言った。
化かす……。
そういや二人とも狐か……。
「食い逃げの時みたいに眠らせたりするわけにもいかないからね~、ウェ~イ」
海伯が呑気な口調で言った。
「食い逃げ!?」
「ちょっと、あれは私じゃないわよ。私は市内には住んでなかったんだし」
「私も違うぞ」
「狐は一杯いたから話が沢山残ってるのよ」
祖母ちゃんと白狐が食い逃げを否定した。
てか、狐が食い逃げ……。
「それはともかく、狐の手が借りられないならしゃーない。オレが手ぇ貸すよ」
海伯が言った。
「助かるよ」
俺達は海伯に礼を言った。
「明日は土曜だし、早い方がいいよな」
「一応俺も師匠に何か方法がないか聞いてみたんだがアーチェリーの誤魔化し方は分からないって」
「師匠?」
「頼母でしょ。小石川の大マムシ」
「ああ。師匠って呼んでるのか」
「師事するなら師匠って呼べって言うから……」
高樹が気恥ずかしそうに言った。
とはいえ相手がマムシだろうと教えてもらうなら敬意は払うべきだろう。
そもそも江戸時代から生きてる時点で相当年上って事だしな……。
俺達は待ち合わせの場所と時間を打ち合わせた。
四月十八日 土曜日
早朝、俺はアーチェリーのケースを持って家を出た。
通報を受けた警察官が来たら祖母ちゃんが化かしたらどうかと白狐が提案してくれたのだ。
普通、最初に来るのは制服警官が一人か二人だし、仮に機動隊が集団でやってきても範囲や相手が限定されてるならその場から逃げるくらいの目眩ましは祖母ちゃんなら容易いとの事だった。
秀や高樹、祖母ちゃんや繊月丸と落ち合った俺達は神田川に架かる橋の近くに来ていた。
目眩ましで人に見られる心配がないとは言え、万が一戦っている最中に誰かに見られて誤魔化す必要に迫られた時にフォロー出来るようにと秀も同行している。
頼母や白狐は「(海伯もいる事だし)たかが河童一匹」と言っていたとかで来ていない。
「車が多いな」
高樹が辺りを見回しながら言った。
わざわざ早起きしてきたのは人を巻き込まないようにするためだ。
通報されても誤魔化せるとは言っても矢が人に当たったらケガをするか、最悪命を落とす。
人に被害を出さないための化生退治で他人を巻き込んでしまうのは本末転倒だ。
しかも繊月丸は繊月丸で『骨喰』の名前の由来が『切れ味が良すぎて向かいに立っている相手に切っ先が届かない距離から振り下ろしたにも関わらず、相手は骨が砕けて死んでしまった』というのだから人間の近くでは迂闊に振り下ろすわけにはいかないのだ。
朝早い上に土曜なので出勤する人も少ないから人通りは無いのだが……。
車の通りが多いという事は高樹や俺がうっかり車道に出てしまった時に撥ねられる危険があるという事だ。
高樹も俺も普通よりは頑丈、と言うだけだから車にぶつかればケガをするし、打ち所が悪かったりすれば落命する。
「夕辺下見しておいたのだが、少々狭くても良いなら川沿いに道があるぞ」
海伯が川沿いの脇道を指した。
「あそこは車が入ってこられぬ故……ウェ~イ」
「私達しかいないところで人間の振りはいいから」
祖母ちゃんは海伯にそう言った後で、
「この時間で、しかも歩道なら人間には見えなくすれば誰も来ないわね」
周囲を見回した。
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