東京の空の下 ~当節猫又余話~

月夜野 すみれ

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第四章

第四章 第五話

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「じゃ、ちょっくら呼んでくるわ」
 海伯はそう言うなり川に飛び込んだ。

「え!?」
 俺は慌ててアーチェリーのケースを開いた。
 高樹も急いで日本刀になった繊月丸を手にすると構えた。
 頼母に指導してもらっているだけあって以前よりかなりさまになっている。

 高樹あいつ殺陣たて専門のスタントマンとしてやっていけるかもしれないな。

 秀が邪魔にならないように後ろに下がる。
 祖母ちゃんも秀の横に並んだ。
 秀を守るためと言うより化生退治に手を貸す気がないからだろう。

 元凶は祖母ちゃんなんだが……。

 アーチェリーの用意が出来るのと水面が盛り上がるのは同時だった。
 水飛沫みずしぶきが上がったかと思うと二つの黒い影が真上に飛び上がった。
 対岸のマンションの三階の窓と同じくらいの高さだ。

 対岸へ行き掛けた片方をもう一つの影が蹴飛ばす。

 黒い影がこちらに跳ね飛ばされたが地面に落ちる前に川沿いに生えてる木に掴まった。

 枝からぶら下がっているのは小学生くらいの子供だった。
 見た目が、と言うべきか。

 水中から三階の高さまで跳んだ上に二階の屋根くらいの高さの枝に掴まっている時点で普通の子供ではない。

 というか、あの枝かなり細いぞ。
 なんで折れないんだ?

 高樹が子供――おそらく河童――に駆け寄ったがぎりぎりで繊月丸の切っ先が届かない。
 俺は破魔矢をつがえると化生に向かって放った。
 矢はけられてしまったが、そのはずみで枝から手が離れて子供が歩道に落ちる。

 高樹が駆け寄る前に子供が俺に向かってきた。
 正面から見た顔は人間とは思えない形相だ。
 急いで矢をつがえようとしたが――。

 間に合わない!

 その時、海伯が黒い影に抱き付いて相撲のような動きを始めた。
 高樹と俺の動きが止まる。

 正々堂々と勝負しているなら横から手を出すのは――。

「孝司! 望! 何してんの!」
 祖母ちゃんの言葉に俺達が我に返る。
 矢をつがえる動作が必要な俺より高樹の方が早かった。
 高樹が子供を背後から袈裟斬りにする。
 海伯が離れると子供が路上に倒れた。

「口ほどにもない」
 海伯が馬鹿にしたように言った。

 水中で話をしたのか?

 出てきてからは無言だったが……。

「帰ろうぞ……ウェ~イ」
「ウェ~イはいいから。孝司、早く弓をしまいなさい。幻覚解くわよ」
 祖母ちゃんの言葉に慌ててアーチェリーをケースにしまった。

 その瞬間、マンションの入り口から出てきた人が時計を見て慌てて駆け出していった。
 子供の死体に見向きもしないのは急いでいるからではなく見えないからだろう。

 俺達が小道から出ようとした時、妖奇征討軍とすれ違った。
 妖奇征討軍の二人は辺りを見回しながら歩いている。
 河童を退治しに来たのかもしれない。

「なぁ……」
 高樹が妖奇征討軍の方に目を向けながら声を掛けてきた。
 高樹の視線の先を見ると妖奇征討軍が河童の死体に気付かないまま横を通り過ぎていった。
「見えないんだね」
 秀には見えているという事を考えると妖奇征討軍の二人は相当化生けしょうを見る能力ちからが低いという事になる。

 それで、よく退治屋になろうと考えたな。

 俺達は妖奇征討軍に構わず帰路にいた。

 午後、俺達はファーストフード店に集まった。
 雪桜を連れていかない代わりに結果をその日のうちに報告すると約束していたからだ。

 海伯がいたので河童退治を手伝ってくれた礼を言ってから、
「海の河童で、しかも放浪してるんだよな? 祖母ちゃんに会いに来たのか? 神田川の河童に用があったんじゃないんだろ?」
 俺は疑問に思っていた事を口に出した。

「いや、実は去年の夏に海でおぼれてる女の子を助けたんだがな……」
 助けた時にその少女が河童の子孫だと気付いた。
 海とはいえ河童が溺れるとは面白いと思って印象に残っていたらしい。
 そして放浪中、陸に上がった時に知り合いのむじなからネットで海伯を探している人がいると言ってスマホでSNSの画面を見せてくれた。

 狢がスマホでSNS……。

 秀達も同じ事を考えたのかみな微妙な表情をしている。
 狢によると少女が投稿した他の写真からして東京に住んでいるようだという。
 それなら祖母ちゃんに聞いてみようという事で訪ねてきたらしい。
 見せてもらった写真はどれも綺麗だった、との事だ。

「東京にどれだけ人がいると思ってるのよ。新宿だけだって数十万人よ。河童の子孫だってそんなに珍しくないし」
「そうなんですか!?」
 雪桜が驚いたように言った。
「そりゃ、河童は沢山いるし、化生は寿命が長いから数世代に渡る人間との間に子供を残せるから」

 そうか……。

 祖母ちゃんの血を引いているのは俺達だけじゃないかもしれないのか。
 今生きてる祖母ちゃんの息子は一人だが、それ以前にも人間との間に子供がいたならその子供達の子孫がいることになるし、姉ちゃんや俺が子供を残せばその子供達も狐の血を引く事になる。
 実際、秀にも化生の血が流れてるし、高樹も半分天狗だから高樹が子供を作ればその子達は天狗の血を引く事になる。
 子孫の数はどんどん増えていく。

 ネズミ算……。

 世代を経ると能力ちからが無くなって人間と変わらなくなるから大勢いても分からないだけなのだ。

「SNSのアカウントが分かるなら連絡取れますけど」
 雪桜が代わりに連絡しようかと申し出る。
「あか、うんと……?」
 海伯が首を傾げる。
 俺達は考え込んだ。
 アカウントというものを知らないならどのSNSなのかも分からないだろう。

「少女って言うなら学生だろ。なら使うのはメジャーなSNSじゃないか?」
 高樹が言った。
 海伯が綺麗だと思った理由が単に写真が珍しかったから、と言う事ではなく、〝バエ〟つまり見映え重視の写真を投稿しているからだとしたら注目を集めたいのだろうし、それなら知名度の低いSNSということは考えづらい。

「書いてあった内容が分かるならメジャーなSNSで単語検索すれば候補が出てくるんじゃないか?」
「それと溺れた日付と場所が分かれば大分絞れるよね」
 高樹と秀が言った。
 河童退治の礼として人捜しを手伝いたいのだろう。
 そうでなくても海伯がわざわざ東京まで出てきたというのなら俺も会わせてやりたいと思う。

 俺達は海伯が覚えていたテキストの内容と日付と場所を控えた。
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