東京の空の下 ~当節猫又余話~

月夜野 すみれ

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第四章

第四章 第六話

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四月十九日 日曜日

 午前中にケーキ屋に予約していたケーキを受け取りに行き、午後、雪桜と祖母ちゃんの誕生会を開いた。
 繊月丸や海伯達も呼んだ。
 雪桜は賑やかな方が喜ぶだろうと思ったのだ。
 それに祖母ちゃんは同じ化生がいる方が俺達に気兼ねせずに済むかもしれないと考えたからだ。

「俺達から雪桜と祖母ちゃんへの誕生日プレゼントだ」
「ありがとう!」
 雪桜が嬉しそうに言った。
「ありがと」
 祖母ちゃんも笑顔で礼を言った。

四月二十日 月曜日

「こーちゃん、秀ちゃん、おはよう。昨日はありがとう」
 朝、俺達はいつもの場所で落ち合った。
「おう。誕生日おめでとう」
「誕生日おめでとう」
「有難う」
 神社の前を通り掛かると繊月丸が出てきた。
「よ、繊月丸」
「おはよう、繊月丸」
 雪桜は明後日の方を見ながら言った。

 一時間目は英語の時間だった。

 せっかく予習してきたのに、小テスト、全然違うところから出題されてる……。

 騙された……!

 見事に撃沈した俺は机の上に突っ伏した。

 学校からの帰り道、途中で、
「先に行っててくれ」
 と言って高樹は俺達を残して脇道に入っていった。

 俺達は言われたとおり中央公園で祖母ちゃんと合流すると、いつものファーストフード店に入った。
 海伯は東京見物を兼ねながら人捜しをしているとの事だった。

「これは何?」
 繊月丸がポテトを不思議そうに見ながら聞いた。
「フライドポテトだよ。うまいぞ、食ってみろ」
「私はものを食べない」
「そうか。それじゃあ、姿を消しててくれ」
 繊月丸は言われたとおり姿を消したようだ。

 雪桜が、
「あ、消えた」
 と言ったので分かった。
「どうして、繊月丸は姿を消さなきゃならないの?」
 雪桜が不満そうに訊ねた。
 姿を消されてしまうと声も聞こえなくなるから雪桜は直接話をすることが出来なるなるのだ。

「俺達だけ飲み食いしてて子供が飲まず食わずってのは体裁が悪いだろ」
「そっか」
 雪桜が残念そうにそう言った時、高樹が女の子を連れて入ってきた。
 女の子は髪の毛を肩の辺りで切り揃え、割と整った顔立ちをしている。
 俺達と同じ高校の標準服だ。

「高樹君、その人は?」
「彼女か?」
 俺は恐る恐る訊ねた。
 もし彼女だとしたら大打撃だ。
 俺が一番最後になってしまった。
 やっぱりもっと早く雪桜に告白しておけば良かった。

 チャンスはあったのに……。
 くそぉ……。

 でも相手が雪桜じゃないだけマシか。

「視線の主だよ」
 高樹の言葉に少し安心した。
 先を越されたわけではなかった。
「君が?」
「どうして、こーちゃんを見てたの?」
 声に嫉妬がにじんでいるように聞こえたのは気のせいだろうか。
 あんまり自惚うぬぼれるのは良くないよな。
 ただの思い込みだったと分かった時の痛手がデカいし。

「その前に君、誰?」
 秀が訊ねた。
「A組の山田洋子」
「俺達は自己紹介しなくても知ってるな」
 山田は肩をすくめた。
 知ってると言うことだろう。

「それで? なんで見てた?」
「大森君達、自主制作映画って言ってたけど、ホントは黒い影と戦ってたでしょ」
 俺達は顔を見合わせた。
「あれは一体何なの?」
「お前、親か祖父母に……」
 言い掛けた高樹の足をテーブルの下で蹴って黙らせる。

「黒い影って何? 僕はそんなもの見てないよ」
「私も見てない」
「嘘よ」
「嘘じゃないわよ」
 雪桜が珍しく不機嫌そうな声を出した。

 確かに嘘はいてない。
 俺達に見えているのは黒い影ではないし雪桜にはまるで見えてない。

「そんなこと信じないわよ。大森君、黒いもの掴んで走ってたじゃない」
「そうだったかな」
 俺はすっとぼけた。
「信じたくなければ信じなくてもいい。言いたいことがんだんなら帰っていいぞ」
「言いたいんじゃないわよ。なんなのか聞きたいのよ」
「だから黒いものなんか知らないって」
 俺が言った。
「そうよ」
「目の検査でもした方がいいんじゃないのか?」
「私は絶対騙されないんだから!」
 俺は肩をすくめた。
「好きにしろよ」
「絶対突き止めてやるから」
 山田はそう吐き捨てると出ていった。

「あいつも化生の子孫か?」
 俺は祖母ちゃんに訊ねた。
「河童よ。河童は数が多かったから」
「結構可愛い子だったね。良かったじゃない、孝司」
 秀が言った。

 俺は答えなかった。
 いくら可愛いと言っても俺に好意を持ってくれていなければ意味がない。
 さっきの様子はどう見ても敵意き出しだった。
 俺――と言うか俺達――に化物か何かを見るような視線を向けていた。
 小学校の頃、俺達を仲間外れにしていたクラスメイト達と同じ目付きだ。
 あんな女の子はいくら可愛くてもごめんだ。
 やっぱり雪桜の方が断然いい。

「それよりさ、どうするの? あの子のこと」
「今、武蔵野や繊月丸には気付いてなかったよな。それじゃ戦力にはならないぜ」
「そうだね」
「レフ板でも持たせるか?」
「山田さんが加わるんなら私も!」
 雪桜が手を挙げて言った。
「レフ板でも何でも持つから」
「大掛かりにするとホントに自主制作映画撮ることになるぞ」
 俺が言った。
 まぁ、秀はそれを望んでるようだから構わないのかもしれないが。
「彼女に何て言うかはお前に任せる」
 高樹は俺に山田の処理を押し付けた。

 しまった……!
 先に思い付いてれば高樹に押し付けられたかもしれなかったのに。

 俺は考え込んだ。
 山田を巻き込むのはどうだろう。
 祖母ちゃんも秀と山田の二人を守るのは、かなりの負担になるのではないだろうか。
 それに山田が加わるとなったら雪桜だっておとなしく家にいてはくれないだろう。
 戦力にならない彼女を仲間にしても祖母ちゃんの面倒が増えるだけではないか。
 ましてや雪桜まで出てきてしまったら。

 まぁ、祖母ちゃんが山田が助けるとして、の話だが。
 雪桜は助けてくれそうだが山田はどうか分からない。
 山田を戦闘に巻き込んでケガをさせたり、最悪死んだりしたら寝覚めが悪くなる。
 何より雪桜がとばっちりをくったりしたら大変だ。
 雪桜にケガをさせたくない。

 やっぱり普通の人間を戦闘に巻き込むのは良くないよな。
 山田がケガをして損害賠償請求してきても迷惑なだけだし。

 ばっくれよう。

 普通の人には見えないのだから他の誰かに訴えることは出来ないはずだ。
 言えば白い目で見られるのは山田の方なのだから知らぬ存ぜぬで押し通せばいい。
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