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第二章 出会いと再会と
第四話
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「如月さん」
六花が教室へ向かっていた時、五馬が声を掛けてきた。
「あ、八田さん」
「五馬で良いよ。六花ちゃんって呼んで良い? 図々しいかな」
「ううん、そんな事ないよ。私も五馬ちゃんって呼んで良い?」
「勿論だよ」
六花は五馬と並んで歩き始めた。
「本当は少し心配してたんだ。六花ちゃんに変な子だからって無視されたら如何しようって」
「変って何が?」
「六花ちゃんが拾ってくれた落とし物、変だと思わなかった? 石ころなんか……」
「思い出の品でしょ。全然おかしくないよ」
六花の答えに五馬は何故か複雑な表情を浮かべた。
悲しい思い出でもあるのかな。
それならこの話はしない方がいいよね。
六花は話題を変えようと民話研究会の話をした。
「楽しそう。私も民話、大好きなの」
「鈴木君に頼めば入れてくれるよ」
「本当!? じゃあ、頼んでみる」
五馬が嬉しそうに言った。
昼休み、いつものように六花と季武は屋上へ向かった。
屋上に居る間に嫌がらせをされるのだが、教室では鬼や昔の話などは出来ない。
「今日ね、ヒレカツにしたの。季武君が鬼に勝てますようにって」
其の言葉を聞いて季武はとびきりの笑顔を六花に向けた。
六花は真っ赤になって俯いた。
心臓が全力疾走してる。
嬉しくて叫び出しそう。
この笑顔の為なら体操服を何枚破られても構わない……と言いたいところだけど、これ以上体育休んでると学校から親に連絡されそうだし、どうしよう……。
「何時も悪いな。食費、大丈夫か?」
季武が心配そうに訊ねた。
「うん、お母さんがやりくりしてくれてるから」
「そうか」
「平安時代から生きてたなら、もう千歳くらい?」
「貞光と金時の二人は二千年を少し越えてるだろうって」
南関東に水田での稲作が伝わったのは紀元前三世紀頃。
貞光と金時が人間界に来たとき既に水稲栽培が始まってから何世代も経っているようだったから恐らくそれくらいではないかとの事だった。
「俺は其の二百年後くらい。綱は俺より三百年くらい後だろうって」
「綱さんは別の場所に居たの?」
「いや、来たのが何時かなんて覚えてても意味ないからな。何のくらい後だったか気にしてなかっただけだ」
季武が二百年後くらいと言うのは貞光と金時が来てから季武が来るまでに人間が世代交代した回数から大体二百年くらいではないかと見当を付けたそうだ。
綱も同様に当たりを付けたらしい。
ただ、これも凡その年数でしかない。
年号が無かった時代だし何度季節が巡ったかなど数えてなかったから分からないのだ。
「頼光様は三千年くらいって言ってる」
「どう言う意味?」
「頼光様の方が俺達より先に生まれたから、何くらい年上なのかは分からないんだ。だから本人がそう言ってるとしか……」
異界には寿命も暦も無い。
当然、年齢という概念もない。
だから基本的に討伐員の年齢は人間界へ来てからの年数なのだ。
「頼光さんとか、他の四天王の人達もこの辺にいるの?」
「貞光は彼方の中学で、金時は向こうの高校、綱は其方の高校」
季武は学校の方向を指しながら言った。
「頼光さんは?」
「頼光様は中間管理職だから普段は人間界に居ない」
中間管理職……。
頼光は人間界に常駐している訳ではないので季武達と違い「住んでいた年数=年齢」ではない。
本人が初めて人間界へ来たのが三千年前くらいだと言っているから季武達の年齢換算方法に当て嵌めると三千年になると言う事らしい。
「じゃあ、頼光さんは指揮だけで戦うのは四天王? ホントは強くないの?」
「頼光様は俺達が束に成っても敵わないくらい強い。だから酒呑童子討伐の為に人間界に派遣されたくらいだし」
「それで狐を射る事が出来たんだ」
六花が何気なくそう言った途端、季武の動きが止まった。
『今昔物語集』の話だと分かったらしい。
狐の話というのは、頼光は春宮(皇太子)に遠くの建物の屋根の上で寝ている狐を射殺せと命じられたと言うものである。
普通の弓でも届きそうにない距離に居るのに渡されたのは弱い弓の上に鏃の部分が重い矢で常人では到底届かないはずだった。
だが頼光は見事に狐を射貫き褒め称えられた。
季武はバツが悪そうな顔でまた食べ始めた。
『今昔物語集』で季武君が出てきた話って、お祭り見に行ったのと妖怪の赤ちゃん攫った話……。
何方も余り格好良い話ではない。
祭の話は、見物に行く為に乗った牛車に酔って気絶してしまい、結局お祭りが見られなかった。
そして「帰りもまた牛車に乗ったら死んでしまう」と言って人通りの無くなった夜中に顔を隠して徒歩で帰ってきた。
その挙げ句、季武は牛車に近付く事すらしなくなった。
妖怪の子供を攫った話は「妖怪なんか怖くない」と言って夜中に妖怪が出ると言われてる川に行ったら本当に出た。
その妖怪に子供を抱けと言われて受け取った後、妖怪が子供を返せと言うのに返さずに邸まで帰ってきて「妖怪から赤ん坊を盗ってきた」と自慢したと言うものだ。
幼児誘拐犯……。
相手は妖怪だけど……。
六花が教室へ向かっていた時、五馬が声を掛けてきた。
「あ、八田さん」
「五馬で良いよ。六花ちゃんって呼んで良い? 図々しいかな」
「ううん、そんな事ないよ。私も五馬ちゃんって呼んで良い?」
「勿論だよ」
六花は五馬と並んで歩き始めた。
「本当は少し心配してたんだ。六花ちゃんに変な子だからって無視されたら如何しようって」
「変って何が?」
「六花ちゃんが拾ってくれた落とし物、変だと思わなかった? 石ころなんか……」
「思い出の品でしょ。全然おかしくないよ」
六花の答えに五馬は何故か複雑な表情を浮かべた。
悲しい思い出でもあるのかな。
それならこの話はしない方がいいよね。
六花は話題を変えようと民話研究会の話をした。
「楽しそう。私も民話、大好きなの」
「鈴木君に頼めば入れてくれるよ」
「本当!? じゃあ、頼んでみる」
五馬が嬉しそうに言った。
昼休み、いつものように六花と季武は屋上へ向かった。
屋上に居る間に嫌がらせをされるのだが、教室では鬼や昔の話などは出来ない。
「今日ね、ヒレカツにしたの。季武君が鬼に勝てますようにって」
其の言葉を聞いて季武はとびきりの笑顔を六花に向けた。
六花は真っ赤になって俯いた。
心臓が全力疾走してる。
嬉しくて叫び出しそう。
この笑顔の為なら体操服を何枚破られても構わない……と言いたいところだけど、これ以上体育休んでると学校から親に連絡されそうだし、どうしよう……。
「何時も悪いな。食費、大丈夫か?」
季武が心配そうに訊ねた。
「うん、お母さんがやりくりしてくれてるから」
「そうか」
「平安時代から生きてたなら、もう千歳くらい?」
「貞光と金時の二人は二千年を少し越えてるだろうって」
南関東に水田での稲作が伝わったのは紀元前三世紀頃。
貞光と金時が人間界に来たとき既に水稲栽培が始まってから何世代も経っているようだったから恐らくそれくらいではないかとの事だった。
「俺は其の二百年後くらい。綱は俺より三百年くらい後だろうって」
「綱さんは別の場所に居たの?」
「いや、来たのが何時かなんて覚えてても意味ないからな。何のくらい後だったか気にしてなかっただけだ」
季武が二百年後くらいと言うのは貞光と金時が来てから季武が来るまでに人間が世代交代した回数から大体二百年くらいではないかと見当を付けたそうだ。
綱も同様に当たりを付けたらしい。
ただ、これも凡その年数でしかない。
年号が無かった時代だし何度季節が巡ったかなど数えてなかったから分からないのだ。
「頼光様は三千年くらいって言ってる」
「どう言う意味?」
「頼光様の方が俺達より先に生まれたから、何くらい年上なのかは分からないんだ。だから本人がそう言ってるとしか……」
異界には寿命も暦も無い。
当然、年齢という概念もない。
だから基本的に討伐員の年齢は人間界へ来てからの年数なのだ。
「頼光さんとか、他の四天王の人達もこの辺にいるの?」
「貞光は彼方の中学で、金時は向こうの高校、綱は其方の高校」
季武は学校の方向を指しながら言った。
「頼光さんは?」
「頼光様は中間管理職だから普段は人間界に居ない」
中間管理職……。
頼光は人間界に常駐している訳ではないので季武達と違い「住んでいた年数=年齢」ではない。
本人が初めて人間界へ来たのが三千年前くらいだと言っているから季武達の年齢換算方法に当て嵌めると三千年になると言う事らしい。
「じゃあ、頼光さんは指揮だけで戦うのは四天王? ホントは強くないの?」
「頼光様は俺達が束に成っても敵わないくらい強い。だから酒呑童子討伐の為に人間界に派遣されたくらいだし」
「それで狐を射る事が出来たんだ」
六花が何気なくそう言った途端、季武の動きが止まった。
『今昔物語集』の話だと分かったらしい。
狐の話というのは、頼光は春宮(皇太子)に遠くの建物の屋根の上で寝ている狐を射殺せと命じられたと言うものである。
普通の弓でも届きそうにない距離に居るのに渡されたのは弱い弓の上に鏃の部分が重い矢で常人では到底届かないはずだった。
だが頼光は見事に狐を射貫き褒め称えられた。
季武はバツが悪そうな顔でまた食べ始めた。
『今昔物語集』で季武君が出てきた話って、お祭り見に行ったのと妖怪の赤ちゃん攫った話……。
何方も余り格好良い話ではない。
祭の話は、見物に行く為に乗った牛車に酔って気絶してしまい、結局お祭りが見られなかった。
そして「帰りもまた牛車に乗ったら死んでしまう」と言って人通りの無くなった夜中に顔を隠して徒歩で帰ってきた。
その挙げ句、季武は牛車に近付く事すらしなくなった。
妖怪の子供を攫った話は「妖怪なんか怖くない」と言って夜中に妖怪が出ると言われてる川に行ったら本当に出た。
その妖怪に子供を抱けと言われて受け取った後、妖怪が子供を返せと言うのに返さずに邸まで帰ってきて「妖怪から赤ん坊を盗ってきた」と自慢したと言うものだ。
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