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第四章 復活と土蜘蛛と
第二話
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討伐されて異界へ戻った核は再生する間もなく回収されて砕かれる。
核を砕いた場合、目に見えないほど細かく粉砕すれば二度と復活は出来ない。
要は処刑だ。
だが中途半端に砕くと出来た破片の数だけ同じ鬼が出来てしまう。
昨日、茨木童子と戦っている最中に襲ってきた鬼達は恐らく核を砕いて再生させたものだろうとの事だった。
何故四天王の背後から遣ってきたかは謎らしいが。
茨木童子が何らかの手段で核を手に入れて砕いたのなら側に居たはずだからだ。
本来なら酒呑童子や茨木童子は核を砕かれるはずだった。
しかし何故かその二人の核だけは砕かれなかった。
上は決定事項を一々末端の者達に説明したりはしないから何故砕かれなかったのかは分からないが恐らく粉砕に失敗して大量の酒呑童子や茨木童子が出来る事を心配したのだろうとの事だった。
能力の強い者ほど核が硬くて砕くのが難しいのだ。
核を人間の女性に宿すと異界の者は人として生まれてくる。
頼光や四天王のように人の姿を取るのではなく、普通の人間として生まれてきて人と同じように年老いて死ぬ。
異界の者だった頃の記憶は無い。
異界の上層部は酒呑童子と茨木童子を人として生まれ変わらせる事にした。
酒呑童子と茨木童子、二つの核を同じ世界で保管すると何かの拍子に片方が復活した時もう一方を再生させてしまう危険が有る。
そのため交代で片方を人間界に送る事にした。
今は茨木童子が人間になっていた。
それが何らかの切っ掛けで鬼に戻ったらしい。
「子供に化けた茨木童子と一緒に居たと聞いたが」
頼光の問いに六花は少年との経緯を話した。
「成程なぁ。なら、お母さんが倒れたって言えば随いてくるって考えるよな」
「ランドセル背負ってたって事は学校に行ってたのか?」
「人間の振りだけなら兎も角学校にまで行ったりすっか? 小学生が行方不明ってニュースは聞いてねぇから喰ってねぇ筈だし」
「あの、転んだ時はまだ人間だったって事はないですか?」
六花がおずおずと訊ねた。
「根拠は?」
頼光が問い返した。
六花は、転んだ時は悪寒がしたものの身体に触れる事が出来たが、昨日は手首を掴まれたとき思わず払ってしまった事を話した。
「最初に会ったのって何時?」
金時が訊ねた。
「二度目に頼光様に会った日の前の日です」
「六花ちゃんが二度目に会った日って季……」
「放課後に鬼を討伐した次の日だな」
金時が綱の言葉を遮る様に言った。
「彼んとき未だ人間だったんなら彼の喰い残しは茨木童子じゃねぇな」
放課後に鬼退治……。
あの日は怒ってたんじゃなくて鬼退治の為に急いでたんだ。
「人間だったなら普通に登校してるよな」
「小学生が鬼に成るって何んな時だ?」
「大人なら怨恨とか有んだろうけど子供が其処まで強い感情持ったりすっか?」
貞光が言った。
「家族を皆殺しにされたとか」
「んな事件起きてねぇだろ」
「あ、私の勘違いかも……」
「いや、人間が鬼に成る条件は様々だし、特に茨木童子は元が鬼だからな。些細な切っ掛けで戻るのかもしれん」
元が鬼……。
六花の表情に気付いた頼光が、
「どうした?」
と訊ねた。
「な、なんでもありません!」
「気付いた事が有るなら……」
「あ、そう言う訳では……」
六花は手を振った。
それでも頼光に表情で促されると、
「核が有るって事は、酒呑童子も茨木童子も最初から鬼だったんですよね?」
と言った。
「そうだ」
「『御伽草紙』では酒呑童子は元は人間だったって事に成ってるんだっけ。其の事?」
金時が言った。
「『御伽草紙』もですけど、酒呑童子も茨木童子も人間だったのが鬼になったって伝承が残ってる地域がいくつかあって……」
「茨木童子も?」
「如何して戻ったの?」
綱と金時が同時に口を開いた。
「茨木童子は、貰った恋文の中に血で書いたものがあってその血を舐めたら鬼になったとか」
「小学生が血書きのラブレターは貰わないだろうな」
「大人なら普通に有りそうだけどな」
「後は床屋さんで働いてる時に、うっかりお客さんの頭を切ってしまって、手に付いた血を舐めたら、それがクセになってわざとケガをさせて血を舐めてるうちに鬼になったとか」
「其なら小学生でも有るだろうな」
頼光が言った。
「子供ならケガはしょっちゅうですからね」
金時が同意した。
「血を舐めて鬼に戻ったとして、鬼に戻った茨木童子が起こしたと思しき事件はあったか?」
頼光の言葉に四天王は顔を見合わせた。
六花も何か有ったか考えてみたが聞いた覚えは無い。
残虐な事件の報道はされてなかったはずだ。
「喰ってない筈は有りませんが、小学生とは言え最近まで人間だったなら痕跡を残せばニュースに成ると知っているでしょう」
「そうなれば討伐員に嗅ぎ付けられる事も」
「彼の喰い残しの事件のニュースを見てたとすれば尚更だな」
「茨木童子はかなり知恵が働くしな」
「人目に付かない場所で残さず喰ってしまえば事件として報道されたりしませんから」
「其で、今後は如何致しましょう」
「えっと、私はもう良いですか?」
「ああ、足労を掛けて済まなかった」
「それでは失礼します」
「待った!」
立ち上がった六花を綱、金時、貞光が同時に引き止めた。
「え?」
「いや、ほら、もう少しゆっくり……」
「でも頼光様から今後のお話があるんじゃ……」
「別に六花ちゃんが聞いても問題ありませんよね」
金時の言葉に、
「まぁな」
三人の心底を見抜いた頼光が呆れた表情で答えた。
「私にお手伝い出来る事があるんですか?」
頼光達の役に立てるなら何でもするが、前世で巻えを喰って死んだくらいだから足手纏いにしかならないような気がするのだが。
「冷蔵庫は空だろ。材料が無きゃ飯は作れないぞ」
季武が冷ややかな声で言った。
「ああ、お料理……」
「今言った様に冷蔵庫には何も無い」
「ちゃんと一杯にしておいたぞ」
「炊飯器も買ったんだよね」
「米も」
綱、金時、貞光の言葉を聞いた頼光と季武が冷たい視線を三人に向けた。
「えっと……、良いですか?」
六花が頼光に許可を求めた。
「何時も済まない」
頼光が心の底から申し訳なさそうに謝った。
核を砕いた場合、目に見えないほど細かく粉砕すれば二度と復活は出来ない。
要は処刑だ。
だが中途半端に砕くと出来た破片の数だけ同じ鬼が出来てしまう。
昨日、茨木童子と戦っている最中に襲ってきた鬼達は恐らく核を砕いて再生させたものだろうとの事だった。
何故四天王の背後から遣ってきたかは謎らしいが。
茨木童子が何らかの手段で核を手に入れて砕いたのなら側に居たはずだからだ。
本来なら酒呑童子や茨木童子は核を砕かれるはずだった。
しかし何故かその二人の核だけは砕かれなかった。
上は決定事項を一々末端の者達に説明したりはしないから何故砕かれなかったのかは分からないが恐らく粉砕に失敗して大量の酒呑童子や茨木童子が出来る事を心配したのだろうとの事だった。
能力の強い者ほど核が硬くて砕くのが難しいのだ。
核を人間の女性に宿すと異界の者は人として生まれてくる。
頼光や四天王のように人の姿を取るのではなく、普通の人間として生まれてきて人と同じように年老いて死ぬ。
異界の者だった頃の記憶は無い。
異界の上層部は酒呑童子と茨木童子を人として生まれ変わらせる事にした。
酒呑童子と茨木童子、二つの核を同じ世界で保管すると何かの拍子に片方が復活した時もう一方を再生させてしまう危険が有る。
そのため交代で片方を人間界に送る事にした。
今は茨木童子が人間になっていた。
それが何らかの切っ掛けで鬼に戻ったらしい。
「子供に化けた茨木童子と一緒に居たと聞いたが」
頼光の問いに六花は少年との経緯を話した。
「成程なぁ。なら、お母さんが倒れたって言えば随いてくるって考えるよな」
「ランドセル背負ってたって事は学校に行ってたのか?」
「人間の振りだけなら兎も角学校にまで行ったりすっか? 小学生が行方不明ってニュースは聞いてねぇから喰ってねぇ筈だし」
「あの、転んだ時はまだ人間だったって事はないですか?」
六花がおずおずと訊ねた。
「根拠は?」
頼光が問い返した。
六花は、転んだ時は悪寒がしたものの身体に触れる事が出来たが、昨日は手首を掴まれたとき思わず払ってしまった事を話した。
「最初に会ったのって何時?」
金時が訊ねた。
「二度目に頼光様に会った日の前の日です」
「六花ちゃんが二度目に会った日って季……」
「放課後に鬼を討伐した次の日だな」
金時が綱の言葉を遮る様に言った。
「彼んとき未だ人間だったんなら彼の喰い残しは茨木童子じゃねぇな」
放課後に鬼退治……。
あの日は怒ってたんじゃなくて鬼退治の為に急いでたんだ。
「人間だったなら普通に登校してるよな」
「小学生が鬼に成るって何んな時だ?」
「大人なら怨恨とか有んだろうけど子供が其処まで強い感情持ったりすっか?」
貞光が言った。
「家族を皆殺しにされたとか」
「んな事件起きてねぇだろ」
「あ、私の勘違いかも……」
「いや、人間が鬼に成る条件は様々だし、特に茨木童子は元が鬼だからな。些細な切っ掛けで戻るのかもしれん」
元が鬼……。
六花の表情に気付いた頼光が、
「どうした?」
と訊ねた。
「な、なんでもありません!」
「気付いた事が有るなら……」
「あ、そう言う訳では……」
六花は手を振った。
それでも頼光に表情で促されると、
「核が有るって事は、酒呑童子も茨木童子も最初から鬼だったんですよね?」
と言った。
「そうだ」
「『御伽草紙』では酒呑童子は元は人間だったって事に成ってるんだっけ。其の事?」
金時が言った。
「『御伽草紙』もですけど、酒呑童子も茨木童子も人間だったのが鬼になったって伝承が残ってる地域がいくつかあって……」
「茨木童子も?」
「如何して戻ったの?」
綱と金時が同時に口を開いた。
「茨木童子は、貰った恋文の中に血で書いたものがあってその血を舐めたら鬼になったとか」
「小学生が血書きのラブレターは貰わないだろうな」
「大人なら普通に有りそうだけどな」
「後は床屋さんで働いてる時に、うっかりお客さんの頭を切ってしまって、手に付いた血を舐めたら、それがクセになってわざとケガをさせて血を舐めてるうちに鬼になったとか」
「其なら小学生でも有るだろうな」
頼光が言った。
「子供ならケガはしょっちゅうですからね」
金時が同意した。
「血を舐めて鬼に戻ったとして、鬼に戻った茨木童子が起こしたと思しき事件はあったか?」
頼光の言葉に四天王は顔を見合わせた。
六花も何か有ったか考えてみたが聞いた覚えは無い。
残虐な事件の報道はされてなかったはずだ。
「喰ってない筈は有りませんが、小学生とは言え最近まで人間だったなら痕跡を残せばニュースに成ると知っているでしょう」
「そうなれば討伐員に嗅ぎ付けられる事も」
「彼の喰い残しの事件のニュースを見てたとすれば尚更だな」
「茨木童子はかなり知恵が働くしな」
「人目に付かない場所で残さず喰ってしまえば事件として報道されたりしませんから」
「其で、今後は如何致しましょう」
「えっと、私はもう良いですか?」
「ああ、足労を掛けて済まなかった」
「それでは失礼します」
「待った!」
立ち上がった六花を綱、金時、貞光が同時に引き止めた。
「え?」
「いや、ほら、もう少しゆっくり……」
「でも頼光様から今後のお話があるんじゃ……」
「別に六花ちゃんが聞いても問題ありませんよね」
金時の言葉に、
「まぁな」
三人の心底を見抜いた頼光が呆れた表情で答えた。
「私にお手伝い出来る事があるんですか?」
頼光達の役に立てるなら何でもするが、前世で巻えを喰って死んだくらいだから足手纏いにしかならないような気がするのだが。
「冷蔵庫は空だろ。材料が無きゃ飯は作れないぞ」
季武が冷ややかな声で言った。
「ああ、お料理……」
「今言った様に冷蔵庫には何も無い」
「ちゃんと一杯にしておいたぞ」
「炊飯器も買ったんだよね」
「米も」
綱、金時、貞光の言葉を聞いた頼光と季武が冷たい視線を三人に向けた。
「えっと……、良いですか?」
六花が頼光に許可を求めた。
「何時も済まない」
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