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第五章 土蜘蛛と計略と
第四話
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離れたビルの上からカズがその様子を見ていた。
エガはカズが助けに行く間もなく討伐されてしまった。
カズは気付かれないように気配を消して逃げるのが精一杯だった。
四人とも化物だ。
一人ずつ襲うにしても数人程度では間違いなく返り討ちに遭う。
取り敢えずカズはメナの元に報告に向かった。
土蜘蛛達が集まっていた。
カズの報告を受けたメナが招集を掛けたのだ。
サチに協力している者達と様子見組、どちらも揃っている。
「エガは何だって人通りの有る場所で人間を襲ったんだい」
メナが訊ねた。
「卜部の女を殺して自分と同じ思いをさせてやるって」
「愚かな。幾ら恋人と言っても人間なんか殺された所で痛くも痒くもないだろ」
「どうせ長生きしたとこで数十年だしな」
数の言葉を聞いた土蜘蛛達が言った。
メナはサチが黙っているのに気付いた。
「サチ?」
メナに声を掛けられたサチが顔を上げた。
「エガの考え、強ち間違いではないのかもしれない」
サチが言った。
「え?」
「彼奴、エガの事は追い掛けなかった」
「其は核に成って異界に戻ったから……」
「核が砕かれれば其で良いなら異界に逃げた鬼だって同じだ。異界で討伐されて核を砕かれてた」
土蜘蛛達が顔を見合わせた。
「エガだけじゃない。他の反ぐれ者も核を砕かれてない」
「じゃあ……」
「卜部の女を殺したから核を砕かれたんだ」
其も恐らく前世の彼の娘だ。
彼の娘から季武の気配がした。
彼は目印なのだ。
だから彼女が殺された時、季武は激怒して異界まで追い掛けて行ったのだろう。
其のくらい季武にとって大切な相手なのだ。
「若し彼の娘が死んでいたら、屹度卜部は異界まで行って核を砕いてた」
「やはり今まで通り仲間集めをするしかない様だな」
「然し一人減った事で遣り辛くなったのは事実だな」
「別の策も考えておいた方が良いだろうな」
土蜘蛛達は思案顔で散っていった。
朝、季武と共に登校すると教室に五馬が遣ってきた。
「六花ちゃん、此……」
五馬はそう言ってスマホを手渡した。
「ありがとう」
六花は礼を言って受け取った。
「昨日の事、怒ってるよね」
「え?」
「わたし、怖くて一人で逃げちゃって……」
「私が逃げてって言ったんだよ。それに季武君た……季武君が助けてくれたし」
五馬は綱達の事は見ていないかもしれないと思って急いで言い直した。
「良かった。嫌われちゃったんじゃないかって心配してたんだ」
「そんな訳ないよ。私だって逃げてたんだよ」
「そう言ってくれて安心した」
五馬がホッとした表情を浮かべた時、予鈴が鳴った。
「其じゃ、又ね」
五馬は手を振って教室に戻っていった。
昼休み、季武と六花はいつものように屋上で弁当を食べていた。
「『古今著聞集』? 鬼同丸の話か?」
季武が聞き返した。
「ううん、季武君の話」
「其方か」
「ごめん、これも何回も聞いてるよね」
「構わない。同じ話を何度しても聞き飽きたって言われないのは気楽で良い」
「私、聞き飽きたなんて言った事あるの?」
「お前は言わない。同じ話を何度もしてるとそう言う人間が居るって綱達が言ってた」
「一番短い綱さんでも千五百年以上なのに同じ人に同じ話をする事あるの?」
「お前は見鬼で昔話が好きだから俺達の事、直ぐに信じてくれるだろ。けど普通の人間は異界の者が見えないから、大抵は人間の振りをしたままで昔の話はしないんだ。そうすると最近の話しか出来ないから」
どうやら四天王がやけに好意的なのは、人間ではない事を隠す必要が無いからと言うのも有る様だ。
見鬼で四天王の話を信じているなら、うっかり口を滑らせるかもしれないと気を付ける必要もないし何度同じ話をされても嫌な顔をしないかららしい。
六花が廊下を歩いていると五馬が声を掛けてきた。
「ね、六花ちゃん、季武君って友達居る?」
「うん」
四天王は仲間だが、仲間と友達は同じだろうと考えて頷いた。
友達が居るか聞いてきたと言う事は昨日、季武達が来た時はもう逃げていて他の三人は見ていないのだろう。
「会った事、有る?」
「うん」
「格好良い?」
「うん! 季武君の友達って皆すっごく格好良いよ!」
あの頼光四天王だもん!
五馬ちゃんも知ったら絶対喜ぶだろうなぁ。
「本当! なら今度紹介して! わたし、彼氏欲しいの!」
五馬が身を乗り出した。
「じゃあ、季武君に頼んでみる」
「有難う! お願いね」
五馬はそう言うと自分の教室に帰っていった。
放課後、六花と季武は一緒に歩いていた。
「友達? 貞光達の事か?」
季武が聞き返した。
「うん、五馬ちゃんが季武君の友達紹介して欲しいって。ダメかな」
「分かった。聞いておく」
六花は季武の言葉にホッとした。
翌朝の登校途中、
「今日の放課後なら四人とも来られるらしいぞ」
季武が隣を歩いている六花に言った。
「五馬ちゃんに紹介してくれるの?」
「ああ」
「ありがとう! 五馬ちゃんに伝えておくね」
六花は嬉しそうにそう言うと、学校に着くなり五馬の教室に向かった。
エガはカズが助けに行く間もなく討伐されてしまった。
カズは気付かれないように気配を消して逃げるのが精一杯だった。
四人とも化物だ。
一人ずつ襲うにしても数人程度では間違いなく返り討ちに遭う。
取り敢えずカズはメナの元に報告に向かった。
土蜘蛛達が集まっていた。
カズの報告を受けたメナが招集を掛けたのだ。
サチに協力している者達と様子見組、どちらも揃っている。
「エガは何だって人通りの有る場所で人間を襲ったんだい」
メナが訊ねた。
「卜部の女を殺して自分と同じ思いをさせてやるって」
「愚かな。幾ら恋人と言っても人間なんか殺された所で痛くも痒くもないだろ」
「どうせ長生きしたとこで数十年だしな」
数の言葉を聞いた土蜘蛛達が言った。
メナはサチが黙っているのに気付いた。
「サチ?」
メナに声を掛けられたサチが顔を上げた。
「エガの考え、強ち間違いではないのかもしれない」
サチが言った。
「え?」
「彼奴、エガの事は追い掛けなかった」
「其は核に成って異界に戻ったから……」
「核が砕かれれば其で良いなら異界に逃げた鬼だって同じだ。異界で討伐されて核を砕かれてた」
土蜘蛛達が顔を見合わせた。
「エガだけじゃない。他の反ぐれ者も核を砕かれてない」
「じゃあ……」
「卜部の女を殺したから核を砕かれたんだ」
其も恐らく前世の彼の娘だ。
彼の娘から季武の気配がした。
彼は目印なのだ。
だから彼女が殺された時、季武は激怒して異界まで追い掛けて行ったのだろう。
其のくらい季武にとって大切な相手なのだ。
「若し彼の娘が死んでいたら、屹度卜部は異界まで行って核を砕いてた」
「やはり今まで通り仲間集めをするしかない様だな」
「然し一人減った事で遣り辛くなったのは事実だな」
「別の策も考えておいた方が良いだろうな」
土蜘蛛達は思案顔で散っていった。
朝、季武と共に登校すると教室に五馬が遣ってきた。
「六花ちゃん、此……」
五馬はそう言ってスマホを手渡した。
「ありがとう」
六花は礼を言って受け取った。
「昨日の事、怒ってるよね」
「え?」
「わたし、怖くて一人で逃げちゃって……」
「私が逃げてって言ったんだよ。それに季武君た……季武君が助けてくれたし」
五馬は綱達の事は見ていないかもしれないと思って急いで言い直した。
「良かった。嫌われちゃったんじゃないかって心配してたんだ」
「そんな訳ないよ。私だって逃げてたんだよ」
「そう言ってくれて安心した」
五馬がホッとした表情を浮かべた時、予鈴が鳴った。
「其じゃ、又ね」
五馬は手を振って教室に戻っていった。
昼休み、季武と六花はいつものように屋上で弁当を食べていた。
「『古今著聞集』? 鬼同丸の話か?」
季武が聞き返した。
「ううん、季武君の話」
「其方か」
「ごめん、これも何回も聞いてるよね」
「構わない。同じ話を何度しても聞き飽きたって言われないのは気楽で良い」
「私、聞き飽きたなんて言った事あるの?」
「お前は言わない。同じ話を何度もしてるとそう言う人間が居るって綱達が言ってた」
「一番短い綱さんでも千五百年以上なのに同じ人に同じ話をする事あるの?」
「お前は見鬼で昔話が好きだから俺達の事、直ぐに信じてくれるだろ。けど普通の人間は異界の者が見えないから、大抵は人間の振りをしたままで昔の話はしないんだ。そうすると最近の話しか出来ないから」
どうやら四天王がやけに好意的なのは、人間ではない事を隠す必要が無いからと言うのも有る様だ。
見鬼で四天王の話を信じているなら、うっかり口を滑らせるかもしれないと気を付ける必要もないし何度同じ話をされても嫌な顔をしないかららしい。
六花が廊下を歩いていると五馬が声を掛けてきた。
「ね、六花ちゃん、季武君って友達居る?」
「うん」
四天王は仲間だが、仲間と友達は同じだろうと考えて頷いた。
友達が居るか聞いてきたと言う事は昨日、季武達が来た時はもう逃げていて他の三人は見ていないのだろう。
「会った事、有る?」
「うん」
「格好良い?」
「うん! 季武君の友達って皆すっごく格好良いよ!」
あの頼光四天王だもん!
五馬ちゃんも知ったら絶対喜ぶだろうなぁ。
「本当! なら今度紹介して! わたし、彼氏欲しいの!」
五馬が身を乗り出した。
「じゃあ、季武君に頼んでみる」
「有難う! お願いね」
五馬はそう言うと自分の教室に帰っていった。
放課後、六花と季武は一緒に歩いていた。
「友達? 貞光達の事か?」
季武が聞き返した。
「うん、五馬ちゃんが季武君の友達紹介して欲しいって。ダメかな」
「分かった。聞いておく」
六花は季武の言葉にホッとした。
翌朝の登校途中、
「今日の放課後なら四人とも来られるらしいぞ」
季武が隣を歩いている六花に言った。
「五馬ちゃんに紹介してくれるの?」
「ああ」
「ありがとう! 五馬ちゃんに伝えておくね」
六花は嬉しそうにそう言うと、学校に着くなり五馬の教室に向かった。
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