東京綺譚伝―光と桜と―

月夜野 すみれ

文字の大きさ
39 / 87
第五章 土蜘蛛と計略と

第四話

しおりを挟む
 離れたビルの上からカズがその様子を見ていた。
 エガはカズが助けに行く間もなく討伐されてしまった。
 カズは気付かれないように気配を消して逃げるのが精一杯だった。
 四人とも化物だ。
 一人ずつ襲うにしても数人程度では間違いなく返り討ちにう。
 えずカズはメナの元に報告に向かった。

 土蜘蛛達が集まっていた。
 カズの報告を受けたメナが招集を掛けたのだ。
 サチに協力している者達と様子見組、どちらも揃っている。

「エガはなんだって人通りの有る場所で人間を襲ったんだい」
 メナが訊ねた。
卜部あいつの女を殺して自分と同じ思いをさせてやるって」
おろかな。いくら恋人と言っても人間なんか殺された所で痛くもかゆくもないだろ」
「どうせ長生きしたとこで数十年だしな」
 数の言葉を聞いた土蜘蛛達が言った。

 メナはサチが黙っているのに気付いた。

「サチ?」
 メナに声を掛けられたサチが顔を上げた。
「エガの考え、あながち間違いではないのかもしれない」
 サチが言った。
「え?」
彼奴あいつ、エガの事は追い掛けなかった」
それは核にって異界むこうに戻ったから……」
「核が砕かれればそれいなら異界むこうに逃げた鬼だって同じだ。異界むこうで討伐されて核を砕かれてた」
 土蜘蛛達が顔を見合わせた。

「エガだけじゃない。他のぐれ者も核を砕かれてない」
「じゃあ……」
卜部あいつの女を殺したから核を砕かれたんだ」

 それおそらく前世のの娘だ。
 の娘から季武の気配がした。
 あれは目印なのだ。
 だから彼女が殺された時、季武は激怒して異界むこうまで追い掛けて行ったのだろう。
 のくらい季武にとって大切な相手なのだ。

の娘が死んでいたら、屹度きっと卜部あいつ異界むこうまで行って核を砕いてた」
「やはり今まで通り仲間集めをするしかないようだな」
しかし一人減った事でづらくなったのは事実だな」
「別の策も考えておいた方がいだろうな」
 土蜘蛛達は思案顔で散っていった。

 朝、季武と共に登校すると教室に五馬がってきた。

「六花ちゃん、これ……」
 五馬はそう言ってスマホを手渡した。
「ありがとう」
 六花は礼を言って受け取った。

「昨日の事、怒ってるよね」
「え?」
「わたし、怖くて一人で逃げちゃって……」
「私が逃げてって言ったんだよ。それに季武君た……季武君が助けてくれたし」
 五馬は綱達の事は見ていないかもしれないと思って急いで言い直した。

「良かった。嫌われちゃったんじゃないかって心配してたんだ」
「そんな訳ないよ。私だって逃げてたんだよ」
「そう言ってくれて安心した」
 五馬がホッとした表情を浮かべた時、予鈴が鳴った。
それじゃ、またね」
 五馬は手を振って教室に戻っていった。

 昼休み、季武と六花はいつものように屋上で弁当を食べていた。

「『古今著聞集ここんちょもんじゅう』? 鬼同丸きどうまるの話か?」
 季武が聞き返した。
「ううん、季武君の話」
其方そっちか」
「ごめん、これも何回も聞いてるよね」
「構わない。同じ話を何度しても聞ききたって言われないのは気楽でい」
「私、聞き飽きたなんて言った事あるの?」
お前イナは言わない。同じ話を何度もしてるとそう言う人間がるって綱達が言ってた」
「一番短い綱さんでも千五百年以上なのに同じ人に同じ話をする事あるの?」
「お前は見鬼で昔話が好きだから俺達の事、ぐに信じてくれるだろ。けど普通の人間は異界の者が見えないから、大抵は人間の振りをしたままで昔の話はしないんだ。そうすると最近の話しか出来ないから」

 どうやら四天王がやけに好意的なのは、人間ではない事を隠す必要が無いからと言うのも有るようだ。
 見鬼で四天王の話を信じているなら、うっかり口を滑らせるかもしれないと気を付ける必要もないし何度同じ話をされても嫌な顔をしないかららしい。

 六花が廊下を歩いていると五馬が声を掛けてきた。

「ね、六花ちゃん、季武君って友達る?」
「うん」
 四天王は仲間だが、仲間と友達は同じだろうと考えて頷いた。
 友達がるか聞いてきたと言う事は昨日、季武達が来た時はもう逃げていて他の三人は見ていないのだろう。
「会った事、有る?」
「うん」
格好良かっこいい?」
「うん! 季武君の友達ってみんなすっごく格好良かっこいいよ!」

 頼光四天王だもん!
 五馬ちゃんも知ったら絶対喜ぶだろうなぁ。

本当ホント! なら今度紹介して! わたし、彼氏欲しいの!」
 五馬が身を乗り出した。
「じゃあ、季武君に頼んでみる」
「有難う! お願いね」
 五馬はそう言うと自分の教室に帰っていった。

 放課後、六花と季武は一緒に歩いていた。

「友達? 貞光達の事か?」
 季武が聞き返した。
「うん、五馬ちゃんが季武君の友達紹介して欲しいって。ダメかな」
「分かった。聞いておく」
 六花は季武の言葉にホッとした。

 翌朝の登校途中、
「今日の放課後なら四人とも来られるらしいぞ」
 季武が隣を歩いている六花に言った。

「五馬ちゃんに紹介してくれるの?」
「ああ」
「ありがとう! 五馬ちゃんに伝えておくね」
 六花は嬉しそうにそう言うと、学校に着くなり五馬の教室に向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

『後宮薬師は名を持たない』

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。 帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。 救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。 後宮が燃え、名を失ってもなお―― 彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...