東京綺譚伝―光と桜と―

月夜野 すみれ

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第六章 計略と罠と

第四話

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「六花ちゃん、帰ろ」
「うん。ごめんね」
「気にしないで。それより大丈夫?」
「ありがと。心配掛けてごめんね」
 六花と五馬は並んで歩き始めた。
「もう謝らなくていよ」
 五馬は慰めるように言った。
 その言葉にまた泣きそうになったがこれ以上泣いたら迷惑だろうと思って必死でこらえた。

 六花は途中で五馬と別れるとスーパーで買い物をして四天王のマンションに向かった。
 スマホに季武が今日は迎えに来られないと言うメッセージが来ていた。
 つまりマンションに帰ってくるまでだ時間が有ると言う事だ。
 四人が帰ってくる前に料理を終えてマンションを出れば泣きらした目を見られずにむだろう。
 鬼退治で朝から一日中都内を回っている四天王にせめて食事くらいは作ってねぎらいたかった。
 予想通り季武達は帰ってこなかったので六花は顔を見られずに四天王のマンションを後にする事が出来た。

 廊下を歩いていた太田の前に女子生徒が立った。

「何か……」
 太田の言葉が終わる前に生徒が何か呟いた。
 女子生徒が姿を消すと太田は彼女の事を綺麗に忘れていた。

 放課後、民話研究会が終わり皆が椅子を片付けている時だった。

「ねぇ、クラスメイトから聞いたんだけど……」
 そう言って太田が、ある場所の名前を出した。
「そこがどうかした?」
 佐藤が不思議そうに訊ねた。
 大通り沿いに有るただの歩道橋だ。

「そこの下に時々露店が出てるんだけど、そこで売ってるキーホルダーって願い事が叶うんだって」
「ホント~?」
「ホントだって。しかも! 今ならなんと、お値段たったの三百円!」
「あんたはテレビ通販の司会者か!」
 佐藤がそう突っ込んでから、
「時々って、いつも出てるわけじゃないの?」
 と訊ねた。
「露店は許可が必要だからゲリラ的にやるんだと思うよ」
 鈴木が言った。
「なんだ、なら、たまたま売ってる時に通りかかったらラッキーって事かぁ」
 佐藤は肩透かしを食わされたと言う表情で言った。

「六花ちゃん、一緒に帰ろ」
「うん」
 六花は頷くと五馬と一緒に歩き出した。
「ねぇ、六花ちゃん、太田さんが言ってた場所に行ってみようよ」
いよ」
 六花は快諾かいだくした。

 六花と五馬が歩道橋の近くに行くと露店が出ているのが見えた。

った! 良かったね、六花ちゃん。一緒に買おうよ」
「え? 私はいよ」
 六花は手を振った。
なんで? そりゃ、わたしだって本気にしてる訳じゃないけど、でも願い事しても損はしないでしょ」
「そうだけど……」

 貞光さん達にそう言うの買っちゃダメって言われてるし。

 ただでさえ「またか~」なんて言われてるのだ。

 例え三百円でも買って「やっぱりね~」なんて笑われたら恥ずかしいし……。

 何より今は体操服を買うお金を貯めなければならない。

これ、石だから壊される心配もないよ」
「うん……」
「わたし、六花ちゃんとお揃いの物が欲しかったんだけど迷惑だった?」
「そんな事ないよ」
 六花は慌てて否定した。
 六花も五馬とお揃いのキーホルダーは欲しい。
 自分には縁が無いものと思ってあきらめてたが本当ホントは友達とお揃いの物に憧れていた。
 だからそれを他ならぬ五馬がくれた時はすごく嬉しかった。

「あ、しかして、お金が足りないの? それな……」
「よっしゃ! 特別に二個で三百円にしてあげるよ!」
 店番をしている男が言った。
本当ホント!? 六花ちゃん、如何どうする?」
 六花が買えば五馬は半額で買える事になる。
 最初から買う気だった五馬にとっては得になるのだ。

 願い事の為じゃなくて、友達とお揃いのキーホルダーを買う為なら騙された訳じゃないから貞光さん達に笑われたりしないよね。

「ホントにいんですか?」
 六花が男に訊ねた。
いよいよ、帰りの電車賃が足りなくてさぁ。のままだと歩いて帰らなきゃいけないんだよね」
「そう言う事なら……」
 百五十円ならバスを使う場所へのお使いを頼まれたとき片道を徒歩にして交通費を浮かせればなんとかなる。
 六花と五馬は一緒にキーホルダーを選び始めた。

 六花が部屋に入っていくと、シマは珍しくベッドの上に座った姿勢でこちらをジッと見ていた。

「シマ! これ見て!」
 六花はポケットからキーホルダーを取り出した。
「これ、五馬ちゃんとお揃いなんだよ」
 六花はシマの隣に座ってキーホルダーを見せた。
 シマの目はゆらゆらと揺れ動くキーホルダーの石を追っていた。
「願い事が叶うんだって! ホントかな?」
 六花はシマに訊ねた。
 シマは黙って六花を見上げた。
 六花は嬉しそうな表情で、
「実はもうお願いすること決めてあるんだ」
 と言って石を握り締めた。
 シマはそれを見ると丸くなって寝てしまった。

 その夜、土蜘蛛達は車座になってそれぞれが捕まえてきた人間を喰っていた。

「例の物は?」
の娘の手に渡った」
卜部あいつ、鬼にったの娘を見たらんな顔をするかな」
 土蜘蛛達はそう言ってほくそ笑んでいた。

 翌朝、土蜘蛛達は遠くから六花のマンションの入り口を見物していた。
 自分の恋人が鬼にったと知った季武の顔を見てやろうと集まっていたのだ。

「まさか……」
 土蜘蛛が信じられないと言うように呟いた。
 六花は人間のままだった。
の娘はかなり参ってるように見えた」
 季武に気付かれないようにしながら六花を見張っていた土蜘蛛が言った。

 そばに季武や友達がる時はいつも通りの笑顔を浮かべていたが一人になると思い詰めた表情をしていた。
 だから頃合いだと思って太田に露店の話をするよう暗示を掛けたのだ。
 あのキーホルダーに付いている石には念が込められていた。
 他人の不幸を願えば呪いが跳ね返って鬼になるはずだった。

「まだ願ってないんじゃ……」
「いや、呪力が消えてる。呪い以外の事を願ったんだ」
 メナが言った。
「別の手を考えるしかない」
 土蜘蛛達は落胆して散っていった。
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