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第六章 計略と罠と
第五話
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放課後、夕食を作り終えた六花は季武に送られて自分のマンションへ向かっていた。
「最近いつも綱さんだけ居ないね。特殊な任務?」
昔からだが、綱が一人で鬼退治をする話が多いせいかイナもそう言う事が良く有ると思い込んでいる。
実際は伝説として残るような大物を一人で相手にする事は先ず無いのだが。
「逢引だ」
「えっ! 彼女が出来たの!? 彼女を作れないように男子校から転校させてもらえなかったのに……」
「お前が紹介したんだろ」
「五馬ちゃん?」
季武が頷いた。
いくら恋人の生まれ変わりとは言え、もう毎日のようにデートしてるなんて……。
綱さんってホントに手が早いんだ……。
中央公園の入口に差し掛かった時、
「少し休んでいかないか?」
季武が言った。
「うん!」
季武は六花を伴って公園に入った。
とにかく急いで告白しろとせっつかれていた。
「六花ちゃんが可哀想だろ」
と言われると六花を傷付けたくない季武としては早く言わない訳にはいかない。
「好きだ」「付き合って欲しい」だけなら絶対傷付いたりしないとのお墨付きももらっている。
もし泣いたとしてもそれは嬉し泣きだから心配いらないとも。
それだけ言って承諾してもらえばそれで良いから早くしろと他の三人から迫られていた。
今も玄関を出る時、貞光と金時が睨んでいたから言ってしまおうと思って中央公園に誘ったのだ。
自動販売機に向かおうとした時、不意に鬼の気配が湧いた。
「六花!」
咄嗟に六花を抱えて前に跳んだ。
背後で空を切る音が聞こえた。
後ろに視線を向けると鬼が居た。
鬼が横に払った斧を間一髪で躱したのだ。
三メートルは優に超える大鬼だ。
枯れ木のような肌に赤い目が光っていた。
鬼が斧が振り上げてこちらに向かってきた。
季武は六花を抱えて横に跳んだ。
斧が季武達の居た場所に振り下ろされる。
別の鬼が刀を構えて突っ込んできた。
六花を抱えたまま更に後ろに跳んで避けた。
周囲を鬼に取り囲まれていた。
皆同じ見た目をしている。近くで鬼の核を割った者がいるのだ。
木属性か。
しかし金属性の物は近くに無い。
季武が地面を掴むと三メートル近い長さの槍が現れた。
槍を片手に六花と鬼の間に立つ。
ポケットからスマホを出すと前を向いたまま後方の六花へ投げた。
六花がスマホを両手で受け止めた。
「出来る限り姿勢を低くしてろ!」
その言葉に六花は地面に伏せた。
季武は鬼に向かって槍を横に振った。
槍穂で刎ねられた首が飛ぶと同時に鬼が消えた。
六花は地面に伏せたままスマホの電話帳を開いた。
頼光様は異界だよね。
異界にスマホの電波が届くか、あるいは人間界に来てるか試している暇は無い。
六花は一番上に有った金時に掛けたがいつまでも出なかった。
季武は長大な槍を振り回して鬼を近付けないようにしながら戦っていた。
軽々と振り回しているように見えるがあれだけ長いと重さもかなり有る。
それを勢い良く叩き付けられたら衝撃は相当なものだ。
大きな鬼達が次々と跳ね飛されていく。
地面に倒れた鬼はすぐには動けないほどのダメージを受けている。
季武は鬼を側に寄せ付けないようにしながら隙を見ては槍穂で倒れている鬼に止めを刺していた。
鬼の数が少しずつ減っていく。
金時さんが出られないなら貞光さん……。
貞光は通話に出た。
「貞光さん! 季武君が鬼に襲われてて……」
「済まん! 綱が茨木童子に襲われてっから掩護に行く途中なんだ」
そう言って通話は切れた。
なら綱さんに掛けてもダメだよね。
「季武君! 綱さんが茨木童子に襲われてるんだって!」
「綱の場所、調べてくれ! GPS、使えるか?」
「うん!」
季武は背後から襲ってきた鬼に柄を素早く手繰って後ろに突き出した。
槍柄の後部に付いている石突で突かれた鬼が吹っ飛ぶ。
六花はスマホのGPSで綱の居場所を検索した。
検索中の文字が表示される。
早く早く!
六花は季武とスマホを交互に見ながら表示されるのを待った。
出た!
「綱さんは新宿御苑!」
「分かった」
季武が左斜め前に鬼の胸を槍穂で突き刺した。
その隙を突くように後ろに回り込んでいた鬼が六花に飛び掛かった。
「六花!」
間に合わない!
その時、季武の横を黒い影が駆け抜けた。
黒い影は鬼に飛び付き首を捻った。
鬼が倒れた。
「あ……!」
六花が「この前の」と言う前に、
「ミケ!」
季武が大声を上げた。
ミケと呼ばれた動物は季武を見ると、自分より遙かに大きな鬼を咥えて逃げていった。
離れた所に居た三体の鬼が逃げ出した。
季武は槍を手放して弓を取り出すと矢を立て続けに放って鬼を倒した。
もう立っている鬼は居ない。
季武は弓から太刀に持ち替えると、倒れている鬼達に止めを刺して廻り始めた。
鬼が次々に消えていく。
季武は慎重に辺りの気配を探って他に居ない事を確認した。
「帰るぞ」
季武は六花に声を掛けた。
「え、綱さんの所へは……」
「お前を送ってから行く。鬼が出るかもしれない場所に置いていく訳にはいかない」
六花は頷くと急いで季武に随いて歩き始めた。
六花のマンションの前に着くと季武が、
「部屋まで送っていけなくて済まん」
と謝った。
「大丈夫。早く綱さんの所に行ってあげて」
六花がそう言うと季武は地面を蹴った。
真っ直ぐ飛んでマンションの屋上へ降り立った。
そこから別のビルの屋上に飛び移った。
ビルの上を飛んでいくんだ。
それなら迂回の必要が無い。
季武を見送った六花はマンションに入った。
「最近いつも綱さんだけ居ないね。特殊な任務?」
昔からだが、綱が一人で鬼退治をする話が多いせいかイナもそう言う事が良く有ると思い込んでいる。
実際は伝説として残るような大物を一人で相手にする事は先ず無いのだが。
「逢引だ」
「えっ! 彼女が出来たの!? 彼女を作れないように男子校から転校させてもらえなかったのに……」
「お前が紹介したんだろ」
「五馬ちゃん?」
季武が頷いた。
いくら恋人の生まれ変わりとは言え、もう毎日のようにデートしてるなんて……。
綱さんってホントに手が早いんだ……。
中央公園の入口に差し掛かった時、
「少し休んでいかないか?」
季武が言った。
「うん!」
季武は六花を伴って公園に入った。
とにかく急いで告白しろとせっつかれていた。
「六花ちゃんが可哀想だろ」
と言われると六花を傷付けたくない季武としては早く言わない訳にはいかない。
「好きだ」「付き合って欲しい」だけなら絶対傷付いたりしないとのお墨付きももらっている。
もし泣いたとしてもそれは嬉し泣きだから心配いらないとも。
それだけ言って承諾してもらえばそれで良いから早くしろと他の三人から迫られていた。
今も玄関を出る時、貞光と金時が睨んでいたから言ってしまおうと思って中央公園に誘ったのだ。
自動販売機に向かおうとした時、不意に鬼の気配が湧いた。
「六花!」
咄嗟に六花を抱えて前に跳んだ。
背後で空を切る音が聞こえた。
後ろに視線を向けると鬼が居た。
鬼が横に払った斧を間一髪で躱したのだ。
三メートルは優に超える大鬼だ。
枯れ木のような肌に赤い目が光っていた。
鬼が斧が振り上げてこちらに向かってきた。
季武は六花を抱えて横に跳んだ。
斧が季武達の居た場所に振り下ろされる。
別の鬼が刀を構えて突っ込んできた。
六花を抱えたまま更に後ろに跳んで避けた。
周囲を鬼に取り囲まれていた。
皆同じ見た目をしている。近くで鬼の核を割った者がいるのだ。
木属性か。
しかし金属性の物は近くに無い。
季武が地面を掴むと三メートル近い長さの槍が現れた。
槍を片手に六花と鬼の間に立つ。
ポケットからスマホを出すと前を向いたまま後方の六花へ投げた。
六花がスマホを両手で受け止めた。
「出来る限り姿勢を低くしてろ!」
その言葉に六花は地面に伏せた。
季武は鬼に向かって槍を横に振った。
槍穂で刎ねられた首が飛ぶと同時に鬼が消えた。
六花は地面に伏せたままスマホの電話帳を開いた。
頼光様は異界だよね。
異界にスマホの電波が届くか、あるいは人間界に来てるか試している暇は無い。
六花は一番上に有った金時に掛けたがいつまでも出なかった。
季武は長大な槍を振り回して鬼を近付けないようにしながら戦っていた。
軽々と振り回しているように見えるがあれだけ長いと重さもかなり有る。
それを勢い良く叩き付けられたら衝撃は相当なものだ。
大きな鬼達が次々と跳ね飛されていく。
地面に倒れた鬼はすぐには動けないほどのダメージを受けている。
季武は鬼を側に寄せ付けないようにしながら隙を見ては槍穂で倒れている鬼に止めを刺していた。
鬼の数が少しずつ減っていく。
金時さんが出られないなら貞光さん……。
貞光は通話に出た。
「貞光さん! 季武君が鬼に襲われてて……」
「済まん! 綱が茨木童子に襲われてっから掩護に行く途中なんだ」
そう言って通話は切れた。
なら綱さんに掛けてもダメだよね。
「季武君! 綱さんが茨木童子に襲われてるんだって!」
「綱の場所、調べてくれ! GPS、使えるか?」
「うん!」
季武は背後から襲ってきた鬼に柄を素早く手繰って後ろに突き出した。
槍柄の後部に付いている石突で突かれた鬼が吹っ飛ぶ。
六花はスマホのGPSで綱の居場所を検索した。
検索中の文字が表示される。
早く早く!
六花は季武とスマホを交互に見ながら表示されるのを待った。
出た!
「綱さんは新宿御苑!」
「分かった」
季武が左斜め前に鬼の胸を槍穂で突き刺した。
その隙を突くように後ろに回り込んでいた鬼が六花に飛び掛かった。
「六花!」
間に合わない!
その時、季武の横を黒い影が駆け抜けた。
黒い影は鬼に飛び付き首を捻った。
鬼が倒れた。
「あ……!」
六花が「この前の」と言う前に、
「ミケ!」
季武が大声を上げた。
ミケと呼ばれた動物は季武を見ると、自分より遙かに大きな鬼を咥えて逃げていった。
離れた所に居た三体の鬼が逃げ出した。
季武は槍を手放して弓を取り出すと矢を立て続けに放って鬼を倒した。
もう立っている鬼は居ない。
季武は弓から太刀に持ち替えると、倒れている鬼達に止めを刺して廻り始めた。
鬼が次々に消えていく。
季武は慎重に辺りの気配を探って他に居ない事を確認した。
「帰るぞ」
季武は六花に声を掛けた。
「え、綱さんの所へは……」
「お前を送ってから行く。鬼が出るかもしれない場所に置いていく訳にはいかない」
六花は頷くと急いで季武に随いて歩き始めた。
六花のマンションの前に着くと季武が、
「部屋まで送っていけなくて済まん」
と謝った。
「大丈夫。早く綱さんの所に行ってあげて」
六花がそう言うと季武は地面を蹴った。
真っ直ぐ飛んでマンションの屋上へ降り立った。
そこから別のビルの屋上に飛び移った。
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それなら迂回の必要が無い。
季武を見送った六花はマンションに入った。
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