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第六章 計略と罠と
第六話
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「大江山では良くも遣ってくれたな!」
茨木童子が吠えた。
「昔の借り、返させて貰おう!」
「幾度でも成敗して遣ろうぞ!」
綱も怒鳴り返した。
綱は大鎧姿で手には髭切の太刀が握られていた。
「ほざけ!」
茨木童子が正面から刀を脇腹に付けて突っ込んできた。
別の鬼が綱の左後ろから刀を振り翳して駆け寄ってくる。
周囲には身の丈が三、四メートルの鬼達が居た。
どの鬼も綱に斬り掛かる隙を窺っていた。
綱は大きく後ろに跳んだ。
周りを囲んでいた鬼達の後ろに立つと背後から斬り付けた。
鬼が真っ二つになって消えた。
別の鬼が斬り掛かってくる。
それを斬り上げるとその鬼も塵になって消滅した。
そのまま髭切を横に払う。別の鬼が消える。
後ろから鬼が斬り掛かってきた。
綱は斜め前に跳んだ。
そこに茨木童子が他の鬼を蹴散らしながら突っ込んできた。
綱は茨木童子の振り下ろした刀を髭切で受けた。
視界の隅に斜めに斬り込んでくる鬼が見えた。
くそ!
綱が舌打ちしたとき斬り込んできた鬼に矢が突き刺さった。鬼が消える。
「季武!」
季武は樹の上から立て続けに矢を放った。
鬼が次々と消滅していく。
別の方向から鬼の咆哮が聞こえた。
大太刀の刃が鬼を切り裂いたのだ。
「貞光!」
綱が茨木童子と鍔迫り合いをしながら叫んだ。
横から綱に斬り掛かろうとしていた別の鬼が後ろに跳んだ。
鉞が空を切った。
「金時、見参!」
金時が鉞を担いでポーズを取った。
「遅いぞ!」
綱が言った。
「仕様がないだろ! 途中で鬼と出会したんだ」
金時はそう言いながら鬼に鉞を振り下ろした。
鬼が横に跳んで避けた。
そこに矢が飛んできて更に横に跳んだ。
貞光と金時は次々に鬼を斬り殺していった。
綱は茨木童子と斬り結んでいた。
季武が三人の死角から仕掛けようとする鬼を次々と射貫いていく。
とうとう茨木童子だけになった。
「今日こそ異界に送り返してやる!」
綱が言った。
「核にしてな!」
金時が鉞を振り被った。
そのとき土煙が辺りに立ち込めた。
綱達が咄嗟に煙の外に跳んだ。
煙が収まると茨木童子は居なくなっていた。
「くそ! 逃がしたか!」
金時が悔しそうに言った。
「五馬ちゃん、大丈夫?」
綱が太い樹に駆け寄った。
季武は驚いて綱が走って行く方に目を向けた。
八田が居たのか!?
気付かなかった。
季武達は人間を巻き込まないよう、常に人の気配に注意を払っている。
いくら相手が茨木童子でも戦いに意識を取られて気付かない事は有り得ない。
鬼退治は人間を襲わせない為なのだから巻き添えにしてしまったら本末転倒だ。
「お前達、有難な。じゃ、俺、逢引の続きするから」
「其処は茨木童子を捜す所だろ!」
季武が突っ込んだ。
とは言え季武も六花が無事か気になった。
「貞光、頼光様への連絡を頼む」
季武はそう言い残すと六花の家に向かった。
六花のマンションの前で気配を探ると六花が居るのが分かった。
六花が無事だったので季武はそのまま茨木童子捜索に向かう事にした。
踵を返し掛けて六花が心配してるかもしれないと気付いてLINEで無事を伝えた。
翌日、季武は茨木童子捜索の為に休みだった。
昼休み、六花はいつものように屋上へ行こうと席を立った。
ロッカーに鞄を仕舞っていると五馬が遣ってきた。
手にランチクロスを持っている。
「六花ちゃん。お昼、一緒に食べない?」
「うん。じゃあ、屋上行こ」
二人は並んで屋上へ向かった。
屋上に出ると六花は五馬の隣に座ってランチボックスを開けた。
「ね、六花ちゃん、キーホルダーにお願いした?」
「うん」
「何をお願いしたか聞いても良い?」
「季武君達がケガしませんようにって」
あと「五馬ちゃんといつまでも仲良しでいられますように」ってお願いしちゃったけど、そんなの聞いたら重すぎて引くよね。
「其、鬼と関係あるの?」
五馬が訊ねた。
「え?」
そうだって言って良いのかな?
この前、季武君達が蜘蛛と戦ってるの五馬ちゃんが見てたなら鬼と戦ってるって答えても大丈夫だろうけど……。
「昨日、綱さんと逢引してたら鬼が襲ってきたの」
「えっ! ホント!?」
やっぱり五馬ちゃんとデートしてたんだ。
それに鬼とかも見えるんだ。
この前の蜘蛛が見えていたようだからそうではないかとは思っていたが。
「うん、新宿御苑に居たら急に鬼が襲ってきて、然したら綱さんが戦い始めたの」
「だ、大丈夫だった? ケガは?」
「綱さんが守ってくれたから、わたしは何とも無いよ」
「良かった。怖かったでしょ」
綱さんを襲った鬼って茨木童子だし。
「凄く怖かった。怪我をしない様にお願いしたのって、卜部君も鬼と戦ってるから?」
「うん」
綱が鬼と戦っているところを見たならその部分は肯定しても問題ないだろうと判断して頷いた。
「若しかして、鬼と戦う為に学校休んでるの?」
「多分。鬼の事、なんて言ってた?」
六花は訊ねた。
季武が他の三人は恋人にも人間ではない事は打ち明けないと言っていた。
綱も黙っているつもりなら六花が話してしまう訳にはいかない。
どこまで話して良いのか確認する必要が有る。
「鬼に狙われてるから倒してるって。其だけ。六花ちゃんは?」
「私も同じ。鬼から助けてもらったのが知り合った切っ掛けだから」
綱は話していないらしい。
それならこれ以上は言わない方が良さそうだ。
「ね、六花ちゃん、綱さんの事、卜部君から何か聞いてる? わたし、綱さんの事、色々知りたいの」
「えっと、あんまり……。男子校に通ってるって事くらいかな」
人間じゃない事とか言ってないなら昔の話をする訳にはいかないよね。
そうなると六花に話せる事は殆ど無かった。
茨木童子が吠えた。
「昔の借り、返させて貰おう!」
「幾度でも成敗して遣ろうぞ!」
綱も怒鳴り返した。
綱は大鎧姿で手には髭切の太刀が握られていた。
「ほざけ!」
茨木童子が正面から刀を脇腹に付けて突っ込んできた。
別の鬼が綱の左後ろから刀を振り翳して駆け寄ってくる。
周囲には身の丈が三、四メートルの鬼達が居た。
どの鬼も綱に斬り掛かる隙を窺っていた。
綱は大きく後ろに跳んだ。
周りを囲んでいた鬼達の後ろに立つと背後から斬り付けた。
鬼が真っ二つになって消えた。
別の鬼が斬り掛かってくる。
それを斬り上げるとその鬼も塵になって消滅した。
そのまま髭切を横に払う。別の鬼が消える。
後ろから鬼が斬り掛かってきた。
綱は斜め前に跳んだ。
そこに茨木童子が他の鬼を蹴散らしながら突っ込んできた。
綱は茨木童子の振り下ろした刀を髭切で受けた。
視界の隅に斜めに斬り込んでくる鬼が見えた。
くそ!
綱が舌打ちしたとき斬り込んできた鬼に矢が突き刺さった。鬼が消える。
「季武!」
季武は樹の上から立て続けに矢を放った。
鬼が次々と消滅していく。
別の方向から鬼の咆哮が聞こえた。
大太刀の刃が鬼を切り裂いたのだ。
「貞光!」
綱が茨木童子と鍔迫り合いをしながら叫んだ。
横から綱に斬り掛かろうとしていた別の鬼が後ろに跳んだ。
鉞が空を切った。
「金時、見参!」
金時が鉞を担いでポーズを取った。
「遅いぞ!」
綱が言った。
「仕様がないだろ! 途中で鬼と出会したんだ」
金時はそう言いながら鬼に鉞を振り下ろした。
鬼が横に跳んで避けた。
そこに矢が飛んできて更に横に跳んだ。
貞光と金時は次々に鬼を斬り殺していった。
綱は茨木童子と斬り結んでいた。
季武が三人の死角から仕掛けようとする鬼を次々と射貫いていく。
とうとう茨木童子だけになった。
「今日こそ異界に送り返してやる!」
綱が言った。
「核にしてな!」
金時が鉞を振り被った。
そのとき土煙が辺りに立ち込めた。
綱達が咄嗟に煙の外に跳んだ。
煙が収まると茨木童子は居なくなっていた。
「くそ! 逃がしたか!」
金時が悔しそうに言った。
「五馬ちゃん、大丈夫?」
綱が太い樹に駆け寄った。
季武は驚いて綱が走って行く方に目を向けた。
八田が居たのか!?
気付かなかった。
季武達は人間を巻き込まないよう、常に人の気配に注意を払っている。
いくら相手が茨木童子でも戦いに意識を取られて気付かない事は有り得ない。
鬼退治は人間を襲わせない為なのだから巻き添えにしてしまったら本末転倒だ。
「お前達、有難な。じゃ、俺、逢引の続きするから」
「其処は茨木童子を捜す所だろ!」
季武が突っ込んだ。
とは言え季武も六花が無事か気になった。
「貞光、頼光様への連絡を頼む」
季武はそう言い残すと六花の家に向かった。
六花のマンションの前で気配を探ると六花が居るのが分かった。
六花が無事だったので季武はそのまま茨木童子捜索に向かう事にした。
踵を返し掛けて六花が心配してるかもしれないと気付いてLINEで無事を伝えた。
翌日、季武は茨木童子捜索の為に休みだった。
昼休み、六花はいつものように屋上へ行こうと席を立った。
ロッカーに鞄を仕舞っていると五馬が遣ってきた。
手にランチクロスを持っている。
「六花ちゃん。お昼、一緒に食べない?」
「うん。じゃあ、屋上行こ」
二人は並んで屋上へ向かった。
屋上に出ると六花は五馬の隣に座ってランチボックスを開けた。
「ね、六花ちゃん、キーホルダーにお願いした?」
「うん」
「何をお願いしたか聞いても良い?」
「季武君達がケガしませんようにって」
あと「五馬ちゃんといつまでも仲良しでいられますように」ってお願いしちゃったけど、そんなの聞いたら重すぎて引くよね。
「其、鬼と関係あるの?」
五馬が訊ねた。
「え?」
そうだって言って良いのかな?
この前、季武君達が蜘蛛と戦ってるの五馬ちゃんが見てたなら鬼と戦ってるって答えても大丈夫だろうけど……。
「昨日、綱さんと逢引してたら鬼が襲ってきたの」
「えっ! ホント!?」
やっぱり五馬ちゃんとデートしてたんだ。
それに鬼とかも見えるんだ。
この前の蜘蛛が見えていたようだからそうではないかとは思っていたが。
「うん、新宿御苑に居たら急に鬼が襲ってきて、然したら綱さんが戦い始めたの」
「だ、大丈夫だった? ケガは?」
「綱さんが守ってくれたから、わたしは何とも無いよ」
「良かった。怖かったでしょ」
綱さんを襲った鬼って茨木童子だし。
「凄く怖かった。怪我をしない様にお願いしたのって、卜部君も鬼と戦ってるから?」
「うん」
綱が鬼と戦っているところを見たならその部分は肯定しても問題ないだろうと判断して頷いた。
「若しかして、鬼と戦う為に学校休んでるの?」
「多分。鬼の事、なんて言ってた?」
六花は訊ねた。
季武が他の三人は恋人にも人間ではない事は打ち明けないと言っていた。
綱も黙っているつもりなら六花が話してしまう訳にはいかない。
どこまで話して良いのか確認する必要が有る。
「鬼に狙われてるから倒してるって。其だけ。六花ちゃんは?」
「私も同じ。鬼から助けてもらったのが知り合った切っ掛けだから」
綱は話していないらしい。
それならこれ以上は言わない方が良さそうだ。
「ね、六花ちゃん、綱さんの事、卜部君から何か聞いてる? わたし、綱さんの事、色々知りたいの」
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