60 / 87
第七章 罠と疑惑と
第六話
しおりを挟む
「あの、リゾットに入れる材料にご希望があればと思いまして……」
「どんな料理か良く分からんから特に無いな」
「お好きな食材が有ると聞きましたけど。それを教えていただければ入れますよ」
「何でも良いのか? 鍋では無いんだろう?」
「スープに入れるので大抵のものは大丈夫です。ものによっては今の季節では手に入らない場合もありますけど」
頼光は頷くと、好きな食材を挙げ始めた。
「いつ頃いらっしゃるんですか?」
「今は此処に住んでる」
「え!」
四天王のマンションの近所ではなく一緒に暮らしているとは思わなかった。
「事情は明日話す」
「わ、分かりました」
と答えてスマホを切った。
……まさか、頼光様自ら説明してくれるの?
明日も料理してる時に頼光様がキッチンにいるって事なのかな。
と言う不安が頭を過った。
明日は簡単なのにしておこう。
翌日、果たして頼光はキッチンに居た。
コーヒーを飲んでいるようだ。
お茶じゃないんだ……。
頼光の後ろに貞光と金時が控えていた。そこに季武も加わった。
綱は出掛けているらしい。
新しいマンションは頼光も住む為か以前よりキッチンが広かった。
恐らく他の部屋も以前より大きいのだろう。
「今から作りますね」
六花は鍋に水を入れてコンロに火を点けた。
六花がスープの下拵えを始めると頼光が人間界に住む事になった理由を説明した。
茨木童子の襲撃で散らかった部屋の片付けをしていた四天王のマンションに頼光が戻ってきた。
四人は頼光の前に集まった。
「酒呑童子の核が盗まれた」
「真事ですか」
「ああ、酒呑童子と其の他、幾つかの鬼の核が盗み出された」
茨木童子が四天王を襲ったのは頼光を人間界へ来させる為だったようだ。
その隙を突いて襲撃を受けた。
頼光が知らせを受けて異界に戻った時には核は盗み出されて襲撃者は姿を消した後だった。
「かなり厳重な警戒をしていた筈では」
「警備の者達を全員倒して奪ったそうだ」
頼光は険しい顔をしていた。
「相当な手練れですね」
季武が言った。
「問題は鬼と土蜘蛛が手を組んでいた事だ」
「土蜘蛛?」
「大半は鬼だったそうだが、指揮を執っていたのは土蜘蛛だったらしい」
「詰り首謀者は土蜘蛛と言う事ですね」
「そうだ」
「此の所、都内で反ぐれ者が増えていたのは……」
「土蜘蛛が呼び込んでいたのだろうな」
「今回の計画の為に準備していたと言う事でしょうか」
「だから私が人間界に来ている僅かな時間で警備の者達を倒して盗み出せたんだ」
「では、酒呑童子は……」
「恐らく既に茨木童子が再生させただろうな」
頼光の答えに四人は顔を見合わせた。
「じゃあ、頼光様は酒呑童子討伐の為に人間界へ?」
六花が料理をしながら訊ねた。
「酒呑童子もだが、他にも強い奴が出てきたら私が出向く事に成るな」
保管されていたのは硬くて簡単には砕けない――つまり強力な力を持っている者の核である。
そう言う強い者への対応は頼光が当たるらしい。
六花は納得したように頷いた。
「あの、八岐大蛇はホントに居たんですか?」
六花が料理をしながら訊ねた。
「多頭で蛇みたいな外見の異界の者なら居る」
頼光が答えた。
「じゃあ、須佐之男命の伝説は本当なんですか?」
六花が振り返った。
「其は分からんな。デカい奴だと味には拘らんから態々人間界には来ないし、逆に大鬼くらいの大きさなら頻繁に討伐しているから何の事を言ってるのか……」
頼光が首を傾げた。
「なら、やっぱり火山説の方が有り得るんですね」
「火山?」
マグカップを口に運ぼうとしていた頼光の手が一瞬止まった。
「八岐大蛇は溶岩がモデルだって言う説があるんです。四千年前に出雲で噴火が有ったとかで……」
「七千二百年前の九州の噴火じゃなくて?」
「八岐大蛇は九州じゃねぇだろ」
「九州の方は天岩戸の神話じゃないかって言ってました。太陽が隠れたのは大噴火による『火山の冬』だって言う説が有るそうです」
「へぇ、人間の神話って面白いんだね」
金時が言った。
「頼光様、如何かなさいましたか?」
貞光が黙り込んでいる頼光に声を掛けた。
「何でもない。他に無いなら向こうへ行くが」
「あ、はい。ありがとうございました」
六花が礼を言うと頼光はカップを持ってリビングへ行ってしまった。
「頼光様、火山に反応したよな」
「逃げたって事は何か有んな」
「酒呑童子と関係あるんでしょうか」
六花が材料の袋を開けながら言った。
「え、火山と酒呑童子に関する伝説が有んの?」
「大江山火山じゃねぇだろ」
「出身地とされてる場所は大江山じゃないだろ」
「あ、火山じゃなくて八岐大蛇です。酒呑童子は八岐大蛇の息子だって言う説が有るそうなんです」
「若しかして素戔嗚伝説聞いたのって其方?」
「いえ、異界の人に親は居ないって聞いてましたから。でも頼光様が火山に反応したって言うので……。頼光様と火山の共通点って酒呑童子の親の八岐大蛇くらいかなって思って。でも、関係ないですよね」
六花の言葉に三人は顔を見合わせた。
六花には黙っていたが頼光が戻ってきた時の話には続きが有った。
「六花ちゃんの振りして季武呼び出したの、土蜘蛛だったよな」
金時が言った。
「六花ちゃん自身も土蜘蛛に襲われたな」
「偶然土蜘蛛が出た所に居合わせたんじゃなくて六花ちゃんを狙ったのか?」
「矛盾してるじゃん。彼のとき真面目で六花ちゃん殺そうとしてたぞ。でも鵺は殺そうとしなかったって言ってたじゃん」
「確かに。俺達が間に合わなくて六花ちゃんが死んでたら人質には出来ないよな」
「こっそり殺すなら兎も角、日中の人通りの多い場所じゃ死んだ事は隠せないもんな」
綱達の言葉を聞いた頼光が考え込んだ。
「其でかもしれんな」
「と申しますと?」
「何らかの理由で六花ちゃんを襲ったらお前達が飛んで来たのを見て、利用出来ると気付いたんじゃないのか?」
「然し其以前にも六花ちゃんの振りをして季武を呼び出してますよ」
「同じ勢力とは限らんだろう。六花ちゃんを利用したい連中を妨害したかったのかもしれん」
「何か目的が有ると言う事でしょうか」
「有るとしたらお前達だろう。お前達を襲ってきてるんだからな」
頼光の言葉に四人は顔を見合わせた。
「どんな料理か良く分からんから特に無いな」
「お好きな食材が有ると聞きましたけど。それを教えていただければ入れますよ」
「何でも良いのか? 鍋では無いんだろう?」
「スープに入れるので大抵のものは大丈夫です。ものによっては今の季節では手に入らない場合もありますけど」
頼光は頷くと、好きな食材を挙げ始めた。
「いつ頃いらっしゃるんですか?」
「今は此処に住んでる」
「え!」
四天王のマンションの近所ではなく一緒に暮らしているとは思わなかった。
「事情は明日話す」
「わ、分かりました」
と答えてスマホを切った。
……まさか、頼光様自ら説明してくれるの?
明日も料理してる時に頼光様がキッチンにいるって事なのかな。
と言う不安が頭を過った。
明日は簡単なのにしておこう。
翌日、果たして頼光はキッチンに居た。
コーヒーを飲んでいるようだ。
お茶じゃないんだ……。
頼光の後ろに貞光と金時が控えていた。そこに季武も加わった。
綱は出掛けているらしい。
新しいマンションは頼光も住む為か以前よりキッチンが広かった。
恐らく他の部屋も以前より大きいのだろう。
「今から作りますね」
六花は鍋に水を入れてコンロに火を点けた。
六花がスープの下拵えを始めると頼光が人間界に住む事になった理由を説明した。
茨木童子の襲撃で散らかった部屋の片付けをしていた四天王のマンションに頼光が戻ってきた。
四人は頼光の前に集まった。
「酒呑童子の核が盗まれた」
「真事ですか」
「ああ、酒呑童子と其の他、幾つかの鬼の核が盗み出された」
茨木童子が四天王を襲ったのは頼光を人間界へ来させる為だったようだ。
その隙を突いて襲撃を受けた。
頼光が知らせを受けて異界に戻った時には核は盗み出されて襲撃者は姿を消した後だった。
「かなり厳重な警戒をしていた筈では」
「警備の者達を全員倒して奪ったそうだ」
頼光は険しい顔をしていた。
「相当な手練れですね」
季武が言った。
「問題は鬼と土蜘蛛が手を組んでいた事だ」
「土蜘蛛?」
「大半は鬼だったそうだが、指揮を執っていたのは土蜘蛛だったらしい」
「詰り首謀者は土蜘蛛と言う事ですね」
「そうだ」
「此の所、都内で反ぐれ者が増えていたのは……」
「土蜘蛛が呼び込んでいたのだろうな」
「今回の計画の為に準備していたと言う事でしょうか」
「だから私が人間界に来ている僅かな時間で警備の者達を倒して盗み出せたんだ」
「では、酒呑童子は……」
「恐らく既に茨木童子が再生させただろうな」
頼光の答えに四人は顔を見合わせた。
「じゃあ、頼光様は酒呑童子討伐の為に人間界へ?」
六花が料理をしながら訊ねた。
「酒呑童子もだが、他にも強い奴が出てきたら私が出向く事に成るな」
保管されていたのは硬くて簡単には砕けない――つまり強力な力を持っている者の核である。
そう言う強い者への対応は頼光が当たるらしい。
六花は納得したように頷いた。
「あの、八岐大蛇はホントに居たんですか?」
六花が料理をしながら訊ねた。
「多頭で蛇みたいな外見の異界の者なら居る」
頼光が答えた。
「じゃあ、須佐之男命の伝説は本当なんですか?」
六花が振り返った。
「其は分からんな。デカい奴だと味には拘らんから態々人間界には来ないし、逆に大鬼くらいの大きさなら頻繁に討伐しているから何の事を言ってるのか……」
頼光が首を傾げた。
「なら、やっぱり火山説の方が有り得るんですね」
「火山?」
マグカップを口に運ぼうとしていた頼光の手が一瞬止まった。
「八岐大蛇は溶岩がモデルだって言う説があるんです。四千年前に出雲で噴火が有ったとかで……」
「七千二百年前の九州の噴火じゃなくて?」
「八岐大蛇は九州じゃねぇだろ」
「九州の方は天岩戸の神話じゃないかって言ってました。太陽が隠れたのは大噴火による『火山の冬』だって言う説が有るそうです」
「へぇ、人間の神話って面白いんだね」
金時が言った。
「頼光様、如何かなさいましたか?」
貞光が黙り込んでいる頼光に声を掛けた。
「何でもない。他に無いなら向こうへ行くが」
「あ、はい。ありがとうございました」
六花が礼を言うと頼光はカップを持ってリビングへ行ってしまった。
「頼光様、火山に反応したよな」
「逃げたって事は何か有んな」
「酒呑童子と関係あるんでしょうか」
六花が材料の袋を開けながら言った。
「え、火山と酒呑童子に関する伝説が有んの?」
「大江山火山じゃねぇだろ」
「出身地とされてる場所は大江山じゃないだろ」
「あ、火山じゃなくて八岐大蛇です。酒呑童子は八岐大蛇の息子だって言う説が有るそうなんです」
「若しかして素戔嗚伝説聞いたのって其方?」
「いえ、異界の人に親は居ないって聞いてましたから。でも頼光様が火山に反応したって言うので……。頼光様と火山の共通点って酒呑童子の親の八岐大蛇くらいかなって思って。でも、関係ないですよね」
六花の言葉に三人は顔を見合わせた。
六花には黙っていたが頼光が戻ってきた時の話には続きが有った。
「六花ちゃんの振りして季武呼び出したの、土蜘蛛だったよな」
金時が言った。
「六花ちゃん自身も土蜘蛛に襲われたな」
「偶然土蜘蛛が出た所に居合わせたんじゃなくて六花ちゃんを狙ったのか?」
「矛盾してるじゃん。彼のとき真面目で六花ちゃん殺そうとしてたぞ。でも鵺は殺そうとしなかったって言ってたじゃん」
「確かに。俺達が間に合わなくて六花ちゃんが死んでたら人質には出来ないよな」
「こっそり殺すなら兎も角、日中の人通りの多い場所じゃ死んだ事は隠せないもんな」
綱達の言葉を聞いた頼光が考え込んだ。
「其でかもしれんな」
「と申しますと?」
「何らかの理由で六花ちゃんを襲ったらお前達が飛んで来たのを見て、利用出来ると気付いたんじゃないのか?」
「然し其以前にも六花ちゃんの振りをして季武を呼び出してますよ」
「同じ勢力とは限らんだろう。六花ちゃんを利用したい連中を妨害したかったのかもしれん」
「何か目的が有ると言う事でしょうか」
「有るとしたらお前達だろう。お前達を襲ってきてるんだからな」
頼光の言葉に四人は顔を見合わせた。
0
あなたにおすすめの小説
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる