東京綺譚伝―光と桜と―

月夜野 すみれ

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第七章 罠と疑惑と

第六話

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「あの、リゾットに入れる材料にご希望があればと思いまして……」
「どんな料理か良く分からんから特に無いな」
「お好きな食材が有ると聞きましたけど。それを教えていただければ入れますよ」
なんでもいのか? なべでは無いんだろう?」
「スープに入れるので大抵のものは大丈夫です。ものによっては今の季節では手に入らない場合もありますけど」
 頼光は頷くと、好きな食材をげ始めた。

「いつ頃いらっしゃるんですか?」
「今は此処ここに住んでる」
「え!」
 四天王のマンションの近所ではなく一緒に暮らしているとは思わなかった。
「事情は明日話す」
「わ、分かりました」
 と答えてスマホを切った。

 ……まさか、頼光様自ら説明してくれるの?
 明日も料理してる時に頼光様がキッチンにいるって事なのかな。

 と言う不安が頭をよぎった。

 明日は簡単なのにしておこう。

 翌日、はたたして頼光はキッチンにた。
 コーヒーを飲んでいるようだ。

 お茶じゃないんだ……。

 頼光の後ろに貞光と金時が控えていた。そこに季武も加わった。
 綱は出掛けているらしい。
 新しいマンションは頼光も住む為か以前よりキッチンが広かった。
 恐らく他の部屋も以前より大きいのだろう。

「今から作りますね」
 六花は鍋に水を入れてコンロに火をけた。
 六花がスープの下拵したごしらえを始めると頼光が人間界こちらに住む事になった理由を説明した。

 茨木童子の襲撃で散らかった部屋の片付けをしていた四天王のマンションに頼光が戻ってきた。
 四人は頼光の前に集まった。

「酒呑童子の核が盗まれた」
真事まことですか」
「ああ、酒呑童子との他、いくつかの鬼の核が盗み出された」

 茨木童子が四天王を襲ったのは頼光を人間界こちらへ来させるためだったようだ。
 その隙を突いて襲撃を受けた。
 頼光が知らせを受けて異界に戻った時には核は盗み出されて襲撃者は姿を消した後だった。

「かなり厳重な警戒をしていたはずでは」
「警備の者達を全員倒して奪ったそうだ」
 頼光は険しい顔をしていた。
「相当な手練てだれですね」
 季武が言った。

「問題は鬼と土蜘蛛が手を組んでいた事だ」
「土蜘蛛?」
「大半は鬼だったそうだが、指揮をっていたのは土蜘蛛だったらしい」
つまり首謀者は土蜘蛛と言う事ですね」
「そうだ」
の所、都内でぐれ者が増えていたのは……」
「土蜘蛛が呼び込んでいたのだろうな」
「今回の計画の為に準備していたと言う事でしょうか」
「だから私が人間界こちらに来ているわずかな時間で警備の者達を倒して盗み出せたんだ」
「では、酒呑童子は……」
おそらく既に茨木童子が再生させただろうな」
 頼光の答えに四人は顔を見合わせた。

「じゃあ、頼光様は酒呑童子討伐の為に人間界こちらへ?」
 六花が料理をしながら訊ねた。
「酒呑童子もだが、他にも強いやつが出てきたら私が出向く事にるな」

 保管されていたのは硬くて簡単には砕けない――つまり強力な力を持っている者の核である。
 そう言う強い者への対応は頼光が当たるらしい。
 六花は納得したように頷いた。

「あの、八岐大蛇はホントにたんですか?」
 六花が料理をしながら訊ねた。
「多頭で蛇みたいな外見の異界の者ならる」
 頼光が答えた。
「じゃあ、須佐之男命すさのおのみことの伝説は本当なんですか?」
 六花が振り返った。

それは分からんな。デカいやつだと味にはこだわらんから態々わざわざ人間界こっちには来ないし、逆に大鬼くらいの大きさなら頻繁に討伐しているからどれの事を言ってるのか……」
 頼光が首をかしげた。
「なら、やっぱり火山説の方が有り得るんですね」
「火山?」
 マグカップを口に運ぼうとしていた頼光の手が一瞬止まった。

「八岐大蛇は溶岩がモデルだって言う説があるんです。四千年前に出雲で噴火が有ったとかで……」
「七千二百年前の九州の噴火じゃなくて?」
「八岐大蛇は九州じゃねぇだろ」
「九州の方は天岩戸あまのいわとの神話じゃないかって言ってました。太陽が隠れたのは大噴火による『火山の冬』だって言う説が有るそうです」
「へぇ、人間の神話って面白いんだね」
 金時が言った。

「頼光様、如何どうかなさいましたか?」
 貞光が黙り込んでいる頼光に声を掛けた。
なんでもない。他に無いなら向こうへ行くが」
「あ、はい。ありがとうございました」
 六花が礼を言うと頼光はカップを持ってリビングへ行ってしまった。

「頼光様、火山に反応したよな」
「逃げたって事は何かんな」
「酒呑童子と関係あるんでしょうか」
 六花が材料の袋を開けながら言った。

「え、火山と酒呑童子に関する伝説が有んの?」
大江山あそこ火山じゃねぇだろ」
「出身地とされてる場所は大江山じゃないだろ」
「あ、火山じゃなくて八岐大蛇です。酒呑童子は八岐大蛇の息子だって言う説が有るそうなんです」
しかして素戔嗚すさのお伝説聞いたのって其方そっち?」
「いえ、異界むこうの人に親はないって聞いてましたから。でも頼光様が火山に反応したって言うので……。頼光様と火山の共通点って酒呑童子の親の八岐大蛇くらいかなって思って。でも、関係ないですよね」
 六花の言葉に三人は顔を見合わせた。

 六花には黙っていたが頼光が戻ってきた時の話には続きが有った。

「六花ちゃんの振りして季武呼び出したの、土蜘蛛だったよな」
 金時が言った。
「六花ちゃん自身も土蜘蛛に襲われたな」
「偶然土蜘蛛が出た所に居合わせたんじゃなくて六花ちゃんを狙ったのか?」
「矛盾してるじゃん。のとき真面目マジで六花ちゃん殺そうとしてたぞ。でもぬえは殺そうとしなかったって言ってたじゃん」
「確かに。俺達が間に合わなくて六花ちゃんが死んでたら人質には出来ないよな」
「こっそり殺すならかく、日中の人通りの多い場所じゃ死んだ事は隠せないもんな」
 綱達の言葉を聞いた頼光が考え込んだ。

それでかもしれんな」
「と申しますと?」
なんらかの理由で六花ちゃんを襲ったらお前達が飛んで来たのを見て、利用出来ると気付いたんじゃないのか?」
しかそれ以前にも六花ちゃんの振りをして季武を呼び出してますよ」
「同じ勢力とは限らんだろう。六花ちゃんを利用したい連中を妨害したかったのかもしれん」
「何か目的が有ると言う事でしょうか」
「有るとしたらお前達だろう。お前達を襲ってきてるんだからな」
 頼光の言葉に四人は顔を見合わせた。
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