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第八章 疑惑と涙と
第四話
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「五馬ちゃん!」
綱が辺りを見回しながら声を上げた。
四人は新宿駅の周辺を探したが五馬は居なかった。
季武は五馬のスマホをGPSで探そうとしたが見付からなかった。
綱が何度か五馬のスマホに電話を掛けてみたが電源が切られているのか電波の届かない場所に居るのか繋がらない。
「GPSでも見付けられなかったのは電波が届かないからか?」
「六花のスマホで試そうと思ったが電波が届いてないんじゃ意味が無いな」
「まさか、俺達が着く前に彼らに……」
「おい!」
綱が睨んだ。
「済まん」
貞光が謝った。
「何だけ悪食の鬼でもスマホは喰わないし、電源を切るなんて無意味な事もしない。俺達が来た時には待ち構えてたから電波の届かない所に連れていって喰ってる暇もなかった筈だ。喰われたなら電波が届く状態でスマホが何処かに落ちてるだろ」
季武が言った。
「然し、此から如何やって捜す?」
「連れ去ったなら向こうから連絡してくるだろ」
「其まで待ってろって言うのか!」
「他に策が有るのか?」
季武がそう言うと綱が黙り込んだ。
「恐らく何時見るか分からないメールを送ってきたりはしないと思うが一応メールの受信拒否設定は全部外しておけ」
「六花ちゃんには何て言うんだ?」
「嘘を吐いた所で八田が学校に来なければバレるからな。本当の事を言うしかないだろ。八田の事を伝えないといけないから六花の所に行ってくる」
「じゃあ、俺も一緒に行く」
綱が言った。
「来て如何する」
「六花ちゃんの友達だし、俺が見落とした所為……」
「見落とした?」
季武が綱の言葉を遮って訊ねた。
「何か有って離れてたんじゃなくて、校門を見てたのに八田が出ていくのを見なかったって事か?」
「ああ、校門からは目を離してない」
「分かった、一緒に行こう。手懸かりになる質問を思い付くかもしれないからな」
季武は綱と共に六花のマンションへ向かった。
季武と綱は六花の家に来てチャイムを鳴らした。
すぐに六花が出てきた。
「五馬ちゃん、いなかったの?」
季武と綱の表情を見た六花が訊ねた。
「六花ちゃん、本当に御免」
「綱さんのせいじゃないですよ。新宿駅に鬼は……」
「酒呑童子と茨木童子が待ち構えてた」
「鬼がいたのに五馬ちゃんが見付からなかったって事は……」
季武は金時達にしたのと同じ話をした。
「そっか。それなら、無事だよね」
六花が自分に言い聞かせるように言った。
綱は黙って六花を見ていた。
四天王が着く前には暇が無かったが今は十分時間が有る。
六花もそれが分かっているから安心した表情は見せないのだろう。
それでも取り乱したり騒いだりしないのは季武達を困らせない為だ。
季武がどこまで話したのかは分からないが五馬が狙われてる可能性が有るから綱達が警戒していたのは知っているはずだ。
なのに守れなかった事を責めないどころか困らせないように綱達に気を遣っている。
綱は貞光が反ぐれ者になった討伐員の気持ちが分かると言っていたのを思い出していた。
確かにここまで他人に気を遣う子がイジメられているのを見たら人間を守ろうなんて気になれなくなってもおかしくない。
季武は反ぐれ者を倒せという命令を実行してるだけで人間を守ってるとは思ってないようだから任務を投げ出したりはしないだろうが。
「其じゃ、俺達は八田を捜しに行くから」
「うん、気を付けてね」
六花はそう言うと家の中に入っていった。
綱達は一旦自分達のマンションに集まった。
頼光は上に報告するために異界に行っていて居なかった。
「六花ちゃんの様子は?」
金時の問いに綱が六花に会いに行った時の話をした。
「別れ際の台詞が『気を付けてね』だもんなぁ。俺達の心配までしてくれて……」
「見付からねぇかもしれねぇのに、捜してとは言えねぇだろ」
綱が貞光を横目で睨んだ。
「済まん」
貞光はパソコンの画面に目を戻した。
「まぁ、五馬ちゃんは六花ちゃんの友達だけど綱の彼女でも有るからじゃないか?」
「季武と一緒に居たのが金時や貞光でも同じこと言ったと思うけどな」
「あ!」
金時の声に三人が振り向いた。
「先の戦闘がニュースに成ってる」
金時がテレビの音量を上げた。
「新宿駅西口前、謎の半壊……頼光様、本当手段選ばねぇよな……」
「鬼に『汚ねぇぞ』って罵られたくらいだからな」
「普段なら『お前が言うな』って言い返せたけど、彼ん時だけは反論出来なかったもんなぁ」
綱が椅子の背もたれに顎を乗せて言った。
「だから普段は連絡事項の伝達だけなんだよ。頼光様に戦わせると人的被害が少ない代わりに他の損害が酷過ぎて後始末が大変だから」
季武以外の三人は新宿駅前の惨状を映した映像を見ながら今頃頭を抱えているであろう小吏に密かに同情した。
土曜の昼、マンションから出た六花の母の前に女性が立った。
六花の母が何か言う前に、女性は手を翳して何かを呟いた。
女性が居なくなると六花の母は何事も無かったかのように歩き出した。
「あら」
夕方、六花の母が冷蔵庫を見て声を出した。
「どうしたの?」
「買い忘れたものがあるの。ちょっと買ってきて」
「うん」
六花は母からお金を受け取ると家を出た。
六花が出てくるのを見たサチは人間に変化した。
六花の方へ歩き出そうとした時、それを遮るかのように異界の獣が出てきてサチを見上げた。
サチは足を止めた。
「お前は以前、邪魔をした……。彼の娘に手を出すなと言う事か」
ミケは黙ってサチを見ていた。
サチは土蜘蛛の姿に戻るとミケに向かって脚を振り下ろした。
ミケは脚を躱すと土蜘蛛に飛び掛かった。
ミケの鋭い爪が土蜘蛛の目の一つを切り裂いた。
「ーーーーー!」
土蜘蛛が叫び声を上げた。
その声を聞いた六花がそちらに顔を向けた。
巨大な蜘蛛の姿に凍り付く。
ミケが再度蜘蛛に飛び掛かった。
蜘蛛が大きく後ろに跳んだ。
あの子……ミケ!
ミケの姿を見て我に返った六花は急いでスマホを取り出すとアイコンを押した。
蜘蛛は十二社通りに出て車を撥ね飛ばしながらミケと戦っていた。
ミケは自分より遙かに大きな図体をしている蜘蛛と互角に戦っているようだった。
六花は怖かったもののミケが心配で目を離せなかった。
季武君、早く来て……。
その祈りに答えるかのように飛んできた矢が土蜘蛛の目に突き刺さった。
「ーーーーーー!」
土蜘蛛が再び悲鳴を上げた。
四天王が駆けてくるのを見たミケは土蜘蛛の脚に飛び付くとそれをもぎ取った。
「ーーーーーー!」
土蜘蛛が三度叫んだ。
綱が辺りを見回しながら声を上げた。
四人は新宿駅の周辺を探したが五馬は居なかった。
季武は五馬のスマホをGPSで探そうとしたが見付からなかった。
綱が何度か五馬のスマホに電話を掛けてみたが電源が切られているのか電波の届かない場所に居るのか繋がらない。
「GPSでも見付けられなかったのは電波が届かないからか?」
「六花のスマホで試そうと思ったが電波が届いてないんじゃ意味が無いな」
「まさか、俺達が着く前に彼らに……」
「おい!」
綱が睨んだ。
「済まん」
貞光が謝った。
「何だけ悪食の鬼でもスマホは喰わないし、電源を切るなんて無意味な事もしない。俺達が来た時には待ち構えてたから電波の届かない所に連れていって喰ってる暇もなかった筈だ。喰われたなら電波が届く状態でスマホが何処かに落ちてるだろ」
季武が言った。
「然し、此から如何やって捜す?」
「連れ去ったなら向こうから連絡してくるだろ」
「其まで待ってろって言うのか!」
「他に策が有るのか?」
季武がそう言うと綱が黙り込んだ。
「恐らく何時見るか分からないメールを送ってきたりはしないと思うが一応メールの受信拒否設定は全部外しておけ」
「六花ちゃんには何て言うんだ?」
「嘘を吐いた所で八田が学校に来なければバレるからな。本当の事を言うしかないだろ。八田の事を伝えないといけないから六花の所に行ってくる」
「じゃあ、俺も一緒に行く」
綱が言った。
「来て如何する」
「六花ちゃんの友達だし、俺が見落とした所為……」
「見落とした?」
季武が綱の言葉を遮って訊ねた。
「何か有って離れてたんじゃなくて、校門を見てたのに八田が出ていくのを見なかったって事か?」
「ああ、校門からは目を離してない」
「分かった、一緒に行こう。手懸かりになる質問を思い付くかもしれないからな」
季武は綱と共に六花のマンションへ向かった。
季武と綱は六花の家に来てチャイムを鳴らした。
すぐに六花が出てきた。
「五馬ちゃん、いなかったの?」
季武と綱の表情を見た六花が訊ねた。
「六花ちゃん、本当に御免」
「綱さんのせいじゃないですよ。新宿駅に鬼は……」
「酒呑童子と茨木童子が待ち構えてた」
「鬼がいたのに五馬ちゃんが見付からなかったって事は……」
季武は金時達にしたのと同じ話をした。
「そっか。それなら、無事だよね」
六花が自分に言い聞かせるように言った。
綱は黙って六花を見ていた。
四天王が着く前には暇が無かったが今は十分時間が有る。
六花もそれが分かっているから安心した表情は見せないのだろう。
それでも取り乱したり騒いだりしないのは季武達を困らせない為だ。
季武がどこまで話したのかは分からないが五馬が狙われてる可能性が有るから綱達が警戒していたのは知っているはずだ。
なのに守れなかった事を責めないどころか困らせないように綱達に気を遣っている。
綱は貞光が反ぐれ者になった討伐員の気持ちが分かると言っていたのを思い出していた。
確かにここまで他人に気を遣う子がイジメられているのを見たら人間を守ろうなんて気になれなくなってもおかしくない。
季武は反ぐれ者を倒せという命令を実行してるだけで人間を守ってるとは思ってないようだから任務を投げ出したりはしないだろうが。
「其じゃ、俺達は八田を捜しに行くから」
「うん、気を付けてね」
六花はそう言うと家の中に入っていった。
綱達は一旦自分達のマンションに集まった。
頼光は上に報告するために異界に行っていて居なかった。
「六花ちゃんの様子は?」
金時の問いに綱が六花に会いに行った時の話をした。
「別れ際の台詞が『気を付けてね』だもんなぁ。俺達の心配までしてくれて……」
「見付からねぇかもしれねぇのに、捜してとは言えねぇだろ」
綱が貞光を横目で睨んだ。
「済まん」
貞光はパソコンの画面に目を戻した。
「まぁ、五馬ちゃんは六花ちゃんの友達だけど綱の彼女でも有るからじゃないか?」
「季武と一緒に居たのが金時や貞光でも同じこと言ったと思うけどな」
「あ!」
金時の声に三人が振り向いた。
「先の戦闘がニュースに成ってる」
金時がテレビの音量を上げた。
「新宿駅西口前、謎の半壊……頼光様、本当手段選ばねぇよな……」
「鬼に『汚ねぇぞ』って罵られたくらいだからな」
「普段なら『お前が言うな』って言い返せたけど、彼ん時だけは反論出来なかったもんなぁ」
綱が椅子の背もたれに顎を乗せて言った。
「だから普段は連絡事項の伝達だけなんだよ。頼光様に戦わせると人的被害が少ない代わりに他の損害が酷過ぎて後始末が大変だから」
季武以外の三人は新宿駅前の惨状を映した映像を見ながら今頃頭を抱えているであろう小吏に密かに同情した。
土曜の昼、マンションから出た六花の母の前に女性が立った。
六花の母が何か言う前に、女性は手を翳して何かを呟いた。
女性が居なくなると六花の母は何事も無かったかのように歩き出した。
「あら」
夕方、六花の母が冷蔵庫を見て声を出した。
「どうしたの?」
「買い忘れたものがあるの。ちょっと買ってきて」
「うん」
六花は母からお金を受け取ると家を出た。
六花が出てくるのを見たサチは人間に変化した。
六花の方へ歩き出そうとした時、それを遮るかのように異界の獣が出てきてサチを見上げた。
サチは足を止めた。
「お前は以前、邪魔をした……。彼の娘に手を出すなと言う事か」
ミケは黙ってサチを見ていた。
サチは土蜘蛛の姿に戻るとミケに向かって脚を振り下ろした。
ミケは脚を躱すと土蜘蛛に飛び掛かった。
ミケの鋭い爪が土蜘蛛の目の一つを切り裂いた。
「ーーーーー!」
土蜘蛛が叫び声を上げた。
その声を聞いた六花がそちらに顔を向けた。
巨大な蜘蛛の姿に凍り付く。
ミケが再度蜘蛛に飛び掛かった。
蜘蛛が大きく後ろに跳んだ。
あの子……ミケ!
ミケの姿を見て我に返った六花は急いでスマホを取り出すとアイコンを押した。
蜘蛛は十二社通りに出て車を撥ね飛ばしながらミケと戦っていた。
ミケは自分より遙かに大きな図体をしている蜘蛛と互角に戦っているようだった。
六花は怖かったもののミケが心配で目を離せなかった。
季武君、早く来て……。
その祈りに答えるかのように飛んできた矢が土蜘蛛の目に突き刺さった。
「ーーーーーー!」
土蜘蛛が再び悲鳴を上げた。
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