東京綺譚伝―光と桜と―

月夜野 すみれ

文字の大きさ
67 / 87
第八章 疑惑と涙と

第四話

しおりを挟む
「五馬ちゃん!」
 綱が辺りを見回しながら声を上げた。

 四人は新宿駅の周辺を探したが五馬はなかった。
 季武は五馬のスマホをGPSで探そうとしたが見付からなかった。
 綱が何度か五馬のスマホに電話を掛けてみたが電源が切られているのか電波の届かない場所にるのか繋がらない。

「GPSでも見付けられなかったのは電波が届かないからか?」
「六花のスマホで試そうと思ったが電波が届いてないんじゃ意味が無いな」
「まさか、俺達が着くめぇやつらに……」
「おい!」
 綱が睨んだ。
まん」
 貞光が謝った。

どれだけ悪食あくじきの鬼でもスマホは喰わないし、電源を切るなんて無意味な事もしない。俺達が来た時には待ち構えてたから電波の届かない所に連れていって喰ってる暇もなかったはずだ。喰われたなら電波が届く状態でスマホが何処どこかに落ちてるだろ」
 季武が言った。
しかし、これから如何どうやって捜す?」
「連れ去ったなら向こうから連絡してくるだろ」
それまで待ってろって言うのか!」
「他に策が有るのか?」
 季武がそう言うと綱が黙り込んだ。

おそらく何時いつ見るか分からないメールを送ってきたりはしないと思うが一応メールの受信拒否設定は全部外しておけ」
「六花ちゃんにはなんて言うんだ?」
「嘘をいた所で八田が学校に来なければバレるからな。本当の事を言うしかないだろ。八田の事を伝えないといけないから六花の所に行ってくる」
「じゃあ、俺も一緒に行く」
 綱が言った。
「来て如何どうする」
「六花ちゃんの友達だし、俺が見落とした所為……」
「見落とした?」
 季武が綱の言葉をさえぎってたずねた。

「何か有って離れてたんじゃなくて、校門を見てたのに八田が出ていくのを見なかったって事か?」
「ああ、校門からは目を離してない」
「分かった、一緒に行こう。手懸てがかりになる質問を思い付くかもしれないからな」
 季武は綱と共に六花のマンションへ向かった。

 季武と綱は六花の家に来てチャイムを鳴らした。
 すぐに六花が出てきた。

「五馬ちゃん、いなかったの?」
 季武と綱の表情を見た六花が訊ねた。
「六花ちゃん、本当ホント御免ごめん
「綱さんのせいじゃないですよ。新宿駅に鬼は……」
「酒呑童子と茨木童子が待ち構えてた」
「鬼がいたのに五馬ちゃんが見付からなかったって事は……」
 季武は金時達にしたのと同じ話をした。

「そっか。それなら、無事だよね」
 六花が自分に言い聞かせるように言った。

 綱は黙って六花を見ていた。
 四天王が着く前には暇が無かったが今は十分時間が有る。
 六花もそれが分かっているから安心した表情は見せないのだろう。
 それでも取り乱したり騒いだりしないのは季武達を困らせないためだ。
 季武がどこまで話したのかは分からないが五馬が狙われてる可能性が有るから綱達が警戒していたのは知っているはずだ。
 なのに守れなかった事を責めないどころか困らせないように綱達に気をつかっている。

 綱は貞光がぐれ者になった討伐員の気持ちが分かると言っていたのを思い出していた。
 確かにここまで他人に気を遣う子がイジメられているのを見たら人間を守ろうなんて気になれなくなってもおかしくない。
 季武はぐれ者を倒せという命令を実行してるだけで人間を守ってるとは思ってないようだから任務を投げ出したりはしないだろうが。

それじゃ、俺達は八田を捜しに行くから」
「うん、気を付けてね」
 六花はそう言うと家の中に入っていった。

 綱達は一旦自分達のマンションに集まった。
 頼光は上に報告するために異界むこうに行っていてなかった。

「六花ちゃんの様子は?」
 金時の問いに綱が六花に会いに行った時の話をした。

「別れ際の台詞が『気を付けてね』だもんなぁ。俺達の心配までしてくれて……」
「見付からねぇかもしれねぇのに、捜してとは言えねぇだろ」
 綱が貞光を横目で睨んだ。
まん」
 貞光はパソコンの画面に目を戻した。
「まぁ、五馬ちゃんは六花ちゃんの友達だけど綱の彼女でも有るからじゃないか?」
「季武と一緒にたのが金時や貞光でも同じこと言ったと思うけどな」

「あ!」
 金時の声に三人が振り向いた。
さっきの戦闘がニュースにってる」
 金時がテレビの音量を上げた。
「新宿駅西口前、謎の半壊……頼光様あのひと本当ホント手段選ばねぇよな……」
「鬼に『汚ねぇぞ』ってののしられたくらいだからな」
「普段なら『お前が言うな』って言い返せたけど、ん時だけは反論出来なかったもんなぁ」
 綱が椅子の背もたれに顎を乗せて言った。
「だから普段は連絡事項の伝達だけなんだよ。頼光様あのひとに戦わせると人的被害が少ない代わりに他の損害がひど過ぎて後始末が大変だから」

 季武以外の三人は新宿駅前の惨状を映した映像を見ながら今頃頭を抱えているであろう小吏に密かに同情した。

 土曜の昼、マンションから出た六花の母の前に女性が立った。
 六花の母が何か言う前に、女性は手をかざして何かを呟いた。
 女性がなくなると六花の母は何事も無かったかのように歩き出した。

「あら」
 夕方、六花の母が冷蔵庫を見て声を出した。
「どうしたの?」
「買い忘れたものがあるの。ちょっと買ってきて」
「うん」
 六花は母からお金を受け取ると家を出た。

 六花が出てくるのを見たサチは人間に変化へんげした。
 六花の方へ歩き出そうとした時、それをさえぎるかのように異界の獣が出てきてサチを見上げた。
 サチは足を止めた。

「お前は以前、邪魔をした……。の娘に手を出すなと言う事か」
 ミケは黙ってサチを見ていた。

 サチは土蜘蛛の姿に戻るとミケに向かって脚を振り下ろした。
 ミケは脚をかわすと土蜘蛛に飛び掛かった。
 ミケの鋭い爪が土蜘蛛の目の一つを切り裂いた。

「ーーーーー!」
 土蜘蛛が叫び声を上げた。

 その声を聞いた六花がそちらに顔を向けた。
 巨大な蜘蛛の姿に凍り付く。

 ミケが再度蜘蛛に飛び掛かった。
 蜘蛛が大きく後ろに跳んだ。

 あの子……ミケ!

 ミケの姿を見て我に返った六花は急いでスマホを取り出すとアイコンを押した。

 蜘蛛は十二社じゅうにそう通りに出て車をね飛ばしながらミケと戦っていた。
 ミケは自分より遙かに大きな図体をしている蜘蛛と互角に戦っているようだった。
 六花は怖かったもののミケが心配で目を離せなかった。

 季武君、早く来て……。

 その祈りに答えるかのように飛んできた矢が土蜘蛛の目に突き刺さった。

「ーーーーーー!」
 土蜘蛛が再び悲鳴を上げた。

 四天王が駆けてくるのを見たミケは土蜘蛛の脚に飛び付くとそれをもぎ取った。

「ーーーーーー!」
 土蜘蛛が三度叫んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...