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第八章 疑惑と涙と
第五話
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ミケは自分の身体より遙かに大きな土蜘蛛の脚を咥えるとその場から走り去った。
土蜘蛛は大きく後ろに跳ぶと、身を翻して逃げ出した。
「季武! 六花ちゃんは任せたぞ!」
綱がそう言いながら六花の横を駆け抜けていった。
「六花! 無事か!」
季武が走り寄ってきた。
「うん、私は平気」
「送る」
「あ、大丈夫、すぐにマンションに入るから」
「分かった」
季武は六花がマンションに入ったのを見届けると綱達を追っていった。
「サチ!」
片目を押さえ足を引摺りながらアジトに入ってきたサチを見たミツが声を上げた。
「如何した!」
「偶然じゃなかった」
サチが言った。
「え?」
「鵺の時に邪魔をした獣……、彼は彼の娘を守ってたんだ」
「じゃあ、其の傷は獣に?」
「そうだ」
「サチ一人で行かせたのが間違いだったんじゃないのかい」
メナが言った。
「攫われた友達の振りをして彼の娘を連れ去るだけなら一人で十分だと思ったんだが……やはり彼の娘を使うのは無理そうだ」
「友達の振りで呼び出せば良いんじゃないか?」
「鬼に攫われた友達から連絡が有ったら彼の娘は四天王に知らせる筈だ」
「教えさせれば良いじゃないか」
メナが言った。
月曜の昼休み、六花は屋上で季武に弁当を渡しながら、
「綱さん達は五馬ちゃん、捜してるの?」
と訊ねた。
「ああ」
と言っても三人とも学校を見張れる位置でニュースを検索しているだけだが。
酒呑童子の方から出てくるか、あからさまな事件でも起こさない限り見付けようがないのだ。
「一昨日また土蜘蛛がお前を襲ってきただろ……」
だから今まで以上に警戒が必要だと言おうとした時、
「襲われてないよ」
六花が否定した。
「え?」
「一昨日はあの子……ミケとあの蜘蛛が戦ってたから連絡したの」
「始めから話してくれ」
季武の問いに六花は一部始終を話した。
と言っても、すぐに終わったが。
「そうか……」
季武は考え込んだ。
放課後、季武と玄関に来た六花が声を上げた。
「季武君!」
六花の靴の上にメモが載っていた。
そこには五馬の居場所だと言う住所が書いてあった。
紙を見せられた季武は綱達に連絡すると、六花をマンションに送ってからメモの場所に向かった。
頼光と綱、金時、貞光、それから僅かに遅れて季武が到着した。
そこは東京郊外の廃工場だった。
外から見る限りかなり広い。
酒呑童子と茨木童子、そして、酒呑童子の四天王の気配がした。
それ以外の鬼も大量に居るのが気配で分かった。
「五馬ちゃんの気配が無い」
綱が唇を噛んだ。
「酒呑童子の四天王が如何して……」
季武が呟いた。
「話は後だ。来たぞ!」
大鎧姿の頼光が太刀膝丸を構えた。
四天王もそれぞれ武器を構えた。
酒呑童子が茨木童子と四天王である星熊童子、熊童子、虎熊童子、金童子とその他の鬼を従えて向かってきた。
「頼光と四天王! 此度こそ大江山での借りを返してくれるわ!」
「其は此方の台詞だ! 今日こそ引導を渡してやる!」
綱が髭切を手に酒呑童子に突っ込んでいった。
「綱! 一人で突出するな! 貞光、金時、行け! 季武、援護しろ!」
頼光はそう指示すると近くに居た熊童子に斬り掛かった。
貞光と金時が向かってくる鬼達を斬り払いながら綱の元へ走った。
季武は近くの街灯の上に飛び乗ると他の四人の死角から攻撃しようとする鬼と次々と射貫いていった。
金童子が季武の方へ駆け寄ってくると街灯をへし折った。
季武は隣の街灯に跳んだ。
上空から頼光の背後の鬼に矢を放つ。
金童子が追ってきて季武が着地する前に街灯を蹴り倒した。
更に隣の街灯まで行ってしまうと死角が多くなってしまう。
季武は弓を背に戻すと腰の太刀を抜いて金童子に向かって横に払った。
後ろに飛び退いた金童子の脇を駆け抜け、綱に襲い掛かろうとした鬼を斬った。
頼光はそれを見ると鍔迫り合いをしていた熊童子を力任せに押した。
熊童子が後ろに飛ばされる。
頼光は膝丸を鞘に戻すと工場の屋上に跳んだ。
背中の弓――雷上動――を取ると上から金時に横から駆け寄ろうとしていた鬼に矢を放った。
頼光は四天王の周囲に居る鬼達を次々と射貫いていく。
鬼の一体が屋上に飛び乗ってきた。
右手で膝丸を抜くと鬼を斬り伏せ再び矢を放ち始めた。
綱は酒呑童子と鍔迫り合いを繰り返していた。
互いに押し合って後ろへ飛ぶと、すぐに真っ直ぐに打ち込んでいく。
金時は茨木童子と斬り結んでいた。
一度、茨木童子は空に飛び上がろうとしたが頼光の放った矢に翼を射貫かれ、その後は地上で戦っていた。
綱の背後で戦っていた貞光に熊童子が斬り掛かってきた。
貞光が大太刀で熊童子の刀を弾いた。そのまま真横に薙ぐ。
熊童子が大きく後ろに跳んだ。
金時が茨木童子に鉞を振り下ろした。
茨木童子が鉞を弾き、返す刀で袈裟に斬り下ろした。
その刀を金時が鉞で弾いた。
虎熊童子が金時に斬り掛かった。
季武がその前に出て虎熊童子の刀を受けた。
季武に斬り掛かろうとした鬼が頼光の矢に射貫かれて消える。
季武と鍔迫り合いをしていた虎熊童子が後ろに飛び退いた。
虎熊童子の居た場所に矢が刺さった。
虎熊童子を追うように矢が地面に突き立ち、その度に虎熊童子が後ろへと飛び退いて離れていく。
季武は周囲に目を走らせ一番近くに居る熊童子に駆け寄って刀を振り下ろした。
季武に気を取られた熊童子が貞光の大太刀で真っ二つになった。
貞光はそのまま金時の背後から斬り掛かろうとしていた金童子に斬り付けた。
金童子が貞光の大太刀を刀で受け止めた。
そこに頼光の放った矢が突き立ち金童子が消えた。
貞光は星熊童子に駆け寄った。
星熊童子に大太刀を振り下ろす。
後ろに跳んだ星熊童子を季武が真横から斬り払った。
星熊童子が真っ二つになって消えた。
綱に斬り掛かろうとした虎熊童子の前に貞光が立ち塞がった。
季武が虎熊童子の背後に回る。
虎熊童子が貞光に斬り掛かった。
貞光が虎熊童子の刀を弾いた。
季武が虎熊童子の背後から刀を横に薙いだ。
横に飛んだ虎熊童子に貞光が追い縋り大太刀を袈裟に斬り下ろした。
両断された虎熊童子が消える。
季武と貞光が、綱と金時の掩護に回ろうとした時、
「増援だ!」
頼光が叫んだ。
土蜘蛛は大きく後ろに跳ぶと、身を翻して逃げ出した。
「季武! 六花ちゃんは任せたぞ!」
綱がそう言いながら六花の横を駆け抜けていった。
「六花! 無事か!」
季武が走り寄ってきた。
「うん、私は平気」
「送る」
「あ、大丈夫、すぐにマンションに入るから」
「分かった」
季武は六花がマンションに入ったのを見届けると綱達を追っていった。
「サチ!」
片目を押さえ足を引摺りながらアジトに入ってきたサチを見たミツが声を上げた。
「如何した!」
「偶然じゃなかった」
サチが言った。
「え?」
「鵺の時に邪魔をした獣……、彼は彼の娘を守ってたんだ」
「じゃあ、其の傷は獣に?」
「そうだ」
「サチ一人で行かせたのが間違いだったんじゃないのかい」
メナが言った。
「攫われた友達の振りをして彼の娘を連れ去るだけなら一人で十分だと思ったんだが……やはり彼の娘を使うのは無理そうだ」
「友達の振りで呼び出せば良いんじゃないか?」
「鬼に攫われた友達から連絡が有ったら彼の娘は四天王に知らせる筈だ」
「教えさせれば良いじゃないか」
メナが言った。
月曜の昼休み、六花は屋上で季武に弁当を渡しながら、
「綱さん達は五馬ちゃん、捜してるの?」
と訊ねた。
「ああ」
と言っても三人とも学校を見張れる位置でニュースを検索しているだけだが。
酒呑童子の方から出てくるか、あからさまな事件でも起こさない限り見付けようがないのだ。
「一昨日また土蜘蛛がお前を襲ってきただろ……」
だから今まで以上に警戒が必要だと言おうとした時、
「襲われてないよ」
六花が否定した。
「え?」
「一昨日はあの子……ミケとあの蜘蛛が戦ってたから連絡したの」
「始めから話してくれ」
季武の問いに六花は一部始終を話した。
と言っても、すぐに終わったが。
「そうか……」
季武は考え込んだ。
放課後、季武と玄関に来た六花が声を上げた。
「季武君!」
六花の靴の上にメモが載っていた。
そこには五馬の居場所だと言う住所が書いてあった。
紙を見せられた季武は綱達に連絡すると、六花をマンションに送ってからメモの場所に向かった。
頼光と綱、金時、貞光、それから僅かに遅れて季武が到着した。
そこは東京郊外の廃工場だった。
外から見る限りかなり広い。
酒呑童子と茨木童子、そして、酒呑童子の四天王の気配がした。
それ以外の鬼も大量に居るのが気配で分かった。
「五馬ちゃんの気配が無い」
綱が唇を噛んだ。
「酒呑童子の四天王が如何して……」
季武が呟いた。
「話は後だ。来たぞ!」
大鎧姿の頼光が太刀膝丸を構えた。
四天王もそれぞれ武器を構えた。
酒呑童子が茨木童子と四天王である星熊童子、熊童子、虎熊童子、金童子とその他の鬼を従えて向かってきた。
「頼光と四天王! 此度こそ大江山での借りを返してくれるわ!」
「其は此方の台詞だ! 今日こそ引導を渡してやる!」
綱が髭切を手に酒呑童子に突っ込んでいった。
「綱! 一人で突出するな! 貞光、金時、行け! 季武、援護しろ!」
頼光はそう指示すると近くに居た熊童子に斬り掛かった。
貞光と金時が向かってくる鬼達を斬り払いながら綱の元へ走った。
季武は近くの街灯の上に飛び乗ると他の四人の死角から攻撃しようとする鬼と次々と射貫いていった。
金童子が季武の方へ駆け寄ってくると街灯をへし折った。
季武は隣の街灯に跳んだ。
上空から頼光の背後の鬼に矢を放つ。
金童子が追ってきて季武が着地する前に街灯を蹴り倒した。
更に隣の街灯まで行ってしまうと死角が多くなってしまう。
季武は弓を背に戻すと腰の太刀を抜いて金童子に向かって横に払った。
後ろに飛び退いた金童子の脇を駆け抜け、綱に襲い掛かろうとした鬼を斬った。
頼光はそれを見ると鍔迫り合いをしていた熊童子を力任せに押した。
熊童子が後ろに飛ばされる。
頼光は膝丸を鞘に戻すと工場の屋上に跳んだ。
背中の弓――雷上動――を取ると上から金時に横から駆け寄ろうとしていた鬼に矢を放った。
頼光は四天王の周囲に居る鬼達を次々と射貫いていく。
鬼の一体が屋上に飛び乗ってきた。
右手で膝丸を抜くと鬼を斬り伏せ再び矢を放ち始めた。
綱は酒呑童子と鍔迫り合いを繰り返していた。
互いに押し合って後ろへ飛ぶと、すぐに真っ直ぐに打ち込んでいく。
金時は茨木童子と斬り結んでいた。
一度、茨木童子は空に飛び上がろうとしたが頼光の放った矢に翼を射貫かれ、その後は地上で戦っていた。
綱の背後で戦っていた貞光に熊童子が斬り掛かってきた。
貞光が大太刀で熊童子の刀を弾いた。そのまま真横に薙ぐ。
熊童子が大きく後ろに跳んだ。
金時が茨木童子に鉞を振り下ろした。
茨木童子が鉞を弾き、返す刀で袈裟に斬り下ろした。
その刀を金時が鉞で弾いた。
虎熊童子が金時に斬り掛かった。
季武がその前に出て虎熊童子の刀を受けた。
季武に斬り掛かろうとした鬼が頼光の矢に射貫かれて消える。
季武と鍔迫り合いをしていた虎熊童子が後ろに飛び退いた。
虎熊童子の居た場所に矢が刺さった。
虎熊童子を追うように矢が地面に突き立ち、その度に虎熊童子が後ろへと飛び退いて離れていく。
季武は周囲に目を走らせ一番近くに居る熊童子に駆け寄って刀を振り下ろした。
季武に気を取られた熊童子が貞光の大太刀で真っ二つになった。
貞光はそのまま金時の背後から斬り掛かろうとしていた金童子に斬り付けた。
金童子が貞光の大太刀を刀で受け止めた。
そこに頼光の放った矢が突き立ち金童子が消えた。
貞光は星熊童子に駆け寄った。
星熊童子に大太刀を振り下ろす。
後ろに跳んだ星熊童子を季武が真横から斬り払った。
星熊童子が真っ二つになって消えた。
綱に斬り掛かろうとした虎熊童子の前に貞光が立ち塞がった。
季武が虎熊童子の背後に回る。
虎熊童子が貞光に斬り掛かった。
貞光が虎熊童子の刀を弾いた。
季武が虎熊童子の背後から刀を横に薙いだ。
横に飛んだ虎熊童子に貞光が追い縋り大太刀を袈裟に斬り下ろした。
両断された虎熊童子が消える。
季武と貞光が、綱と金時の掩護に回ろうとした時、
「増援だ!」
頼光が叫んだ。
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