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第八章 疑惑と涙と
第八話
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夜、四天王は居間で頼光に報告をしていた。
「一応周辺を見て回りましたが鬼の気配は有りませんでした」
頼光と四天王はマンションのリビングに集まっていた。
「穴も空いていませんでした」
「遺体の一部を見てきましたが、彼は確かに反ぐれ者の喰い残しです」
「唯、喰ったのが鬼かどうかは……」
今は鬼以外の反ぐれ者も都内に居る。
喰い残しを見ても種族までは分からなかった。
「綱達から連絡を受けた後は俺がスマホでネットを検索してたんですが他には見当たりませんでした」
貞光が言った。
「…………」
「季武、何か思い付いたのか?」
頼光が考え込んでいる様子の季武に声を掛けた。
「いえ……」
季武は首を振った。
それでも頼光に視線で促されて口を開いた。
「酒呑童子達は俺達が捜してる事は気付いてる筈です。其に茨木童子はつい此の間まで人間だったんですから死体の一部が見付かったらニュースに成る事も知っているでしょう。喰い残しを人目に付く所に放置するでしょうか」
「仮に別の反ぐれ者だとしても人間を喰ってる奴が彼の辺りに居るなら討伐は必要だ」
頼光が言った。
「綱と金時は喰い残しが発見された辺りを見回れ。貞光は学校の前で待機だ」
「は!」
深夜の住宅街をほろ酔い加減で歩いていた男性の前に誰かが立ち塞がった。
男性が口を開く前にその人物が顔の前に手を翳した。
その途端、男性の目がどんよりと曇った。
「もうすぐ記者が来るから取材でこう言いな」
その人物は記者に話す内容を男性に告げると姿を消した。
翌日、季武と六花が学校に入ったのを見届けると、貞光はスマホでネット検索し始めた。
綱と金時は昨日、反ぐれ者の食い残しが見付かった場所を見回っていた。
貞光がニュースサイトを検索していると昨日とは別の場所で人の遺体の一部が見付かったと言うニュースが出てきた。
そのニュースの関連記事を検索していると目撃者が居ると分かった。
大手の新聞社やTV局で目撃者の話が出ていなかったのは「鬼が人を喰っていた」と言うものだったからだ。
大手は酔っ払いだと思って相手にしなかったようだがブログに毛が生えた程度のニュースサイトは嬉々として取り上げていた。
ただ、色々見て回ったが結局どこかのサイトが載せたものを転載しているだけで皆同じ事しか書いてなかった。
そのとき午後の休み時間を告げるチャイムの音が聞こえてきた。
貞光は他の三人にLINEでニュースの事を伝えた。
綱がすぐに向かうと返信してくると季武が待ったを掛けた。
酒呑童子の可能性が有るなら四人で行った方が良いから放課後、季武が六花を家まで送ってから合流するべきだと主張した。
金時がそれならここに出た奴が別口だった時の可能性を考慮して放課後まではこの辺を探索すると返事をしてきた。
六花をマンションに送り届けると季武は貞光達と合流してニュースの場所に向かった。
「此処だよな」
綱が言った。
四天王が辺りを見回しているとき不意に悲鳴が聞こえた。
四人は同時に駆け出した。
最初に角を回った貞光が声を上げた。
「見ろ!」
貞光の視線の先には腕が落ちていた。
「此方に血の跡が付いてるぞ!」
金時はそう言うと血の跡を追って走り出した。三人が続く。
四人はマンションの前で立ち止まった。
「酒呑童子達の気配だ」
綱がそう言った時、ガラスの砕ける音と共に破片が降り注ぎ酒呑童子と茨木童子、熊童子が飛び出してきた。
四天王が四方に跳んだ。
季武は近くのマンションの三階のベランダの柵の上に立つと上から酒呑童子を狙い撃ちし始めた。
酒呑童子が矢を避けていく。
茨木童子が綱に斬り掛かった。
金時が酒呑童子に、貞光が熊童子に向かっていった。
三人が戦っているのは路上なので季武は人間が近付いてこないか気を配りながら酒呑童子達に矢を放っていった。
突然季武に向かって何かが飛んできた。
季武は咄嗟に近くの街灯に飛び移りながら飛んできたものに目を遣った。
白い塊が季武が立っていた柵の後ろのサッシに貼り付いていた。
土蜘蛛の糸か!
季武は街灯を蹴ると向かいのマンションの屋上に飛び上がった。
上から気配を探ってみたが土蜘蛛の気配は感じられなかった。
その時、綱に何かが飛んでいくのが見えた。
「綱! 右だ!」
季武の声に綱は茨木童子の刀を弾きながら後ろに跳んだ。
綱と茨木童子の間を土蜘蛛の糸が通り過ぎていく。
季武は糸の飛んできた方に視線を向けたがやはり土蜘蛛の気配は見付からなかった。
不意に目の隅に何かが映った。
後ろに跳んで避けながらそちらに目を向けると屋上の柵の向こうへ消えていく土蜘蛛の姿が視界に入った。
一瞬だった。
季武は駆け寄って柵に飛び乗り、下を見たが何も居なかった。
見えたのに気配を感じなかった。
かなりの手練れだ。
ビルの反対側からは相変わらず剣戟の音が聞こえてくる。
「うわ!」
その声に急いで戻ると綱が土蜘蛛の糸でマンションの壁に貼り付けられていた。
茨木童子が好機と見て刀を振り被って綱に向かっていく。
季武は立て続けに矢を放った。
茨木童子が矢を避けながら後ろへと跳んだ。
季武はマンションから飛び降りると茨木童子に矢を放ちながら綱に駆け寄った。
腰に下げていた刀を抜くと土蜘蛛の糸に斬り付けて綱を自由にした。
その背後から茨木童子が斬り掛かってくる。
綱が季武を飛び越えて茨木童子に髭切を振り下ろした。
茨木童子がその太刀を受ける。
二人の刀から火花が飛んだ。
季武は再び弓を手にするとマンションのベランダの柵の上に立った。
矢をつがえようとした時、近くから人間の悲鳴が聞こえてきた。
「俺が行く!」
季武はそう言うと悲鳴のする方へ向かった。
季武が駆け付けると、腹部を喰われた死体が転がっていた。
その時、再び叫び声が聞こえてきた。
綱達が居るのとは反対の方向だ。
引き離す気か!
「一応周辺を見て回りましたが鬼の気配は有りませんでした」
頼光と四天王はマンションのリビングに集まっていた。
「穴も空いていませんでした」
「遺体の一部を見てきましたが、彼は確かに反ぐれ者の喰い残しです」
「唯、喰ったのが鬼かどうかは……」
今は鬼以外の反ぐれ者も都内に居る。
喰い残しを見ても種族までは分からなかった。
「綱達から連絡を受けた後は俺がスマホでネットを検索してたんですが他には見当たりませんでした」
貞光が言った。
「…………」
「季武、何か思い付いたのか?」
頼光が考え込んでいる様子の季武に声を掛けた。
「いえ……」
季武は首を振った。
それでも頼光に視線で促されて口を開いた。
「酒呑童子達は俺達が捜してる事は気付いてる筈です。其に茨木童子はつい此の間まで人間だったんですから死体の一部が見付かったらニュースに成る事も知っているでしょう。喰い残しを人目に付く所に放置するでしょうか」
「仮に別の反ぐれ者だとしても人間を喰ってる奴が彼の辺りに居るなら討伐は必要だ」
頼光が言った。
「綱と金時は喰い残しが発見された辺りを見回れ。貞光は学校の前で待機だ」
「は!」
深夜の住宅街をほろ酔い加減で歩いていた男性の前に誰かが立ち塞がった。
男性が口を開く前にその人物が顔の前に手を翳した。
その途端、男性の目がどんよりと曇った。
「もうすぐ記者が来るから取材でこう言いな」
その人物は記者に話す内容を男性に告げると姿を消した。
翌日、季武と六花が学校に入ったのを見届けると、貞光はスマホでネット検索し始めた。
綱と金時は昨日、反ぐれ者の食い残しが見付かった場所を見回っていた。
貞光がニュースサイトを検索していると昨日とは別の場所で人の遺体の一部が見付かったと言うニュースが出てきた。
そのニュースの関連記事を検索していると目撃者が居ると分かった。
大手の新聞社やTV局で目撃者の話が出ていなかったのは「鬼が人を喰っていた」と言うものだったからだ。
大手は酔っ払いだと思って相手にしなかったようだがブログに毛が生えた程度のニュースサイトは嬉々として取り上げていた。
ただ、色々見て回ったが結局どこかのサイトが載せたものを転載しているだけで皆同じ事しか書いてなかった。
そのとき午後の休み時間を告げるチャイムの音が聞こえてきた。
貞光は他の三人にLINEでニュースの事を伝えた。
綱がすぐに向かうと返信してくると季武が待ったを掛けた。
酒呑童子の可能性が有るなら四人で行った方が良いから放課後、季武が六花を家まで送ってから合流するべきだと主張した。
金時がそれならここに出た奴が別口だった時の可能性を考慮して放課後まではこの辺を探索すると返事をしてきた。
六花をマンションに送り届けると季武は貞光達と合流してニュースの場所に向かった。
「此処だよな」
綱が言った。
四天王が辺りを見回しているとき不意に悲鳴が聞こえた。
四人は同時に駆け出した。
最初に角を回った貞光が声を上げた。
「見ろ!」
貞光の視線の先には腕が落ちていた。
「此方に血の跡が付いてるぞ!」
金時はそう言うと血の跡を追って走り出した。三人が続く。
四人はマンションの前で立ち止まった。
「酒呑童子達の気配だ」
綱がそう言った時、ガラスの砕ける音と共に破片が降り注ぎ酒呑童子と茨木童子、熊童子が飛び出してきた。
四天王が四方に跳んだ。
季武は近くのマンションの三階のベランダの柵の上に立つと上から酒呑童子を狙い撃ちし始めた。
酒呑童子が矢を避けていく。
茨木童子が綱に斬り掛かった。
金時が酒呑童子に、貞光が熊童子に向かっていった。
三人が戦っているのは路上なので季武は人間が近付いてこないか気を配りながら酒呑童子達に矢を放っていった。
突然季武に向かって何かが飛んできた。
季武は咄嗟に近くの街灯に飛び移りながら飛んできたものに目を遣った。
白い塊が季武が立っていた柵の後ろのサッシに貼り付いていた。
土蜘蛛の糸か!
季武は街灯を蹴ると向かいのマンションの屋上に飛び上がった。
上から気配を探ってみたが土蜘蛛の気配は感じられなかった。
その時、綱に何かが飛んでいくのが見えた。
「綱! 右だ!」
季武の声に綱は茨木童子の刀を弾きながら後ろに跳んだ。
綱と茨木童子の間を土蜘蛛の糸が通り過ぎていく。
季武は糸の飛んできた方に視線を向けたがやはり土蜘蛛の気配は見付からなかった。
不意に目の隅に何かが映った。
後ろに跳んで避けながらそちらに目を向けると屋上の柵の向こうへ消えていく土蜘蛛の姿が視界に入った。
一瞬だった。
季武は駆け寄って柵に飛び乗り、下を見たが何も居なかった。
見えたのに気配を感じなかった。
かなりの手練れだ。
ビルの反対側からは相変わらず剣戟の音が聞こえてくる。
「うわ!」
その声に急いで戻ると綱が土蜘蛛の糸でマンションの壁に貼り付けられていた。
茨木童子が好機と見て刀を振り被って綱に向かっていく。
季武は立て続けに矢を放った。
茨木童子が矢を避けながら後ろへと跳んだ。
季武はマンションから飛び降りると茨木童子に矢を放ちながら綱に駆け寄った。
腰に下げていた刀を抜くと土蜘蛛の糸に斬り付けて綱を自由にした。
その背後から茨木童子が斬り掛かってくる。
綱が季武を飛び越えて茨木童子に髭切を振り下ろした。
茨木童子がその太刀を受ける。
二人の刀から火花が飛んだ。
季武は再び弓を手にするとマンションのベランダの柵の上に立った。
矢をつがえようとした時、近くから人間の悲鳴が聞こえてきた。
「俺が行く!」
季武はそう言うと悲鳴のする方へ向かった。
季武が駆け付けると、腹部を喰われた死体が転がっていた。
その時、再び叫び声が聞こえてきた。
綱達が居るのとは反対の方向だ。
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