東京綺譚伝―光と桜と―

月夜野 すみれ

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第八章 疑惑と涙と

第九話

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 しかし人間が襲われているのが分かっていて放置しておく訳にはいかない。

 季武は声が聞こえた方に向かって駆け出した。

 土蜘蛛は季武をおびき寄せるためだけに次々と人を殺していった。
 十人近く殺され、他の三人からかなり離れた場所で悲鳴は止まった。
 十分引き離したと見てめたのだろう。
 いくら気配を探ってもぐれ者の気配は無かった。
 季武は急いで綱達のる方に戻った。

「ーーーーー……!」
 貞光が熊童子を真っ二つにした。
 熊童子が消える。

 貞光は身構えて熊童子の核が間違いなく異界に戻ったのを確認すると酒呑童子の方に向き直った。
 その時、土煙で辺りが覆われた。

またか!」
 綱達が煙の外に飛び退いた。

 近くまで戻ってきた季武は土煙を見ると街灯の上に飛び乗った。
 上から辺りを見回したが酒呑童子達は消えていた。

「全員無事か!」
 季武が声を掛けた。
「おう!」
 三人がそれぞれ返事をした。
「季武、其方そっち如何どうだった?」
「逃げられた」

 季武を引き離す為に悲鳴を上げさせて殺してはすぐに移動すると言う事を繰り返したらしいと話した。

「一瞬だけ姿は見たが最後まで気配は分からなかった。念の為、の辺をもう少し探索した後でマンションへ戻って頼光様に連絡しよう」
 季武がそう言うと、四人は四方へ散った。

 頼光は黙って四人の話を聞いていた。

「茨木童子と熊童子以外の手下がなかったという事は待ち伏せでは無いな」
「酒呑童子達が飛び出してきた部屋の住人は喰われていました。どうやらマンションを移動しながら住んでいる人間を喰っていたようです」
 部屋の住人を残らず喰ってしまっていれば行方不明に気付かれにくい。
「やはり鬼と土蜘蛛は手を組んでるのでは」
「土蜘蛛は我々と鬼をぶつけたいのだろう。鬼のアジトの近くで人間の死体を残したのはお前達を酒呑童子達のる所へおびき出すためだ」
「ですが土蜘蛛は俺達を攻撃してきました」
 綱が言った。
「姿は見たが気配は全く無かったんだな」
 頼光が季武の方を見た。

「はい、姿を見たのも一瞬でした」
「おれ達を酒呑童子と戦わせて如何どうする気なんだ?」
「土蜘蛛連中が、オレ達と鬼共おにども何方どっちが勝つかでかけでもしてんじゃねぇの」
「だったら酒呑童子に加勢するのイカサマじゃん」
「人間喰うような連中がフェアプレーなんかしねぇだろ」
それじゃ賭けになんないじゃん」
「そんな事は如何どうでもい!」
 頼光の一喝に綱達が口をつぐんだ。
それより如何どうやって酒呑童子や土蜘蛛を倒すか考えろ!」
 頼光が四人を叱責しっせきした。

「酒呑童子は潜伏しているのでは?」
「どうせまた土蜘蛛がさそい出してくるだろう」
「熊童子しかなかったと言う事は短時間で大量に生み出す事は出来ない訳ですね」
 季武が言った。
「そうだな。今回は四天王を創ったが大江山では茨木童子だけで、他は四天王を含めみな異界むこうから呼び込んだ鬼だったからな」
「となるとぐには手下は揃えられませんね」
「手下なんて壁に穴けるだけじゃん」
 綱が言った。

「ある程度呼び込むには時間が掛かるし、大勢待機させるにはそれなりに広い場所が必要だろ。都内に人気ひとけの無い場所でそれだけの広さが有る所は多くない」
 季武が答えた。
しか幾度いくど倒した所で土蜘蛛に核を奪われたら切りが有りませんが」
それに付いては上と相談してくる」
 頼光が言った。
 話し合いの結果、今まで通り季武が学校へ行き、一人が学校近くで見張り、残り二人がネットカフェで情報収集する事になった。

 数日後の夜、夕食を食べたあと頼光達はリビングで話し合っていた。

「やはり茨木童子に今の時代の知識が有るのは痛いですね」
 貞光達の報告を頼光は腕組みをして聞いていた。
 昼間授業を受けている季武以外の三人はネットでニュースやSNSなどを検索していたが酒呑童子や土蜘蛛の手懸てがかりは一向につかめなかった。
「……五馬という子だが、お前達が学校の近くで見張っていたのにさらわれた事に気付かなかったんだな」
「はい」

 季武も頼光に指摘されるまで気付かなかったが、頼光四天王を知っていてしかもその四人と名前が同じなのも知っているのに、民話好きの人間がその事に全く触れないのは不自然だ。
 頼光が言っていたように綱が聞くなとでも言ったならともかく、そうでないなら普通は色々聞くのではないだろうか。
 訊ねたら綱の気に障らないか心配なら六花を通して話しても大丈夫か確認すればいだけだ。

「頼光様、少々失礼致します」
 季武はスマホを出すと六花に掛けた。
 スマホをスピーカーにして全員に聞こえるようにする。

「季武君? どうしたの?」
「お前、八田に嘘をきたくないから俺達の居場所を教えないでくれって言っただろ。八田に俺達が何処どこるか聞かれたのか?」
「うん。季武君と綱さんが一緒にいるなら差し入れ持っていこうって言われたの。だから、どこにいるか知らないって答えたけど、また誘われたとき場所を知ってたら嘘かないといけないかもしれないと思って教えないでって頼んだの」
「他に俺達の事で何か言ってなかったか? 例えば頼光四天王と同じ名前の俺達が鬼と戦ってる事に付いて」
 六花が黙り込んだ。

「何か言ったのか?」
「そうじゃなくて……。一度もその話をした事ないなって。民話研究会で頼光四天王が議題だから季武君の話が何度も出たの。うちの学校に四天王と同じ名前の子がいるって。でも五馬ちゃんは一度も話に入ってこなかったの」
「スマホを無くした時、の子は何処どこた?」
 頼光が訊ねた。
「一緒にいました」
「六花と一緒に民話研究会に出てたんだな」
「うん、それで、スマホ無くしたのに気付いた後、一緒に探してくれたの」
「有難う。また明日あしたな」
 季武は通話を切った。
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