東京綺譚伝―光と桜と―

月夜野 すみれ

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第八章 疑惑と涙と

第十話

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「スマホの時はずっと一緒にたのでしたら関係ないのでは」
「スマホをってひそかに鬼に渡すくらいは出来ただろう」
 頼光が言った。
「見鬼なのにですか?」
「見鬼と鬼がこえぇのは別だろ。六花ちゃんが偶々たまたま見鬼で鬼が怖ぇだけだ。五馬ちゃんは酒呑童子や茨木童子見たのに平然としてただろ」
「そう言や六花イナちゃんは小さいのでも怖いんだっけ」
「他に何かの五馬って子の事で不審な点は無いか?」
 頼光の問いに視線が綱に集まった。

の……身体にエリに付けたと思われるあとが有るんですが……ずっと何か違和感が有って……イナちゃんの性格はほとんど変わってませんが五馬ちゃんとエリは……」
「確かに五馬ちゃんとエリちゃんはかなり性格が違うな」
「エリが見鬼だった事は一度も無い」
 季武の言葉に綱達がハッとした顔をした。

「そうだ。イナちゃん以外は誰も見鬼だった事は無い……」
「季武がイナちゃん以外の人間のこと覚えてたなんて意外だな」
「覚えてたのは見鬼はイナちゃんだけと言う事だろう」
 頼光の言葉に三人が納得したように頷いた。

「じゃあ五馬ちゃんは鬼にさらわれた訳じゃないのか?」
 四天王が互いに顔を見合わせた。
さらわれてないなら気付かなくても不思議はないな。鬼がなかったのなら気配がしないのも当然だし」
「けど五馬ちゃんは如何どうやって学校から出たんだ?」
「壁を乗り越えて隣の建物の敷地にでも入ったんだろ」
「五馬ちゃんの気配は感じなかったぞ」
「新宿御苑や代々木公園からの帰りに襲われたとき戦いが終わる前に八田に気付いたか?」
 貞光と金時が「あっ!」と声を上げた。

「自分からなくなったなら生きてる可能性は高いな」
しか何故なぜ姿を消す必要が有ったのでしょうか?」
「綱と一緒の時も、の子がると言う手紙に書いてあった場所にも茨木童子達がた」
 綱が最初に茨木童子に襲われたのも五馬との逢引デート中だった。

「鬼に捕まって喰われなかったなんてず有り得ないし、仮に喰われずに逃げられたと言う言い訳が通ったとしても、また茨木童子達が出た所に居合わせれば流石さすがに疑われるからな。かと言って六花ちゃんはミケがて手を出せない。……如何どうした?」
 考え込んでいる様子の季武を見て頼光が訊ねた。
 季武が顔を上げた。

「……多分、土蜘蛛と鬼は手を組んでる訳では無いでしょう。六花を拉致らちしようとしたのはぬえでした。茨木童子と手を組んでたなら鬼がさらいに来たはずです」
 他の四人はそれを聞いて各々おのおの考えをめぐらせ始めた。
えずしばらく様子を見よう。季武、一寸ちょっと来い」
 頼光は季武を連れて部屋を出た。

 頼光の部屋に入り季武がドアを閉める。

「五馬と言う子の事で気にる事でも有るのか? それとも他の事か? 彼奴あいつらに聞かれたくなくて言わなかった事が有るだろう」
 頼光の言葉に、季武はわずかに躊躇ためらったあと口を開いた。
「八田に初めて会った時から何か違和感が有って……」

 季武は初めて六花から名前を聞いたとき何かが引っ掛かった事や、五馬を中央公園に連れて行った時の事を話した。

「綱は痕を自分の目で確かめてます。自分の付けた痕を間違える事は有り得ません」
 間違えるようでは目印にはならないから意味が無い。
の子は見鬼だと言ったが、彼奴あいつらに知られたくなかったのはそれと関係あるのか?」
「見鬼だと思ったのは六花に鬼を見たと言ったからです。ですが……見鬼でなくても異界の者なら……」
 討伐員は、人間を喰いにこちらへ来ているぐれ者を討伐する為に派遣されたのだから近くにれば大抵は気付く。
 だが高レベルの者だと四天王でも気付けないほど巧妙に気配を隠せる。
 実際、都にた時、綱は宇治の橋姫にだまされいてる。

 茨木童子は人として生まれてきたと言っても持っているのは核であって魂では無い。
 そして異界の者の核が魂にならないのと同様に、人間の魂が異界の者の核になる事は無い。

 エリがどう転生しようと異界の者にはならない。

 つまり五馬がぐれ者でエリの痕が付いていたのなら、それはエリの皮をいで自分の身体に貼り付けたと言う事だ。
 そんな事をする者が皮だけ剥いで生かしておくはずが無い。
 おそらく喰うために捕まえた人間から綱の気配がするのに気付いたのだろうし、だとしたらエリはとっくに死んでいる。

「綱も俺と同じく何かおかしいと思ったらしく八田に自分の事を打ち明けませんでした。それで六花が、綱が打ち明けないと自分も話す事が出来ないと言っていて……」
 季武の言葉に頼光は溜息をいた。
 二十年前の季武を見ているから綱がどうなるかは容易に想像が付く。
 女に手を出しまくっていると言っても痕を付けた三人だけは特別なのだ。

それそれとして、お前は六花ちゃんにきちんと話せ!」
「何をでしょう」
「我々が怪我ケガをしたらどうなるのかとか、致命傷を負ったらどうなるのかと言う事だ」
「我々は怪我ケガをしませんが……」
 季武が不思議そうに頼光を見た。
 元々人間の姿に似せているだけで身体を構成している物質は人間の肉体とは違う。
 損傷してもすぐに戻る。
 それは同じ異界の者である頼光も同じなのだから当然知っているはずだ。

それをしっかり説明しておけと言っているんだ! 六花ちゃんの前で意識を失う前に! 六花ちゃんが慌てて私に電話してきたんだぞ! 心配を掛けるくらいなら行くな!」
「も、申し訳ありません」
 季武は慌てて頭を下げた。
 頼光にしっかり説明しておくようにと厳命された季武は部屋を出た。

「頼光様、何だって?」
 戻ってきた季武に綱が訊ねた。
「……六花にちゃんと話せって」
「五馬ちゃんの事か?」
「いや、俺達の身体の事だ。怪我ケガはしないとか」
だ話してねぇのかよ!」
何時いつも一緒にたのになんで言って無いんだよ!」
「でも如何どうしてそんなこと頼光様あのひとが知ってたんだ?」
「廃工場からの帰りに六花に会いに行って、其処そこで意識を失ったから六花が慌てて頼光様に電話したんだ」
 季武の言葉に他の三人が呆れた視線を向けた。
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